第52話 逆襲の狼煙
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「助かりました。ありがとうございます。でもどうして皆さんがここに?」
「ミネィアの占いでね。ノブサダちゃんの命に暗雲が立ち込めるなんて物騒なものがでるものだから急いできちゃったの」
「兄者のお気に入りの男子を捨て置くわけにはいくまいて」
コクコクと頷くマッスルブラザーズの皆さん。ありがたいのだが俺そんなに接点なかったはずなんだがな。いや、助けてもらったのは本当にありがたいんだがお気に入りってだけでこんなにしてもらっていいのかね。
「それとマウちゃんやセフィロトちゃんにも頼まれたことだしね」
「え? それは一体?」
マニワさんの話を聞けば俺がダンジョンに篭もった翌日、『ひきこもりのラミア』へジャミトーが再び訪問。今度は確実な脅しをかけるもセフィさんはきっぱりと拒否。その夜、『ひきこもりのラミア』が半焼する火事が発生。しかも原因不明で処理されその後の捜査もないらしい。なんでも総隊長より上からの指示があったとかなかったとか。そうなると師匠も表立って動くことが難しくなる。
マニワさんはおやっさんから頼まれて注意を向けてたらしい。火事が半焼で済んだのも彼らが手引きしてくれたお陰のようだ。
火傷を負いつつもセフィさんが訴えたのは俺の身は大丈夫なのかということ。それからミネィアさんの占いで俺の状態を占えば暗雲立ち込めるといった結果が出て急遽、ダンジョンへ向かったのだとか。
わなわなと肩が震える。怒りがこみ上げてくる。あいつらと俺自身に。
あれだけ命が軽いと思ってたくせにどこかで元の世界の論理を持ち込んでいた。そのツケが俺だけでなくセフィさんにも向かったのだ。
「ノブサダちゃん、ここは私たちが色々とやっておくからあの子のところへ行っておあげなさいな。我慢しなくていいわよ、ね」
「……すいません。このお礼は必ずします。みなさん、この場は甘えさせてもらいす」
俺は深々と頭を下げると一目散にポートクリスタルを使用する。そしてわき目も触れず一心不乱に『ひきこもりのラミア』へと向けて駆け出した。
そして俺が目にしたのは無残に焼け焦げた店の姿だった。
入り口から店の半ばまで消し炭となり焼け焦げている。中途半端な対応が呼び込んだ結果。悔やむに悔やみきれん……。
ふと見やればそこにセフィさんが立っていた。
「おかえり、ノブちゃん。ごめんねぇ、帰る場所焼けちゃったわぁ」
なんであなたが謝るんですか。そもそもの原因は俺にあるわけで……。どうしてそんな泣きそうな顔で俺を慰めようとしてるんですか。
言いたいことが頭にいくつも浮かぶがそれすら言えずただただ俺はセフィさんに跪くように崩れ落ちる。我慢が限界になったのか年甲斐もなくボロボロと涙が止まらない。そんな俺をセフィさんは優しく抱きしめた。
「ノブちゃんのせいじゃないわぁ。これくらい平気よぉ、すぐに再建するんだからぁ。だから笑ってちょうだい。ノブちゃんが泣いてると私も悲しくなっちゃうから、ね?」
一頻り泣き終えて一息つく。恥ずかしさと申し訳なさが現在半々。そして気恥ずかしさが沸き起こる。
その場からすぐにでも離れたい気持ちを抑えて涙を拭いしっかりと告げる。今度は絶対失敗しないようにしますから。
「セフィさん、これ、少ないけれど再建の費用に足してください。すぐ営業戻れるようにちょっとだけ薬草とりに街を離れます。けじめもつけないといけませんから」
「ノブちゃん?」
「すぐ戻りますよ。再建も必ず手伝いますからね。それじゃいってきます」
有無を言わせずに全財産を押し付けて急ぎ足で北門を目指す。
後ろでセフィさんが何か言ってるけど今は振り切る。
北門を抜け走りながら今度は北の森へ。
きっと今俺はすごい顔してるんだろうな。人気がまったくなくなったころ山の斜面を背にしたそれなりの広さの空き地でぴたりと歩みを止めた。
ガサリ
「どうした? 逃げるのはもう諦めたか?」
茂みの方から声がする。ジャミトーの取り巻きが二人、いや勘でしかないがたぶん木の上にもう一人いるな。
「逃げる? なんのことですか?」
「いい加減諦めたらどうだ? このまま続けるようなら今度はあの嬢ちゃんが火に巻かれるかもしれないなぁ。事故ってな怖いもんだ」
「あれを事故だと?」
「それはそうだ。たまたまあの店が巻き込まれただけさ。だが、同じことがないとも限らな「グラビトン」い!?」
ズシン!!
やつが話し終える前に周囲へ瞬時に重力魔法を展開した。めきめきと辺りの木々もへし折れていく。
バキィ、ベシャ!
木の上にいた冒険者も枝が過負荷に耐えられず地面へと叩きつけられる。
あれを事故だとのたまう冒険者の顔を踏みつけつつ見下ろす。
「ごぁ、き、貴様……」
「逃げてきたわけじゃないさ。いくら俺が甘いからってもう見張りがついていないとは思わない。今回はいい教訓になったよ。この世界は甘ちゃんじゃ通用しないとな。これからしっかりとその授業料を支払おうと思うんだよ」
ぐりっと足をねじ込み苦痛に歪める顔をさらに歪めさせる。
「ぐぎっ」
這うことすらできないほどの重圧に3人の冒険者はもはや息も絶え絶えである。が、これで済ますはずはないよなぁ。俺の堪忍袋はもう木っ端微塵になってるんだからな。
「さてこれからお前らにはジャミトーに関して洗いざらいしゃべってもらおうか」
「は、話すと思うか?」
「ああ、お前らの意思は関係ないさ。話さざるを得ないようにしてからじっくり聞き出すからな。最早良心の呵責なんざ感じないぜ。なんせ取っ払ってくれたのはお前らだもんな」
「くあぁ」
「さぁ楽しい楽しい質問タイムだ。どこまで耐えれるかな? スリープミスト」
睡魔の霧を浴び意識を手放す冒険者達。きっちり識別して状態:睡眠になっているのを確認する。
濃い目の魔力で寝かしつけたあとは依頼用で作った大地掘削と地壁補強の改変魔法を用いて山肌に洞窟を掘り出す。
3人を引きずり込んだらそのままアースウォールで入り口を塞ぐ。空気は空気生成で作り出す。これは酸素だけ消して真空を作り出す実験の過程で生まれた改変魔法だ。真空の魔法はまだできてないが無力化にこだわって色々作ってたのがバカらしくなるな。
ざばぁ
水をかけて寝ていた男の覚醒を促す。残りの二人は後回しだ。
「げはっげはっ、ぐっ、ここは?」
「やぁ、お目覚めですか? いい様ですね。早速ですがジャミトーについて知ってることを洗いざらい喋ってもらいましょうか」
「はっ、そんな簡単に口を割るような人間に見えるか?」
「ふふふ、粋がるのはいいんですけどね。自分の姿を見てから言ってもらいたいですよ。なんとも情けない格好じゃないですか」
全身をすっぽりと地面に埋め込まれ顔だけが出ている。無論、装備は全て剥ぎ素っ裸でだ。
クラスも確認してあり魔法を使うものもいない。
「くそっ、貴様覚えてろよ。これですむと思ってないだろうな」
「むしろそれでよくもまあ強気でいられると感心してますよ。この短剣に付着しているのはベニテングダケの粉。つまり猛毒です。どこまで耐えられますかね。いつでも喋りたくなったら言ってください」
構えた短剣で薄皮一枚ほんの少しだけ傷つける。様子を見ながら少しずつ切り裂いていく。無論、ベニテングダケというのはブラフだ。聞き出す前に死んでもらっても困るのでね。シビレダケというキノコの粉で名前の通り麻痺の効果がある。微量ならばそれほどの効果はないが麻痺感で毒だという脅しを味わっていただこう。
始めは強気だった男もじわりじわりと傷つけられていくこととこれ見よがしに付けられた毒と思わしきものに恐怖心を煽られていった。さらには指先まで動かない体、周囲は薄暗く物音一つ聞こえない。やがて顔が血まみれになるころ……。
「喋る、喋るからやめてくれぇ」
ついには根を上げた。
そうして聞き出したジャミトーの情報はもらすことなく羊皮紙へと書きとめる。
が、これで終わりではない。一人目を再び寝かしつけ今度は二人目。順次聞き出し情報の整合性を取る。
三人目まで聞き取り調査を終えると鼻だけ出した状態までさらに埋め込み意識を覚醒させる。
喋ることも辺りを見回すこともできない状態で起こされた三人は何かを訴えようとしているが俺にはまったく聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
昔、公園のベンチによくいた兄ちゃんが言ってた。ヤるんだったらヤられる覚悟を持たないといけないんだぜぇって。
「それじゃ皆さん。精々今までの悪行を悔いながら逝って下さいね」
爽やか(?)に微笑んで三人の周囲を埋めていく。ある程度の空間だけを残して完全に埋め尽くした。自殺も出来ないので息絶えるまであのままだ。
冒険者たちの道具も漁っておく。二人がマジックリュックを持っていたがどうやら量産品のようで俺でも中身を取り出すことが出来た。何が入っているか分からんので全部出ろと念じながらふりふりしたらどさりと出てきたのだ。この際、ポーションなどを割ってしまったのは反省である。
品質は並で両方とも40kgまで入るようだ。念入りに調べ銘なども入っていないようなので今回の作戦に使わせてもらおう。
まってろよ、ジャミトー。今度は此方から討ち入りしてやろう。




