第65話 みんなで帰ろうグラマダへ
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反応があるとやる気がでますよね♪
さて没収タイムも終わったので今度は地下に囚われている人たちを解放しようか。
地下に入ると明かりがほとんどなく空気もなんだかどんよりと淀んでいる。
ライト、ライト、ライトォォォォ!
ついでに軽いウィンドストームで空気の入れ替えだ!
先にあるであろう牢屋から「な、何だ!?」とか「ひいい」とか戸惑う声が聞こえる。あ、ごめんなさいね。
牢屋へと近づくと夫婦と思わしき二人、普人族の女性が二人、エルフの親子の合計6人が囚われていた。
「驚かせてすいません。敵じゃないんで落ち着いてもらえると助かります。どういった経緯でここに捕まったか順番に聞かせてもらっていいですか?」
「お、俺たちは借金のかたにここに捕らえられたんだ。でも、ちゃんと返していたんだよ。それが突然利子が何十倍に膨れ上がって……。そして最後にはここへ連れて来られてしまったんだ」
「私はグラマダに出稼ぎで来ていたの。割のいい仕事があるって勤め先で紹介されたらそのまま攫われてしまって……」
「ワタスも似たようなものでス。村に来ていた商人サンから斡旋してもらった職場がココだったんでスがこのままいつ売られていくのかとビクビクしていましタ」
「…………」
エルフの親子はぎゅっと唇を噛んで押し黙っている。まぁ仕方ないよな。いきなり言われたからって信じられるもんじゃないだろうし。
「グラマダへ戻るなら送っていきます。一緒に出ますか?」
俺の言葉に「やった、やったぞぉ」とか「助かるんですね」とか歓喜の声があがる。それでもやはり親子は押し黙ったままだ。とりあえず4人をみんなが待機している部屋へ移してからこの親子と話し合おうか。
「それじゃ皆さん、鉄格子から離れてください。魔法で壊しますから」
ピンポイントのフレアボムで順に壊していく。
「すいません、魔力が回復するまで待っててくださいね。他の皆さんは上で俺の仲間が休んでいますからそこで一時待機してもらいます」
先に4人を案内し移動させた後、再び地下牢へ。
「お待たせしました。国許へお返しするかどうするか決めていただきたいのでできれば話してもらえると助かるんですがどうでしょう?」
「……あなたはエルフだからと目の色を変えないんですね」
ようやっと話してくれたか。
「いや、変えてますよ。ハーフエルフには会った事ありますけれど本物のエルフ族の方に会うのは初めてなんでどきどきしてます」
「くすっ、そこまで明け透けな人も珍しい。分かりました、あなたを信用します。どの道、その好意に甘えなければ帰ることもままならない身の上ですし」
エルフの親子さんは母がディリット、娘がティノというらしい。どうやら森の奥の村からとある理由から追われるように出てきて数年。質素ながら細々と森の外で暮らしていたところあいつらが襲撃してきて捕まってしまったようだ。エルフと言えば年齢と見た目が伴なわないのがお約束ではあるが娘さんのほうはそうでもなかった。ティノちゃんはちょっと幼く見えるが10歳だという。ディリットさんが120歳というのは驚いたが!
容姿はどえりゃー美人です。エルフ耳の金髪さんで翡翠の様な深い緑色の瞳は吸い込まれそうだ。スタイルはとても整っていて子供を一人産んだとは到底思えない。ただ、うん、とある部位はエレノアさんと凄く仲良くなれそうっていうことだけは伝えておこう。ティノちゃんは母親同様の見目でとても可愛らしいね。
「どうしましょうか。エルフは喧騒が嫌いだと聞いたことがありますけれど一旦グラマダへ行きますか? 仕事を探すのであれば信用できるところに多少顔は効きますが。あ、如何わしい所はないですから安心してください」
「はい、どうかお願いします。このご恩は必ずお返ししますので」
「はは、そんな気にしないでください。俺も大切な人を助けにきたついでみたいなものなんで」
「ありがとうございます」「お兄ちゃんありがとー」
OH、流石エルフ。ニコっとする笑顔の破壊力は大きいです。さ、とにかく二人も脱出ですよ。
結局、全員グラマダへと向かうことになった。幸いにして馬車があるそうなのでこれまた拝借してとりあえずあの洞窟まで戻ろうか。今晩はそこで一泊しよう。暖かい飯を食べながら少しでも気分を変えてもらわんとね。奴隷の皆さんにも事情を確認したんだが似たような手口で強制奴隷化っぽいな。嘘つかれてたら仕方ないけどもさ。ミタマたちに知り合いの奴隷商がいるそうなので戻ったら解放の仕方を聞きにいこう。
草木も眠る丑三つ時。俺はこっそり抜け出して再び丘の屋敷に舞い戻っていた。
洞窟に着いた後、すぐさま食事の準備をした。みんなで鍋を囲みいくらかあった警戒心も薄れたようだ。特に地下牢に囚われていた人たちは久しぶりの暖かな食事に表情も緩んでいた。その後、屋敷から拝借してきた毛布などをかけて皆休む。入り口には壁を作ったので見張りをつけることなくゆっくりしているようだ。
そして皆が寝静まったころこっそりと抜け出して今に至る。
「そんじゃあ、最後の後始末といきますかね。『大地掘削』!」
ボコンと斜めに穴が開く。それを『地壁補強』で補強しながらどんどん地中を突き進んだ。
「『大地掘削』、『地壁補強』、ディグ・ダグ、ディグ・ダグ、ディグダグ……」
屋敷の地表すれすれをひたすらぐるっと掘り進む。慣れて来たようで掘り進める量も増加していった。
やがて地中に屋敷サイズの大穴ができる。次いで大穴の天井の数十箇所に『機人片塵爆雷』を仕掛けた。
これで準備は万端。
あとはあっちにも行かないとな。
翌朝、なにやら地鳴りと共に皆が目覚める。
みんな何事かと慌てるが落ち着き払って移動を勧める。きっと地震かなにかだろうと。念のため早めに出発しましょうと。
ちなみにバカボンボンが逝ったからかクレイさんを含めた5人の奴隷紋が灰色になっている。奴隷に詳しい人もいないので問題なければ構わないかと放置されているけどもね。そんなクレイさんはフツノさんとミタマにもう額から血が出るほど平謝りしていた。二人ともクレイも被害者だから気にするなと言っていたけれども彼女は責任感が強いからかすごく悔やんでいるようだ。思いつめないといいけれども。
そんなクレイさんに御者を頼んでグラマダへとひた走る。やっぱりだが俺が荷台車を引っ張る姿は微妙らしい。ティノちゃんとフツノさんが大笑いしていた。あれだけ笑ってくれるなら大丈夫かね。フツノさんたちにはグラマダに戻ったら改めて詳しく説明すると言ってある。俺の身の上話もあるし他の人には聞かせたくなかったからだ。
馬にあわせて進んだため2日後にグラマダへと到着する。事情が事情だけにこのまま検問に並ぶのもまずいかなと先に衛兵の詰め所に伺いをたてに行った。
「すいません、ちょっとお話があるんですがいいでしょうか?」
「はいはい、ちょっとお待ちを……君は確かノブサダ君でしたよね」
おや? あなたは師匠の部下の人! 良かった、話が分かる人がいたよ。えーっと確か名前が……。
「……そうそう、ユキトーさんだ!」
「名前、忘れてたんですか……」
若干しょんぼりしたように呟くユキトーさん。
すいません、がっつり忘れてました。苦労人の部下の人って心の中で呼んでたんで。
「それでですね、友人が攫われたってことで出張ってきたんですがどうやら盗賊団だったみたいなんですよ」
「さらっと流したみたいですけれども、って盗賊団!? そ、それで場所は!? 規模はどうなんですか!?」
「お、落ち着いてください。連れと協力して囚われていた人を連れて脱出してきたんですよ。それで逃げ出した後なんですがなんかその屋敷が倒壊しまして。恐らくですが中の連中はもう駄目かと。囚われていた人の中には拉致されてきた人や無理矢理奴隷にされていた人がいるようなので出来れば信用できる人に話を聞いてもらおうと思いまして」
「それでここに来たと……」
「ええ、師匠の部下の方なら信用できると話しました。どうやら色々と伝手を持った盗賊団みたいで人を選ばないといけないと思ったんですよ」
訝しげな表情を浮かべつつも思考するユキトーさん。そらそうだ、いきなりこんな事言われても信用できるか分からんだろう。
「念のためマトゥダ隊長へ確認してみます。まぁあの人のことだから『細かいことはいいんじゃよ』って言いそうですけれども。それじゃ囚われていた人の所に案内してもらえますか? 隊長にはこちらから遣いを出しておきますよ」
「お願いします。こっちの馬車で待っているので」
ユキトーさんは実にテキパキと事後処理してくれた。一応、みんなに事情聴取していたがそれも形式的なものでさらっと解放。捕まっていた中でエルフの親子を除いたものは衛兵隊のほうで保護してくれるらしい。俺のほうでも全員の面倒を見るのは不可能なのでお願いすることにした。
ディリットさんたちはどうしようかと道中頭を悩ませていたがこれは本人たちに決めてもらおう。どうやら薬草の処方とか出来るらしいので店の手伝いをしてもらってもいいし。
奴隷のほうは持ち主が死んだ場合、遺言などが無ければ拾ったというと言い方が悪いがその人に所有権が移るらしい。つまり俺ってことだ。さし当たっては今日は家にお泊り頂いて明日にでも解放の手続きをとることにしよう。あそこから資金は回収してきたので当分の生活費は渡せるしね。
その後、衛兵隊から調査団が派遣された。
ペズン村に一旦駐留したのだが不思議なことに宿屋の店主が盗賊に加担し冒険者や罪の無い人々を陥れたことを自ら訴え出たらしい。その言葉に従い丘の上にあるという屋敷に向かうとそこは瓦礫が土に埋もれ巨大な窪地になっていたと言う。調査団もさすがにこれではなんともしようがないと宿屋の店主だけひっ捕らえて帰還した。店主は幾度も罪を重ねていたことから鉱山にて強制労働が科せられるとか。
いやぁ、怖い怖い。




