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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第二章 鬼姫邂逅
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第36話 カグラさんとの冒険 金属片

 準備を済ませるとカグラさんと肩を並べて洞窟の奥へと進む。


 カグラさんがランタンを掲げながら奥を指差すとそれなりに奥行きがありそうな気がした。一本道ではあるが螺旋を描き少しずつではあるが地下へと向かっているな。しかし、この洞窟はいったいなんなのだろうね。カグラさんに聞いても以前受けた依頼でここにゴブリンが住み着いたことから討伐をしたことからたまたま奥へ続く道を見つけたらしい。

 村へ近づきたくないのはその依頼の際に宿の一人息子がカグラさんに一目惚れして求婚しているからだとか。ただ、一人息子といっても40のおっさんらしいけどな!


 突き当たりにはなにやら小部屋があるようだ。中には丁度人が一人で収まるくらいの魔法陣が二つある。


「よいか、ノブサダ。この魔法陣で飛んだ先にはダンジョンの如く魔物が湧き出る。道筋は一本道ではあるがそのせいで戦闘は避けられぬから気をつけるのじゃぞ?」


「任せてください。戦拳仕込みの腕前を披露しますよ」


「ふふ、あの修練場であった頃と比べると随分と逞しくなったものじゃな。では後ほどまた会おう」


「はい」


 互いに魔法陣の上にのって少しすると陣が反応し光が溢れてくる。目の前が真っ白になったかと思うと次の瞬間には淡い光を放つ小部屋にいた。見渡せばカグラさんの言っていたとおり一本だけ道がある。

 さて、気合入れていきますかね!




 ◆◆◆




「ふう、久しぶりじゃが転移までは問題なしと。ここからは気が抜けぬな」


 両手槍を構え直し通路へと向かい歩く。

 カグラが持つ両手槍はタイクーン公国で一般的に使われる槍とは違い東の国で作られた業物である。十文字の穂先と黒塗りの柄が特徴的な所謂十文字槍である。取り回しに多少気を使うが通路の広さは十分にある為、問題なく使用できる。カグラは両手槍と無手による格闘術で敵を屠っていくのだが血飛沫を浴びながら次々と敵を殲滅していく様を目撃した者からあのような呼び名がつけられた。

 カグラからすれば迷惑極まりない呼び名ではあるが余計な気を使うものたちの人避けになるのには重宝している。ちょっとした事情を抱えたカグラにはそれでもいいと気を許せるものしか傍にいてほしくなかったからであった。


 その時、グラグラグラとあたりが揺れる。日本と違いこの国に地震などほとんどないため慣れていないカグラは『キャア』と女性らしい小さな悲鳴をあげて屈みこんだ。


 揺れがおさまり再び周囲を警戒しながら進むカグラがふと胸元のタマちゃんへ向けて話しかける。


「お主はいいのぉ。共に歩めるものがおって。妾もこんな体でなければ……。いや、こんなことを言っても仕方がないか。ノブサダがこうして同行してくれただけでも満足するべきじゃの。妾の事情でこれ以上巻き込むわけにもいくまい」


 吐露された言葉に『カグラはん、主様ならきっと大丈夫どすぇ』と言わんばかりにふるるんと震えるタマちゃんに消え入りそうな笑顔を向けた後、再び前へと進むカグラであった。




 ◇◇◇




 一方ノブサダのほうでも地震を感じていた。


 だが、ノブサダは何事もないように平然と進んでいる。震災以後、震度3~4程度の微震が定期的におきていた為、たかだかこの程度のゆれでは動じないようになっていたのだ。


 道中、出会う敵はジャイアントバットやマヨイタケの随分とレベルが低いものばかりなので余裕を持ちながら進んでいる。


「奇術師やなんかのレベルがあがるのはいいんだけどもこう一本道かつ変わり映えしないと時間の感覚が狂うな」


 だいぶ進んだと思うが変わり映えしない道筋に少々飽きが来たころついに開けた場所に出る。転移した先と同様の小部屋の奥にはまたもや魔法陣が敷かれている。

 薬品など装備を再確認したあと自分自身にプロテクションとストーンスキンをかけて戦闘準備を整え部屋へと踏み込むと魔法陣を守るかのように小さな球体が天井より落ちてきた。鉛色の金属質なその体は薄明かりの小部屋の中でもテラッテラに輝いている。



 メタルマリモ

 HP:46/46 MP:12/12

 マリモが生んだ可能性の一つ。体全体が未知の金属へと変質しておりもはや藻ですらないがマリモである。鋼の体と心を持つに至ったマリモ界の機才であり鋼の心の為、退く事を知らない特攻野郎Mチーム。



 うほう、某有名冒険譚でよくあるメタル系の敵ですか。まったく、メタルな敵は逃げ去るのが定番だってのにな。

 幸いにして相手が動き出す気配はまだない。

 ならば先手必勝。色々と確認の意味も込めて改変魔法の一つを選択する。


浪漫兵装螺旋弾ドリルプレッシャーショット!」


 高速回転する風のつぶてが5つ放たれメタルマリモへ目掛けて飛んでいく。今のところ複数制御は5つが限界だ。


 ついんついん


 直撃したかのように見えたつぶては表面を掠めただけでダメージを与えたようには見えない。

 ならば直接斬りつけるかと身構えたその時、メタルマリモが動き出した。


 キューーーーン


 風を切る音が頬を掠めていく。勢い良く部屋の中を弾け跳ぶそれは留まることをしらないようだ。

 こいつはえぐいな。

 考えてみて欲しい。例えるならハンマー投げの選手が真正面から勢い良くハンマーを自分へ向かって放ってくる様を。師匠の拳より遅いしかわす分にはなんとかなっているのだが正面から打ち合うのは思考が拒否している。

 ならばと避けた拍子に横合いから斬り付けてみるも軌道がちょっと下がったくらいでたいして効いている感じがしない。


 ギィンギィン


 金属と金属がぶつかり合う音が何度も部屋の中に木霊する。


 ガッキィン


 タイミングもばっちり、こいつは会心の一撃か!? だがよく剣を見たらこちらの刃が欠けていた。ちぃ、このまま打ち合えばこっちの剣が持たないか。

 ならばと鞘へと戻し留め金をかっちりはめ込みそのまま構えた。


 ギュオオオオオン


 メジャーな漫画の主人公が投げる球に劣らぬ剛速球と化したメタルマリモがこちらへ向けて一直線に飛び込んでくる。


 左足を高く揚げ往年の本塁打王の如くタイミングを計って横薙ぎの一撃を叩き込んだ。


 ジャストミートォォォ! これぞノブサダ葬ラン!


 ガガギギイガゴギイン


 ってアホなこと考えている場合じゃない。小部屋の中なので場外へ向けて飛ぶ筈の打球は天井、地面、壁と縦横無尽に弾け跳ぶ。今までよりも勢いの良いそれに慌てて身を翻す。


 めごすっ


 が、避けきれずにメタルマリモの体は俺の臀部へと突き当たった。プロテクションとストーンスキンの効果が突き破られひどい衝撃にて俺の体が浮き上がるほどだ。

 痛たたたたたた。骨、折れてないだろうな。尻が腫れ上がりそうな痛みを堪えつつハイヒールで回復を促す。


 こいつぁ駄目だ。生半可な打撃じゃ俺のほうがやばい。

 初心に帰り先入観を捨てよう。某有名冒険譚じゃないんだからメタルな奴等に魔法が効かないとは断言できない。


「ファイアアロー!」


 生み出された5本の炎の矢がメタルマリモに着弾する。ははは、こやつめ避けようともせんわい。

 ならば金属には電気。


「サンダー!」


 ぬ、メタルマリモが避けようと飛び跳ねる。だが雷撃は金属体であるメタルマリモに引かれるように襲い掛かった。これなら多少だがダメージがあるのか? 素のサンダーは放電を範囲に撒き散らすタイプのためそこまで高威力とはならない。収束して威力を高めようと実験していたがまだそこら辺がうまく調整できていないのである。できるなら収束、圧縮して強力な魔法に仕上げたいところなんだけれどもね。

 だが、活路は見出した。細かく削っていくのであるよ。


「サンダーサンダーサンダーサンダー!」


 何発も撃っているうちにメタルマリモの動きがだいぶ鈍ってきたようだ。今が攻め時と感じ鉄の剣を腰に戻し小手に付けられていた留め具を外す。手を軽く振るうと小手に接続されていた拳甲部分が丁度手に収まった。

 これが戦闘中の装備の換装をしている時間がないとおやっさんに相談して共同開発した鉄蟻の拳甲改である。細かい部品を手製で作らないといけなかったからおやっさんには随分と苦労をかけてしまった。





 まずは動きを止める!


赤壁突風大炎上バーストストーム!」


 魔力を練り上げ単体を飲み込む炎と風を複合した嵐を生み出した。重量感のあるメタルマリモだが流石に耐え切れずに巻き込まれ天井へと叩きつけられてめり込んでいく。拳甲を握り締めメタルマリモの真下へ向かうと同時に魔法を解除。熱せられ赤くなったメタルマリモが落下する。識別の魔眼を駆使して打つべき一点を視認、拳を中心にサンダーを収束させそれに目掛けて垂直に突き上げた。


「熱風ぅぅぅ戦拳突きぃぃぃ!!」


 雷を纏った拳が唸りをあげてメタルマリモへと吸い込まれていく。放射状に放つのではなく俺を基点とすれば収束はできるのだ。さらに魔法で発生した雷は俺自身へとダメージを与えることはない優れもの。

 メタルマリモの体と鉄蟻の拳甲が激しくぶつかり合い火花を散らす。その間も収束した雷が拳甲を伝ってメタルマリモの体をバリバリと感電させていた。


 ビシィィィィン


 やがて拳を突き入れた箇所からメタルマリモの体にヒビが入った。ぴきぴきと音を立てながら割れていき二つに分かれたそれは金属音を発して床へと落ちる。


 戦拳突きは敵の核や急所を適正な角度で正確に打ち抜くことにより打撃の力を損なうことなく伝える師匠オリジナルの技である。俺の場合、識別の魔眼で分析してボンヤリとだが打ち抜くタイミングを計ることができるようになった。だが、師匠の場合は完全に勘のみで正確に打ち抜いてしまう。繊細なんだか豪快なんだか表現に困るのこの技だが完璧に会得できたのはいままでにエレノアさんだけらしい。親子だけの何かがあるんだろうか。

 ちなみに技名を叫ぶのはそれによって威力が上がるとの師匠の教えである。冗談だろうと思っていたが実際に効果がでているのだから仕方がない。


 真っ二つに割れてしまったその体はやがて光の粒子となり消え去っていった。

 やっぱりここダンジョンと繋がってるんじゃないのか? 転移魔法陣で飛んだ先がダンジョンと繋がっているとかありそうだ。



 てれれてってって~♪ 錬金術師、奇術師のレベルが上がりました。

 てってれ~♪ 付与魔法が解放されました。

 てってれ~♪ 重力魔法を習得しました。




 あ゛、クラスそのままだったじゃないの。なんて迂闊な。

 うほっ、両方とも一気に12まで上がっている。やはりメタル系は経験値が高いのだろうか。

 け、結果オーライ。ポジティブにいこう。決して目を背けているわけではないのだよ、諸君。

 しかし、相変わらず習得と解放の違いが分からんな。どうなってるんだ?



【付与魔法】

 作成する品に様々な効果を付与する為の魔法。ただし、付与する効果ごとに触媒や前提の魔法が必要になる。天恵とは異なり後天的な能力付与のため品物により付与させることの出来る数には限界があるので注意。


 Lv1

 軽化 品物の重量を軽減する。

 硬化 品物の硬度を上げる。



【重力魔法】

 重力を操り様々事象をおこす魔法。


 Lv1 グラビトン 重力をかけて対象を押し潰す。



 両方とも便利そうだ。まさか奇術師が重力魔法習得のトリガーになるとは思わなかったな。怪我の功名である。







 メタルマリモがいた場所に魂石と小さななにかが落ちている。



 割と小さめなメダル

 品質:不明 封入魔力:不明

 どこの誰だか知らないけれどどこかに存在するかもしれない好事家が集めているかもしれないメダル。未知の金属でできている。入手確率が非常に低いため情報自体があまり出回っていない逸品。



 ……もはや是非もなし。小さな黄色の魂石とやばそうなメダルをリュックへと押し込んで少し休憩する。

 だいぶ魔力使ってしまったぜ。


改変魔法は漢字にルビ付きにしてみました。以前のと師匠の称号を変えていたのは改稿中に今回のあの技をやりたいなぁと思いついてしまったからだったりします。

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