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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第三章 お金の錬金術師
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第46話 招かれざる客

 そろそろダンジョンの5F越えを目論んでいる為、その日は『ひきこもりのラミア』で各種素材の作り置きをしていた。セフィさんには真面目に店主業をやってもらっている。ちょっとご不満ぎみだったが……。

 そんな時だった。


「やあ、セフィロト君。お邪魔するよ」


 ん? なんか聞いたことのある声がする。招かれざる客の声が。

 裏から店先を覗けばそこには取り巻きを連れる老境に差し掛かった男がいた。見た目だけなら老紳士と言えるだろうがその眼光は鋭く見た目どおりの男ではないと分かる。こいつはジャミトー。この街で一番の錬金術店の店主である。


「あらぁ、ジャミトーさん。どうかなさいましたぁ?」


「ふふ、いやなに、錬金術ギルドの中でも勢いのある店の視察にね」


「そんなことはありませんよぉ。今までと変わりませんわ」


「いやいや、随分と新商品が人気のようじゃないか。お抱えの冒険者連中の中でもかなり評判がいい」


「あらぁ、この街一番の錬金術店の店主にそう言われるとは光栄ですわねぇ」


 ここでジャミトーの目が先ほどまでよりも鋭く光る。いよいよ、本題か。


「そこでものは相談なんだが私のところと組んで大量生産する気はないかね? 我々が協力すれば公国内での市場を独占することも夢ではないと思うのだよ」


 ほらきた。しかしまぁ、野望を隠そうともしないな、こいつ。それでいてセフィさんを利用する気満々すぎるだろ。どう考えても利用しつくしたら捨てそうだよ。


「申し訳ありませんが以前と同じ返答ですわぁ。あれを加工できるのはうちの相方一人だけですもの。私も無理でしたわぁ」


「それは残念だ。ならばその相方君へとアピールしてみようか。色よい返事が聞けるといいのだがねえ。ここへ通っているあの冒険者風の少年だろう? あれくらいの年頃なら金、酒、女と色々と条件さえ釣り合えば動くかもしれないものな」


 その言葉を聞いてセフィさんはキッとジャミトーを睨みつける。それに対して少しも物怖じしないジャミトー。悪びれる様子すらない。

 ま、なびく気もないのでそろそろ俺も表にでますかね。


「セフィさん、なにやら騒がしいけれど何かあったのかい?」


「ノブちゃん……」


「ほう、君が噂の開発者君かね。初めまして、私はジャミトー。この街で錬金術店『グリプスの巨人』を営んでおる」


「お噂は聞いています、色々とね。俺はノブサダ。しがない冒険者ですよ」


「ふむ、ならば話は早い。どうだね、我が店にてその腕を振るう気はないか? 女、金、君の望む待遇で迎えようじゃないか」


「お断りします。あなたが俺の望むものを揃えられるとは思えないのでね」


「はっはっは、即答か。随分とセフィロト君に入れ込んでると見える。……ま、考えを変えるのを待とうか。こちらが下手に出ているうちに考え直すのを勧めるよ」


 新商品を出したことで焦って取り込むか排除するか強行で来たかな。これが嫌だったから流通量や性能を抑えたんだがこいつらには通じなかったか。脅してくるならこちらも自衛手段を整えないといけないな。


「あれの加工は俺しか出来ませんし作れる量にも限界がありますから大量生産など不可能ですよ。できれば諦めてほしいんですがね」


 実際はそろそろ出来るんだけれどもね。それを馬鹿正直にこんなやつへ教える義理はない。


「どんな手法かは知らないが必ずしもできないとは限らないだろう。私は諦めるという言葉が嫌いでね。今日はこれで失礼しようか。また会おうじゃないか」


 そういい残してジャミトーは出て行った。

 こっちはもう会いたくないんだがな。周りの取り巻きは6人。レベル的には平均23か。これはレベルと戦闘技術の早急な向上が求められるようだ。少なくともあいつらをあっさり戦闘不能にできるくらいの力か技がいる。特に集団戦の経験が圧倒的に不足しているからな。

 セフィさんを見れば唇をぐっと噛んで何かを堪えているように思える。


「セフィさん。俺が色々作っちゃったせいで変なことに巻き込んでごめんね」


「ううん、私こそ何も出来なかったわぁ。ごめんね、ノブちゃん。……でもあの人に対してみせた毅然とした態度に惚れ直しちゃった」


 真っ向から照れくさいこと言わないでください。顔赤くなってしまうじゃないですか。

 それはそうとこれは予定を早めて今日からダンジョンに篭ろうとしようか。作り置きも十分にあるしなんとかなるだろう。


「セフィさん。予定を早めて今からダンジョンに篭ることにします」


「ノブちゃん……」


「作り置きの素材は種類ごとに分けてリュックに入れておいたので使ってください。それとマジックポーチを一つ買っていきます。食料を多めに持っていこうと思うので。俺がダンジョンに入ったと公言すればあいつらの目はこっちに向き難いでしょうから」


「マジックポーチはこれを使って頂戴。お代はいいから無事に戻ってきてね、ノブちゃん」


「お言葉に甘えます。タマちゃんが一緒だから大丈夫ですよ。セフィさんもなにかあったらすぐに冒険者ギルドに逃げ込むようにしてください。エレノアさんから師匠へ話を通してもらいますから。それじゃ行ってきます」


 ポーチを預かりセフィさんに見送られて店を後にする。

 まずはおやっさんのところへ寄ろう。そろそろアイアンアントクイーンの防具の加工は終わっただろうか?




「おやっさん居ますか? 防具のほうはどうなってるでしょう?」


「おう、ノブサダ。出来上がってるぞ。見ろ! 俺の渾身の作だ!」


 某ヒゲの配管工に激似のおやっさんがニカリと白い歯を見せてテーブルの上に加工済みの防具を並べていく。その顔はやりきった感たっぷりで満足のいくものができたらしい。


 鉄蟻女王装備一式(胸当て、拳甲、脚絆、鉢金)

 品質:高品質 封入魔力:11/11

 材質:鉄蟻女王の甲殻 鉄蟻女王の触覚

 マウリオ作の防具『鉄蟻女王一式』。拳甲は防具であり武器でもある。鉄蟻シリーズよりも魔力伝導率が高くそれにより物理防御力、魔法防御力が向上した。重量は変わらないため純粋な性能アップに成功。

 天恵:【耐酸】


 濃紺だった鉄蟻一式に比べて今度のものは漆黒と言っていいほど深い色合いになっている。というか俺ってインナーも黒いし腹も黒いから真っ黒だな、はっはっは。……今度買うときは違う色の服にしよう。


 早速装着してみると重さはほとんど変わらない。が、試しに魔力纏を発動すると瞬時に展開が完了し幾分効果が増幅されている気がする。これはいいものを作ってもらったな。

 しかも天恵付き。酸を吐く相手は稀だが無いよりはあったほうがいいだろう。おやっさんもなにかの加護持ちだったのだろうか? 今の識別の魔眼ではそこまで判別することができないようだ。


「ありがとうございます、おやっさん。これからダンジョンに篭るので助かりますよ」


「む、急な話だな。何かあったのか?」


 おやっさんを巻き込むのは申し訳ないが事の顛末だけでも伝えておいたほうがいいだろう。そう判断し先ほどまでの事を掻い摘んで説明する。


「なるほどな。商店街の会合で何度か顔をあわせたことはあるがあいつはしつこい。気をつけろよ」


「ええ、心得ておきます」


「あっちの嬢ちゃんのほうは俺も気にかけておく。無事に帰ってくることだけ考えておけ」


「おやっさん……必ず無事帰ってきてこいつの使い心地を報告します。それじゃ!」


 不覚にもおやっさんの男気にうるっと来そうになったのは内緒だ。なんだろう、例外もいるがこっちの世界に来てからすごく人に恵まれているって気がするな。





 その後、冒険者ギルドに寄りエレノアさんへ事情を説明しいざというときセフィさんが師匠の下へ逃げ込む手はずを整えてもらった。俺自身はダンジョンに篭ることであいつらへの牽制も兼ねていると伝えてもらう。

 心配かけてしまってますね、本当に申し訳ない。現状を打破するためにも強くならねばな。

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