第51話 救世主降臨!?
今回は専門用語が随所にでてきます。
気になったら是非ぐぐってみてくだしあ。
魔力纏や防御魔法をあっさり貫通してきた!? どこからきた?
武技かなんかなのか? 何の変哲もない矢だが抜き取る暇などない。襲い来る軽戦士の短剣から逃げるので手一杯だ。
少しして体の異変に気付いた。体がうまく動かせない。ただの毒とは違う。即効性のなにか……麻痺毒かなにかか。パラポーションはストックがリュックにしかない。だが、それを取り出させてくれる時間はくれなさそうだ。タマちゃんに……と思ったがまだ魔力の回復が追いついていない。
俺は軽戦士に思い切り顎を叩きつけられ地面に転がった。頭がくらくらして足に力が入らない。
思い切り頭を揺らされたようだ。さっきからうまいこと喋れないしさらに魔法を使おうとするとタイミングよく蹴り等も飛んでくる。
そして軽戦士はこちらから注意を逸らさずちらりとポートクリスタルのほうを見た。
「ふん、その程度の相手になにを梃子摺っている、ギャザン」
そこにはスキンヘッドの冒険者がボウガンを構えていた。横にはもう一人魔術師風の優男がいる。二人とも店にジャミトーが来たときの取り巻きだな。
「げ、バスコームの旦那かよ。相変わらず無粋だね」
「無粋など滑稽な話だと言ったはずだ。圧倒的な戦力で押しつぶす。それだけで十分だ」
「あんたが来たって事は……ああ、シッコロも来てるのね。あとの3人は?」
シッコロと呼ばれた魔術師風の優男がギャザンの質問に答える。
「3人はジャミトー様の護衛とあっちの任務を遂行中だ。ギャザン、これだけの手勢があってここまで梃子摺るとはこいつはそれほどだというのか?」
「見たこともない魔法を使ってきたぜ。お前さんにとっちゃいい研究材料なんじゃないか?」
「ほう、それはそれは」
蛇のような印象を受ける優男はこちらを実験動物でもみるような目つきで見ている。思わず背に冷や汗が流れた。
「ふん、何にせよ。あとは連れて行くだけあろう? さっさと気絶でもさせてしまえ」
「はいはい、旦那はせっかちでいけねぇ」
痺れる体だが月猫を杖代わりになんとか立ち上がる。最後まで諦めてたまるかっての。
「おいおい、まだやる気か。若いもんにしては根性座ってるが無駄に痛い思いするだけだぜ」
そう言いながら思い切り腹を蹴り上げる。激しい痛みと吐き気がこみ上げてきた。
「げはっ、げほっ、おえ」
「ほらほら、さっさと意識を手放しちまいな。くくく、はははは」
ゲシッドガッボゴッ
絶対コイツ気絶させる気ないだろ。くそっ、いたぶりやがって。口の中が血の味で一杯になる。痛みでもはや気絶どころではない。
そうこうしている間に先に戦線離脱していた連中も回復していた。まずいまずいまずい。どうする!?
「待ていっ!!」
「「「!?」」」
「な、何だ!?」
「この声は!? どこだ、どこにおる、姿を現せい」
霞んだ目で声の方を見やればポートクリスタルの上に人影が見える。
「若き者をいたぶり笑みを浮かべる外道どもよ……その未来を閉ざす権利は貴様らにない。果て無き未来を目指す青き果実。人、それを男子という!」
「貴様! 何奴だ!!」
「お前達のような外道に名乗る名前はないっ!!」
そう言い放ったかと思えばその姿は消え去った。
ズズズズズズン
とほぼ同時に俺の周囲へと巨体が6つ、地響きと共に降り立った。
白い覆面と白い褌。そして小麦色に焼けた肌……どうみても皆さん、マニワ兄弟+マッスルブラザーズですよね。確かに普段よりも肌面積少ないですがあんまり変わってません。唯一モリコさんはサラシを巻いてるんで幾分ましですが……。しかし、一体どうしてここに。
「我らヤスゥーダ流門徒、義によって助太刀いたす!」
いや、セリフは格好いいんだけれどもマニワさん、サングラスそのままですから。そしてマッスルブラザーズさん、ポージングしてたら丸分かりですから! 流派名も言っちゃっていいんだろうか。
「お、おい、あれって……」
「どうみても……」
ほら、ばれてるよ。
「「「変態だな!」」」
「いや、あの肉体美はすごいと思う」
どいつもこいつも節穴か!? A級冒険者って有名なんじゃないのか?
「ええい! どこのどいつだか知らぬが皆のものやってしまえぃ」
「何やら強者の気配。我が最高魔法の生贄となるがいい」
「ふはは、やりがいのありそうなやつらじゃないの。はした金よりこの獲物のほうがいいなぁ」
あの三人は比較的まともだった。というかなんでそこに突っ込みいれないといけない。
「大地よ呼応せよ。シッコロ・パルティムスの名において命ずる。現れ出でて我が眼前の愚か者どもに死の鉄槌を下せ! 顕現せよ! アースキングゥゥゥ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
シッコロの目の前の地面が盛り上がりゴーレムらしきものを形どる。全長約2メートル半。これは敵とか関係なしにすごいな。あれだけの巨体を短時間で構築した魔法。おそらく固有魔法に近い構成なんだろう。ある程度の魔法書式をセフィさんに聞いたことがあるだけだがそんな気がする。
マニワさんがバスコーム。ミネィアさんがギャザン、ケィンさんがアースキング相手に立塞がった。スィゲさんとオットーさん、モリコさんがそれ以外の冒険者を相手どるようだ。俺もいまのうちにリュックからパラポーションをとりだす。くそ、麻痺でもたつくのがもどかしい。
「いくわよーーー」
「久々に暴れようではないか、兄者」
茶色い旋風がこの6Fで巻き起こった。
「うわあああ、しねぇぇぇえぇ」
恐ろしい速度で近づく小麦色の物体へ半分泣き叫びながら斬りかかる冒険者A。その剣は瞬時にサイドトライセップスの構えを取ったオットーさんの上腕三頭筋に受け止められる。
ガキィィィン
金属と肉が当たった音じゃないぞ!?
そのままフロントラットスプレットの構えに移り回転しながら肘打ちをくらわせていく。ばったばったと薙ぎ倒されるとはこの事か。
片やスィゲさんはフロントダブルバイセップスの構えで冒険者を担ぎ上げこれまた回転しながら他の冒険者へと投げつけた。
モリコさんはサイドチェストの構えをしながらヘッドロックを決めている。なんともいえない笑顔がたまらなく恐ろしい。敵じゃなくて良かったと思う。あ、今度はモストマスキュラーからベアハッグに……。あれ背骨へし折れてないよね? でも受けている側の顔が微妙に嬉しそうなのはなんでだ? あ、一人だけ肉体美を褒めてたやつか!?
もう俺が回復する前に全部片付きそうな勢いである。仕留めた冒険者は死屍累々と言わんばかりに山積みにされていた。
「さぁさぁ、やるとするか。さっきの小僧と違ってあんたは俺を楽しませてくれるんだろう? 不完全燃焼でいらついてたんだぁ」
「ふん、弱者をいたぶる趣味は気に食わん。我は渋い強者との戦いこそ華だと思うからな」
「ハッ、どこまでやれるかねえ」
粘体のごとくぬるりぬるりとした動きで短剣を操るギャザン。それを手刀で受けさばいていくミネィアさん。どうやったら両刃の短剣を素手でさばけるのだろう。肉体の神秘である。
「お主、なかなかやるようだが剣筋が濁っておる。これでは我をやることはできんぞ」
「はっ、いうねえ。汚れ仕事でもやらにゃ生きてはいけない環境だったんでね。死ねぇぇぇぇ『シャープエッジ』!」
拳をかいくぐりわき腹から心臓へと向かって突き刺そうとするギャザン。
だがミネィアさんはそれを叩き落すでもなくアブドミナルアンドサイの構えをとる。
ギィィィィン
まるで金属と金属がぶつかり合うような耳に痛い音が鳴り響いた。
だ・か・ら、その音おかしいから! どうなってんの?
バキン
過負荷に耐え切れずギャザンの短剣は根元から折れた。ギャザンは信じられないものを見るような目で怯んでいる。そこへがっしりとミネィアの肉体が踊りかかった。
「これで仕舞いだ。眠れ」
背後からがっしりと腰を掴まれ身動きが出来ないところから一気に背面へと反り投げた。
ズゥゥゥゥウン
見事なジャーマンスープレックスで架け橋を描く肉体。目にも留まらぬ速度でしたたかに打ち付けられたギャザンは白目を剥いている。
「まだまだ未熟!」
ミネィアさんはその角度や入り方に不満があるようだった。
ヒュン、ヒュン
片手にボウガン、片手にナタ状の片手剣を持ったバスコームとマニワさんの戦いは距離をおいて進行していた。
カートリッジのようなものを交換し矢を補充するバスコーム。連弩みたいなもんか?
何度も補充しながら一定の距離を保って戦い続けている。片手剣は持っているけれども狩人としての戦い方が基本のようだ。
「ち! ロートルがここまでやるとはな」
「うふふ、現役の頃と比べれば全然だけれどやることはやってたのよ。それに翻弄されているあなたはまだまだね」
「ふん、抜かせ。私とてB級冒険者としての意地がある。ロートルにやられるものかよ、ウェポンスキル『スプリットショット』」
先ほどまでよりも鋭く突き抜けるような矢がボウガンより放たれる。恐らくだが俺の防御魔法を貫通したのもコレだろう。ミタマが使っていた『ピアシングアロー』と同種のような感じだ。
シュオン
空気を切り裂き勢いを増した矢がマニワさんへと向かう。遠目で見ていなければ俺にその軌道を見極められるかわからない。
「ふんぬ!」
が、マニワさんはあっさりと右の人差し指と親指で摘んで見せた。
「返すわよ!」
ビシュンと投げつけられた矢は先ほどのウェポンスキル並みの速度でバスコームへ向かっていった。面食らったようではあるが手に持つ片手剣で辛うじて弾き落とす。
「こ、このバケモノめ!」
「ま、漢女に向かって失礼しちゃうわね。もういいわ、ここで決めちゃうから覚悟なさい」
前傾に構えるマニワさん。あれってレスリングみたいな構えだな。
ゾンッ!
一気に詰め寄った!? あの巨体で! バスコームはまったく反応できてなかったぞ。
そのままタックルをかましてバスコームの足を取る。
ズダァァンと転げるバスコーム。両足を小脇に抱えその場で高速回転しはじめた。
「はいはいはいはーい」
ブオンブオンとジャイアントスイングで振り回されるバスコームはすでに白目をむいている。竜巻が起こるんじゃないかという勢いで回転する。マニワさんの目は回らないのだろうか。
「そおい!」
そのまま放り投げられオットーさんたちが倒して山積みになっていた冒険者連中の中へとずっぽり突き刺さった。
「ふう、久しぶりにいい運動したわ」
あの戦闘は彼(彼女?)にとって軽い運動のようなものなんだろうか。もう強さの次元が分からなくなってきた。
同じB級でも、しかも現役退いていたのにこれだけの実力差。ランクはあくまでもある程度の強さの目安でしかないというのだけは分かった気がする。
シッコロとゴーレムはケィンさん一人に追い詰められていた。剣すら弾くような鋼の肉体を持つケィンさんらに質量があるとはいえ土で出来たゴーレムの攻撃ってどれほど効くの(?)って感じだもの。
アイッ! アイィー! アボラナマステウェイアー!
原始人のような奇声をあげながらケィンさんはゴーレムの左手を砕き右手を引きちぎった。そういえば初めて声聞いたな。
その都度、シッコロが魔力を注いで回復していたようだがそれももう限界に近い。
どう考えても相性悪いよ。
「アースキング、動け! アースキング、なぜ動かん!?」
唸る豪腕が手を砕きさらには胴体もどんどん削っていく。
「動け、動け、動け、動け、動け、動いてよぉぉぉぉ」
アーーーイッ!
ボグアッ
胴体に巨大な風穴が開きゴーレムが崩れていく。シッコロのゴーレムへと回す魔力が尽きたようだ。魔力が尽きたことと自慢のゴーレムが倒されたことにより放心状態のシッコロ。
ガシッ
そんなシッコロをケィンさんがガッシリと掴んだ。ずるりと地べたへ引きずり込む。両足を正座のようにホールドして背筋を伸ばし、そして頭を股で挟み込んだ。
つまりだ。
顔面へと股間が押し付けられるわけで……。
「GYAAAAAAAAA!」
シッコロの心の奥底からの叫びが木霊した。あれは嫌過ぎる。なんて酷な技だ。ケィンさんは少しご満悦な顔でガッチリと極めている。
やがて叫びが途絶え白目をむき泡を吹いているシッコロが目に入る。無残な……。
彼は絶対に怒らせないようにしよう。あれはくらいたくない。




