第49話 危機一髪の後は成長するらしい
ちょっと間が空きましたが拙者生きているでござる
再び構えるオークシールダー。最小限でかわして追撃するぞと思っていたが先ほどまでと動きが違う。
両手を使った掌底打ちを繰り出したとき体全体が吹き飛ばされた。
5メートルほど飛ばされ後ずさりした。体全体に衝撃波を浴びたせいか頭がくらくらする。
範囲攻撃もありかよ。
くらくらしながら警戒しつつ先ほどまでの剣戟の際の考察をする。先ほどから斬りつけていると月猫がバリアに阻まれるごとに光る粒子が飛び散っている。恐らくだがこれは魔素だと思われる。ってことはこのバリアらしきものは魔法の一種なのかもしれない。
ならばと月猫に流す魔力を上乗せし刀身をすっぽりと覆うほどに強める。これで魔力自体の流れを感知してあわよくば相殺できないかと考えた。
範囲攻撃を警戒しつつ再度切り込んでいく。触れる魔力は細かく振動する魔力の波を感知する。なんとなくだが昔、バイトのおばちゃんが使っていた美顔機(38万円相当)の超音波みたいな感じがした。水を垂らすと小粒になってふるふる振るえるやつだな。
波に逆らうように切り付けるとバチバチバチと先ほどまでよりも激しい抵抗を受ける。これは駄目だ。月猫の損耗が激しい。
今度は波にあわせるように……ってまた両手掌底打ちかよっ!?
バックステップで避けようとしたもの動作途中からの回避だったので避けきれるはずもなくダメージを受けてしまう。うげぇ、車酔いしたかのような気持ち悪さで吐き気が襲う。
その様子を見たオークシールダーは追撃を加えようとしたのか先ほどまでと違う動作を取り始めた。
バシコーーーーン
そして完全に意識の外側からタマちゃんの体当たりがオークシールダーの顔面を捉えた。
俺もビックリしたよ。
だが、この隙を逃すまいと吐き気を我慢しつつ間合いを詰めるべく月猫を平突きに構え突っ込んでいった。
先ほどよりもかなり近づいたがやはり見えない壁に阻まれてしまう。しかも近づくほどその防御能力が高まっているようで抵抗は刀の尖端がガリガリ削られている気がする。
その分タマちゃんが奮戦してくれていた。俺への攻撃をする余裕がなくなり俺に対しては防戦に徹しているようだ。
だが、見えないバリアを使った攻撃はタマちゃんを襲う。ぽよりぽよりと弾みながら巧みにかわしているものの防戦一方だ。さっきから見ていると心なしかタマちゃんの体がぶれて見えるんだが気のせいだろうか?
魔素の影響か俺の目が悪くなったのか何かの兆候なのか……。
俺は魔力の流れに逆らわず合わせて切り開くように斬り進める。薄皮一枚ずつ剥がすかのように前へと進んでいった。
そうこうしている内にタマちゃんの動きが止まる。
まさか、あの不可視のバリアに捕らえられてしまったのか!? オークシールダーがグフリと嫌な笑顔を浮かべた。
ばちゅん!
次の瞬間、タマちゃんは弾ける様に潰されてしまい辺りには光の粒子が飛び散った。
「タマちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
俺は叫んだ。怒りのままに斬りつける。
必ず! 必ずタマちゃんの仇を…………あれ?
おかしいな。涙で視界が変だぞ。俺の目にはタマちゃんの姿が無数に見えるんだが??
――タマちゃん六十四分体――
え? 本体は迷彩で隠れていた? それを早く言ってよ、タマちゃん!?
さっき潰されたのを入れて合計64体に分かたれたタマちゃんが一斉にオークシールダーへと襲い掛かっていた。これが分体生成の効果か。どうやら魔力を消費して擬似的な体、いわゆる質量を持った残像(?)みたいなものを作り出すようだ。
オークシールダーはタマちゃんズの猛攻により明らかに集中力を欠いている。今なら発動に時間がかかるから未完成だとお蔵入にりしていたあれができるはず。貫通力だけなら随一のあれが。
「轟け迅雷! 逆巻け天嵐! 降り注ぎて荒れ狂え!!」
俺の正面へと濃厚な魔素が集まっていく。月猫をかざし目標を定めた。
「超電刃暴竜巻!」
月猫を中心として指向性を持った雷や竜巻がオークシールダー目掛けて放たれる。だが荒れ狂う力はバリアによって押しとどめられていた。
これでもまだ足りないか!?
竜巻の中心に据えられた月猫へ更なる収束を促す。轟音が俺の鼓膜を揺らしていた。
今までも竜巻としてはかなりの纏まり具合だったが更に分厚くかつ鋭く収束させる。月猫の刀身よ、もってくれよ。試験的に運用したときには木刀や鉄の棒が木っ端微塵になったからだ。
――タマちゃん。すぐさま離脱して!
オークシールダーももはやタマちゃんに構うこともなく防御に集中している。脂汗を滲ませながら恐怖を浮かべつつもこちらを睨みつけていた。
識別の魔眼でバリアの魔力の流れを読みそれに合わせるように一気に突き入れる!
「超電刃嵐錐突!!」
嵐を纏った刺突は巨大な錐となり比較的魔力の薄い層をガリガリガリと削りながら押し通っていく。今更だがバリアを展開している場合はその場から身動きが取れないんだろう。だが、展開をやめれば即座に突きが飛んでいく。動くに動けない。仮に動いたとしても逃げ場はない。そんなオークシールダーの表情はもはや死刑執行を待つ受刑者のようである。
だが、貴様に慈悲はない!
分体とは言えタマちゃんを潰した罪はその身で償ってもらおうか!!
「トドメだぁぁぁぁぁ」
バリーンとバリアが砕け散り阻むもののなくなった月猫はオークシールダーへと突き立つ。尖端が触れた瞬間からその場所を中心に体を穿っていく。
嵐が収まる頃、残っていたのはオークシールダーの僅かな肉片だけだった。
我ながらやりすぎた感でいっぱいである。
てれれてってって~♪ 戦士、異世界人のレベルが上がりました。
てってれ~♪ クラスレベルが20を超えたためサードクラスが解放されました。
てってれ~♪ 条件を満たした為、新たなクラスが解放されました。
てってれ~♪ 時空間魔法が解放されました。
てれれて~て~てんてってれ~♪ タマちゃんのレベルが上がりました。スーパーマリモのレベル上限に達しました。クラスチェンジの条件を満たしました。
おうふ、色々上がったけれども……またタマちゃん進化ですかい。スーパーマリモはもう限界なのか。
そして新たなる進化の先は?
『ドクターマリモ』
体の半分はやさしさでできています。薬に関する特殊能力が成長するかもしれないクラス。
強くなるんだか弱くなるんだか。でも医者を見たら死神と思えって誰かが言ってた気もするしクラスチェンジしても劣化することはないはず!?
いざ、ゴットハンドなマリモへ!
ふぁさっ
うおお、タマちゃんの体色が緑色から純白に変化した。伸びていた毛がふぁさりと落ちて無くなり白球のようである。
いや、寧ろ白玉?
ステータスの前に最も大事な触り心地チェックだ。
ぷにん
こ、これは!? いままでのもふもふとは違うがこのぷにぷに感は只者じゃないぞ。クセになりそうな感触だ。
危険な進化を遂げたらしい、恐ろしい子!
だがもはやマリモと呼んでもいいものだろうか? タマちゃんはタマちゃんなので良しとしよう。
満足のいくまで感触を楽しんだ後にステータスをチェックする。若干、タマちゃんのもち肌がっゃっゃしているのは俺とみんなの内緒話で。
名前:タマちゃん 性別:雌 種族:マリモ
クラス:Dr.マリモLv1(new!) 状態:健康
称号:【可能性のマリモ】 絆:親愛
HP:39/126 MP:4/88
(主の称号の効果でステータスにプラス補正)
【スキル】
分体生成 薬効成分配合Lv1(new!) 神聖魔法Lv1 回避Lv2(up!) 硬化Lv1(new!) 迷彩Lv2(up!)
ドクターなんだからと自らの体に薬効成分あるんですか……なんでじゃーい。
一体どんな効果があるんだ?
【薬効成分配合】
身体のうちに薬効成分を蓄えることができる。レベルによりその効能は異なる。
Lv1 滋養強壮 疲れた体に嬉しい12種類の滋養強壮効果が含まれています。
これはあれか。マムシ酒みたいになにかにタマちゃんが漬かってみればいいのかね?
その様子ってどう見ても土産物のマリモだよね、白くなったけど。
とりあえず硬化があるってことはあのぷにぷにの体も体当たりの瞬間には硬くなるということだろうか。柔らかボディで敵を倒せるのか不安だったしな。だがあのぷに感なら敵を虜にできないとも限らないぞ。俺だったらやばいかもしれん。




