第85話 従業員増えました。
GW、休みなんてないんでござる。
「姐やーん、あっそびにきたでー」
いやいやいや、俺は商談にきたんですぞフツノさん。
今俺達、俺とフツノさんとミタマは奴隷商館『獣人演義』へと来ている。そう、従業員となる奴隷さんを探しにきたのだ。
その為のお金なのだがN資金を早速使おうと思っている。まだ商品の売り上げは入ってこないからね。ま、すぐに回収できると踏んでの先行投資だ。
「あらあら、フツノちゃんは元気ね。ミタマちゃんも。あなたも随分と派手にやっているようで。結構な二つ名なんて聞こえてきたのだけれども?」
「そ、それに関しては不可抗力と言いますか……」
「……キリシュナ姐さん、ノブをいじめちゃだめ」
「あら、ミタマちゃんに怒られちゃったわ。ふふふ、大切にされているのね。それで今日はどうしたのかしら?」
「ええ、今日は『ひきこもりのラミア』の事業拡張の為に従業員となる人を探しに来ました。ただ生産工程は他へ流したくないものですから秘密を洩らせない奴隷が最適だと思いまして。年齢は子供からでも出来る仕事なので特にこだわりません。性別は女性のほうがいいです。細かい作業ですし何より他の従業員も女性ですから。欲を言えば辛抱強く作業ができそうな人ならば尚いいですね」
従業員のみならず俺以外は女性なんだけどもな。別に男でもいいんだがその場合色々と面倒が増えそうなんだよね、部屋割りとかさ。一応、人となりを見極めるためにも二人に同行してもらった。識別先生だけじゃ性格とかは分からないもんな。
「なるほどね。あなたならこの子たちもいるし下手な扱いはなさそうね。ちょっと待ってなさいな。あなた達に託せそうな子を連れてくるわ」
それから待つこと十数分。キリシュナさんは3人の女の子を連れてきた。年のころは10~13歳ってあたりか。そこらへんはいいのだが気になるのはその種族だ。普人族でもない獣人族でもない。彼女が連れてきた3人は皆この世界では魔族と括られるものばかりなのである。
「この子達は皆、どこぞの冒険者や権力者に戦利品として持ち帰られたのよ。魔族と一括りにされてはいるけれど種族名もあるし皆が好戦的でもないわ。あなたなら種族に拘らずに接してくれると見込んだのだけれどどうする?」
すごく挑戦的な仕草で俺に問いかけてきた。ぐぬぬぬ、もうこの時点で負け戦だわな。掌の上で転がされた感で一杯だよ。お前ならできるよなって言ってるようなものじゃないか。
「おかしいなあ。俺お客様のはずなのにどうして脅されているんだろう。ええ、その子たち引き取りましょう。二人はそれでいい?」
「ええよ。うちは旦那様の従順な妻やけんね」
なんでそこで従順っていうのを強調しますかね。あれか、貞淑な妻っぽく演じているのか?
「……ん、問題ない。私はこの子たちのお姉さん。ね?」
ミタマは三人の頭を撫でながらそう言った。ティノちゃんにもやってたな。姉っていうのに憧れている部分もあるのかな。
「左からガーナ、オルテア、マーシュよ。三人まとめて50万マニーでいいわ」
驚きの特価!? いやいやいや、少女だからとて相場を遥かに下回ってませんか?
「ええっ、それはいくらなんでも安すぎませんか!?」
「あら、安くて文句言われるとは思わなかったわ。いいのよ。どの道そうそうこの子達を預けられる人がいないんだから。その分、無理な環境で働かせたりするのは許してあげて頂戴」
「……どうしてそこまで」
「私も奴隷だったことがあるからよ。今のあり方で奴隷を解放していくなんて無理。そんな私にできることはより良い主人に送ることだけ。少しでも幸せに生きられるようにね。この子達はそんな中でも過酷。魔族に連なるものをまともに欲しがる客はよほどの酔狂くらいなものよ」
つまり俺は酔狂な客だということですね。否定できないのが悲しい。
改めてこの子たちを見てみよう。セフィさんと違って変化が使えるわけでもないため種族の姿そのままである。
と言っても俺自身どんな種族か判別ついてないんだけどもね。角がついてたり尖った八重歯的なものが見え隠れしているから普人族ではないってのが分かるだけです。さ、識別先生出番でござるよ。
名前:ガーナ 性別:女 年齢:11 種族:ヴァンピーラ
クラス:ヴァンピーラLv5 状態:呪い
称号:なし
【スキル】
格闘Lv2 暗黒魔法Lv2(呪いで使用不可)
【種族固有スキル】
吸血Lv2
『ヴァンピーラ』
ヴァンパイアと普人族のハーフ。ハーフのためヴァンパイア族の弱点と言われる太陽の光などへの耐久性が上がり日中の運動能力は落ちるものの克服している。ただし、種族固有の変身能力や眷族を造り出す能力は失われている。どちらの種族からも忌み嫌われるケースが多い。吸血することで体力や魔力の回復が可能。
名前:オルテア 性別:女 年齢:11 種族:オーガ族
クラス:オーガLv5 状態:健康
称号:なし
【スキル】
格闘Lv3 身体強化Lv1
『オーガ族』
緑色や青色の肌を持ち額に角が生えた鬼人族に良く似た種族。鬼人族と同様に怪力が特徴だが得物を持たずに肉弾戦を好む。気性が荒く好戦的なものが多いが決して知能が低いわけではない。ダンジョン内部にて同名の魔物が出現するが別の存在である。
名前:マーシュ 性別:女 年齢:10 種族:白澤族
クラス:白澤Lv3 状態:健康
称号:なし
【スキル】
錬金術Lv1 薬学Lv1 動植物知識Lv1
【種族固有スキル】
知識の泉Lv1
『白澤族』
東方に住まう特殊な一族。ミノタウロス族と間違えやすいがまったく別な種族である。万物に精通すると言われる知識量を誇るがそれは全て種族固有のスキルにある。魔力を用いて共有される知識のデータベースのようなものへとアクセスが可能でありそこから知識を引き出すことが可能。また魔法や学術にも適性が高い。反面、肉体的な面では大きく劣り武術のスキルなどはほとんど習得できないという。
……おーい、本当に安すぎじゃよ。どんだけ優秀な子たちなんですかーー。特にマーシュちゃんはうちの店の即戦力になってくれそうです。
ガーナは赤眼のゆるふわ水色ショートでツルペタロリ。オルテアは……もう背丈が越されそうです、俺涙目。外見は緑色の肌に赤銅色の角、ばっさばさの青髪。腰の辺りまでありますな。特徴的なのが黒目と白目が逆転している瞳かな。マーシュはこめかみあたりから左右対称に牛の角、ふわふわの尻尾に膝下がもっふりと毛に覆われている。髪と毛は真っ白。
とりあえずこの三連娘はセフィさんに変化を教えてもらって覚えるまでは申し訳ないけれど外出禁止だな。街中では悪目立ちが過ぎる。
「はじめまして。これから君たちを迎えることになった。俺はノブサダ。よろしくな」
「ふ、ふん。よろしくっされてあげなくもなくてよ」
「あんちゃん強いな。だったら従おう。だから今度手合わせしてよ」
「はい、よろしくですよー。くかーー」
おいマーシュ、寝るな。先行きがちょっと不安になってきた。俺一応主人だよね?
契約を済ませた俺は悪い子じゃないけどアクが強そうな三連娘と二人を乗せ白米号にて屋敷へと走り去ったのであった。




