第37話 カグラさんとの冒険 ロリータ編
だいぶ落ち着いたところでタマちゃんに連絡を取ってみる。『うちらは主様待ちでしたんぇ』っていう感じの返答がある。遅れてすまんですたい。
魔法陣に乗ると最初と同じように光が溢れ転移が始まる。
光が収まり眩しさで細めていた目を開けると目と鼻の先にカグラさんの顔があった。それこそ少し前へ踏み出せば触れ合えるほどに。重力に引かれ下へ落ちる感覚に囚われたと思った瞬間、ひゃああああああという叫びと胸部へ加わる激しい痛みに襲わる。
「あべらっ」
俺はゴロゴロと転がり壁へとしたたかに打ち付けられた。その姿は潰れたカエルのようである。
あいたたたたた、本日一番のダメージはカグラさんから受けましたよ。
「す、すまぬ。いきなりの事で動転してしもうた。だ、大丈夫か?」
「ちょっとあばらが痛いですけどヒールかけるから大丈夫」
「ほぅ、ノブサダは魔法が使えるのじゃな。てっきり戦士かなにかだと思うておったのじゃが」
「ま、そこはおいおいってことで。もっと親密になったら枕を並べて話してもいいですよ? なんちゃって」
「ば、ばばばば、馬鹿者。年上をからかうでない。さ、先に進むのじゃ」
顔を真っ赤にしたカグラさんが先導して進んでいく。あれだな、カグラさんは歳のワリに随分と初心なんだな。そんなお嬢さん、嫌いじゃないです。
ダンジョン風だった先ほどまでの部屋とは違いここは光源がなければ真っ暗な通路である。明らかに造りが違う。
5分ほど進んだ先に再び開けた場所が見えてくる。今度は中央に泉だったと思われるような建造物がある。ここだけ雰囲気が随分違うな。
泉だったというのは石作りの枠の中には水が一滴もないからである。それを見たカグラさんはがっくりと膝をついて項垂れている。
「な、なんてことじゃ。これではもはや間に合わぬではないか……」
「カグラさん……」
そんな時、再びぐらりぐらりと地面が揺れ始めた。
「きゃあ」
可愛らしい声をあげてカグラさんがこちらへと飛びついてくる。ぽよんとしたものが押し付けられ幸せに浸っていると向かいの壁が崩れ下りの道が顔を出している。元々あった道が塞がれていたようだ。
「カグラさん、壁が崩れて奥に進めるようだけれど今までこんな道あったかな?」
「い、いや、知らなんだ。地下に行けばもしや水が湧いておるかもしれんの」
パっと離れて何事もなかったようなふりをする。
「さ、行こうぞ、ノブサダ」
照れ隠しなのかそそくさと足を踏み出した。慌てて追いすがる目の前でカグラさんの姿が不自然に下がる。
「へあっ!?」
降り口の手前の地面が一気に崩れだしカグラさんがずり落ちる。はしっと手を掴んで支えようと踏ん張った。
ぐぎぎぎぎ、支えにするため鉄の剣を抜き地面へ突きたてようとしたその時!
ガラッ
ん?
ガララララッ
俺が立っていた場所も波及するように崩れ始め一気にバランスを失い奈落の底へ吸い込まれた。
「こんのぉぉぉぉ」
抜いておいた鉄の剣を地肌へと突きたて勢いを殺して……いくことが出来ずにザガガガガと土を切り裂きつつ落下が続く。ぬおぁぁぁぁぁ。
ガキン
がくんと勢いが止まる。これは岩か何かに引っかかったか!? ラ、ラッキー!
ビシッ、ビシッ
んん? なんだこの音は?
パキーーーーン
鉄の剣がぱっきりと折れて落下再び! やっぱりついてなーい。メタルマリモの姿が頭をよぎりあれが原因かと後悔した。
くそっ、カグラさんだけでも守らないと……。どうやら崩れたときに床の欠片か何かが頭に当たったようでカグラさんは意識を失っているようだ。なんとか体の態勢を変え自分が下敷きになるように仕向ける。
自分にプロテクションをかけ直し衝撃に備え……。
どごすっ!
れなかっ……た……の……ね……
ノ……
ノブ……
ノブサダ!
「はっ! ここは!?」
なにか柔らかくてすべすべしたものの上に頭が乗っていた。見上げれば巨大な双丘が視界を妨げる。
ちょっと、いやだいぶ幸せな状況に驚きつつも堪能すべく神経を集中した。背中は痛いけれどそれはそれ、これはこれである。しかし、あの衝撃で割と平気なのは随分と人間離れしてきたかもしれない。
「目を覚ましたか?」
「ええ、なんとか。カグラさんは大丈夫ですか?」
「うむ、ノブサダが身を挺してくれたお陰で怪我はないのじゃ。ありがとう、ノブサダ」
少し涙声でカグラさんが話しかけてくる。だがその表情は双丘に遮られている為、まったく見えない。
いや、怪我がなくてよかった。こっちの世界に来てから打たれまくってるのでだいぶ打たれ強くなったから大丈夫でござる。
だが、今思えばアースウォールかなんかで足場なり取っ手なりを作れば良かったんだよな。とっさの判断力がまだまだである。
「ここまで来ては話さずにはおれぬのぅ。ノブサダよ、妾は……ぐっ」
何かを語りだそうとしたカグラさんが苦しそうに胸を抱える。俺もがばりと起き上がり慌ててその体を支えた。
苦悶の表情を浮かべ体からは大量の汗が噴出しどう考えても尋常ではない。
「は、早すぎる。まだ時間には余裕があったというに……」
徐々にだが俺よりかなり大きかったその体躯が目に見えて縮んでいく。やがて縮むのが収まる頃にはカグラさんの姿は小学生程のロリ体型になっていた。あのビッグなメロンは見る影もなくなり、その額には鬼人族の象徴であろう二本の角がしっかりと見えている。
「くぅ、これがここへ来る事になった理由じゃ。とある呪いから一月に一度ここの湧き水を用いて姿変えの術を施さねばならぬ。効力が切れると呪いの作用でこの様なのじゃよ」
よかった。ばいんばいんなアレは偽物ではないんだね。アレを失うのは国宝を叩き割るようなものだと思うのですよ。
「なるほどね。鬼人族だとばれるとそんなにまずいんですか?」
「へぁ!?」
カグラさんは小さくなったその手でぺたぺたと額の辺りを触り角の感触を確かめると絶望的な表情を浮かべる。ふらふらと歩き出したかと思うとずれた衣服が絡みつきべしゃりと盛大に転んでしまった。
「くふぅ、失態、失態なのじゃ。こうなればノブサダ、お主を殺す他ない!!」
まてまてどうしてそうなる。明らかに心神喪失状態のカグラさんを押さえ込んで説得を試みる。幸い小さくなったお陰で暴れる力もだいぶ弱い。
「どうどう、落ち着いてカグラさん」
「妾は馬ではない! 鬼人族と分かれば皆戦闘奴隷や慰み者の性奴隷として売られていくのじゃ。いかにノブサダとて欲に駆られてしまえばどうなるか分からぬ。妾の母上も妾を助ける為に奴隷となり死んでしまったのじゃぁ……ぐすっ、ひっく」
ついには泣き出してしまったカグラさんを落ち着かせるため子供をあやす様にそっと抱きしめながら背中をぽんぽんと軽く叩く。




