第68話 にゃんにゃんにゃん
筆も話も進まない。ぼすけて!
「うちらも今回みたいな事があるから強うなるんは急務やと思う。ノブ君らがおらんかったと思ったらぞっとするわ」
「それには同意じゃな。まだまだ妾は弱い」
「……でも具体的にどうするの?」
「それには俺に考えがあるんだがいいかな」
俺の考えは簡単、4人でパーティを組んでダンジョンを踏破しようというもの。同時にダンジョン関連の依頼を積極的に受けることでランクも上げていく。ちなみにセフィさんは店があるしお留守番だ。助手であるディリットさんたちの育成もあるしね。
カグラさんはソロだったしミタマ達も戦闘以外の依頼を受けることが多かった。俺の成長率が高いのもあるけれどそこまでレベルが上がってないのはそこら辺が原因だな。
「だったらぁ3人もここに住んじゃいましょ。部屋はまだまだあるしねぇ。そして落ち着いたらそれに挑めばいいと思うの」
「……セフィさん、いいの?」
「勿論よぉ。ノブちゃんの恋人ならもう家族みたいなものだしねぇ」
ということで一週間の間に引越しや装備の確認、その他雑事をこなすことにする。フツノさんの装備は無くなっていたしカグラさんのもデイブ戦で結構傷ついていた。食料のほうも大人数での移動があったせいで結構目減りしているしな。それに俺は師匠への報告やギルドへの苦情申し立てが残っている。
「ほんなら『風のしっぽ』も解散やね。新しいパーティ名も考えなあかん。『ノブ君と愛しの娘たち』ってどう?」
「……姉さん、それはちょっと……」
「妾は『ノブサダ愛連隊』なんてどうかと思うのじゃが」
二人とも俺の名前を入れるのはやめてほしいのだが。これ、なんていう公開処刑?
「……『ノブとしっぽ』?」
ミタマ! お前もか!! 俺を除いた中でカグラさんだけは尻尾がないので惜しい! 違う、違うって。いかん、ここで意見出しておかないとなし崩しに公開処刑決定になるぞ!
「『イズミノカミ』でどうだろうか?」
「「「「イズミノカミ?」」」」
「俺の家名が和泉っていうんだ。それに守るっていう故郷の字をつけて和泉守。俺が守りたい者、俺を守ってくれる者って意味を込めてどうだろう?」
「ええね! うちはそれいいと思うわ」
「うむ、お互いに助け合う意味合いがあるというのはいいのう」
コクコク。ミタマも頷いている。セフィさんはくすくすとほほえましく見守っている。
よかった。これで晒し者は回避できたようだ。そこらへんを詰めてこの夜は御開きとなった。
夜も深けて床に潜り込むとこれからのことに思いを馳せた。昨日は心底ぐったりと寝たものだから夢も見ていないが今夜は静かな夜に色々と考えることができる。落ち着いて考えるとほぼ犠牲無くうまいこといったのは運にも恵まれたなあと思う。
コンコン
小さくノックする音が静寂に包まれた部屋へ響き渡る。
俺が返事をする前にキィっと小さな音をたてて扉があき二つの人影がこちらへとゆっくり近づいてきた。
「……ノブ、今いい?」
ミタマか?
瞼をゆっくり開け声のしたほうへ向き直ると……そこには薄絹一枚に身を包んだフツノさんとミタマが月明かりに照らし出されていた。
「ちょ、ミタマなにを……」
慌てて体を起こそうとした俺をミタマの人差し指がちょんと制した。
「……あのね、ノブ。ちょっと大事なことがあるんだ」
その真剣な表情に横たわったままの体勢だがおとなしく耳を傾けることにした。
「……あのね、あの時、ノブに姉さんを助けられたら私のことなら好きにしていいからって言ったのは素直な私の気持ちなんだ。どれだけ切羽詰っていても好きでもない人にそんなこと私は言わないよ。約束通りノブは姉さんを、私も助けてくれた。だから、私の精一杯を受け取って欲しい」
普段、あまり多くを語らないミタマが一気にまくし立てる様に言葉をつむぐ。逆に饒舌なはずのフツノさんはさきほどから一切声を発していない。だが、ミタマの肩に両手を乗せていたフツノさんも覚悟を決めた顔でこちらを見つめる。
「あんな……うちは昔から男運悪かってん。あのボケを筆頭に変なのばっかりに絡まれてな。ミタマも一緒に巻き込まれてしもうてもううんざりしてたんよ。せやから冒険者になってからはこの子を守るために色々と手を回した。裏で汚い仕事もしたんよ。うちはそんな綺麗な身じゃないねんけど……それでもやっぱりうちを好いてくれる人に初めては捧げたいんや。ノブ君があの時、耳元で言ってくれた言葉を聞いた時からもうそればっかりがぐるぐる頭の中を占めてたわ」
フツノさんも一息に思いを語る。緑色の瞳が窓から差し込む月の光でうっすらと輝いているようにも見えとても神秘的だ。
「「だから(せやから)私たちをノブ(君)のものにして!」」
ピシャーーーーン、ガラガラガラ、ドーーーーーーーン。
ああ、もう、崩れた。ええ、崩れましたよ。俺の理性の防壁は粉々に砕けましたともさ。
今までどれだけ我慢してたと……。でも、素直に二人の好意がすごく嬉しい。顔が緩みそうになるのを抑えて二人を見つめる。
月明かりの照らす中、寄り添う影が重なり俺達三人は激しく繋がりあった。
全てを見通すのは月だけで……。
そんな心地よいまどろみの中、三人一緒のベットで目を閉じた……。
ちゅん、ちゅん、ちゅちゅんがちゅん
「昨夜も見た天井だ」
どうやら昨夜のことは夢じゃないっぽい。
両隣には二人がすやすやと寝息を立てている。思わず緩む顔をもはや取り繕うともせず三人分のここちよい体の重さに委ねたままゆったりする。
……
…………
ん? 三人分???
なんか下半身に重さを感じるぞ!?
なんで!?
シーツを剥ぐと……。
そこには股間にすがりつくように寝息を立てているセフィさんの姿があった。
「のわーーーーーーー」
「……すぅすぅ」
「なんやのん、朝から大きな声だしてぇ」
「うぅぅん、ノブちゃんたらどうしたのぉ」
いや、あの声でも起きませんかミタマさん。いやいやいやいや、どうしたのとはむしろ俺が聞きたいですよ、セフィさん。
「どどど、どうしてセフィさんがここにいるんですか、っていうかなんで俺の股間部に縋り付いていらっしゃる、ってぅぉぉぉう」
下半身もすっぽんっぽんですのでデリケートですよ、急に動いちゃ色々あたるんです。っていうか昨夜あれだけシタのに俺のわがままボディは元気なようです。
「んー、こっそり広間を抜け出していく二人に興味心身で隠れて着いてきちゃったら楽しそうなことを始めるからつい……混じっちゃった」
へ!? あのときからいたと仰りますか!?
そういえばおぼろげな記憶の中に大きなメロンが追加されているような気がする。それにも気づかぬ俺はどんだけテンパっていたんだ。
「館の主人に黙って楽しそうなことしてるんですものぉ。除け者にしちゃいやなのよぅ。私も艶々な日々がほしいのよぅ」
あなた、朝から俺の股間いじりながらなんてこと言いなさる。昨日のミタマ達の覚悟が台無しだよ。
見てください、フツノさんもなんか引きつった顔してるから。
「フツノさん、いたの気づいてた?」
ふるふるふると首を振るフツノさん。どんだけ隠密性高いんですかセフィさんや。
「とりえあえずだ」
「んぅ?」
首をかしげるセフィさんにはっきりと言い放つ!
「まだ眠いのでベッドの暖かさに身を委ねます。もう、午前中はオフにしますよ、なんか疲れた」
「さんせぇ」「うちもぉ」
色々ありすぎて考えるのを放棄します。起きたらまた考えればいいんです。問題の先送りな気がするけど突っ込まないで!




