閑話その5 ノブサダ開発日誌
※時間軸的にはギアンにふるぼっこされた後から。
・エターニアに降り立って○日目
起き上がれない体をベッドにて休ませていると……ものすごく暇である。
ならばと魔法の練習でもしようと思い至る。とはいえ部屋の中で火やら土やら使うわけにもいかない。風と水をメインにしようか。魔法改変なんてスキルもあることだしイメージをしながら発動させてみることから始めよう。
まずは威力を弱めそよ風を再現。これはウィンドアローからの改変で容易く再現できた。
弱める分には簡単らしい。
それでは逆に強めると?
風の矢をその場に留め圧縮や回転を加えてみようとする。
パシュン
イメージが漠然としていた為か掻き消えるように風の矢(仮)は消滅してしまった。
んー、結構難しいな。
ムキになりつつ何度も何度も試す。あれ? なんかふらふらとしてき……た。
意外と魔力を使うらしく夢中になりすぎた俺の意識はそこで途絶えた。
・エターニアに降り立って●日目
先日、現在保有するスキルにはウェポンスキルを使う適性がないと判明した。
正直、ショックではあった。だが、師匠がないなら創ればいいとあっけらかんと言い放ったことで気持ちを切り替えることが出来た。
ならばと気合を入れて魔法を組み込んだ技の開発に勤しむ。師匠も横で興味深げに眺めている。
いまだ武器の先まで魔力を通すには時間がかかるため拳を用いた技にすることにした。
まずは魔法を腕に纏うことから始める。今回試したいものは昔見たアニメのお陰でかなりイメージが固まっているので楽といえば楽かもしれない。ま、成功したらの話だが。
試行錯誤しているのだが中々難しかった。アースウォールを元とし瞬間的に腕を中心に土を纏うことには成功した。だがその次の段階、目標となる鉄を纏うことは何度試してもできなかった。妥協点として土を濃縮凝固することで岩を形成することには成功できた。
岩を形成することができたなら次の段階だと木人へと向き直る。
ボクシングのスマッシュの要領で木人を抉るように打つ。そして魔法を組み込むタイミングを実際に当て嵌めていった。途中途中で師匠によるアドバイスを受けながら試行錯誤を繰り返す。
それはそれは二人とも夢中になってしまった。師匠の部下の人が迎えに来るまで時間を忘れてやってたよ。
・エターニアに降り立って△日目
ダンジョンから帰ってきて早速反省会をする。
一人だけだけどな!
ロックハンドスマッシュは大体八割方は完成したと思う。明日の訓練で師匠に報告してみよう。
岩のバリエーションを増やそう。トゲ、ドリル、パイルバンカーと開発の幅は広がるはずだ。
『こんな事もあろうかと!』っていうのはこうやって弛まぬ開発があってこそだよね。ああいうのは是非見習うべきだと思うんだ。
・エターニアに降り立って▲日目
今、俺は師匠の前に対峙している。おかしい、どうしてこうなった。
事の始まりは先ほど木人に対してロックハンドスマッシュを試し打ちしたことから。先日のDマヨイタケ同様木人は粉々になっていた。
それを見た師匠が『ふむ、中々の威力のようだ。ならば儂に向かって撃ってみよ』と言い出したのだ。
どうしてそこで『ならば』となるのか。そんな疑問を口に出すことを躊躇うほど師匠の顔はいい笑顔をしていた。あー、本当に楽しそうですね。でも木人を粉々にするくらいだし大丈夫かな……師匠だし心配するのもおこがましいか……。
意を決して魔力を練り上げ始める。
「行きます! ロックハンドスマァァァッシュ!!」
実際に使うように素早く潜りこみつつ師匠の脇腹を目掛けて撃ち放つ。今回はドリルタイプを使用。
形成された岩のドリルが唸りをあげて回転し師匠の腹へと突き立った。
と思いきや何かに阻まれている!?
ギイイイイインと何かを削る音がしつつもドリルの尖端が皮膚まで到達することはなかった。よく見れば師匠の体はうっすらと黄金色の膜に覆われているのが分かる。俺が使う魔力纏とは違う。これが師匠のスキル欄にあった闘気ってやつか?
大事無いのは良かったのだが傷一つつけられないのも釈然としないという微妙な思いをすることになった日だった。
・エターニアに降り立って凹~凸日目
ロックハンドスマッシュの方は大体OKだろう。ということで今度は範囲魔法の開発に勤しむ。流石にこれは外で試すわけにもいかないのでダンジョンの内部で試し撃ちをしよう。
イメージと魔法名を重ね合わせ前方に向かって撃ち放つ。いくつか考えていたものを試すがどれもこれも発動はするものの予想していた威力が出なかったり魔力の消費量が多すぎたり発動が遅すぎたり制御が覚束なかったりと散々たる有様になった。
特に氷雪系が酷い。小部屋の中央部にいるポーンドッグを中心に直径二メートルほどを範囲指定したにも関わらず小部屋全体が真っ白な銀世界になってしまった。
ソロならまだしもパーティ戦ならば致命的な欠陥だな。発動もあるし繰り返し練習するしかないだろう。……あ!? それとなくセフィさんに質問してみようか。ちょっとしたアドバイスをくれるかもしれない。
憂さ晴らしに貫通系の技を試してみたら思いのほか上手くいったので自分の事ながら驚いた。元のイメージが固まっているからだろうか。惜しむらくは出力の関係上丈夫な得物じゃないと駄目なことだろうか。木刀は砕け散り鉄の棒はへしゃげた。鉄の槍も複数回は怪しいところだろう。おやっさんのところに手ごろなものないもんかね?
・エターニアに降り立って□日目
昨日、試作改良を施した範囲魔法『鳴門海峡渦景色』と『雷様電撃大行進』を使った。
共に洞窟内部にて周囲をそれほど気にしなくていい状況下での運用。威力的には合格点だと思う。だがやはり制御がまだまだである。だがセフィさんのアドバイスにより詠唱をつけたことによりだいぶ制御しやすくなったのはかなりの前進であろう。魔力消費も抑えられるし恥ずかしいことを除けばさし当たっての問題はない。
今度の実験は対人戦を想定し無力化を目指す魔法だ。それも多数相手に使うもの。こう、電撃でばりばりっと麻痺させるのが定番だろうか?
大地に干渉し股間を狙う不意打ち用の魔法、地表スレスレを稲妻が這いより麻痺に持っていく魔法などイメージしたものをまほうへと昇華させていく。使うときがこないほうがいいんだけどもさ。
・エターニアに降り立って■日目
対人戦相手の魔法を開発すると言ったな! だがそれは……ウソだ! というか嘘だと思いたい、暗黒魔法でスリープミストを習得することでとほほな事になっている。もっと早く、もっと早く覚えたかった。この間の無力化計画はなんだったのだろうか。まぁ今回、相手の男冒険者連中には手痛い一撃をお見舞いしてやれたので無駄ではなかったと思いたい。
今度は機動力の増加を試そう。身体的なものと外付けのものを並行して。
今回の件で思い知ったがこれがあれば少なくとも大勢相手から逃げ出しやすくなるし翻弄もできるからだ。もう同じ失敗はこりごりである。
とは言っても身体的なものに関してはそれらしい魔法は習得していないので瞬間的に回復できるようなもの(特に状態異常から)や魔力纏を含めた防御能力の向上を目指すことから手をつけよう。外付けの機動力アップだがやはりホバークラフトのようなもので取り回しが比較的簡単なものとバーニアのように一気に加速減速ができるものに分けられるか。転移魔法などはまだまだ習得できていないので時空間魔法のレベル上げも急務の一つである。が、それは日常的に使っていくことにしよう。
とりあえず最初はホバークラフトタイプを試すか。風魔法を足元を中心に展開……っておおおおおおお!?
バシュウウウウウウウウ……ボテッ
痛てててて。防御用の魔法を重ね掛けしておいて良かった。
これ難しいね。黒○げ危機一髪みたいにすぽーーーんと飛び上がってしまったよ。元にした魔法がウィンドストームだったのが拙かったのだろう。とりあえずはウィンドウォールを元に慣れる事から始めようと思った。怪我の功名か分からんけれどもバーニアタイプに使うならウィンドストームが適していそうなのは分かったので良しとしよう。そして開発時には常に魔力纏だけじゃなくストーンスキンなども併用しないと駄目だな。いつ吹っ飛ぶか分かったもんじゃない。
兎にも角にもいつか出来ると信じて修練あるのみだ!




