第66話 奴隷の解放と……。
※掘り掘り2はクリアしてひたすらループしていた記憶があります。某課長も言っていましたが島崩しは美学だと思うんですよ。
会話修正。
屋敷に着いた途端、その日はみんなぐっすりと寝こけてしまった。
セフィさんが熱烈な帰還の抱擁をしてくれたことで後ろのミタマたちが若干引きつっていたけれども俺はなにも見なかった! なんてことにしたら駄目ですね。最上級の土下座を初披露しましたよ。
そして翌日、フツノさんとミタマに案内されて件の奴隷商館へと訪れていた。
ぞろぞろ連れ立っていくと人目を誘うので白米号(高速輸送型ノブサダの荷台車)での移動だ。これも人目引いているけれども気にしたら負けだと思っている。
フツノさんが入り口にいた黒服になにやら話していたかと思うと俺たち三人が奥へと通された。奴隷の皆さんは別な待合室があるようでそちらに移動する。
俺たちが通された部屋はどうやらここのオーナーの執務室のようで中で佇む女性がその当人なのだろう。キリシュナという名前は聞いていた。見た目はフツノさんをもっと大人っぽくしたような熟女の香りがする。尻尾も金色の狐の尾が3本ふりふりしていた。年とともに増えるのかと失礼なことを考えていたらミタマからなぜか肘打ちをくらった。どうやらデレっとしているように見えたらしい。そんなことはないのにな、解せぬ。
「姐やん、忙しいところごめん。ちょっと訳ありで姐やん以外に頼めなかってん」
「ふふふ、構いませんよ。ところでそちらの可愛らしい少年はどちらさま?」
うーん、あんまり目が笑っているようにも見えないんですがなんででしょうか。どっちかというと俺を値踏みしている感じ? そんなにあからさまではないけれどなんとなくそう感じる。
「うちの旦那様や、そのうちミタマの旦那様にもなるんよ」
ぶふぉ。確かにそれっぽく言ったけれどいきなりそれはまずくないですか!? ほらミタマも目を見開いちゃっているよ。ミタマにはまだ何も言ってないのに。
「うふふふ、そうなの。ちょっと後で残ってもらおうかしら。それで今日はどうしたの?」
あるぇ、居残り決定ですか。
「ええと、それは俺からで。はじめまして、冒険者のノブサダといいます。実はフツノさんたちがいざこざに巻き込まれまして。その際、盗賊団を壊滅させたらそこで捕まっていた奴隷の所有権が俺に移ったみたいなんですよ。随分とあくどい方法で奴隷にされていたみたいでできるなら解放の手続きを取りたいと思っています。フツノさんたちに信用できる人はいないかと訊ねたらここを紹介されてきたんですよ」
一気に話しきると先ほどまでよりも幾分表情が和らいだような気がする。
「二人の窮地を救ってくれたことに感謝を。ありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げる。が、再びこちらを見据え言葉を続けた。
「しかし随分とお人好しな方なんですね。奴隷をそのまま売ってしまえば一財産になるというのに」
言わんとしている事は分からんでもない。だが俺も無理矢理拉致されたようなもんだからな。異世界生活をそれなりに楽しんではいるもののやはり無理に連れて行かれるのは嫌だし。
あ、ちなみに俺は奴隷に関して無理に解放とかそういう考えは持っていない。この国についてしかまだ知らないけれども刑務所みたいなものはあまり無い。犯罪を犯したものが奴隷となることである意味その代用となっているんだろう。それに田舎で身売りするしかないっていう状況で親が他の子を守るために身売りするのも昔の日本でもあったことだ。心情的には気持ちのいいものじゃないがそれで助かる命もある。
でも自分の身近な人にそういうことがあったら出来る限りの手を打つけどね。聖人君子みたいにはなれないができることはする派だ。
「生活するぶんには困っていませんから。単純に俺自身の選択です。皆を売り払った財産っていうのの後味がよくないだけですよ。すいません、決して奴隷商人を貶めているわけではないんです。俺の感情を優先しただけですから」
そう言いきった俺にキリシュナさんはくすりと笑みを浮かべる。自分でも格好つけてると思うわ。だってバカボンボンから徴収したお金にはそれらも含まれているものな。
「ふふ、まあいいでしょう。解放の手続きは可能ですよ。それではすぐにやりましょうか」
あ、キリシュナさん本人がやってくれるんですね。
そのまま奴隷が待機している部屋へと向かいその作業は至極あっさりと終わった。奴隷紋に手を触れて詠唱をすれば灰色のそれはパキンと音を立てて消滅した。先ほどまでの俺の立場は仮の主人のようなものでしっかりと契約すれば奴隷紋は色を取り戻すらしい。仮だけにこれだけあっさり解除できたとキリシュナさんは言う。
解放した皆さんには気をつけて故郷へ帰るなりしてくれと昨日のうちに小分けしておいたお金を渡す。『助けてもらった上にお金まで』とみんな涙を流すほど感謝してくれた。そんなに感謝せんでもいいのよ? 俺が後ろめたいからそれを少しでも紛らわす為なんだからさ。
最後はクレイさんなんだが彼女は冒険者に復帰するらしい。武具などは今ある物を使えばいいし当座の資金も俺が渡したもので事足りるだろう。失敗を踏まえ初心にかえってコツコツ依頼をこなしていくと言っていた。何かあればいつでも力になると約束してくれたので困ったときは頼りにしようと思う。
そこらへんはともかくも手続きが終わった後、キリシュナさんから俺は一人だけ残るように言われた。素直に従いミタマ達には戻ってもらう。はてさて一体なんだろう?
「さて、やっと二人きりになれたわね。あなたには聞きたい事があるのよ。これからあの子達をどうするつもり?」
「え?」
先ほどまでと違い随分と剣呑な雰囲気を醸し出すキリシュナさん。こっちが素なのかな?
「どうやら二人ともあなたに篭絡されたみたいだけれども。普人族にとって獣人族は蔑む対象でしょうに。一体なにを企んでいるのかしら?」
「企むというか何というか。みんなで幸せな家庭を築けたらいいかなっていう望みですかね?」
「なんでそこまで言って最後が疑問系なのよ。ふう、本気で心配した私が馬鹿みたいじゃないの」
どうやら普人族の俺にあの二人が騙されているのではと危惧したっぽいかな? そんなことないのにね。というかいまだに『普人族?』なんだが俺ってどうなってるんだろう。
「お義母さん、娘さん達を僕にください! きっと幸せにします!! って言ったほうが良かったですかね?」
「ああもう、あなたと話してると力が抜けるわ。あの子達が選んだのなら仕方ないのだけれどもね。いいこと? あの子達を泣かせたら地の果てまで追って股間にぶら下げているソレを……」
ぐっとこちらを睨んだと思ったら。
「捻って!」 ズイッ!
「折って!!」 ズズイッ!
「引き千切るからっ!!!」 ドーーーーーン!!
近い近い近い、顔近いですから! そして怖いです。
おおう、思わず股間がキュってなりました。キリシュナさんは本質的にSなんですね。肝に銘じておきます。
「それとあの子達が話しているか分からないけれどもこれも言っておくわね。あの二人の血筋だけれども獣人族にとって貴種にあたるわ。もしかしたらそちら方面からちょっかい出される可能性もあることだけは覚えておきなさい」
「ご忠告ありがとうございます。二人を守れるように精進しますよ」
「ならいいわ。なにか困ったことがあったらいつでも相談に来なさい。あ、その際には必ず二人、もしくはどちらかを連れてくるようにね。私の可愛い姪っ子なんだから」
ああ、姪っ子可愛くて仕方ないんですね。俺も死に別れた姪っ子いたからなんとなく分かります。キリシュナさんとは仲良くできそうな気がしますな。
「ええ、何もなくてもたまに連れて顔を出すようにしますよ。二人が可愛くて仕方ないのはよく分かりますので」
「ふふふ、君とはいい関係が築けそうね」
固い握手を交わす俺とキリシュナさん。
そんなこんなで御姑さま(?)とのご挨拶は無事にすませることができたようだ。そのうち色々と着飾った二人を見ていただこう。
キリシュナさんの性格が以前のものより人情味に溢れるものに変わっております。あの頃はフツノの叔母様っていうのは後付けだったんです。なので生粋の奴隷商人っぽくしたくて淡々と職務を遂行する人になっちゃってました。




