第53話 天誅完遂!
なますて! ことぶきです。
スランプ宣言からこっち、書いては書き直しを繰り返したりしての難産でした。
遅ればせながら投稿しまっす。
追伸:貨幣価値を1マニー100円相当から10円相当へと変更しました。
該当箇所もちょこちょこ修正。
ガシャーン!
「これだけ戦力を投入してまだ小僧一人捕らえられんのか!」
苛立ちから手に持ったグラスを床へと叩き付けていた。
作戦開始から既に5日経過している。あの小僧の情報が途切れたのが先日。後を追ったものも報告へと戻らない。ダンジョンに向かわせた連中もなぜかA級冒険者の『マッスルブラザーズ』に捕らえられているという。
動員できる全戦力を投入したはずなのにどうしてこうなった。あの小僧さえ手中に収めることができればすぐにでも元を回収できるはずなのに!
今までにない発想。現存する薬品全て改良しただけでも市場の勢力図を塗り替えることが可能だろう。
私の勘が正しければあの小僧はさらなる利益をもたらすに違いない。
そう確信した私はまず穏便に交渉するため態々あの店まで出向いた。
やる気のなさそうな女店主だからすぐに交渉はうまくいくだろうと思っていたのは否めないがなんと即答で断ってきた。どうやらあの小僧の有用性を分かっているらしい。
その後、本人にも打診したもののこちらも即答で断ってくる。
おのれ忌々しい。意思が固いというならば切り崩してやるわと意気込んでいればあの小僧も動いていたようだ。どうやら衛兵隊の総隊長と繋がりがあるようでなにやら目論んでいるらしい。
ならばと日頃便宜を図っている貴族連中を動かし衛兵隊へと手を回す。
冒険者ギルドの幹部にも手を回し事後の揉み消しを図る。そして今回の戦力の一斉投入となったわけだ。現場はあの6人に任せているものの今だ色よい報告がこない。
早々にギルド経由でバスコームなどの解放を手配し再度の捕獲作戦を組まねばな。
ふう、やれやれ随分と梃子摺らせてくれるよ。
心を落ち着かせるためにアレでも眺めてこようか。
「地下の施設に篭もる。呼び出すまで近づくな」
侍女にそう申しつけ地下へと向かう。
地下に設置された試作品開発用の魔法施設。その奥の厳重に閉じられた扉の先に私の安息所がある。
積み上げられた金貨や宝石、そして魔道具。
それらを愛でる時、唯一安らげるひと時だ。このささくれ立った気分もすぐに落ち着くことだろう。
重厚な鍵を開け部屋の中へと入る。輝く金貨と銀貨が私の心を癒す。宝石たちもその輝きを惜しみなく発揮している。ふう、できることなら素っ裸になってこの上を転がりまわりたいところだが流石に自制心が働いてしまうな。
ふふははは、見ておれ。あの小僧を手中に収めた暁にはさらに倍、いや3倍に増やしてくれようぞ。
宝石に頬ずりしていると堪らんのぅ……こう……眠気が……。
◆◆◆
わたしノブさん、今あなたの後ろにいるの。
やぁ、ノブサダです。実はこのくされ爺の奇行はしっかりと背後で眺めていました。ええ、空間迷彩です。
冒険者からの情報で『地下にジャミトー専用の魔道具開発施設がある。ただ、俺らでも入った事は無い。夜な夜な篭っていることから随分と重要な施設なんだろう』というのは得ていたがまさかこんなことをしているとはね。
さて銭ゲバ爺をしっかりと寝かしつけたので早速報復に入りましょうか。今宵のノブサダは血に飢えておる。飲まないけどな!
ざばぁ
冷水を浴びせてジャミトーを起こす。
「ぐふあああ、つ、つつつ、冷たい。一体何が!?」
「やぁ、お目覚めですかね?」
縛られ床に転がっているジャミトーを見下ろしながら語りかける。冷水を浴びたせいかガタガタと震えていた。
「き、貴様は!? 私にこのようなマネをしてただで済むと思うなよ!? それに……私の大事な金貨たちをどこにやった!!」
「ただでは済まないでしょう、主にあなたが。それにあなたがしてきた事に比べれば随分と紳士的な対応だと思いますけどね。あなたの部下が洗いざらい喋ってくれました。ある時はライバル店の店主を事故に見せかけて屠り、ある時は職人に無理矢理奴隷契約を迫り死ぬまでこき使ったり、またある時は貴族を使ってそれらをもみ消したり。本当、クズって言葉が似合いますね」
「ふん、弱いものが強いものの糧になるのは当然の摂理だろう。どうだ、今ならまだ間に合う。私に従う気はないかね?」
「よくもまぁそんな格好でそれを言えますね。ま、それはそれとして今からあなたには俺の質問に答えてもらいます。包み隠さず答えて下さい」
「ふん、そんなものバカ正直に答えると思うかね」
ジャミトーが俺を鼻で笑う。どこまでその強がりが持つのか楽しみですな。
「まずはあなたに協力している貴族を全て答えてもらいましょう。それと弱みやなんかも一緒に」
『まず一番地位が高いのはルウム侯爵、次いでルナツ子爵、エアーズ男爵だ。侯爵には資金の提供を子爵は自身の火遊びの始末、男爵は息子がしでかした不始末をなんとかすることで弱みを握った』
(なんだ!? 口が勝手に動くだと? しかも公に出来ないことまで!)
ジャミトーが気持ちよく囀ってくれる内容を事細かに羊皮紙に記載していく。おうおう、纏め買いしておいた羊皮紙が文字でどんどん埋まっていくぜ。
「ほうほう、ちなみに男爵の息子の不始末とは?」
『三男が獣人の村一つを焼き払うという暴挙にでた。しかも、焼き討ちした理由が気に入った娘たちを差し出さずに村長が逃がしたからだ』
うん? どこかで聞いた話だぞ??
「その男爵の領地はここからだいぶ離れてますか?」
『ああ、大分離れている。だが、私の故郷がそちらのほうでね。現男爵とは子供の頃からの付き合いがある』
「それじゃ、その男爵などについてももっと詳しく話してください」
『ああ……』
(やめろ! これ以上話すんじゃない!!)
己の意に反して喋ってしまうことにかなりの焦燥感を抱いているようだ。ジャミトーは精神的に追い詰めるのは得意でもされることに慣れてないんだろう。根掘り葉掘りさらに聞き出すんだぜ。精神的にじわじわと痛めつけていこう。
あまり使いたい魔法ではないがカースでがっちりと呪わせていただきました。内容は『抵抗せず俺の質問に嘘偽りなくすべて答えること』。身につけていたものは全て識別先生の鑑定が入りましたので呪詛返しも大丈夫。なので現在使用できる魔力の半分を用いてガツンと呪ってやったのですよ。こんだけ気を使う呪いの魔法、本職のやつらはよく平気で使えるよな。
それから長い時間、ジャミトーへ聞き取りを行った。いやもうでるわでるわ。不正に次ぐ不正。
さらに冒険者ギルドの幹部数人の不正の証拠を押さえておりそれを使って抱き込んでいたようだ。今回のように冒険者を動かした際に起きた面倒ごとを揉み消すのに使っているらしい。証拠書類などは丁度ここに保管していたらしいのでしっかりとこれも押収させていただく。
ミタマたちに関する情報も仕入れることができたのは思わぬ収穫だな。
「ぐぬぬ、なにがどうなっている。はぁはぁ」
長いこと喋らせていたから辛そうですね。でもそれくらいなんだというのか。
「それでは最後に。俺やセフィさんを捕らえていたらどうしてましたか?」
『まずは奴隷の首輪をつけておいただろう。そして人目のつかない工房で新製品の開発や生産を行わせるつもりだった』
OH、どこまでも非道でございます。良心も痛む心配がないですね。はっはっは、心底救えない人間っているんですな。怒り心頭になると敬語になっちゃいますよ。
ま、そろそろいいですか。そんじゃ貰うもん貰ってカタをつけましょうかね。
「さて、ここに貯め込んだ金貨や銀貨、宝石や魔道具は慰謝料としていただきました。それくらいなんでもないですよね。なんせこちらの店を半焼させた挙句、セフィさんの柔肌に火傷まで負わせたんですから」
「ふ、ふざけるな。そんなのがなんだというの、ゲハァ」
俺はジャミトーの顎を思い切り蹴飛ばした。うん、もう喋らなくていいんですよ。
「俺に対してどうこうならここまでするつもりは無かったんですよ、当初はね。だが、俺の周りに手を出した貴様に慈悲はないんです」
「ふんぐぬふぐぐぐ」
あ、何か言いたそうだが踏みつけているから喋れないらしい。あとは叫ばれても困るので猿轡をしてと。
金貨や銀貨、証拠書類や宝石、魔道具などはマジックリュックに詰め込んである。俺のだけで足りるか不安だったがこちらにいくつか置かれていたものを拝借することで問題解決。マジックリュックは量産型のほかに一点ものの特注品などもあったがこちらは足がつきそうなので泣く泣く破棄する。
昨日どうやって引導を渡してやろうかと考えている間に試作の魔法まで改変して作ってしまった。それを惜しみなく使ってこの世からおさらばしてもらおう。
「地下より地上へ爆風と共に駆け上がれ! 我が意と共に弾け飛ばん! 機人片塵爆雷!!」
ジャミトーの周りの石床のうちいくつかに魔力の塊が宿る。
一応、周辺に被害が及ばないように地壁補強をかけて地下室を補強した。
これで準備は上々。あとは仕上げをごろうじろ。
「それじゃ俺はこれで失礼しますよ。精々、これまでのことを悔やんでください」
『ぐふあおうふう』と声にならない呻き声をあげるジャミトーを尻目に地下室を後にする。地下室の扉を閉めて空間迷彩を発動し屋敷からさっさと引き上げよう。
ある程度距離をおいたところで仕上げだ。ここからならあの屋敷も程よく見えて人目も無い。
徐に指をパチンと弾く。
ドゴーーーーーーーン
うほう、それなりに離れているはずなのにでかい爆発音と何かが崩落するような音が聞こえた。
これは想定外、地壁補強が吹っ飛んだぞ。基にした魔法がフレアボムだけに威力も想像以上になった様だ。魔力の加減も多かったらしい。
そして指パッチンは単なる合図。ぶっちゃけ念じるだけでも問題はないんだけれどもね。やっぱりこれが合図としては定番でしょう。もちろん、某素晴らしい人みたいに指を弾いてもかまいたちは出ない。あそこまでは人間離れしていない……はず。あ、でも魔法を併用すればやってやれないこともないのか、いやまて、そんなことをしている場合じゃない。姿を消しているうちにさっさと北門を抜けておかないとな。
夜が明ける頃、何食わぬ顔で北門へ辿り着く。当然、北の森方面からだ。
そして北門の守衛のおっちゃんに呼び止められた。昨日のあれで色々と警戒してるんだろうな。動揺をおくびにも出さぬように冷静になれ、俺。
「おはようございます」
「おう、ノブサダか。こんな朝早くに街へ戻ってくるのは初めてだな。何かあったのか?」
「ええ、北の森で薬草採取していたんですけれどもゴブリンの群れに遭遇しましてね。丁度、消耗していて相手にするのもきつかったんで洞穴に隠れてやり過ごしてから帰ってきたんですよ」
「そうか、無事で何よりだ。最近は目撃情報も多いから大事なくて良かった。街のほうでも色々とあったもんでな。なんとも物騒になったもんだよ」
「へ? 何があったんですか?」
我ながら白々しいけどもな。
「昨晩の事だがな。ほれ、あの錬金術の一番の大店。あそこの店主の屋敷ででかい爆発があったみたいだ。なんでも地下の研究施設での事故みたいでな。実験の失敗で爆発が起きたんじゃないかって話だ。いやはや、魔道具ってな便利なものっつうイメージしかなかったが怖いもんにもなるって思い知らされたぜ」
ほうほう、そういうことになってますか。これは好都合。
その後も他愛の無い話を交わし北門を後にした。早く『ひきこもりのラミア』へ行かないと。セフィさんはどうしているだろう? 今更ながら不安になってきた。




