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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第二章 鬼姫邂逅
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第38話 カグラさんとの冒険 過去編

 これは十年以上も昔の話。


 人里離れた森の中にある小さな小屋。そこには地下室があり薄暗い地下には小さな子供が鎖に繋がれ気を失っているように見える。

 鎖の先には一人の男。白髪で頬に大きな痣が目立つその男はナイフを子供へ押し付け目の前に立ちふさがる大女へにやにやと下卑た笑いを向けていた。大女の額には20cmはあろうかという角が二本突き出ている。


「くくく、子鬼だけかと思いきやこんな大物が釣れるとは思わなかったよ。その得物を置いてこっちに従いな。この子鬼を殺されたくなかったらなぁ」


「くっ、この卑怯者め」


「なんとでも言いいな。最後に笑うやつが正しいのさ。なに、お前が素直に奴隷へと堕ちるならば娘の命は助けてやる。おっと余計な真似はするなよ。ナイフ以外にも呪印で命をとることも可能なんだからなぁ」


 がらんとその手に持った金棒を地面へと放り悔しげに奴隷商人の男を睨みつける。


「好きにせよ。だが約束は守ってもらうぞ」


 男は相変わらずにやにやしながら鬼人族の大女へと近づき奴隷の印を刻んでいく。最後に呪具である奴隷の首輪をはめて契約を完了させた。この首輪は主人の命に何かあったり主人が望めばぎりぎりと首を締め付け最後には死に至らせる。

 鬼人族は呪いに対する耐性が高く奴隷契約ですら簡単に縛り付けることはできない、本来ならば。ただし、その者が受け入れれば話は異なる。鬼人族の大女は子供を助ける為、あえてその呪いを受け入れたのだ。


「くくく、これでお前は俺のモノだ。さて、次は……」


 くるりと背を向け子供のほうへと近づく男。


「貴様! 子供には、娘には手を出さないと言ったであろう!」


「ああん? 命は助けてやる、そう言ったはずだぜ。そう、命だけ(・・・)は助けてやるよ、命だけ(・・・)はなぁ」


 けたけたと意地悪く笑いながら懐から鈍い光を放つ黒い魂石を取り出すと子供に押し付けた。


 かはっと息を吐き苦しげに男を睨む子供。魂石から黒いもやがじわりじわりと溢れ子供の体に纏わり付きやがて吸い込まれていった。


「こいつは成長を止め今起きたことを決して忘れることができなくする。こうして恐怖に縛っておけば後々使いやすいからな」


「貴様ぁぁぁぁぁ!!」


 激昂し男へと掴みかかる母鬼。だが、男の肩を掴んだ瞬間、ぎりりと首輪が締まりさらに激痛が全身を襲う。


「馬鹿が。奴隷の身で主人に逆らうからそうなる。態々金貨の山がそこにあるっていうのに馬鹿正直に手を出さねえやつがいるかよ」


 母鬼へ再度背を向け子供へと奴隷契約を施そうとしたその時、奴隷商人の男の胸から真紅に染まった母鬼の貫き手が突き出ていた。からんと男の手からナイフが落ちる。


「なん……だとっ。俺を殺せばお前も……」


 ドサリと男の体が崩れ落ちる。その瞬間、奴隷の首輪が怪しく震えたと思うと母鬼の首を一気に締め上げる。息も絶え絶えの母鬼。子供へ向かって這いずりよって鎖を引きちぎり母鬼は優しく話しかける。


「カグラ、強く生きなさい。あなたは誇り高き鬼人族の貴き血筋。どうか幸せになって……」


 そう言った母鬼は首輪に絞め殺されるのをよしとせず男のナイフを拾い上げ自らの心臓へと突きたてた。





 涙が枯れ果てるかと思うほど泣いた後、母上の遺言を守るために妾は立った。子供の力では里まで運ぶことができぬため母上の遺体を外へと埋葬した後、一人里へと戻った。

 後日、遺体を里の墓へと移す為に里の者と再度訪れると埋めたはずの場所が掘り起こされ母上の遺体が無くなっていた。

 嫌な予感を感じ地下室へ向かうと放置していた奴隷商人の男の死体も無くなっている。


 母上の遺体をどうしたのかは分からぬ。だが何者であろうと必ずや取り戻す。できぬならば自分の手で今度こそ黄泉路へと送ってやるのが子の務めぞ。


 それから里を出て傭兵として各地を転戦して歩いた。僅かでも情報があれば北へ向かい南へ向かい幾年も月日が流れる。鬼人族であることを隠す為、姿変えの秘術を用いておったがそれが切れる頃、あの時の姿へと戻ってしまうことが分った。そこから呪いを解くという目的が加わったのじゃ。これまでは子供の姿へ戻っても角までは隠れていたはずなんじゃがな。



 グラマダへ定住していたのは入手が困難だった魔力水が比較的入手しやすかったのと近場に鍛え直す為のダンジョンがあったためじゃの。どうにも力不足を痛感していたのじゃ。






「これが妾の過去じゃ」


 立ち上がり俺に背を向け淡々と自らの過去を語ったカグラさん(幼女)。当時を思い出してしまったのかその声は震えており小さくなってしまったその体はさらに小さく感じてしまう。


「ノブサダも普人族じゃ。あの男のように妾が高値で売れると分かれば目の色を変えてしまうのじゃろう?」


 その言葉は心外だとばかりにカグラさん(幼女)へ話しかける。もう敬語とかもやめだ。取り繕った言葉じゃ届くか分からないし本音をぶつけよう。


「ない! それはないぞ! カグラさんほどの美人を傍に置くならともかく他人に売るなど勿体無くてできん!!」


「はへ!?」


 間の抜けた顔をしてこちらを窺うカグラさん(幼女、もういい?)。ちょっと鼻垂れてるよ。


「それに正直に話せば最初に会った時からカグラさんが鬼人族だって知ってたよ。鑑定も使えるんだ、俺」


「むむむぅ。鬼人族と分かった上で今回の依頼を受けたと言うのか。妾のこと、怖くはないのか?」


「いや、全然。むしろ話しやすいしおっちょこちょいだったり純情だったりするところは可愛いなって思うよ?」


「ぐ、ぐぬぬ。年上をからかうでない。……ふぅ、お主と話していると力が抜けてくるわ。もうよい、妾の負けじゃ」


「取り合えずだ。そのままの格好だと色々とまずいからちょっとこっちに来てくれるかな?」


「??」


 カグラさんが自分の姿を省みるとサイズが縮んだ為、衣服は肌蹴て所々見えてはいけないところが見え隠れしている。いかに小さいとは言え流石に困る。おまわりさん、こいつですっていうのは勘弁な。

 かーーーっと茹で蛸のように顔を真っ赤にしたカグラは動揺しながらこちらをちらちら窺う。


「わ、妾に何をする気なのじゃ。ま、まさかこの幼い体に……」


「いやいやいやいや、違うから。カグラさーん、現実に戻ってきてくださーい」


「……いきり立ったノブサダの一物を……妾の幼い秘れ……ああああっ、妾にはっ……」


 なんでか身悶えるカグラさん。どんな妄想してるんですか、あなた。


「おーいってば。俺の予備で悪いけれど今の体に合わせた服を拵えるだけだよー」


「そ、そうか。すまぬ。母上が男は体で繋ぎ止めるのも手じゃとか言っていたからてっきり……」


 ころころ表情が変わって面白いな。幼い体になってより感情に流されやすくなっているんだろう。

 それよりもカグラさんの母親は幼い子供になんてことを教えてるんだよ!?


 そんな事を考えつつリュックから針と糸、予備の上着を取り出して大雑把に仮縫いをしていく。小柄な俺の上着とはいえ今のカグラさんではかなりだぶつく。余分なところを折れた鉄の剣で切ったり詰めたりしながらあれよあれよというまに子供用ワンピースもどきが完成した。うむ、なかなかの出来である。


「これはまた器用じゃのぅ。このようなフリフリした服なぞ着たことがなかったが悪くないものじゃな」


 くるりと回ってみて着心地を確かめている。になまりと頬が緩んでいるところを見るとどうやら気に入ってくれたようだ。ちなみに下穿きは布の切れ端を使って紐パン風に穿いてもらっている。穿かないのは色々とまずいからね!


 だいぶ時間もたったようだし食事でもして落ち着いてから今後のことを相談しようか。


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