第47話 考えるな、感じろ……ですまない事情があるんです
「せぇぇぇりゃあぁぁぁぁ」
ザシュッ
一閃された月猫によりゴブリンが胴体を真っ二つにされて崩れ落ちた。
現在、俺はダンジョン5Fを進んでいる。見かける敵は全て殲滅しながらだ。まさに見敵必殺!
クラス設定しておいた戦士、異世界人も2ほどレベルが上がっている。
だが、まだ足りない。
合わせて範囲無力化できるような魔法を改変で開発しようとしているがこちらもなかなか難しい。覚えてから使ってなかった重力魔法のグラビトンはそれなりに使えそうなのだが俺を中心に周囲へと影響が出るため範囲内にあるもの全てに効果が出てしまう。できれば指定した物、人物には影響がでないような魔法にしたいのだがこれがまた難しい。
一朝一夕にできるもんじゃないと割り切り何度も試している現在でございます。
そして今いる5Fはゴブリンがやたらと多い。こうもゴブリンばかりだと気が滅入るな。なまじっか剣やら弓やら武器を使ってくるものだからやり難くてしょうがない。中には毒を刃に塗りつけているものもいるから困ったものである。それでいて武器類まで一緒に消えていくから始末に終えない。体の一部と見なされているのだろうか?
多対一の訓練だと思って頑張るしかないか。月猫に付いた体液を拭き取り奥を目指す。
ここに篭って既に2日が経過している。
食材に関しては小麦粉、野菜類は10日分ほど買ってきてあるし道中ルイヴィ豚を何匹か始末してきたので肉類にも問題はない。タマちゃんに必要な光もライトアローを改変してその場に球体としてとどめ照明代わりに使い光合成してもらっている。
タマちゃんのレベルもしっかりと上がっている。現在そのレベルは26。こげなマリモは他にはおらんでしょうや。俺の横でゴブリンをぼっこぼこにしております。
魂石はそれなりの数が貯まった。それ以外がないんだけれども……。おい、ゴブリン。せめてその武器をよこせい!
ちょっとした山賊盗賊気分を味わいながら歩み遅く敵は殲滅しつつボス部屋へと歩を進める。ここらへんのゴブリンは平均レベルが12ほど。蟻までとは言わないがかなりの集団で襲ってくるこいつらは倒しても倒してもどこからか湧いてくるのである。この人海戦術から冒険者パーティにおいての第一登竜門となっているのがこの5Fだそうだ。そう、通常のレベル帯の冒険者であれば4~6人ほどのパーティで挑む階層なのである。
っと考え事はここまでか。広い通路の先にゴブリンが10匹ほど屯っている。ボス部屋前の関門といったところか。魔法で殲滅すればあっさりいけそうだがあえて近接戦闘を挑んでいく。無茶は承知の上、魔力纏を分厚く練り上げて月猫を構え一気に突貫した。
ギィン、ガキン、ザシュッ
魔力を纏った手甲で襲いくる手斧を受け流し片手で持った月猫で胴を薙ぎ払う。飛んできた矢はゴブリンを掴みあげてその盾とした。ギヒィィィと矢が刺さったゴブリンはうめき声を上げるもそのまま弓を構えたゴブリンアーチャーへぶん投げてやった。
ゴスン
勢い良くゴブリン同士でぶつかり合った後は2匹絡み合うように転がる。
そんな同族を尻目に背後から2匹同時に上下に分かれて切りかかってくる。身を屈めて下方のゴブリンファイターを斬りつける俺。上方のゴブリンソードマンが剣をそのまま振り下ろそうとしたとき緑の物体がそのゴブリンを弾き飛ばした。その勢いに宙を舞うゴブリン。ぐっじょぶ、タマちゃん。
中空を舞うゴブリンを上段から一刀の元に分断し次いでもんどりうつ下のゴブリンへトドメを突き入れる。
取り出しやすいように腰のポーチへ入れておいた鉄の槍を取り出しいまだ転げていた2匹のゴブリンへ投擲する。バリスタさながらに飛んでいった槍は2匹を貫通し串刺しとなった。
残りは6匹。前衛4匹、後衛2匹。冒険者パーティみたいな編成だな。
まずはスローイングナイフで後衛へと牽制を入れる。それに反応したのか前衛4匹が動き出した。武器から察するにファイター、グラップラー、シーフ、ランサーか。タマちゃん、隙間を縫って後衛のほうを頼むよ。
『主様の御心のままに。うちにまかせておくんなはれ』
そう言っていた気がする。うん、もう突っ込みはなしで!
すると前衛のゴブリンが一直線に並びこちらへと突撃を仕掛けてきた。どこぞの黒い三ツ星さんかよ! 先頭のランサーが槍を突き入れると同時にそれを飛び越えシーフが踊りかかってくる。
ランサーを踏み台にし左拳で思い切りシーフの顔面を下方へ向けて殴り飛ばす。踏み台にして飛んでくるとは思ってなかったようで手に持ったナイフを振り下ろすことすら出来ずに殴り飛ばされ後ろのファイターへとぶつかった。次弾となるはずだったファイターはなす術も無くシーフの体に圧し掛かられる。
そして俺は呆然となっていたグラップラーをヤクザキックで蹴り飛ばす。そのまま背後へ向き直り転げる2匹を一刀両断しランサーへと追撃をかけた。残ったランサーは踏み台にされたことで頭をふらつかせていたが仲間が倒されていることに動揺しつつも再度槍を構えて突貫してくる。
俺は落ち着いて軌道を読みつつ返しの型にてその勢いを利用しカウンターで首を切り落とした。
残るはグラップラーのみ。
刀を納めて拳甲を握り締める。グラップラーは逃げ出したくとも出来ない状況に諦めたのかがむしゃらに突っ込んできた。手に持った鉤爪が俺の手甲で受け止められるとそのまま引っ掛けて引き摺り下ろそうとする。が、それは思い切り踏ん張ることで無効化、逆にグラップラーの無防備な胴体が晒されることになる。
「ロックハァァァァンドスマァァァッシュ!!!」
こちらの技も修練の結果、瞬時に展開できるようになった。一本の大きな岩杭がグラップラーの胴へと突き刺さりグルゥゥとうめき声を上げる。
「成敗!」
ドゴォォォン
追撃の岩製パイルバンカーが煙を上げグラップラーの胴体へ打ち込まれる。胴体はそのまま引きちぎれるように二つに分かたれた。
さて、後衛は? 前衛を殲滅し後衛を窺えばタマちゃんがその死体の上で勝利のポーズというか踏みつけるように弾んでいる。やるな相棒。
それから数戦ほどどこからか湧いてくるゴブリン集団と相対した。今日はここまでとするかね。落ちている魂石を拾い集めながらそんなことを考える。
そしてボス部屋に近い突き当りの通路を本日の寝床と決めて準備をする。
「ストーンウォール!」
ガゴンという音と共に通路へ岩の壁が展開される。これで4畳ほどの小部屋の完成だ。勿論、空気穴は岩壁の上のほうにしっかりと開けてある。ダンジョンに篭るようになって安全の確保するにはと考えた末に辿りついたキャンプ方式なのだ。
岩の壁は明日の朝まで持つほどの魔力を込めてあるので侵入される心配はまず無い。その厚さは驚きの50cmほど。これのお陰でしっかりとした睡眠時間を取れる。ソロでは休息の問題は大きかったから必死こいて考えたよ。
朝が楽なように鍋を多めに作り食事を取りながら今後どうするかを考える。とりあえず目標としては5Fの制覇とレベルを20まで押し上げること。
なんで俺がダンジョンに篭ると牽制になるのか。
まず素材を作れるのが俺だと暴露したことで俺自身に目を向けた。その俺がダンジョンに引きこもればこっちに手を回してくるだろう。店に手出しするメリットがほとんどないはずだ。強硬手段をとるなら店よりもダンジョンのほうが楽だろうしな。ここにいれば警戒する相手を冒険者に絞り込めるのも大きい。ダンジョンの中なら最悪広範囲の魔法を使っても施設等への被害はないからはっちゃけることもできる。
あくまで俺の中での仮設だから全部こうなるとは限らないけどもな。なにもしないよりはいいはずだ。
そして、これ自分でも情けない話だとは思うんだがセフィさんの足を引っ張らないためというのもある。
ぶっちゃけた話、あの人は俺なんかよりもかなり強いはずだ。時折感じる鋭い気配、師匠までとはいかないが少なくともエレノアさん以上だと思う。セフィさん一人なら冒険者ギルドや師匠の家に逃げ込むのは余裕なはずだ。
識別の魔眼で確かにステータスは確認したけれどもそれが全て正しいとは限らない。現にタマちゃんのスキルの一つの内容が分からないわけで。レベルがある以上、偽装されることもあるだろうしな。なんでラミア族なのが表示されてたかも分からないしね。魔眼に頼ってはいるがその情報が全てではないと己を戒めるには十分すぎる。
とはいえずっとここに篭ってもいられない。
だったらセフィさんの取引先の貴族にでも頼るか? そう考えたがすぐさま否定する。第二のジャミトーにならない保障がない。貴族なんぞやってれば権力欲はジャミトーの比ではないかもしれないしな。
どうにも手詰まり感がある。
考え込んでも妙案は浮かばないかな。とりあえず明日は周辺のゴブリンを狩りつつ魔法の練習もしようか。ゴブリンのお陰というのも癪だがだいぶ集団戦のコツは掴めたからな。
ダンジョンのキャンプでは有り得ない寝具を敷いた寝床に転がり疲れを癒そう。タマちゃん、おやすみ。




