第5話 ノブサダ大地に立つ
小屋の整頓を済ませた俺は早速、小屋の外へと出る。
リュックを背負い鉄の剣を抜刀したまま周囲の探索を開始する。手に触れると不味いのもあるかもしれないから小屋にあったボロきれなどを念のためにリュックへ詰め込んでおいた。これでなにかあっても回収してこれる。
とりあえず片っ端から目に付くものを鑑定していこう。
ヒラ草
ポーションの材料。そのまま齧ってもある程度の治癒効果は期待できる。だが、苦い。
ゲド草
キュアポーションの材料。そのまま患部に貼り付けたり齧ることである程度の解毒効果は期待できる。だが、すごく苦い。
いちいち味についての評価がでるのは俺の家事スキルのせいなんだろうか?いや、いざ口に含んで
いきなり吐き出したりするよかいいんだけどさ。
何があるか分からないので念のためこういった草は小屋で拝借したボロきれで根っこを包みつつ纏めてリュックへ放り込む。町かどっかで売れるかもしれないし作り方さえわかれば自分でポーション補給できるだろうしね。こういったアンテナは手広く広げておきたい。何が功を奏するかわからないもんな。
「お、これは……あけび……なのか?」
実だけの部分をピックアップしてみればあけびに見えるのだがあきらかに地球のと比べておかしな果実を見つけた。思わず首を傾げてしまう。
あけび四十八
ほんのり甘い果実だがちょっとタネが多くて食べづらい。常に48個の果実が房になっている変異体。旬が過ぎた果実は順に房から卒業していく。落ちた果実から芽が出るかはその実次第。
ノーコメントでお願いします。とりあえず全部の果実をもぎ取らせていただきますよ。南無。
その他にもバナナやミカン、果てはマンゴーまであった。一体この森の生態系はどうなってるんだろうと疑ってしまうが助かっているから気にしないことにしよう。
よく考えたら地球の食べ物が普通にあるのだがこの世界はなにかしら地球と関係があるんだろうか。もしかしたら俺とグネみたいな関係なのかもしれないな。そんな事を思いながらせっせと果実や薬草の採集に勤しむ。根が貧乏症なもので……。
「ん?」
気のせいだろうか? なにかがいたような気がしたんだが……。
「気のせいか」
再び屈んで薬草を採取しようとしたときだった。
ドズンと背後から何かがぶつかってきた。
「ひょわあああ」
いきなりのことに思わず変な声をあげながら前転で一回転してしまう。危ない、あやうく剣で自分を突き刺すところだったじゃないか。
振り向いてぶつかってきたものを視認する。
そこには緑色の球体(?)がぽーんぽーんと跳ねていた。
息を落ち使えながらその球体を鑑定する。
マリモ Lv1
HP:4/4 MP:0/0
森に生息する魔物。生態などは不明。
ま、まりも!? 北海道のアレか? なんで魔物なんだ? 初めての魔物って大体スライムとかゴブリンじゃないのか? マリモ……北海道土産のあれはおばちゃんの手作りで実は年商一億とかいってるとか。正直アレを見てから土産物屋でマリモに対する印象が変わった。勿論、買わないけれど。
いや、まてあれは敵だ。少なくともおばちゃん製のまがい物ではない。
声も発することなくスーパーボールのように飛び跳ねてこちらへと体当たりしてくるマリモ。
結構な速度のそれをギリギリでかわすと後ろの木の幹にぶつかって跳ね返ってくる。
バツンという鈍い音に反応し慌てて身を屈めてそれもかわす。
そしてバツンバツンとマリモは跳ね返りながら飛び跳ねている。徐々にだが速度が上がっているか?
これにタイミング合わせて切り込め? 無理無理、素人の剣でこれにあてるのは無理だと言う自信だけしかない。
苦し紛れに当てってくれないかと剣を拝むように刃を屈んだ眼前に据え付けぐっと柄を握り締める。はやく疲れて攻撃がやんでくれないものだろうか……。あれ? マリモって疲れるのか?
バツンバツン、バツンバツン、スパン
スパン? ひらひらと真っ二つになったマリモが地面へと落ちていく。落ちたマリモは光の粒子となって霧散した。
「おー、いいのかな。こんなタナボタな勝ち方で……」
てれれてってって~♪ ノブサダのレベルがあがりました。
ファンファーレとともに脳内にアナウンスが流れる。どこから聞こえてきたコレ!? 女性の声のように聞こえた。
ゲームではよくあることだが実際にわが身に起きてみると結構なホラーだな、これ。
とりあえず自分ではどうしようもないのだから上がったステータスでも確認してみるとしよう。
名前:ノブサダ・イズミ 性別:男 種族:???
クラス:異世界人Lv2
称号:未設定
HP:16/18 MP:8/8
【スキル】
エターニア共通語 異魂伝心Lv1 魔法改変 家事Lv5 農業Lv3 剣術Lv1 偽装Lv2
【固有スキル】
識別の魔眼Lv1
おお! 確かに上がっている。なんだろう、1あがっただけなのになんか嬉しいな。
ふと思ったのだがあのファンファーレって成長と才能の女神レベリットが鳴らしてるのかね? 成長を司るだけに。
マリモと遭遇したことでこの森に襲ってくる魔物が確実にいることが判明したため、一度小屋へ戻ることにした。正直、痛みに弱い現代のもやしっこなので小屋の周りである程度戦闘慣れしたほうがいいと感じたからだ。
小屋で休み鑑定でHPが回復したことを確認した俺は小屋からできるだけ離れずに獲物を探す。できればおそらく最弱と予想されるマリモがいい。某国民的RPGでもスライムやゴブリンだけで10まで上げてから初期マップを攻略していたのは幼き日の思い出だ。
探すこと5分草むらの中に鎮座するマリモを見つける。その数3匹。
3匹か……一撃で一匹仕留められたらあとの二匹くらいなら落ち着いていけばいけそうだが。とはいえ気づかれずに近づけるものか? 脳内でシミュレートするもなかなか考えがまとまらない。
ふと足元を見やると手ごろな大きさの石があった。これ投げつけたら気を逸らせられないもんかね?
駄目もとで試してみるか。距離があれば逃げ出すこともできそうだし。やばくなったら小屋へ逃げ込もう。
前向きかつ後ろ向きな考えをまとめて行動に起こす。気づかれないように力いっぱい手前のマリモに石を投げつけた。
ズビシュ!
石はマリモの一体にクリーンヒットしてめり込んだ。そのまま動かないマリモ。
てってれ~♪ スキル【投擲】Lv1を習得しました。
脳内アナウンスが流れるもそんなの気にしている暇はない。めり込んだマリモは動いてこないが残りの二匹がこちらへ向かってくる。リンクしてくるタイプかこいつら。
次いでリュックから取り出したナイフをもう一体のマリモへ投げつける。お、さっきよりなんだかうまいこと投げられている気がする。
サクッ!
ナイフはマリモに刺さっている。死んではいないようだがバランスが悪いのか飛び上がれずに転がる刺さったマリモ。
予め地面に刺しておいた鉄の剣を手に持ち最後の一体に切りかかる。
スパン!
上段から振り下ろした鉄の剣は抵抗がなかったようにあっさりとマリモを真っ二つにした。
明らかに最初の戦闘よりも体の動きが軽い。スキルやレベルの影響が顕著にでる世界のようだ。
「おっといけない。残りのマリモも止めをさしておかないと」
きっちり止めを刺さないといつかヤられるのは自分だからな。転がっているマリモを斬りつけてしっかり〆ておく。
てれれてってって~♪ ノブサダのレベルがあがりました。
レベルの女神様、お仕事してくれるのはありがたいのだが緊張感が薄れるなぁ。
まぁ贅沢はいうまい。早速、鑑定してみよう。
名前:ノブサダ・イズミ 性別:男 種族:???
クラス:異世界人Lv4
称号:未設定
HP:28/28 MP:32/32
【スキル】
エターニア共通語 異魂伝心Lv1 魔法改変Lv1 家事Lv5 農業Lv3 剣術Lv1 投擲Lv1(New!) 偽装Lv2
【固有スキル】
識別の魔眼Lv1
さっきのは投擲か。地味に便利そうだ。
えーっと、MPの伸びおかしくないか?
倍々になっているな……。ま、まぁ今のところは気にしないでおこう。魔法も使えないし。うまいこと魔力を武器や体に纏わせるとかできんものかね。使い道としては定番だよな、アレ。
ものは試しだ。魔力魔力……むーー、あ、なんか丹田の辺りがほっこりしてきたようなきがしないでもない。
てってれ~♪ スキル【魔力纏】Lv1を習得しました。
えっ!? ちょっと出来ないかと試した程度だぞ? どれだけ魔力に親和性が高いんだろう、この肉体。
よく見ると体全体をうっすらと見えるなにかが覆っているような気がする。これが魔力なのか? 武器には……まだ通せそうにないようだ。
この状態で殴ったらパンチの威力もあがるのかな? よくあるマンガなら殴った瞬間ドーンと木がへし折れたりするんだろうけども。
ゴン!
「あたたたたたた」
手首を傷めました。
その後、マリモと幾度か戦闘した結果、魔力纏とは現時点では多少防御力があがる程度。その維持には地味にMPを使うようだということがわかった。マリモの突進くらいならそこまで痛くなくなったからね。レベルも5にあがったしな。
とりあえずあとは食べれる野草などを集めて一旦戻りますか。