閑話その3 レベリット神殿っぽい掘っ立て小屋のひと時 後編
レベリット神殿の敷地内、バナナの叩き売りよろしく品物を並べていく。無論、ハリセンもどきとメガホンもどきは作成済みだ。
「らっしゃいらっしゃい、ここにございますは『レベリンゴジャム』。レベリット様のお墨付きでとっても美味しいジャムでございます。そこの道行くお美しい奥様、こちらのジャムを食べればお美しい肌が尚一層きめ細かくなる事請け合いです。さらにそっちの道行く可憐な冒険者のお嬢様。なんとこのジャムには僅かではありますが魔力が回復する効果がございます。味気ない冒険中の食事に味わいを添えるとともに魔力も回復できるとてもお得な一品。そんなレベリンゴジャムをなんと50マニーにてご提供させていただいております。さぁさぁこちらに試食も取り揃えておりますゆえ挙ってお買い上げくださいませ!」
そんな口上をあげつつ売りさばいていく。反応はまぁまぁか。すでに20個ほど売れている。魔力回復効果があるというのが女冒険者の琴線に触れたようでそれを見ていた奥様方も興味を引かれたのか試食の品を召し上がっておられる。このまま順当に行けば結構はけるんじゃないかとそう思っていた。
しかし、物事はそう上手くはいかないもので現在こんな状況になっちゃっておりますことよ。
「おいおい、魔力が回復するような代物がこんな値段で買えるわけねぇだろう。坊主、嘘はいけねぇな」
「そうだそうだ、こんな偽物を掴ませるたぁふてぇ野郎だ」
よくいるチンピラシリーズと銘打っていいのかあれだがそれっぽいのが5人ほど俺の周りを囲んでいる。いやん、折角来てくださった奥様方が離れていきますやん。なにしてくれてんのこいつら。
「嘘ではないですよ。間違いなく回復しますし体にもいいです。試してもいないのにそんな事を仰るあなた方は一体どちらの方でしょうか? 先ほどアーレス神殿からお出でになるのを拝見していましたがあちらの神殿関係者の方ですか?」
ええ、俺のノブサダアイ(視力4.0相当当社比)にはそれがはっきりと見えておりましたよ。アーレス神殿の全部とはいかないが一部は限りなくクロに思えてきたね。
「ち、ちがわぁ。俺はこんな騙しの手口を許せないだけの一般人だっ」
「そ、そそそ、そうだそうだ。こんな偽物ひっくり返してやらぁ」
明らかに動揺している。なんて素直な反応だ。しかもわざわざ宣言しながら簡易の売り台をひっくり返そうとするチンピラB。その手が届きそうなとき横からしっかりとその手を掴むものがいた。そしてそのまま音もなくチンピラBを地面へと転がす。なんだ今の合気道みたいな動きだったぞ。
「やれやれ、随分と物騒なことだね。いつからこの街の治安はこれだけ下がったのだか」
その手を掴んだのは目元までを覆う仮面をした男装の麗人っぽかった。
……えっ!? これって某歌劇団の何組の方ですか!?
お前は何してたかって? 俺はつぶてを放つ準備してましたよ。そしたら横合いからこちらの方が出張ってらしたんで様子見に移行しておりました。
「て、てめぇ何のつもりだ。てめぇには関係ねぇだろうが」
「ふふっ、この街に住むものとして言いがかりで周囲を困らせる悪漢を許せないものでね。それにこの商品は間違いなく謳い文句の効果はあるよ。私は鑑定のスキル持ちだからね」
……ざわわっ……ざわわっ……ざわわっ……
麗人の評価に周囲がざわつく。これだけ見てるとやらせも疑われるところだがまったくもって予定外の出来事である。というかどう収拾したもんかね、これ。
微妙に蚊帳の外になってしまった俺がどうしようかと思案していると警備隊の面々が遠くからやってくるのが見えた。おそらく誰かが通報したのだろう。ぐっじょぶ、見知らぬ誰か。
「ようし、そこまでだ。騒いでいるやつらは大人しくしろ。暴れるようなら気絶させてしょっ引くぞ」
どっかの岡っ引きのようなセリフを放ってチンピラをとっ捕まえていく岡っ引き、もとい警備隊。あれ? なんでこっちに来ますのん?
「お前も騒ぎの原因だな。ちょっと詰め所で話を聞こうか」
えっ、ちょっ、なんで俺まで!? 喧嘩両成敗じゃないんだからどう考えても被害者じゃないですか。
「あー、彼は騒動の被害者だから関係ないよ。私が保証しよう」
「いや、寧ろ君にも話を……」
警備隊のお偉いさんっぽいのが麗人に問いかけて固まる。麗人が腰に差している剣に装飾された紋章をお偉いさんに見せてから。あれってどこの紋章なんだろう。
「いえ、あなた様がそう仰るならこの件についてはなにもお聞きすることはございません。失礼しました」
「すまないね。彼らについてはしっかり背後関係を洗ってもらえると嬉しい」
「はっ、畏まりました!」
もはや往年の部下のようにお偉いさんは畏まってチンピラたちを引きずっていった。うーむ、なんという黄門様裁きのような展開だ。さて、俺はどうしたもんかね。とりあえずお礼でも言っておくか。
「危ないところをありがとうございます。助かりました」
「いや、気にしないで欲しい。それに君なら彼らくらいあっさりなんとかできただろうけどね。同じレベリット信徒として手を貸しただけさ」
なんだって!? 世にも珍しいかどうかは分からないが俺同様の物好きな人とは初めて会った。
名前:シャニア・アズベル(本名:キャスカ・タイクーン)
性別:女 年齢:16 種族:普人族
クラス:姫騎士Lv19 状態:健康
称号:【レベリットの騎士】
【スキル】
刺突剣Lv4 片手剣Lv2 護身術Lv3 小型盾Lv3 水魔法Lv3 生活魔法 鑑定Lv2 礼儀作法Lv4 カリスマ
【クラススキル】
センチネル
騎士共通『センチネル』
一定時間物理攻撃ダメージをある程度カットする。魔法には効果がない。
ぶふぉあ、思いっきり噴出しそうになった。
この人が件の公爵令嬢かよ。それよりも本名のほうが問題だ。この国はタイクーン公国。それが名前に入るって事は王族だろう。なんというか厄介な予感しかしないぜ。それにしても随分とスキルが多い。駄女神の加護かなんかだろうか。
てってれ~♪ 偽装のレベルがアップしました。
どうやらあちらも鑑定をしてきたらしい。偽装君がレベルを上げたようだ。
「なんで俺がレベリットの信徒だと?」
「いや、ベルと私は友人だからね。彼が嬉しそうに黒髪の少年が新しく信徒になってくれたんですよと話すものだから私も気になっていたのさ」
べぇぇぇるぅぅぅぅ。まぁ、しゃーないか。俺が初めての洗礼相手だっていうしよっぽど嬉しかったのだろう。この人も悪い人じゃないっぽいし問題はないか。いや、身分的には問題大有りだがな。あまり大事にはならないでほしいもんです。
「そうなんですか。いや、俺もベルのことを心配してこうやって何かできないかなと手を出してみたわけです。このレベリンゴジャムがこの神殿の名物になれば少しは神殿運営の助けにならないかなと」
「そうか。良い事だと思うよ。私もいくつか買わせていただこう。実を言うとさっき試食を食べてからこの味が忘れられなくてね、ははは」
そう言って仮面の暴れん坊お嬢様は5つほどお買い上げしてくれた。
ぽかーんとなっていた周囲も我先にとお買い上げの行列を作り出す。鑑定スキル持ちの太鼓判がよっぽど効いたのだろう。あれよあれよという間に200個あったレベリンゴジャムは完売していた。はっはっはー、こいつぁ嬉しい誤算だぜ。明日以降はこちらのレベリット神殿にて販売いたしますと宣伝しておくのを忘れないのは商売人のたしなみだ。
完売したことでその場を片付けいそいそと神殿へ戻る。時間はすでに午後3時くらいか。この時間に完売できるとは思わなかった。そもそも残ると思ってたんだけどもね。明日以降売るものが無くなってしまったからつくり置きしないとな。そういや帰り道にくまはっつぁんにあのリンゴの追加注文しておかないといけない。ある程度色つければ請け負ってくれるかな?
ぐーすか寝ているであろうベルに報告する為に彼の部屋へ行くとなにやら談笑している声がする。
「うぉーい、ベル。もう起きても大丈夫か?」
「あ、ノブサダさん。心配おかけしました。もう大丈夫ですよ。明日からばんばん治療手伝いできますから!」
部屋の中にいたのはシャニア嬢。お年頃のお嬢さんが御供も連れずに男の部屋に一人いるってのはかなり問題ないですかね? まぁ、ベルにそんな事できないとは思うけども。そのベルの力強いが本末転倒なその言葉に二人で顔をしかめる。
「ベル、それじゃレベリット神殿の神官としてあんまりじゃないか」
「そうだぞ、明日以降はお前にやってもらいたいことあるんだけどもな」
「やってもらいたいことですか?」
「うんむ。勝手ながらレベリンゴジャムの名前でジャムつくって売りさばいた。こいつを神殿の名物にしてその客である奥様や冒険者相手になんとか治療の宣伝しておくといい。ジャム自体は俺が作るけども売りさばくのはベルの役目だ。売り上げの中からベルの手間賃とお布施をひねり出すからしっかり売ってほしい。ベルがちゃんと宣伝すればこの神殿でも治療院やってると知らしめることができるし売りながら仲良くなれば定期的にここに来てくれるだろう? そうすれば朝みたいにお腹がすいて倒れるなんてこともなくなるだろうさ」
「ふぇあ」
一気にまくし立てる俺に素っ頓狂な声を出して驚くベル。すごく間抜けな顔になっているが仕方ないだろう。なんせ寝ている間に事が進んでいるのだから。まさに寝耳に水だな。
「んで、こいつが今日の売り上げの半分な。これはお布施として置いていくからちゃんとしたもの食べて倒れるようなことないようにしてくれ。俺は残りのリンゴをジャムに加工してくるから台所借りるぞ」
こくこくと頷くベル。もはや流されるままである。無理矢理だがこうやって背中押してやらないとアーレス神殿でいいように使われそうだからな。
台所でくつくつとジャムを煮詰めていると後ろに気配を感じる。
ベルよりも鋭い感じがするから暴れん坊お嬢様であろう。
俺が振り返ると同時に彼女から声をかけられた。
「君は随分とお人好しみたいだね」
「そうですか? 俺だって色々と助けられて生きていますからね。ベルがいいように使われているのはちょっと見過ごせなかっただけですよ」
「いや、レベリット様の信徒になる人はそんなお人好しが多いよ。そういえばまだ名乗っていなかったね。私はシャニア。ベル同様仲良くしてくれると嬉しい」
「これはご丁寧に、俺はノブサダ。しがない新人冒険者ですよ。見ず知らずのジャム売りを助けるお人好し様、こちらこそよろしくお願いします」
含んだ笑みを向けつつ大仰な礼をする。それを見て噴出しそうになるシャニア嬢。
「ふふふ、そう返すか。それじゃ私はこれで失礼する。君とはなにか縁がありそうだ。それを楽しみにしているよ」
意味深なことをいいつつシャニア嬢は去っていった。いい人なんだろうけども出来ることなら厄介ごとの縁じゃないといいんだがな。でもあの手のタイプはきっと周囲を巻き込んでいくんだろうなぁ。ふぅと先行きに不安を感じつつ再びジャムを煮詰める俺がいた。
あ、蒸しパン供えるのすっかり忘れてた。
後日、それを思い出して再訪し女神像の前にジャムを沿えた蒸しパンを供える。
シュン
供えたはずのものが一瞬にして消え去る。
アィエェエエエ。
見とる! 見とるぞぉぉ! あやつはまっこと此方を見とるがじゃぁぁ。
するとなにかがひらひらとなにかが落ちてきた。一枚の短冊らしきものが床へ舞い降りる。
そこには一言。
『ごち!』
そう書かれていた。
……駄女神ィィィィィィ!
器は返してください。
執筆が進まないくせに短編なんて書いてしまった。反省はしていない。
http://ncode.syosetu.com/n4397dc/




