第80話 ノブサダ怒りの鉄槌
ノブサダが籾摺り魔法に四苦八苦している頃。
風呂場へと作り変えられた洞窟の一部屋で女性陣三人は顔を突き合わせている。ノブサダが魔法で作り上げた石の湯船に生活魔法の一つウォタを使ってミタマとカグラが水を張りフツノが火魔法でお湯へと沸かしている。
そんな彼女らは何やら真剣な表情で話し合っている。
「んで? あれからカグラはノブ君とどうなったん?」
「ぬな!? なんで今それが関係してくるのじゃ」
「……大事。今日もノブは一人で巨大な相手に突っ込んで行った」
「せや、なんだかんだ言うてもノブ君は厄介そうな敵は自分で受け持って無理ばかりするやん? いつか無理しすぎて取り返しがつかなくなりそうな気がして怖いんや」
「……だから繋ぎとめておく為にも繋がりが多いほうがいい。それに……」
少し言いよどみつつもミタマは言葉を繋げる。
「……それにカグラももう家族だもの。みんな一緒がいい」
照れ臭そうに俯きながらミタマは小さくそう言った。
聞き逃してしまいそうな声なのにそれははっきりとカグラへ伝わった。カグラ自身も母と死に別れてからは天涯孤独の身だった。ミタマの言わんとすることは何よりも分かる。
「そうじゃな。妾にとっても大事な家族じゃな。愛しい人と大切な家族。妾は今幸せなんじゃな」
それから意を決したようにキリリと表情を引き締めて二人へと告げる。
「今晩。主殿が湯へと浸かっている時に伺う。それで見も心もあの人のものとなるのじゃ。妾たちがおるゆえ無理はするなと楔になることを伝えよう」
皆コクリと頷き微笑みあう。ノブサダの知らぬ間に女性陣の結束は高まっているようだ。
◆◆◆
そんな事も露知らずノブサダの目の前では夢にまで見た白米が蒸らしあがろうとしていた。
そっと蓋を取れば吹き上がる湯気と共に銀シャリが輝いている。
うっほう、お米が立っております。ではちょいと味見をば。
ぱくり
美味いやぁぁぁ、美味すぎてふりかけがほしいやぁぁぁぁぁ。
なにこれ、サタンニシキ滅っっっ茶苦茶美味いぞ。ここまで美味い米を食べたことが無い。これなら肉汁溢れるルイヴィ豚の焼肉もしっかりと受け止めることであろう。
余談だが家では皆、箸を使うことが可能になっていた。セフィさんが一番四苦八苦していたが今では普通に使えている。箸自体は俺が削りだして各員専用に仕立ててた。ミタマなら猫、フツノさんは狐、カグラさんは槍、セフィさんはポーション印を刻んでみた。流石に蛇を刻むのは拙かろうと自重したよ。俺のはタマちゃんが刻んである。
テーブルと簡単な椅子を作って七輪セット! 炭へと着火!
うんむ、いい感じだ。
待機しているであろうカグラさんへ呼びかけ皆に声をかけてもらおう。裸の付き合いをしたとはいえ女性陣が寛いでいるところに男一人で押しかけるのは気が引ける。
「カグラさーん、こっちの準備できたからみんなを読んでくれるかい?」
「分かった。妾は食事のあとに湯へ浸かるとしよう。すぐに行くのじゃ」
それから数分。ふんふふんと鼻歌を歌いつつミタマがご機嫌でやってくる。そんな様子を後ろの二人が微笑ましげに眺めていた。もはや我が家の定番な状況だな。
「お待たせ。こちらが本日の成果たるご飯でございます。こっちの焼肉をタレにつけて一緒に頬張ると幸せになれると思いますよ。それではいただきます」
「「「いただきます」」」
丁度良い焼き加減のカルビを摘み塩ダレへ潜らせ銀シャリの大地へダイブさせる。くるんと包みつつ口の中へ放り込めば……ああっ、幸せだ。お肉が蕩けてご飯がほどける。
「ふあああ、これがおかんの言っていた故郷の味なんやね。なんていうかこのご飯単体でも美味いねんけどおかずが組み合わさったらいくらでも箸が進むねんな。あかん、止まらへん」
「ああ、そうじゃ。この味じゃよ。長いこと離れておった隠れ里でも滅多に食べれなかった白米の味じゃ。それをこんな高級肉と共に食べるとは。こんな贅沢いままでしたことがないのじゃ」
「……はくはくはくはく、もぐもぐもぐもぐ」
三者三様のお答え、一名は喋ってないけれどもだ。東方のヒノト皇国には米が多く食べられているようなんでカグラさんは元より東方出身の母親を持つ二人も食べたことがあってもおかしくはなかったな。相性はとてもいいようです。これからは暇を見て備蓄に励むとしようか。
テーブルの上に山の如く準備しておいた肉が綺麗さっぱり片付いたころ、俺はアレの存在を思い出した。
突っ込んでからすでに結構時間がたっている。うまくいっているならそろそろいい感じなのではなかろうか?
というわけで出でよ! 三酒の石器! 成功していればだけれども。
まずは桃汁! パカリと開ければ……腐ってやがる! 早すぎたんだ!! ということもなく何かしら雑菌でも入っていたせいなのかやばげな匂いがしてくる。発酵は進んでいるようで次元収納的な実験は成功のようだけども。
そしてリンゴ汁。ぐふ、これも駄目か。やはりコルクじゃないからなのだろうか。いまいちみたいである。
最後にブドウ汁。くんくん。お? これはいけるんでないか?
どれ、識別先生出番ですよ。
ブドウ汁(発酵中)
品質:並 封入魔力:3/3
ワイン一歩手前のような状態。アルコール度数は低くそれでいてただのブドウ汁よりも芳醇な香りが楽しめる。
ふむ、もう少し時間がいる感じなのか。とりあえずこいつは毒でもなさそうだし飲兵衛二人にでも味見してもらおうかね。
「ふうううう」
あれから片づけを終え俺はひっそりと湯に浸かっている。勿論湯は張り直した。美人の後の湯を変えるなど言語道断? 普段だったら同意しなくもないのだが今日は泥だらけになったからね。流石に一人ずつ入れ替えたよ。
いや、やっぱり一日の〆にお風呂は欠かせないな。これで風呂上りの牛乳でもあったら最高なんだがいかんせんそれもない。まあ、冷やした果実水があるから十分ではあるのだが。
ブドウ汁は飲兵衛にミタマも加わって全部飲まれてしまった。寝る前の軽い一杯に丁度いいらしい。ミタマはそんなに強くないようで早めに就寝してしまったが。
そういえばこの世界、ヘチマとかあるのかな? こうわしわしっと垢すりしたくなるのだよ、たまに。
今度、商店街を探索してみようか。
カサッ
そんな考え事をしているとなんとなく配置しておいた暖簾がカサリと揺れた。
ん? 誰か来……た??
俺は目を見開き呆然とする。そこには一糸纏わぬカグラさんが立っていたのだから。
いやいや、どうしたの。無理強いはしたくないからカグラさんが落ち着くまで待とうとは思っていたけれどまさかダンジョンの中でこげな大胆な行動にでるとは思ってなかったですたい。
「主殿、その……な。妾だけまだじゃったろ。今宵は一人の女として主殿のものにしてほしい」
恥ずかしげに胸と股間を手で隠したままそう告げるカグラさん。
「あまりまじまじと見ないでくれ、後生じゃ。なんせ妾は戦いの中で生きてきたゆえにな。あの二人と違うて傷だらけじゃろ」
確かに体の各所に切り傷などの跡が残っている。腹筋も割れているし戦う女って感じだ。だがそれがいい。俺はそういうのも大好きです!
ざばりと風呂から上がってカグラさんを抱き寄せる。背丈が低いからカグラさんの胸の辺りに顔を埋める形になるがこれはこれで良い。頬を染めたカグラさんが屈みながら俺へと口付けを……。
ドンドンドンガンガンガン
交わそうとしたところで入り口とは逆の石壁からなにか叩き付けるような音がして台無しになった。
何処のどいつだ!!
いい感じにキレそうだ。わたくしぶちきれますわよ!!?
「グラビトン!!!」
手加減無用のグラビトンをかければ叩く何かは動きを止める。壁を消し去るとそこには大きな熊がいた。壁を作る際にはいなかったのでこいつは魔物で洞窟の突き当たりでポップしたのだろう。生まれたばかりだがそこは光も無い空洞。勢い余って叩きつけるも道理よ。正直すまんことをした……とでも言うと思ったか!
折角カグラさんといい雰囲気だったのに!
「サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!」
息の続く限りサンダーを連射してやる。威力は抑え目、ただ痛みは倍増。熊はこちらを恨みがましそうに見つめている。だが慈悲は無い! 貴様は俺を怒らせた。
「サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!サンダー!」
もはやいっそ殺せと言わんばかりに哀しげな瞳を向ける熊。まだだ、まだ終わらんよ。
「蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉、蟻酸砲玉」
元はアクアアロー。水ではなく強酸の玉であるが。効果の程? 知らん! 怒りに任せて適当に改変しただけ。でも某ぼうえいぐんの一般兵をやらかすくらいの威力はあるんではなかろうか。
毛皮から煙があがり息も絶え絶えになる熊。さすがにこれだけ連射したら少しは落ち着いた。もはや一思いに黄泉路へ送ってくれよう。
次元収納から月猫を取り出し振りかぶる。
「轟刀・銀光!」
振るわれた太刀は一筋の銀閃を描き熊の頭部を瞬断した。明らかに振るわれる速度が上がっている。これもこの武技の効果なのだろうか。
首を落とされた熊は粒子と消えた。そこには魂石と熊肉、熊の肝が転がる。おっと、ほいほいっと次元収納へと放り込む。魔力の殻が壊れる前なら維持したまま収納できることがさりげなく先の後片付け中に判明したのは内緒だ。
「なんやの! なにがあってん!??」
フツノさんが慌てたように風呂場へと顔を出す。
「ああ、どうやらこっちは魔物がポップする場所だったようだよ。魔素溜りでもないみたいだからそう頻度は高くないみたいだけどもね」
片付いた後だからできるだけ平静を装ってフツノさんには説明する。だが彼女はとある一点を見つめたまま俺の説明もどこふく風のようだ。ん? 視線の先は……俺の……股間!?
フルチンやってん!! 丸出しでなに平静になってるの、俺。
「くふふ、やっぱりノブ君イイモノお持ちやね。それじゃごゆっくり、にひひひ」
なんだろう、やり手の女衒さんのような笑みを浮かべながらフツノさんは引っ込んでいく。
そして同じく裸のまま呆然とするカグラさん。いそいそと湯船へ戻りつつカグラさんへと視線を向ける。
「その、なんだ。体冷えちゃうし一緒に入ろう?」
恥ずかしさとの葛藤があったのかもじもじしていたがやがておずおずと一緒に湯に浸かる。
その後は音が漏れないように壁をこっそり増設し満足するまで二人でいちゃいちゃした。
お湯が汚れたので再度湯を張り替えたのはご愛嬌。
てってれ~♪ 性豪を獲得しました。




