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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第五章 そうだ! ダンジョンへ行こう!!
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第78話 Flying in the Sky

どっちかといえば跳躍なのかもしれない。

 米俵を手に入れてにんまりしている俺とちょっとだけ距離をとっている皆。


 さてこの後はどうしようか。そう思っていた時だった。



 ズズズズズズズズズズズ


 なんだ!? 揺れてる? 周りを見渡せば揺れているのはこの沼周辺だけだと気付く。


 ダッパァァァァァァァァァン


 沼より急に溢れでた泥の波。泥だけあって足をとられそのまま流されてしまう。そう、俺は米を取得し気が緩んでいたため高機動魔法一式を切っていたのだ。


「ぬおああああ」 「やーーーーん」 「ぎにゃあああ」 「ひああああ」


 四者四様の叫び声を上げつつ押し出され全身泥だらけになってしまう。動きを阻害するし何よりもパンツの中まで泥でぐっしょりして気持ち悪いったらない。出来ることならすぐにでも風呂に入りたいところだが目の前のアレ(・・)がそれを許してくれそうにない。



 俺達の目の前に鎮座する巨大な魔物が死んだ魚のような目でこちらを凝視していた。


 沼の中央にあった小島のようなもの。ただの地形だと気にも留めていなかったが魔物だったらしい。全長5メートルはあろうか。そこには見上げるほど巨大なおたまじゃくし(足つき)が聳え立っていた。


 うわぁ、巨大な体躯を二本の足で無理矢理支えているように見えるけれども物理的にはありえない。なによりムッキムキの足がやけに生々しくて気持ち悪い。後ろでミタマ達が汚物を見るような目であいつを見ている。

 てらってらに黒光りする全身は滑りを帯びて嫌悪感をさらに醸し出す。おちょぼ口につぶらな瞳が特徴的だが前述したとおり死んだ魚のような目をしている。



 イービルタッドポール Lv32

 HP:245/245 MP:23/42

 巨大なおたまじゃくしの魔物。魔力を消費してヒキコモリウチカエルやヒキコモリドクガエルを産み出す。また、その表皮はぬめりを帯びて物理攻撃を半減させる効果を持っている。



 識別先生の鑑定結果を見て思ふ。卵が先か鶏が先かじゃないんだっての。どうしておたまじゃくしからカエルが産みだされるのか。解せぬ。

 分かってはいたがこの世界は色々と理不尽である。



 考え事はどうやらここまで。あっちもこちらを逃がすつもりはないらしい。


 あの巨体にどこまで持つか分からないがまずはストーンウォールで足止めだ。


「ストーンウォール!!」


 ガンガンガンとこちら側が見えないほどの石壁を建設する。はいはい、工事中なんで関係者以外は立ち入り禁止ですよ。

 次いで大量の温水を作り出し乱暴だが頭から皆へと浴びせる。ドロドロの状態よりはましだろう。


「……ありがと、ノブ」


「せやけどあいつどないするん? この足場やとまともに戦えへんよ」


「フツノさん、火魔法で派手に水気を吹き飛ばして足場の安定を。カグラさん、ミタマはフツノさんの護衛。辺りが乾いたら順次戦闘に参加をして。それまでは俺が時間を稼ぐ」


 タマちゃんも一緒に行動していて。そう念じるとぷるるるるぅんと体を振るい水気をとばしながらぽよんと頷く(?)。


 高機動魔法一式をかけなおし泥の上を滑るように走っていく。あっちの状態を把握している俺大慌て。

 うん、もう石壁破壊されそうなんだ。ビキビキとヒビが入ってきている。厚さ1メートルくらいあるんだけどもなぁ。


 バカーーーン


 石壁が体当たりにより砕け破片が周辺に散らばる傍から魔素へと還元されていく。


 今の俺の力量では高機動魔法一式を使っている間は単純な魔法一種類くらいしか使えない。遠目からでかいのをお見舞いすればいいと思ったが感電やらの二次被害が怖いのであたり一面泥だらけの今は使えない。

 後ろの皆から注意を逸らすためにもこっちへ引き寄せねば。

 迂回しながら挑発を発動しつつ魔法を編み上げる。


火炎弾フレイムブリット!」


 圧縮し回転運動を加えられた炎の弾丸がイービルタッドポール目掛けて放たれた。


 ぬるりん

 じゅわっ


 おーまいがっ。てらってらの滑りに捕らわれ火炎弾はあっさりと鎮火されてしまった。おいおい、ぬめりの粘膜どれくらい厚いのさ。あれって一応鉄板溶かしつつぶち抜いた魔法なんだけれどもな。


 イービルタッドポールの周囲を旋回しながら相手の出方を窺う。すると只でさえ太かったその両足に力が込められたのかムキっと青筋らしきものが浮かび一回り太くなったように思えた。前傾姿勢でこちらをじっと見つめている。その瞬間、イービルタッドポールの姿は宙を舞い俺を目掛けて落下してきた。


「うわわわわわわ」


空気推進エアスラスタ』で一気に加速してその場を瞬時に離れる。

 先ほどまで俺がいた場所にズズンとその巨体がのしかかった。かの質量が思い切り落下したものだから地揺れが周囲にもかなりの影響を与えている。フツノさんたちも立っていられなかったほどに。

 イービルタッドポールの体躯の半ばが地面にめり込んでおりあのままあそこに残っていたらと思うとぞっとする。


 さて、どうしたものか。普通に考えればやはり狙いはあの足だろう。体を支えるあれを左右どちらかでも斬りおとしてしまえばバランス的にも動けなくなるはずだ。


 すうっっと息を吸いカッっと目を見開き集中する。幸い相手はめり込んだままいまだ動き出せていない。魔力纏を高出力で展開し意を決した。


 ドンっと弾ける様な音とともに俺の体は一つの弾丸となり高速でイービルタッドポールの足元へと接近する。勢いのまま月猫の刃をイービルタッドポールの太い足へと水平に薙いで切り裂……けない!?

 危うく月猫を取り落としそうになりつつもなんとか持ち直し相手の背後へと回り込む形となった。

 斬りつけた箇所は確かに傷になってはいるが骨にすら達していない。なんて硬さだ、骨じゃなくて筋肉に止められたぞ。


 ぐるーりとこちらへ向き直ったイービルタッドポール。

 斬りつけられたことに怒り心頭なのか死んだような目に鈍い光が宿っている。ふぬっといきんだかと思えば尻の辺りからポポポポポポポポとなにか光る玉が大量に出されていた。それらは地面へ接するとパチンとはじけ中からカエルが飛び出てくる。


 その数なんと20匹。おいおいやっぱりこいつが発生源か。

 そのカエルたちは一斉に俺へと……向かってこず全てフツノさんたちの方へと向かい突進していく。


 俺を完全に孤立させるつもりなのかイービルタッドポールのおちょぼ口がニヤリと歪んだような気がした。少なくとも嫌がらせをする知性はあるのか。彼女達がたかだかカエル共に遅れをとるとは思わない。だから俺は全力でこいつを仕留めればいい。


 自分の手札の内からあいつを仕留める手順を模索する。

 確実にトドメをさすならあの武技を使うべきだろう。だが滑る膜も貫けるかというと自信がない。まだ数度しか振るっていないからな。動きを止めあの膜をどうにかして突き刺す……か。



 警戒しつつも動きを止めた俺に怪訝な表情を浮かべるイービルタッドポール。随分と表情豊かだな。

 観念したとでも思ったのか先ほどと同じようにぐっと足へ力を込める。俺が切った所は筋肉で無理矢理押さえ込んでいるのか出血すらしていない。


 ズドーーーーン


 地面を踏み抜かんばかりに自らの体を押し上げイービルタッドポールは宙を舞った。









 それこそ俺の望む動きだというのにね。


「『空気推進エアスラスタ』!!」


 4つの噴出孔全てを真下へ配置し垂直に飛び上がる。俺がいた場所へとあいつが着地する瞬間にあわせ魔法を次々切り替えていった。


(『空気浮揚エアホバー』、『反重力領域アンチグラビトン』解除)


 すでに俺がいない場所へズズズーンとイービルタッドポールは降り立つ。丁度俺の真下、そこがお前さんの墓場になる。


「グラビトン!!」


 範囲を絞り真下のイービルタッドポールへと重力を何倍にも倍掛けしてやる。流石にこれは堪えたのか切っても立ち続けたその足は膝を衝き耐え凌いでいた。


 次いで『空気推進エアスラスタ』を真上へと向け一気に急降下していく。


「ふんぬぬぬぬぬ」


 ビリビリと空気の抵抗が俺の顔を歪めるがまだまだこれからだ。

 グラビトンの制御を切り替え俺にも影響が出るようにする。すると落下速度が更に上書きされジェットコースターなんか目じゃない速度となった。

 そして魔力を込めに込め準備しておいたあの魔法を発動する。


「ドライ!」


 その瞬間、イービルタッドポールの頭上を覆っていた滑りの膜がジュワアアアっと瞬時に蒸発した。生活魔法であるドライ。他の魔法などよりも扱いやすい生活魔法の中でもフリーズドライへ改変している為、断トツに使用頻度が高い魔法だ。まさか戦闘中に使うとは思わなかったけれどもな。

 後は只、突き立てるだけっ!


「震刀・滅却!」


 サクッ

 メゴシャッッッ


 露呈した黒い表皮へ音も無くスウっと突き刺さる月猫。さらに重力+加速で勢いづいた俺の両足が着地、というよりも着弾と言った方がいい勢いでめり込んだ。頭蓋はへしゃげ目玉が飛び出ている。明らかにやりすぎたか……。


 あだだだだだだ


 うあおう、時間差で足にビリビリきてる。これは確実に骨へヒビくらい入ってそうだ。魔力纏かけていてもものすごい反動がきたな。師匠との特訓で何度か折れたりして、その度に丈夫になっている気はしていたけれどもそれでも耐えれない勢いか。


 弾ける様にイービルタッドポールの巨体は魔素へと分解されすっと消え去る。

 やれやれ、なんとかなった。


 急ぎみんなのところへ向かおうとするもどうやらほぼ同じくらいにあっちも殲滅し終わったようだ。ミタマが手を振っている。

 痛む両足にハイヒールをかけて癒しながらドロップ品を回収するとしようか。



 悪魔杓子の腱×2

 品質:良 封入魔力:13/13

 イービルタッドポールの足から獲れる腱。加工すると非常に質の良い弓の弦になる。


 悪魔杓子の粘液

 品質:高品質 封入魔力:8/8

 イービルタッドポールが生成する粘液。濃魔力水で濃度を調整することにより良質な化粧水となる。



 魂石は緑色、しかも大型で結構質も良さそうだ。

 腱はミタマ用にとっておくとしてこいつの粘液が化粧水に化けるとはね。上手いこと貴族の奥様にでも売り込めばいい稼ぎになるんでない? なんせデカイだけあって粘液の量もかなりのものだ。大きなゴミバケツぱんぱんになるくらいの量をドロップしたよ。ダンジョンで出るゴミ用に作っておいた石バケツが役に立った。


 みんな汚れまみれだし今日はここまでにしておこうか。


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