第59話 助っ人さん、いらっしゃーい
気付いたら100万PV超えてました。下がり気味のやる気が幾分復活。がんばるとですよ。
追伸:過去話でご指摘あった箇所などちょびちょび加筆しますた。
「おやっさん、彼女に合う装備をお願いします。お代は気にしないでいい物を!」
店に入って開口一番にそう宣言するとぽかーんとしているおやっさんがいた。
「いやいや、いきなりどうしたノブサダ。というかまた面倒ごとに首を突っ込んだのか?」
さすが、おやっさん。俺という人間をよくわかっていらっしゃる。ええ、ずっぽし突っ込みましたとも。
ぐっとサムズアップしながらにこやかに返答しませう。
「正解です! 急ぎの用件になってしまうのでなんとかお願いします。ミタマ、渡しているお金から好きに使って。それと俺は少し席を外すので!」
ミタマを頼んで店を出た。後ろから「お、おい! まったく忙しないな。出来合いを加工するにも少し時間がかかるからな」とおやっさんが言っているのが聞こえたが気にしない!
俺は足早に目的地へ向かう。あの人ならきっと手伝ってくれるだろう。なんせあの人自身にも関係あることだと思うしな。
「というわけで助っ人お願いします」
「なにがというわけでかは分からぬが主殿には借りがあるゆえ助っ人するのは吝かではない。だが事情説明だけはしてもらえぬか?」
俺が呼びに来たのはそうご存知カグラさんである。ミタマの証言とジャミトーから聞き出した情報の中からカグラさん絡みでもあると思ったのだ。
「かくかくしかじかこういうわけで。この貴族の勘当されたバカ息子である『ブレイブ』に付き従う鬼人族がいます。ミタマの話ではカグラさんになんとなく似てなくも無いそうです。身長はカグラさんより少し大きいくらいですね。もしかしたらってことはないですか?」
「大いにあるのじゃ。流石、主殿。妾が待ち望んだ情報をくれる。仮に母上でなくとも同族がそのようなことに加担しているのであれば成敗してしかるべきじゃの」
「それじゃ準備ができたら『焔の槌』へ来て下さい。俺はこれから移動手段を確保してくるんで。それと食事のほうも俺が持ちますからいつでも戦える準備だけで大丈夫です」
「相分かった。すぐに準備にかかるのじゃ」
さすがカグラさん。とんとん拍子に話が進んでいい事です。さて俺は移動手段の確保のために騎獣ギルドへと向かいましょうかね。
この世界、乗り物となるものは多々あるようでそれらを統括しているのが騎獣ギルドというもの。馬は勿論、チョ○ボのような鳥型の魔物や走竜と呼ばれる竜型、果てはケンタウロス族まで扱っている。上半身人間だけどいいのかね? 値段もピンキリでレンタルもしているようだ。出来れば御者も雇いたいところではあるがどんな契約形態なのかは行ってみないと分からないな。一応、くまはっつぁんから信用のできるって話の担当者は聞いていたので早速あたってみようか。
「こんにちはー、騎獣と荷台車について相談があるんですがヨーシイさんいらっしゃいますか?」
騎獣ギルドの建物にはいるとむわっと獣臭っていうか色々なのが混じった臭いがする。友人が経営していた牛舎みたいな臭いだな。
離れたところからキーキーとかギャウアウとかなにかしらの鳴き声が聞こえてくる。
そんな獣舎の奥から呼ばれてきたのは初めて見る種族の方です。緑の肌に鱗をお持ちのリザード族のリザードマンですよ。魔族扱いされることもあるらしいがこの世界では獣人に含まれるらしい。
「うふぃっふー、ややや。私に用があるというのは君かね。初めましてだ。改めてご挨拶しよう。私はこの騎獣ギルドで調教師をしているヨーシイだよ。さて今日はどんな御用かな?」
おおう、思っていたよりもかなりフレンドリーなリザードマンさんですな。ガタイは2メートル近くあるから存在感半端ないけどもね。
名前:ヨーシイ 性別:男 年齢:38 種族:リザード族
クラス:調教師Lv38 状態:健康
称号:なし
【スキル】
片手剣Lv3 小型盾Lv3 調教Lv5 飼育Lv4 悪食Lv4
見たことのないスキルがあるぞ!? なになに……。
【悪食】
なんでも食べてしまえる鋼の胃を持つものが扱える。経口摂取に限り毒液や麻痺液などすら無害なものに分解してしまえるスキル。
ある意味すごいな。つまりこれ持ってようとも経口摂取以外の毒はしっかりくらうのか。食事で毒殺されないってだけでも有効っちゃ有効だね。
「クマハッツさんから紹介されてきました。実は急ぎで騎獣と荷台車が必要なんですよ。ただ御者経験がある者がいないんですが初心者でも扱える騎獣っていますか?」
ちょっとだけ困ったような(表情がそんなに変わらないので多分ではあるが)表情を浮かべる。
「うーん、随分と難しい注文だねえ。やっぱりある程度の技術がないと危険だよ。扱いに慣れていないと騎獣が暴れたり逃げ出したりすることもあるからさ」
ですよねー。そんなにうまい話はないさね。まぁそれは駄目元だったわけで本題はここからである。
「やっぱりそうですよね。それとは別に相談なんですが……」
その頃、買い物と準備を終え『焔の槌』の前でミタマとカグラがノブサダの戻りを待ちぼうけしていた。
「……カグラありがとうね」
「なに、妾にも関係あることじゃからな。それに主殿に頼まれれば否とは言わぬよ」
「……カグラはノブと大人な関係なの?」
「な、なななな、なにを言うのじゃ。……だが裸を見られた仲ではあるのぉ」
「……うにゃん」
へたりと耳がたれ顔が赤くなるミタマ。裸を見られた関係というので色々と想像してしまったようだ。カグラも言わなくていいことを言ったなと顔を赤くしている。
「それにしても主殿はどうしたのかの。移動手段の確保と言っておったが騎獣の手配でもしておるのじゃろ……か? ってなんじゃあれ??」
騎獣ギルドのある方角から黒い小柄なものに引かれた幌付の荷台車が結構な速度で走ってきた。明らかに周りを走っている馬車などと見比べると違和感がある。
「主殿。何をしているのじゃ……」
「お待たせ! さ、乗り込んじゃって」
「……なんでノブが騎獣の真似事してるの?」
そう、荷台車を引っ張ってきたのはノブサダ。荷台車は他の馬車等と見比べると一回り小さいほどだが成人男性一人で引っ張るには少々重すぎるくらいの代物である。騎獣ギルドで出来合いの荷台車をそれ単体で購入してきたのだ。
「いや、強行軍で移動しないといけないからさ。なので買ってみましたマイ荷台車。これなら二人を運ぶのにも便利だね!」
「……ノブが引っ張るのは確定なんだ」
「いや、これくらいだと力自慢の男でもそうそう速度がでないのではないのかえ? 主殿はいつのまにそんなに脚力を鍛えたのじゃ?」
「とりあえず出発しよう。さ、荷台に乗り込んじゃって」
にこやかに勧めるノブサダに根負けしたのかいそいそと乗り込む女性陣。ゆうに5,6人ほどが乗り込めるものなのでスペース的にはかなりの余裕がある。二人はこれからどうするんだと言わんばかりに取っ手を握るノブサダを見つめている。
「それじゃ行こうかね。まずは『反重力領域』発動っと」
重力魔法であるグラビトンは重力をかけて押しつぶすといった魔法だった。改変魔法で改変する際、加える要素が少ないほど容易く制御できる。グラビトンの効果を反転させるとあら不思議、重力を低減させ負荷を減らすことに成功した。これで重い荷物も楽ちんなのである。これが発動している荷台車はミタマよりも軽い。
「さらに『空気浮揚』」
これはウィンドウォールを改変した魔法で通常下から上へと吹き上げる風の壁を俺の足から下へと吹き下げる事でエアクッションっぽいのを作り出すもの。傍目からは浮遊しているように見えるのだ。これだけでは進まないので更に魔法を組み合わせて使用する。
「それじゃ出発するよ。『空気推進』」
これはウィンドストームを改変。嵐の吹き出す力を簡略化し推力としてだけ使うことを目的にした魔法である。この3つの魔法を駆使することで高機動輸送型ノブサダへと生まれ変わったのだ!!(ドヤァ)
すいません、調子にのりました。必死こいて練習していたんですよ。おかげで並列発動ってスキルまで習得できたのですわ。これがあるから魔法を組み合わせて使え一つにまとめなくていい分、制御も楽になったよ。
しかしはっきり言うとあんまり見た目がよくないんだ。取っ手を掴んで飛んでる風に見えなくもないんだがね。そこらへんさえ我慢できるならそこらの騎竜とかに負けない速度が出る。制御を考えなければ自動車並みの速度は今ですら可能だ。おっかなびっくりやっているから時速50キロほどが今のところの限界だが十分だろう。やりすぎると荷台車のほうが先に根を上げてしまうかもしれない。
スイーーーーっと荷台車を引きながら浮遊していく俺を通る人皆が『なんぞあれ?』という感じで振り返るも気にせず南門を突破する。
街中では加減していた速度をぐんぐん上げていく。ガタンガタンと酷く揺れるので『反重力領域』を少し強くして荷台車の車輪が地面に接するか否かというギリギリに浮き上げるというかもう浮かせる。さらに2つの風魔法のほうで気流を制御して揺れと抵抗を抑えた。細かい制御にも気を配らないといけないが自然と上手くなっていく気がするよ。
ちなみにフライト中の俺の頭の上にはタマちゃんが鎮座している。制御に力を入れているので周囲の警戒をお願いしてあるのだ。
ペズン村までの行程も半ばとなったところで食事を兼ねて休憩をする。突っ込みどころ満載の移動手段についてはあえてスルー。全部終わってから説明ということで。
今回の食事は常に作り置いていたものを皆に提供した。ダンジョンに入るようになってからは余裕があるときに多めに作りマジックリュックに保存するようにしている。なにがあるか分からない状況が多いこの世界に来てから身についた習慣だ。保存機能つきのマジックリュックありきだけれどもね。
俺お手製のハンバーガーをもきゅもきゅしているミタマの姿を見て武器防具を一新していたことに今更気付く。
「その防具、俺とお揃いだな。うん、似合っているよ」
急に話を振られたミタマは『んがくくっ』と某日曜長寿アニメの奥様のような声で喉に詰まらせかける。正直すまんかった。
『焔の槌』で買い求めたのは俺とお揃いの鉄蟻の防具一式。それと短弓と両刃の短剣を二振り購入している。
トレントの合成弓
品質:良 封入魔力:2/2
トレントのドロップ品である木材と鉄蟻素材、金属を張り合わせて作った合成弓。長距離の狙撃には向かないが小型の為、取り回しが良く近・中距離での運用に向いている。弦には鉄蟻の触覚を加工したものを使っており強度と柔軟性を兼ね備えている。
マウリオの短剣 ×2
品質:良 封入魔力:4/4
マウリオ印の両刃の短剣。材質は鋼。無骨な見た目に反して軽めで両手に持って使うのにも適している。
鉄蟻の防具一式(胸当て、手甲、脚絆)
品質:良 封入魔力:3/3
アイアンアントの甲殻を加工して作った防具一式。加工技術が上達しており初期型のものよりも軽く丈夫になっている。
おやっさん、腕が上がっておりますな。
「結構な業物だな。ああそうそう、これは俺からのプレゼントだからそのまま納めてくれな」
「……いや、でも、手助けしてもらう上にこんな……」
「いいからいいから。折角、ミタマ用に拵えたんだから使ってくれ」
まだなにか言いたそうなミタマへ有無を言わさず押し付けた。
ここでこんな話を振ったのにもわけがある。ミタマが思いつめすぎないように息を抜くためだ。気負いすぎれば思わぬ失敗をしかねないからね。この間嫌というほど思い知ったものな。どんな時でも心に少しでも余裕を持つようにしたほうがいいと。思いつめてもろくな事にならない。




