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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第四章 狐猫騒乱
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第56話 騒乱の始まり


 日は高く夜の帳はまだまだ先の時刻。そんなグラマダの歓楽街の一角でせっせと幌馬車から荷を降ろす二人の姉妹がいた。

 やがて荷を降ろし終わると二人は汗を拭き取り倉庫にて検品をしていた女性に話しかける。


「姐やん、荷運び終わったで」


「はいはい、フツノちゃん、ミタマちゃん、ヘルプありがとうね」


「……キリシュナ姐さんにはいつもお世話になっているからこれくらいならいつでも……」


 キリシュナと呼ばれた女性、年の頃は30代と思われるその人はなんともいい笑顔で二人に微笑んだ。体のラインを浮きだたせる大胆な黒いスーツのような服を身に纏い臀部にはふりふりと狐の尻尾が3本揺れている。


「ふふふ、ミタマちゃんはいい子ねえ。きっと良妻賢母になるわね」


「ミタマだけなん? 姐やん、うちは??」


「うふふ、フツノちゃんはお姉さんぶって男の人に素直になれないからまだまだかしら」


「……正解。姉さんは大体余所行き用の猫を被ってるもの。素直になれそうな男の人ってそんなに思い浮かばない」


 くすくすと二人がフツノを見て微笑んだ。なんともバツが悪そうに膨れるフツノ。


「なんやの二人して! うちかてその気になればなんもぼでもモテるんよ!?」


「あらあら、そういうところを言っているのよ?」


「……うん、さすが姉さん、ぶれないね」


「ううう、二人とも酷いわぁ」


 そんなフツノを見て今度は声をあげて笑ってしまう二人。そんな二人に対して口を尖らせるフツノ。喧騒溢れる歓楽街においてそこだけ切り抜けばなんとも微笑ましいものである。



 もう、なんやのん、姐やんもミタマも。うちってそんなに男の子に免疫ないと思われてるん?

 ……あかん、否定できる要素が見あたらへん。たしかに気を許せるのは数えるほどしかおれへんかもしれん。

 しゃあないやん、村を出る羽目になった理由が理由やし。むぐぐ、いつか素敵な旦那を掴んで二人をぎゃふんと言わせちゃる。

 キリシュナの姐やんはこの奴隷商館『獣人演義』の女店主や。この『獣人演義』、色々と名のある有名店だったりする。扱う奴隷は普人族を除く種族のみ。客が奴隷を選ぶのではなく店主から客へオススメする奴隷以外は売らない。なんやのその殿様商売と思ったりするかもしれへんけども実際それで上手くいっているから姐やんの手腕が見事なんやね。昔、同じようなことをライバル店がやったらしいけれどもすぐににっちもさっちもいかなくなったって聞くわ。

 姐やんはその眼力で相手をきちんと見定め適した奴隷を宛がう。奴隷もしっかりと教育されているし姐やんを慕っているし信じていて紹介された主人へ懸命に尽くすんや。せやから客を選ぶということを差し引いても評判はほんまもんでこの街では有数の良店なんやで。

 そんな姐やんは店にいるときはクールビューティーと言っていいうちの目標みたいな感じやね。でも裏に回れば母親のような包容力を持ってはる。うちらがこの街に流れ着いた大元の理由はうちのおかんの遠縁という姐やんを頼ってきたからや。ほんまその節はお世話になりました。







 そんな三人を物陰から遠巻きに見つめる影があった。


 くくく、ははははは。見つけた、やっと見つけたよ。ふふふふ、あはははははは。


 なんとも醜悪な笑顔を浮かべるソレはそのまますーっと影の中へ消えていった。






 ◇◇◇




 引越しをしてから早くも一週間が経過した。

 俺からすれば怒涛の一週間だったわけだが……。師匠やエレノアさんとの特訓、終わったら魔法の開発及び運用実験。さらにそこから帰れば薬品作成と隙の無い生活を送っていた。ふう、いつになった自堕落な隠居生活が送れるようになるもんだろうか。


 そういえばあれからこっそりとジャミトーから拝借した戦利品も整理した。金貨と銀貨、合わせて1000万マニーほど、つまりは約一億円相当である。小市民な俺には震えがくる金額だよ。宝石類は金額的なものはまったく分からない。量的にはごく一般的な小さいコンテナが一杯になるくらいの量がある。

 魔道具だが識別先生のご活躍によりこんな感じだと分かった。


 水霊の指輪

 品質:優 封入魔力:10/15

 魔力を込めることによりLv2までの水魔法を使うことができるようになる指輪。ただし、慣れていないものが使っても制御が困難である。使い捨てではなく魔力を補充すれば何度も使用可能。



 癒しのイヤリング

 品質:良 封入魔力:5/10

 ヒールの魔法が込められた魔道具の装飾品。装着者がイヤリングを掴み望めばヒールが発動する。ただし装着者にしかヒールの効果がでないので注意。



 水蜘蛛

 品質:良 封入魔力:9/9

 靴の上から装着できる東方由来の魔道具。水の上をすいすいと歩けるようになる。沼や泥の上でも使用可能。



 麗しの偽髪

 品質:良 封入魔力:8/8

 頭部へと装着する魔道具。装着後、望みの姿を思い描くことにより発動する。アフロからモヒカンまであらゆるニーズに対応可能。つるっとした人垂涎の逸品である。



 身代わりの腕輪×4

 品質:高品質 封入魔力:1/1

 装着者が死に至るようなダメージを一度だけ肩代わりしてくれる腕輪。発動後、効力を失い自壊する。



 この他にマジックリュックが数点と魂石がいくつかある。まだ試したことはないが魔道具作成に魂石を用いるらしい。これらは出所を疑われそうなのもあり宝石と一緒に保管してある。実はセフィさん宅の地下深くにこっそりと魔法で石室を作ってみたりしたのだ。かなり深いので魔法でもなければ手を出すことは不可能だろう。魔法にしても分厚く作り上げ俺の魔力で補強した石室をそうそう壊せないはずである。

 そのうちダンジョンで見つけた事にして小出しにしていこう。



 そういえばジャミトーの一件で気になったことがありセフィさんに質問してみた。


「セフィさん、奴隷の首輪って知ってる?」


「ええ、知っているわぁ。えっ!? ノブちゃんそんなの私に着けたいの? いやん、ノブちゃんが求めるならいつでもいいわよぉ」


 違います。暴走せんといてくださいな。

 聞いてみれば奴隷の首輪は現在禁制品となっている。これさえあれば一般人でも使い方を知っていれば奴隷を生み出せることになるかららしい。奴隷商人の間では奴隷紋を使用しているとの事だ。

 俺が聞きたかったのはこの首輪に対する対抗策はあるのかということだった。セフィさんによればそれはあるという。

 まずは自身の呪いに対する耐性があること。カグラさんたち鬼人族みたいなことだな。だがこれは先天性的な面が強いのでとりあえずは放置だ。

 次は魔力で障壁をはり抵抗している間に首輪をなんとかするもの。たとえ首輪を発動されても使用者との間に圧倒的な魔力量の差があれば力業で打ち破ることも不可能ではないらしい。その必要量は定かではないってことだが。

 最後に首輪の奴隷契約より上位の契約を結べば無効化できるらしい。無論、これもあとからかける契約主の魔力次第ってことみたいだけどもね。

 前回のでもし捕まってセフィさんが奴隷化されたらと思うとぞっとする。いつ何時また同じ目にあわないとも限らないし対抗手段としての魔力量確保も今後の課題にしておこう。どれくらい要求されるかも分からないしあって困るものでもないしな。レベル上げの必要性がまた増したわけだ。




 タマちゃんが新たに獲得した能力【薬効成分配合】で新商品を作る計画だが完成にはいまだ至らず進行中である。とりあえず試作品ができたところだ。


 タマ汁(仮)

 品質:高品質 封入魔力:30/30

 滋養強壮効果のあるマリモを漬け込んだ原液。濃すぎる為、養分の大量摂取に注意が必要。


 やりすぎた感は否めないところだがこいつを薄めて味を付けてやればいいとは思う。それに適した比率や味付けなんかは今後の課題だな。ちなみに作り方は以下のようになる。


 ノブサダの3時間錬金術~♪

 1:大きな器(直径1メートルくらいのサイズを使用)と濃い魔力水、タマちゃんを準備します。

 2:器に魔力水をひたひたになるまで注ぎます。

 3:タマちゃんに魔力水へダイブしてもらいます。

 4:そのまま3時間ほどゆったりしてもらいましょう。

 5:タマちゃんをすくって出来上がりです。


 ええ、錬金術関係ないです。タマちゃん様様ですな。とりあえず小分けにして保存しこれから試作を繰り返そう。師匠や衛兵隊の人たちに実験台、もといモニターになってもらうとしようか。



 そんな事を思案しているとドンドンドンと玄関の扉を叩く音がする。


 セフィさんと顔を見合わせて来訪者の予定はあったかなと首をかしげる。叩く音がなにやら急ぎなのか激しいものになりこちつはやばいと玄関へと急いだ。


 扉を開けるとそこには傷つき倒れそうなミタマがいる。俺の顔を見た瞬間、倒れこむようにすがり付いてきた。


「……ノブ、お願い。姉さんを助けて。もうノブしか頼れる人がいないの……」


 そう告げたあと彼女はふっと気を失ってしまった。

 一体何があったのか? 倒れたミタマを客間のベッドへ寝かしつけ傷を魔法で癒しながら今後どうしたものかと思案するのであった。

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