第83話 何でも屋ドルヌコ 前編
日々の疲れを癒す為に日帰りで温泉に行ったらサウナでポージングするビルダーな人がいたでござる。いや、ぶるんぶるんあれを振り回すのは堪忍してほしいでござるよ。なんか逆に疲れた気がする……。(昨日あた嘘のような本当の夢であって欲しい実話)
トンテンカンテン外から音がする中、セフィさんと室内にて顔を突き合わせている。
議題はダンジョンで入手したブツの加工と販売ルート。
加工のほうはいくつかサンプルごとに濃魔力水との比率を変えて一番いいものにすればいい。
あ、アルラウネの蜜のほうは直接販売するのはやめました。誰に売ってもやばそうな気がするのでオークのゴールデンボールを加工した精力剤などにちょびっと混ぜ込んで使おうと思います。これで旦那様もハッスルハッスルなのですよ。
問題は販売ルートなんだよね。
店舗の完成まであと一週間ほどかかりそうではあるしあの量を捌くにはちょいと手に余りそうな気がしないでもない。急ぐわけではないので少しずつ出していけばいいんだけどもね。毎回、これだけ持ち込むことになればいずれ在庫過多になってしまいそうだ。色々な加工品が増えていきそうな気もするので少し販売ルートを広げられたらいいんだが。
今ある伝手はセフィさんの店をご愛顧して貰っていた少ない貴族。ポーション御用達の騎士団、衛兵隊、そして冒険者たちである。元々街のはずれでひっそり営業していたのでこれだけの伝手があれば十分なのだが今回の目玉商品である栄養剤と化粧水は高級志向の高品質品以外に民間用の低品質品も売り出していきたいというのが本音である。そうなってくるとこの店の人員ではきついのでどこか他の店に委託することになるのだが如何せんその伝手が無くこうやって頭を悩ませていたのだ。
二人でギルド経由で探すかとか錬金術ギルドは駄目ねぇとか話しているとパタパタと駆けてくる音が聞こえる。
「ノブお兄ちゃん、お客さんだよー」
ティノちゃんが来客の到来を告げる。はて? 誰かと会う約束なぞしていないのだが。
玄関へ行けばそこには見覚えの無い恰幅の良い御仁がいた。鼻の下にはふっさりとヒゲをたくわえ優しげなまなざしをこちらへ向けている。
「急にお邪魔して申し訳ありません。ワタクシ、ここグラマダで店を開いとりますドルヌコと申します。先達てワタクシの出していた依頼で悪魔杓子の腱が持ち込まれたとランバー氏から話を受けましてね。いてもたってもいられずこうして押しかけてしまった次第です」
なるほど、あの依頼主か。
「なるほど。私は冒険者のノブサダ。ここで立ち話もなんですからこちらへどうぞ」
応接間へと通しさっそく商談といこうじゃないか。
「ドルヌコさんは武器屋を営んでらっしゃるのですか?」
「ええ、武器だけでなく道具まで扱う何でも屋といったところでしょうか。さほど大きな店舗ではないですが自分の足で探してきた品物を加工・提供しております。ワタクシの友人が腕の良い職人でして。それでなんとか人並み程度には繁盛しとります。目抜き通りの一角にあります『猫の目』という店です。よろしければ御贔屓に」
ほうほう、面白そうな店だ。今度行ってみよう。
「此度の依頼ですがその職人の下へ個人発注で5つ弓を作ることになったのですがね。素材集めに苦慮しておりましたがなんとか弦以外は揃ったのですよ。ですがそれらの素材に見合う弦が折り悪くみつからず依頼を出して様子見していたところこの話が舞い込んだのです」
ドルヌコ氏はそこでふうと息継ぎをする。しまったお茶すら出してなかったな。
「失礼、少々お待ちいただけますか」
応接間の隅に常備してあるグラスにこそりと次元収納から取り出したリポビタマDXを注ぐ。そして魔法で作り出した氷の塊を一つ投入。
「お待たせしました。今度扱おうと思う商品の試作品ですがどうぞ」
「おお、気を使わせてしまったようで申し訳ない。んぐんぐんぐ、ぷはぁ。これはまた冷えて美味いですな。後味もすっきりしていて爽快、これはいいものです」
「ありがとうございます。そう言っていただくと完成にむけて力が入りますよ。これは滋養強壮にいい栄養剤として売り出す予定です」
おう、もう飲み干してしまったか。俺の分も出したのだがまだ飲み足りなさそうなんでそっと勧めてみる。
「できましたら是非買わせていただきますよ。おっと話が逸れましたな。それで悪魔杓子の腱を是非にも売っていただきたく馳せ参じたのです。あれなら素材として申し分ない。お代は頑張らせていただきますので是非うちに卸してはいただけませんか?」
ふむ、売るのは構わないのだが……その職人さんに顔つなぎしておきたいな。個別発注がくるほどの腕前。興味があります。
「なるほど。それでは相場のお値段で結構ですよ。結構な量が獲れていますし。その代わりと言ってはなんですが是非その職人さんにお会いしたいのですがどうでしょう? うちのパーティにも弓を使う者がいるのでその腕のほどを知りたい」
「相場の値で良いのですか!? 倒すのが難しいとされるあの魔物の素材を結構な量とは。ノブサダさんのパーティはよほどの手練なのですなぁ。そういった方ならうちの職人も腕が鳴ると言うでしょう。お越しになられたときにご紹介させていただきます」
うむ、相場上等。まだまだあるしどんどん増える。ならばこれで恩も売れるだろうし、まさにWIN-WINである。んー、人となりもいい感じだしこの人にあれを卸すってのもありかもな。セフィさんと後で話してみよう。
というわけで悪魔杓子の腱のうち5本を相場の5万マニーで売却することにした。人目を気にしない状況なら範囲魔法を問答無用で撃ち込めば取り放題だし。
その場で代金を受け取りポーチから取り出すふりをして次元収納から取り出す。
「確かに。品質も良く現時点で最高の素材でしょう。ありがとうございます」
どうやら鑑定で品物を見定めたようだ。
てってれ~♪ 隠遁の補正により鑑定を阻害することに成功しました。
てってれ~♪ 偽装のレベルがあがりました。
てってれ~♪ 隠遁の補正により鑑定を阻害することに成功しました。
てってれ~♪ 偽装のレベルがあがりました。
ついでにこっちも鑑定していたみたいだな。しかも複数回。さっきから駄女神コールが鳴り響いている。たぶんだが『隠遁』がなければ貫通されていたかもしれない。
名前:ドルヌコ 性別:男 年齢:36 種族:普人族
クラス:商人Lv34 状態:少し不健康
称号:なし
【スキル】
片手剣Lv2 交渉Lv4 鑑定Lv4 御者Lv2 生活魔法
俺のほうの識別先生の情報収集は成功。流石です。
やはり商人。強かな所はあるさな。こっちの能力がばれなければ問題ない。少し不健康ってのはメタボなこと?
とまあそんな情報戦もあったが取引は無事終了。セフィさんとも話したが人当たりの良さとそれでいて強かに立ち回れそうなところを評価し店舗のほうを見て問題ないようなら商談を持ちかけてみることに決めた。
それから数日は商品開発と器の作成に勤しむ。モニターはうちにいる女性陣全員。試した結果、特に肌に問題が起きることも無くつやつやになったお肌に喜んでいた。低価格商品もそれなりに効果がでたが高価格商品の効果はそれを遥かに超える仕上がりとなる。
セフィさんと相談したがやはりそのうち従業員として奴隷を契約してこようということになった。普通に雇ってもいいのだが如何せん明かせないことが多いのでどうせだったら一から育てたとしても奴隷のほうが都合がいい。近いうちにキリシュナさんのところへ行ってみよう。
俺がこっちに付きっ切りの間は3人+1で依頼とレベル上げに勤しんでもらっている。主な狩場は7Fの小部屋。出てくる敵が限られているので俺なしでも十分に立ち回れるようになった。
今回、製作した物は以下の品。
大豚医散×20
品質:高品質 封入魔力:12/12
オークのゴールデンボールを乾燥、加工した薬。精力増強、不能回復、不妊治療に大きな効果がある。アルラウネの蜜を混ぜ込んでるあるため少量でも効果が高くなった。
リポビタマデラックス×200
品質:良 封入魔力:2/2
タマ汁へ濃魔力水、ハーブと柑橘系果汁を混ぜ込み飲みやすくした栄養剤。
リポビタマアゲイン×100
品質:高品質 封入魔力:10/10
24時間戦う漢へ贈る高級栄養剤。気力体力魔力精力の回復効果が見込まれる逸品。タマ汁にいつも以上に魔力を注ぎ込んだ濃魔力水とアルラウネの蜜をちょっぴり混ぜ込んであり苦味のある甘さ控え目の大人の味わい。
タマちゃん印の美肌水×500(石器バケツ一杯分から)
品質:良 封入魔力:2/2
低価格化粧水。潤いを与え肌荒れを防ぐ。アルコールは使用していないので肌への刺激も少ない。
タマちゃん印の極美肌水×100(石器バケツ一杯分から)
品質:高品質 封入魔力:10/10
高価格化粧水。潤いを与え肌荒れを防ぎエイジングケアもこなす逸品。タマ汁と薬草も配合されている。魔力との相乗効果か潤いのキープ力が向上した。
大豚医散はうちの店舗で取り扱う。今のところ売り切りだからな。高価格品はセフィさんのほうから貴族の方へ打診してもらう。あとは低価格のほうだな。ちなみにマンドラゴラや怪しいまんどらゴルァも先日手に入ったがこちらはまだ加工していない。




