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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第二章 鬼姫邂逅
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第44話 飲ま飲まイェア


「ノブく~ん、買うてきたでー。うっふっふっふ、いやーん、久しぶりに沢山飲めちゃいそうやぁ」


「……姉さん。ほどほどにしないと駄目だよ」


「ええの、今日はすぐそこが寝床やもん。カグラもおるし潰れたら運んでもらえるやないの」


「構わんがのぅ。妾も今日は羽目を外そうと思うゆえ確約はできんことだけは言っておくのじゃ。おおう、しかしまた、随分と美味しそうな香りじゃな」


「お帰り、今日はたくさん準備したから楽しんでくださいな」


 お酒を買い込んできた3人が部屋へと入ってきたのだが……。酒買いすぎじゃね?

 明らかに20本近くあるんだけども。セフィさんも持ってくるって言ってたし一体どれだけの量になるんだ?


「ノブサダさん、お邪魔しますー。御呼ばれしちゃったので来ちゃいました。これ奥様達からの差し入れなんですけどおすそ分けです」


「おう、今日は楽しんでいってくれ、ベル」


 ベルがひょこりと顔を出して照れくさそうに差し入れを持ってきた。中身は……パンの詰め合わせか。これはカットして並べておこう。一時期に比べると本当に血色も良くなり心持ちふっくらしてきた。まだまだ細いけどもな。


「これはまた随分と綺麗どころを集めたのぅ、ノブサダ。やれやれ、エレノアも出遅れると……」


 ゴスン!


 部屋へ入ってきた師匠のスネにエレノアさんの踵が鈍い音をたててめり込んできた。そしてそのまま足の甲を踏みしめる。

 OH、師匠の顔に苦悶の表情が。あれは痛い。見てるだけでぞわっとくるんです。


「ノブサダさん、父共々御呼ばれしたので参りました。これ飲めない方用にお使いください」


 そうエレノアさんが差し出したのは果実水が入った陶器の詰め合わせ。桃味以外にも葡萄や林檎など数種類の果実水が入っていた。おお、ありがたい。特に俺に! あえて言おう、下戸であると。


「あらあらぁ、たくさん居るのねぇ。ノブちゃん、来たわよぉ。うふふぅ、はい、これが『腰の塩梅』に『首領ドン・ペリー』。残りは後で出すわねぇ」


 お酒の銘柄を聞いた瞬間、フツノさん、カグラさん、師匠が飛びついた。


「『腰の塩梅』やて!? おかんの故郷のお酒やん。うわぁ、死ぬまでに飲みたい思うてたんが目の前にあるわ」


「むぅぅ、『腰の塩梅』は妾も久しく飲んでないのじゃ。あの辛口が堪らんのよのぅ」


「儂はやはり『首領ドン・ペリー』じゃの。公爵の所で飲んだばかりじゃがこいつはいつ飲んでもたまらんからの」


「うふふぅ、他にも色々と持ってきたから慌てちゃだ・め・よぅ」


 飲ん兵衛4人がお酒談義で盛り上がっているところベルとミタマは料理を目の前に目を輝かせている。


「うわぁうわぁ、見たこともない美味しそうな料理がたくさんですよぅ。これ食べちゃったら色々と大変なことになりそうです」


「……じゅるり」


 ミタマさん、そげな獲物を見つけた肉食獣の目をせんといてください。たくさん準備してあるからまだお待ちなさい。


 全員揃ったところで席についてもらう。ま、一応主催なので軽く挨拶でもしますか。ミタマちょっとまっててすぐおわるから。滝のような涎を拭いてくれ。


「えーっと、今日はお集まりいただいてありがとうございます。俺がこの街に来て一ヶ月とちょっとが過ぎました。今日まで無事に冒険者家業を続けてこれたのも皆さんのご協力あってこそだと思っています。些少ながら宴の準備をしましたので御賞味ください。……長ったらしいのはここまででそれじゃ皆さんかんぱーーーい」


「「「「「「「乾杯っ!」」」」」」」


 その合図と共に各々思い思いに食事にお酒と食事に舌鼓を打つ。


「……はむはむはむはむはむ。ほふぅ、うまうま」


「はむー、おいひいれすー」


 まるでリスのように口いっぱいに詰め込むミタマとベル。割と無表情なミタマはこんなときはとてもとても幸せそうな顔をする。この顔が好きなんだな。

 あー、ベル、喉を詰まらせるから落ち着け。差し入れで貰った果実水を注いでベルの前に置いてやる。ゴッゴッゴッっと音がするほど喉を鳴らし慌てて飲み干すベル。料理は逃げないから落ち着いて食べなさい。



「くぅぅぅぅ、五臓六腑に染み渡るのじゃ。堪らんのう」


「料理も美味いし酒も美味い。下手な貴族の食事会よりよほど豪勢じゃわい。ノブサダが来てから成長も楽しみじゃがこの料理も楽しみで仕方ないわな」


「んー、このタタキっていうのは『腰の塩梅』に合うやん。お酒が進んで仕方ないわぁ」


「んふぅ、やっぱりお酒は楽しく飲むのがいいわぁ。うふふ、美味し」


 皆が酒に料理に盛り上がっている中、俺と一緒に給仕のように活動しているのはエレノアさんだ。合間合間で食べてはいるようなんだが苦労性なのか俺がせかせか動いているのを見て自主的に動き始めた。


「エレノアさんすいませんね。手伝ってもらっちゃって」


「折を見て頂いてますので大丈夫です。とても美味しいですね。私もあまりお酒が得意ではないですから気にしないでください」


 ニコリと微笑むエレノアさんの手元には結構な量の惣菜が集められておりあれよあれよという間に消えていく。そうだった、彼女はものすごく食べるの早いんだったよ。それでいて物腰柔らかなのが崩れないんだよね。

 俺も無くなる前に炎の狛の料理を味わっておかないとだな。


 ぱくり


 んーーー、んまい! 素材の味を引き立たせる為に余計な味付けはほぼない。それでいて絶妙な塩加減なので味が薄いと感じることもないのだ。ちょいと大味になりがちな俺のと違ってこのバランスを取るのはかなりの腕だろう。ストームさんのお袋さんやるな!


 ひょいぱくひょいぱくと摘みつつ気付けば結構お腹も膨れてくる。だが、他の面子の勢いは止まらずあれだけあった料理は残り3割をきっていた。すげぇな、おい。

 空き皿を片付けつつリュックから料理を補充する。ちょっと前ならリュックから料理の補充ってどんな奇術だよとつっこむところだがもはやこれが常識になってしまっているから気にしない。








 そんな戦場はそろそろお開きとなりかけていた。

 師匠はセフィさんとの飲み比べで大敗を記し轟沈。ベルはお腹一杯食べて満足したのかうつらうつらとしていた。


「いやぁ、まさか戦拳がこんにゃところで敗れるとは思わんかったで。セフィはん強いにゃぁ。うちもしょこしょこ強いと思うてたんやけどもこれはあかんわぁ」


「これこれ、フツノや、あーもうフラフラしよるのぅ。ノブサダよ。すまんが妾らはここまでじゃ。これ以上こやつを置いておくと何をしでかすか分からん。本日は馳走になった。この礼はいずれするゆえにな」


「まらまらうちは飲めるんにゃお。むっふぅ、あ、ちょっと、いやん。カグラ、持ち上げんといてぇ」


 じたばたと手足を動かすフツノさんをひょいと担ぎ上げてカグラさんは部屋へと運んでいった。彼女自身も随分と飲んでいたのでそのまま戻るという。うん、着物が肌蹴て色っぽいフツノさんを放置しておくと脱ぎだしかねないからその選択は間違いではない。ちょっとだけ残念ではあるがな!


「それでは私もここでお暇させていただきますね。父を運ばないといけませんので」


「それなら俺が一緒に運びますよ?」


「これくらい慣れっこなので大丈夫ですよ。今日はご馳走様でした。この様子だと父も明日は二日酔いでしょうからノブサダさんの都合がいい日にまた訓練の日取りを教えてください」


「そうですね。しかし、師匠がこんなに酔いつぶれるとは予想外でした」


「私もです。セフィさんは余程お強いんですね。それと今日の宴の雰囲気が楽しかったのでしょう。あれだけはしゃぐ父を見るのも久しぶりでしたし。それではまた後ほど」


「帰り道気をつけてくださいね。おやすみなさい」


 ニッコリ微笑むエレノアさんは師匠のあの巨体を軽々と背負っていく。うん、初めて見たときは目だが飛び出るかと思うくらい驚いたけどエレノアさんの膂力は半端じゃないのだ。あの細腕でどうやってと思う。筋肉密度とかどうなってんだろうね。

 そしてミタマとベルは……。あいやあ、二人ともすやすやと寝息を立てている。ミタマはソファに寝ているからいいんだがベルは皿に顔を突っ伏したまま寝こけている。二人とも満ち足りたのか幸せそうな寝顔をしていやがるんだぜ。

 無理に起こすのも忍びないので寒くないよう上から羽織らせておく。


 さて後は……いた。セフィさんの姿が見えないので探してみるとキングサイズのベッドに突っ伏しているようだ。やれやれ、どれだけ飲んだのやら。起きれるようなら店のこともあるし背負って運ぼうかと近づいたときだった。


 しゅるん


 おえあ?


 俺の体は勢い良くベッドの中へと引き込まれてしまう。な、なにごと?

 目の前にはとろん蕩けそうな表情としたセフィさんの顔。ぎゅっと抱きしめられ身動きが取れない。

 なんですのん、この柔らか幸せ地獄。


「ちょっ、セフィさん、一体な……」


 最後まで言い切ることが出来ずに俺は口を塞がれ口内になにか流し込まれた。これは、酒か!?

 喉を熱い液体が通っていく。セフィさんが唇を離すとちょっとむせ込むように息を吐き出した。


「んふふふぅ。ノブちゃぁん。一人素面は駄ぁ目なのよぅ」


 いや、何を言ってますの。まだ、後片付けが残ってるんですよ。ちょっ、セフィさん。胸を押し付けないで! 予想以上の力で押さえつけられ本当に身動きできない。そのうちに酒が回ってきたのか頭がくらくらする。下戸にどんだけ強い酒飲ませたんだよ。


「……ありがとねぇ。こんなに楽しい宴なんて初めてなのよぅ。ノブちゃんに会ってから目まぐるしく色んな事があったけどとっても幸せだわぁ……すぅすぅ」


 そう囁いたセフィさんはそのままの態勢ですやすやと寝息を立て始めた。無論、俺の体をがっちりホールドしたままである。だがその幸せそうな寝顔を見るとこんなご無体も許せてしまいそうだ。

 もういいや、俺もこのまま寝てしまおう。なんかもう、フラフラしてきたし……。ぱたりと俺の意識は遠のいていったのだった。


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