第45話 桃の錬金術師
前回までのあらすじ:キングサイズのベッドに引きずり込まれてだいしゅきホールドされたノブサダであった。
ちゅん、ちゅん、ちゅん
中のみドラ3。おはようございます、ノブサダです。
最後の一口のお酒で頭ががんがん痛いとです。キュアポイズンで二日酔いは治らんもんですかね。そしてそれでもいつもの時間に目が覚めてしまうのはもはや職業病でしょうか?
セフィさんの拘束も解け現在気だるい感じでベッドに横たわっております。
というか隣のセフィさんや。あなたいつの間に脱ぎやがりましたか。襲っちゃいたいほどの色気ではありますが俺の中の変態という名の紳士はなし崩しのそれを望んでいないのでそっとベッドから抜け出します。
ミタマたちもそこに寝てるしね。
散乱した石皿をクリアで一気に範囲洗浄し回収していく。炎の狛の備品をより分け残った料理は弁当箱サイズの石器に詰め直す。ベルやミタマがあとで食べるだろうと見越してのことである。
折り詰めっぽいのが3つほど出来上がりひとまず片づけを終えた。
しかし、ミタマは幸せそうに寝ておるのう。ついつい悪戯心が芽生えてしまうのだよ。
ぷにぷに
緩んだ寝顔の頬を指で突っついてみる。柔らかな肌の弾力が指を押し返してなんとも気持ちいい。あかん、これもある意味寝込みを襲っていることになるんだろうか?
ぷにぷに
止められない止まらない。いや、止めような。ちょっとした嗜虐心を自制し借りた皿を一階へと返しに行こう。
腰に月猫を差したまま皿を持ち部屋を出た。
厨房へと皿を運びいれ昨日はお騒がせしましたと謝罪とお礼をするとストームさんのお袋さんは『なに、いつもの冒険者連中に比べたら大人しいもんさ』と豪快に笑っていた。まさに女傑と言わんばかりのお袋さんはそう言いつつバルンバルンとびっぐなお胸を揺らしつつ豪快に配膳等を行っている。ノーブラっすか。
ちょっと裏庭で素振りしてもいいですかと訊ねたら了承を得たのでさくっと日課である素振りをしようか。
ヒュンヒュン
意識を集中して月猫を振るう。師匠と対峙するのをイメージしつつ型を割り当て対戦さながらに振るっていく。少しずつ、ほんの少しずつではあるが手に馴染んできているのが実感できていた。いつかは手足のように振るえるようになりたいもんだ。
1時間ほど汗を流し借りていた部屋へと戻ると寝ぼけ眼でぼんやりしているベルがいた。
「おう、起きたか。ベル、朝飯食うか?」
「ふぁい、おはようごじゃいましゅ。……ハッ! 食べます食べますとも!」
食べ物に関してのベルは遠慮がない。極貧のころの習性だろうか。
折り詰めは帰りに持たせるとして昨日ベルが差し入れてくれたパンをスライスし魔法で軽く炙ってやる。
カリッカリに焼きあがったパンの上にチーズを乗せちょっとだけ更に炙ってとろとろにしたところをベルへと差し出す。それを頬張るベルはやはり子リスのようだと改めて感じるな。姪っ子が小さい頃こんなだったなあと思い出しちょっとだけしんみりとした。ベルは男だけど。
「……いい匂い」
くーーー
匂いに釣られて目覚めたミタマの可愛い腹音が鳴る。
「ミタマも食べるか?」
こくりと頷きいそいそと席に着きまだかまだかと目が催促している。それを見てくすりとにやけてしまう。先ほどと同じ手順でささっとミタマの分も作ってやる。
「……そう言えば」
「ん?」
「……セフィさんとノブは大人な関係?」
ぶふぉあ
思わず果実水を噴出してしまった。なんてことを言い出しますか。向かいのベルが果実水まみれですよ。すまんすまんと手ぬぐいを取り出してベルに渡す。
「いきなりどうした?」
「……今朝、二人で一緒のベッドに寝てた。ずるい」
見られてましたか……ずるいってあーた。確かに一緒に寝てたけれどもさ。見ろ、隣でベルが顔を真っ赤にしているぞ。
「まだ大人な関係ではないよ。なにもしてないし」
「……本当?」
「うん」
「……ならばよし」
いきなりどうしたミタマさんや。なにやらこそりとガッツポーズをしている。
「……ごちそうさま。ありがとう、ノブ。また後でね」
「お、おう」
なにやら生き生きと部屋を出て行った。一体なんだったんだろう。結構奔放なところはまさに猫だねぇ。
そしてセフィさんは未だに寝こけている。もうチェックアウトですよ。
今回の宴会はみな満足してくれたようです。
轟沈した師匠が二日酔いで弱っているところを部下の人に連行されていったりする一コマがあったけれども概ね問題なし! またそのうち皆で集まれればいいな。
それから一週間。
あれから日々の修行と依頼、そして新商品の研究に勤しんでいた。
裏側へ回ったことでこの店の実態は多少把握できたと思う。『ひきこもりのラミア』は見た目そんなに流行ってないように思える。だが、セフィさんの個人的な伝手で騎士団や衛兵隊、果ては貴族まで直接卸しているので想像以上の売り上げがある。そして不味いのが常識だったポーションを改良したことでその評判も上々なのだ。
セフィさんのところで調合部屋を借り桃薬粉を改良してキュアポーションやマナポーションにも桃味を作り出すことに試行錯誤する。キュアポーションのほうは目途がついていたんだがマナポーションの効果が高くなりすぎて問題になった。レベリンゴジャムにすら魔力の回復効果が付いてしまうくらいなのでマナポーション用の素材に同様の処理を行うとハイマナポーション並の効果がでる。
効果が大きいならいいじゃないとお思いだろうが市場の相場を崩すつもりもないし同業者を締め出すような真似もしたくない。そんなことをして余計な恨みを買うのが馬鹿らしいからだ。
やはりというか桃と薬草と中和剤の比率調整に四苦八苦した。
そしてそれはセフィさんの『それじゃあ違うものを足してみたらどうかしらぁ』の一言で解決することになる。俺が加えたのはなんとレタスとニンジン。これでうちのマナポーションは冒険中に不足しがちな食物繊維を存分に取れる健康飲料と化したのである。
そして類似品などの対策として全て和泉印とマーキングした専用の石器を準備した。サイズ的には栄養ドリンクの瓶程度、側面にうちの家紋を刻んである。種類ごとに形を変えて入れる薬品の間違いを減らすことも忘れない。容器をリサイクルで持ち込めば値引きになるシステムも導入した。リピーターもこれでうはうはであろう。
桃薬粉と桃解薬粉(キュアポーション用の粉)、桃魔薬粉(マナポーション用の粉)の開発により材料のコンパクト化と生産工程の簡略化に成功したので売れ行きを見て生産量を増やしていこう。そのうち従業員も増やさないといけないかもしれないな。
なんで俺が全部決めてるんだろう……。セフィさんに丸投げされちゃったんだよねぇ。
そこまで信用してくれているのは嬉しいのだがいいんだろうか?




