第3話 知ってみようステータス
「えっ? 無理だよ??」
すっごい、あっさりいいやがったよ……。
「あっさりすぎだろう、いくらなんでも。というかあの玉送ったんなら送還もできるんじゃないの?」
「んー、それなんだけどね。君を呼び出したあの召喚の条件のひとつにこっちに来ても問題なさげな人をなんとなく選んでるっぽいんだよね。あっちの世界に未練がなさげだったり不満かかえてたりする人かな。でだ、さっきも言ったとおり各国は戦力やら兵器として勇者をあてにしてるから当然帰す気はないだろうね。その方法すら知らないんじゃないかな。そして、あの玉を送れたのは君という僕にリンクできる座標があったからできたことだからね」
なんてこったい。むぅ、条件の理由はそう言われると否定はできん。もはや天涯孤独だしな。心残りを強いて言えば来週発表の宝くじの結果と俺の失踪による店長の気苦労と体調くらいか。幼馴染でもあるし申し訳ない気持ちでいっぱいである……どうしようもないけどな!!
あ、もぬけの殻の部屋で慌ててる後輩ちゃんの姿もうかんだがこれは黙殺、黙殺。
「だいぶ肉体と魂のリンクが馴染んできたようだね。そろそろ動けるんじゃないかな?」
ふむ、そういえば随分と馴染んだような気がする。先ほどまでは自分の体じゃないような違和感が目白押しだったがいまではそういうのもなくすっきりしている。思考は実にクリアだ。いまなら酔っ払った客にもガツンといえる気がする。最高にハイってやつだ! うん、御免、そこまでではない。
むくりと体を起こして辺りを見回す。うむ、建物の内装から明らかに日本ではない。手をグーパーさせてみる。うんむ、問題はない。寝台から降りて立ってみる。うむ、動く分には問題なし。だが、ひとつ気になる事がある。
「背……低くないか?」
「うぐぅ」
言葉に詰まるグネ。
そう、俺の元の身長は176cmくらい。今はどう見ても150cmそこそこである。仮に15歳だとしても俺は160cmはあったはずなのだが……。
「ぼ、僕の体をベースにしてあるからね。だから僕基準なのさ」
「つまり?」
「15歳くらいだとそれくらい小さかったです。でもでも、3段階目の成長期には大きくなったんだからね!」
グネの種族には成長期が3段階存在し3段階目には180cmを超えたそうだ。だが、それまでは随分と小さかったらしい。
「ベースは僕だけど君にかなりあわせてあるから徐々にだけど大きくなっていくはずだよ……多分。で、でも、あっちの行為とかは全然平気だから大丈夫さ。僕が最初の子供生ませたのがこのくらいだったし……」
自信なさげに言う元魔王。まぁいいけどな。つーか、この体躯ですでに子持ちですか、すごいな。
「それじゃ納得したところで現在の状況を説明するよ」
――現在地はタイクーン公国の西にある森の中。現在この大陸には大きな国家が5つあるらしい。
中央に位置するアレンティア王国
北に位置するオロシナ帝国
東に位置するヒノト皇国
南に位置するオルタナ連邦国
西に位置するタイクーン公国
その他、各地に小さな国があるものの徐々に大国に飲み込まれ併合されているそうだ。
「あれ? 西ってことはさっき言ってたお前の治めていた魔王領の近くじゃないの?」
「いえす! 今のところ魔王を務めるものがいなくて非常に政情が不安定になっています!」
にこやかに言うことか! 玉だから顔ないけど。
西の魔王と呼ばれていたこいつの所領はいま元部下だった三名に分割されて統治されているらしい。
この三人がまた仲が悪いらしくお互いを牽制しあっているものだからこちらの公国までの影響はあまりでていないそうだ。
そうそう、西の魔王とか言われているというのもこの大陸の四方には魔王が治める国が存在し人々の暮らす5カ国をぐるっと取り囲んでいるような状況なのだとか。うまくつき合っている国もあるし常に小競り合いを繰り返している国もあるらしい。
ちなみに今回グネの元に送り込まれたヒットマ……もとい勇者はアレンティア王国にて召喚された異世界の勇者らしい。金髪碧眼だったらしいので日本人の可能性は低いな。
「そういや宗教とかはどうなの? あんまり宗教色の強いところとか近づきたくないから聞いておきたい」
「基本、六柱神信仰だね。もちろん、彼らから魔族と呼ばれる僕らだって同じようなものさ。君の知識にある魔族=邪神やら魔神とかはないからね」
むう、考えていたことを先に言われてしまった。
さらに説明を受けると六柱の神とは創造神から世界の管理を任されおり常にこの世界を見守っているらしい。
六柱神の面々だが
武と戦の神 アーレン
知識と商いの神 オルディス
生と豊穣の女神 アメトリス
死と運命の女神 ハディン
成長と才能の女神 レベリット
精霊と理の女神 ルーティア
女子率高いな神様。さぞや二人の男神は肩身が狭いことだろうと勝手な想像をしておく。
戦いは数だよ、兄貴!
以前、ちょっとしたことでおばちゃんの機嫌を損ねた新人君はあの迫力に涙目になりあっさり辞めていったからな。怖い怖い。
「さ! それじゃお待ちかね自身の能力値でも鑑定してみるかい?」
「お? そんなのできるのか?」
「うん、君の目に【識別の魔眼】を仕込んであるんだ! 鑑定したいものに集中するだけで脳裏にデータが浮かび上がるというすぐれものさ!」
「また、ご都合主義なものを仕込みやがって。だが、その気使いはありがとう」
いや、本当にこれに関しては感謝だな。色々なステータスが確認できるというのは大きなアドバンテージだと思うんだ。
グネの言うとおり自分の手に意識を集中して見つめてみる。頭の中に情報化された自身の能力が流れ込んでくる。なるほどな。俺のステータスはこんな感じである。
名前:ノブサダ・イズミ 性別:男 種族:???
クラス:異世界人Lv1
称号:未設定
HP:13/13 MP:4/4
【スキル】
エターニア共通語 異魂伝心Lv1 魔法改変Lv1 家事Lv5 農業Lv3 剣術Lv1 偽装Lv2
【固有スキル】
識別の魔眼Lv1
【称号】
異世界人 自由にクラスを変える事ができる。所持しているだけで自動発動。
次世代の魔王候補 次世代の魔王を担うことができる可能性をもつ者。
おかんを超えし者 家事の極みに向かう者への称号。
「いやぁ、随分と面白いラインナップだね。あ、一応、現時点では色々と一般人なのであっさり逝かないようご注意ください。コンティニューはないです。なお、クレーム・返品・クーリングオフ等は受け付けておりませんのでご注意ください」
「色々と突っ込むところがあるというかまず種族! 俺、人間ですらないの?」
「まだ魔眼のレベルが低いから表示できないのかなぁ。僕もなにになってるかまでは把握してないし」
その他も色々と問題のあるもんばっかりだな。異魂伝心ってわけわからんし魔法改変なんてのもある。そもそも、魔法の使い方すら知らないんだが?
「まぁ、色々と手探りになるかもしれないけどしっかりね。僕はこれから君の魔眼の中で眠りにつくから頑張って死なないように! それじゃ、あでぃおす!!」
ビー玉が徐々に光の粒子となっていく。
「ちょっと待て! さらっと追加情報出して去っていくなよ!」
慌てて突っ込んだが光の粒子へと形を変えたグネは俺の両目へと吸い込まれるように消えていった。
「お、おい、グネ!?」
呼びかけるも返事はない。小屋の中に俺はポツンと一人取り残されたようだ。