第54話 後始末はしっかりと 前編
駆け足で『ひきこもりのラミア』へ急ぐ。
店の場所へ着いて俺は唖然とする。
なんとそこは……更地になっていた!? え? どゆこと!!??
たった2日だけだよ? 昨日の帰りしなは暗かったし急いでいたので寄らなかったけれども変わりすぎじゃないか?
誰か事情を知っている人はいないもんだろうか……。
途方にくれていると裏の大きな屋敷のほうからお声がかかった。
「ノブちゃ~ん、こっち、こっちよぉ」
それは手招きするセフィさんだった。
こんな大きいお宅の中から普通に声かけてますがそこ勝手に入っちゃってていいの? そんな疑問を抱きつつもセフィさんの下へ駆け寄る。
裏の屋敷は師匠の自宅よりも広く貴族の家といわれても十分に納得できる立派な造りをしている。そんな屋敷にセフィさん普通に入っちゃっているんだがご近所付き合いがあるんだろうか?
俺も屋敷の中に招かれはいるも他に住人がいるように思えない。応接間にはセフィさんが一人だけだもの。
「んもう、ノブちゃんたら私の話を聞かずに走って行っちゃうんだから。あれからこっちでも色々あったのよぅ。昨日なんか衛兵の皆さんから詰問攻めにあったりしたんだからぁ」
「ええ!?」
「あの人の話は聞いたかしらぁ? ジャミトー氏のお屋敷が爆発したらしくて最後に関わっていた私たちにも事情を聞きに来たのよぉ。ノブちゃんのことは薬草をとりに北の森に行くって言ってたし北門を出た証言もあるからそこまで突っ込みは受けなかったんだけれどもぉ。でもお師匠さんが後で来るようにって言ってたわよぉ?」
はぐあ、師匠からの呼び出しですか。ちょっと……いやかなり怖い。ばれちゃいないだろうな。
それにしても肝心なことを聞いていなかった。
「セフィさん、店が更地になっているんですが一体なにがあったんですか? それにこのお屋敷は?」
「思い入れのあった店だったんだけれどもぉ。元々あった店を改装したから色々と古くなっていたの。この際だからと建てかえることにしちゃった♪」
いや、しちゃったってあなた。そんな簡単に……。
「この屋敷は私の自宅なのぉ。飲み友達だった貴族のご隠居さんがね。遺言で私に譲渡してくれたものなのよぉ。よく二人で朝まで飲み比べていたのよねぇ」
酒豪仲間ですか。てっきりいやんばかんな関係かとちょっとした想像したのは内緒だ。
話を聞けばとある貴族のご隠居が奥様が亡くなったのを期にひっそりと最後を送ろうと購入したのがこの屋敷。だが、お隣のセフィさんと知り合い、自分と同レベルの酒豪を得たことからひっそりどころか満足げな顔をしてにこやかに亡くなったらしい。最後まで酒瓶を抱えたまま。
ないわー、酔っ払い怖いわー。信じられない話だがそんな飲み仲間にさらっと屋敷を譲渡する豪快さはものすごいな。条件としてワイナリーというか酒を集めた倉庫があるんだがそれの管理を頼むと頼まれたらしい。管理というか最後まで美味しく飲めってことだとセフィさんは言ってるけどもさ。まぁそのご隠居さんからすれば腐らせたり売り払ったりされるよりかはいい事なんだろうな。
で、店のほうだけれども使えそうな家具や備品はこちらの屋敷へと引き上げ建築ギルドから派遣された作業員が魔法を使った解体作業であっさり更地にしたらしい。そんなところまで魔法か。だがその魔法に興味があります。建築中にはぜひ見学させてもらいましょう。
店に出していた商品のほとんどは焼けてしまいかなりの損失ではあるが生産用の機材や素材は無事だったのでこちらの屋敷で生産は可能だ。
「ノブちゃんも資金を出してくれたからこれで完全に共同経営者よねぇ。それでね、お願いがあるんだけれどもぉ……ノブちゃんさえ良ければこのお屋敷に住んで欲しいの」
なんですと!?
「ほら今回の件で色々とあったでしょう? 女の独り身はなにかと物騒かなーって思いなおしたのよねぇ。それに期限間近の納品依頼もあったりするしぃ」
後半が本音ですね、分かります。でも今回迷惑かけ通しだったし償いはしないといけない。強硬手段をとっていたジャミトーがいなくなったからとはいえ報復がこないとも限らないしな。もし来たら生まれたのが嫌になるほどの目にあわせてやろうと思うけども。
なのでこの話を受けることにした。タマちゃん製品も試してみたいからね。セフィさんとなら商品になるか検討しながら作れるだろう。
とりあえず宿の引き上げ等をしてくるとセフィさんに言い残し屋敷を出る。まずは呼び出しをいただいた師匠宅へ。たぶん、早朝だからいるだろう。ふう、気が重い。
勝手知ったる他人の家。入り口をするっと素通りして朝の鍛錬をしているであろう庭のほうへと向かう。
近づくほどヒュンヒュンブオンとおおよそ人の拳ではでないだろうという風切り音が聞こえてくる。
キリがよさそうなところを見計らって声をかけよう。
「おはようございます。お呼びと聞いて参上しました」
「おお、よく来たな。わざわざ来てもらったのはお前に謝らねばならんことがあってな。一度出向いたんじゃがおらんくてのぉ」
「それは失礼しました」
「お前から頼まれていたあの件だが横槍が入ってな。衛兵隊ばかりか儂も思うように動けなんだ。すまんのぉ」
「いえ、セフィさんも無事でしたしいつのまにか収束していましたし終わりよければ全てよしということで」
「そうじゃな。事故で首謀者が爆死したとしても衛兵隊は動けないから調べようがないものな。いやいや、事故とは怖いもんじゃ」
そう言うとニカっと笑う師匠。ああ、こりゃみんなお見通しな気がする。それでも何も触れないのは俺への気遣いか横槍への意趣返しかってとこか。なんにせよ、師匠もなかなかワルですな。
「実力はついてきたが結構甘いところに不安もあった。だが今回のことで幾分ましになったようじゃな。何をしてきたかは追求せんが無事で何よりじゃ」
「ええ、どれだけ甘かったかを思い知らされました」
「ノブサダさんから色々と頼まれたときは自分の耳を疑いましたがまさかこんな事になるとは……。セフィロトさんのお店も焼けてしまったとか。大丈夫だったのですか?」
「はい、幸い本人は軽い火傷ですんだようです。それも今は治りました。お店のほうは建て直しですね。それと物騒なので少なくともしばらくは自宅のほうに俺も詰めようと思います」
「え!?」
「え? いや、何かしらあると困りますし在庫のポーションも駄目になったらしくて衛兵隊などに納めるものの作成を手伝うことになったんですよ」
「そ、そうだったんですか」
さっきから百面相みたいになってますよ、エレノアさん。
そして師匠もニヤニヤしない!
「そう言えばダンジョン内部で結構な数の冒険者に襲われたんですけども冒険者ギルドに訴え出れば対応してもらえますかね?」
「……真に申し上げにくいのですがあの冒険者たちの依頼には犯罪を犯したものの確保といった内容で受理されていましてギルドのほうからの罰則も強行にはできないんです。勿論、ノブサダさんが罪人扱いにされていたのはまったくのデマだということで現在は大丈夫です。これを依頼していたジャミトー氏がああいうことになってしまったので恐らくですが迷宮入りになると思います」
ダンジョンだけに? 犯人消しちゃったから仕方ないし結果的にヤっちゃったのも俺だしな。ま、しゃーないね。名前とか全員覚えているからセフィさんに相談してうちの商品販売不可にしてやろう。
「それでも今回のことはギルド長直々に問題だと大きく取り上げられ実行犯に加わった面々には評価の低下などのペナルティは科せられます。これは内密でお願いします」
「ぶっちゃけた話だが儂がギルド長を突っついた。危うく弟子を壊されるところじゃったからな。たとえ友人であろうとそこらへんのけじめはつけてもらわんとな」
おおう、ギルド長と師匠は友人なんですか。
んー、あのギルド内部の不正の証拠を使うときには師匠経由でギルド長に直接届けてもらえば一番安全かもしれない。今はまだ秘匿しておこうか。俺らに都合がいいときを狙って使おう。
それから二人には心から感謝を述べ明日の朝からまた随時訪れることを伝えて師匠宅をあとにした。
あとはソロモン亭か。たしか明日で支払っていた分が切れるから丁度いいっちゃいいか。
ソロモン亭に着くと朝食も終わっており片付けに勤しむ皆さんがいる。随分と久しぶりに来た気がするな。
幼女組にタマちゃんを預けドヌールさんに宿を出る挨拶をする。
そうか、寂しくなるなと別れを惜しんでくれるドヌールさん。幼女組も行かないでと懇願する、主にタマちゃんにだが……。ヒエラルキーはいまだ変わらず! むしろぷにんぷにんにバージョンアップしたタマちゃん人気は衰えを知らない。か、悲しくなんてないんだからね。
心にダメージを負いつつも部屋を片付けてから出てきた。ほとんどの荷物は持って歩いているんだけどもね。
余り物だが餞別にと朝食を貰った。うん、美味い。同じ街の中だしまた食べに寄る事を約束して宿をたった。
かれこれ二ヶ月ほどお世話になりました。




