閑話その2 レベリット神殿っぽい掘っ立て小屋のひと時 前編
エレノア「小説の途中ですが臨時ニュースを申し上げます。本日9時未明容疑者『ことぶきわたる』の執筆作業がまったく進んでないことが判明しました。容疑者は買ったばかりのPS4があかんのやーと喚くばかりで筆を取らず錯乱しているということです。更新に大幅な乱れが起こることが予想されます。皆様もご注意ください。以上、エターニア速報担当のエレノアでした」
あ、ガンダムブレイカー3予約しました、てへ。
修行の後、毎回依頼やレベルアップするのも疲れるのでオフにしてみた日。はてさて、こうして考えてみればやる事もなかったりする。
ふらふらとあてもなくうろついていると近場に例の掘っ立て小屋が見えた。
そういえばアレから一度も顔を出していない。お供えがないとあの駄女神が拗ねまくっていそうな気がする。
そういやリュックに蒸しパンとか残ってたな。これをお供えしてみよう。
今日も今日とて誰も来なさそうな掘っ立て小屋へと足を踏み入れた。だって一応神殿扱いなのか扉が解放されてるんだもの。
そしてそこで俺が見たものは……。
倒れているベルの姿だった。
慌てて近づき支え起こす。胸は上下しているので死んでるわけではないようだ。呼吸もちゃんとしている。一体何があったのだろうか。
「ん……くっ、あ」
「大丈夫か!? 一体何があった?」
「お……」
「お?」
「お腹がすきました……もう二日何も食べてないんです」
く~~~~
彼らしい見た目に準じた控え目な腹の虫が悲鳴を上げる。
そうかそうか……心配して損したよ!
とはいえこのまま放置するのは寝覚めが悪い。蒸しパンでもいいけども二日も食べてないんじゃいきなり腹に入れるとまずかろう。林檎を摩り下ろして食べさせてやる。
「ほら、これなら食えるだろ。慌てずにゆっくり食え」
もはや敬語も忘れスプーンで口元へと運んでやる。始めはちょびちょび、少し慣れると勢いよく食べ進める。なんというかあれだな、雛にエサやる親鳥の気分だ。
丸ごと一個摩り下ろしたものをあっさり完食するとようやく落ち着いて状況判断できるようになったのか俺に支えられていることに気付いた。
「すすすすす、すいません。ノブサダさんでしたよね。助けてくれてありがとうございます。急に意識が遠くなってもう駄目かもとか思ってて……」
「どうどう、落ち着けって。しかし、なんでまた二日も食べてないんだ?」
「お恥ずかしい話ですがこの間体調を崩してしまいまして出稼ぎと言うか他の神殿への治療院手伝いにいけなかったものですから。手伝いに行くと現物で野菜とか貰えたりお昼ご飯ご馳走になったりできるんですよ」
そこからいかに治療院手伝いに行けば恵まれるかということをベルは熱弁していた。でもそれを聞きながら思ったんだ。それってこの神殿の意味なくねって……。
でも言えなかった。なんというか不憫すぎて。たまに様子見に来よう。これでベルが餓死してた日にゃ悔やみきれんしな。
「手伝いにいかないといけないほどお布施とか集まらないのか?」
「ぐにゅぅ。……はい。ノブサダさんが洗礼をうけてからそれ以来洗礼は無いですし。治療のほうもどうしても他の神殿へ優先的に搬送されるものですから……」
ふーむ、それは由々しき問題だな。なんでまたこんだけハブられてるんだかね。いくらなんでも酷すぎだろう。
「で、でもアーレス神殿の神官長様などに目をかけて貰えてたので治療院手伝いで食い扶持はなんとかなってるんですよ。その、偶に一緒に食事に連れてってくれますし」
それってただ神官長とやらに狙われているだけなんじゃないか? 深読みしすぎかもしれないがハブられてるのそれ関係してるかも?
「神官長様ですか? 壮年の男性ですよ」
あれか衆道ってやつか? ホモゥな世界は俺にはきついんだぜ。うーむ、一応仮免だが使徒になってしまったわけだしベルが怪しい道へと踏み外さぬようになにかしら稼ぎの手を考えればいいのか?
しかし、何かできることはあるかね。
ここレベリット神殿(掘っ立て小屋)は立地条件自体は悪くない。周りには住宅もあるし近場には店や兵士の詰め所もあったりする。それなら治療などすればお布施も貰えるのではと思うのだが近くに例のアーレス神殿付治療院があったりする。現代風にいうならば流行っていない町医者へいくか大病院へいくかの二択のようなもんだ。そして患者が来なくて困った町医者は大病院の手伝いへ。常に休診状態になるもんだからもはや町医者は医者と認知されなくなる。
なんという負のスパイラル。
ベル一人だけの癒し手だし人柄なども省みてできるなら近所のお年寄りを中心とした常連さんができたらくらいがいいと思う。孫を愛でるような感じでちやほやされそうな気がするな。または子供達を取り込んでその親御さんを釣るという手もある。そうなるためにも何かしらとっかかりが欲しいところだ。んー、何かいい案はないかねー。
「なんかいい手がないか街中をぶらつきながら探してくるから今日のところはベルは休んでおきな。これも置いていくから」
リュックから残り物の果物やパンを出して置いておく。
「お気持ちは嬉しいんですが本当に大丈夫ですよ? 無理はしないでくださいね」
「一応、俺も信徒になるしね。何より数少ない歳の近い知り合いの苦境を見過ごすのも後味悪いしな」
「ノブサダさん……」
いまだふらつくベルをベットへ運んでやり再び街中をうろつきだす。レベリット神殿へ向かう前とは違い明確に目的を持って。
んー。んーーーーーー。
どうしたもんかなー。
とりあえず狙うターゲット層を想定し彼らが何を求めるかを試行錯誤する。
冒険者と違いどこぞへ冒険に出るわけでもないしそんなに高いものにならず気軽に買える物。かつ消費が多くて購入サイクルが早いものがいいな。そうなると必然的に食べ物あたりになるか。
足を食料品店のほうに向ける。
俺が向かっている食料品店はダンジョン産の食材や農家から買い上げたものの比率が半々の品揃えでソロモン亭の仕入れにも使われている。この間、蜂蜜などを買ったのもここ。
「らっしゃい、らっしゃい。今日はセロリとネギが安いよー。ダンジョン産のタイやヒラメもオススメだ。思わず舞い踊っちゃうぜー」
「くまはっつぁん、こんにちは。今日もいいものそろえてますねー」
「おお、ノブか。まだ細っこいんだからもっと食わねえと冒険者なんて続かねぇぞ」
この人はこの店『ヤオエイト』の店主クマハッツさん。豪快な掛け声でここらの名物になっている。店の名前の由来は不明だ。最初に会ったときにはネギ坊などというちょっと嬉しくない渾名をつけてもらったりしたもんだが嫁さんとの大喧嘩を仲裁してからはそれも解消された。嫁さんと二人だけで切り盛りしているのだが品揃えも多く品質もしっかりしているので俺もちょくちょく買いに来ている。
店内に入ると様々な野菜や果物が並ぶ。魚や肉は保存の効くマジックリュックに納められており買うときになってそこから取り出してくれる。冷蔵庫などがない中、鮮度を保つ苦肉の策のようだ。だが、それにより新鮮なものを提供することで評判は上々だ。閉店間際にはこれだけある品物のほとんどが捌けていることからその人気が窺えるだろう。
そのまま店をうろついていると店内の一角に山積みされた何かを見つける。近づいてみると小玉の林檎が山になっていた。
「くまはっつぁん、この林檎どうしたの?」
「ああ、そいつは俺が仕入れている農家ででたもんでな。小さい上に酸っぱいから売りに出すことも出来ずに困ってたところを俺が引き取ったんだ。安くすれば何とかなるかと思ったんだがやはりその酸味がきついところが手を出しづらいらしくてなぁ。これに関しちゃ俺の目利き違いだわ」
あまりに売れないのか一山100マニーと書かれた木の札が立て掛けられている。ふむ、俺ピンときたのだね。これ使えるんじゃない!?
「くまはっつぁん、これ全部買うよ。あと砂糖とレモンもくださいな」
「本当か!? いや、助かる。砂糖の量少しサービスしておくぜ」
こうして小玉林檎(大量)とレモン、砂糖を50マニーで買い込んだ俺は意気揚々とレベリット神殿風掘っ立て小屋へと戻る。戻るとベルはすぅすぅと小さな寝息を立てて寝ていた。戸締りくらいはしようや、開けっ放しだったぞ。
粗末な台所にて俺は早速調理を開始する。
大量にある林檎のうち半分を手際よくひたすら剥いていく。全て剥き終わったら小さな賽の目に切り刻んでいった。
それにレモン汁と砂糖を加えてかき混ぜる。量が量なので手が疲れてくるな。
満遍なくかき混ぜたらちょいと味見。うむ、ちょっと酸味がきついけど煮詰めれば丁度良くなりそうだ。
ある程度の量を鍋へ入れアクを取りながら煮詰めていく。
林檎が半透明になって煮汁が無くなってきたら完成である。
これらの作業工程中、意図的に魔力を込めておく。揚げパンなどを作っていたとき魔法の練習をしつつ作っていたら出来上がったものは封入魔力が上がっており美味しさも上昇していた。理屈はまだ分からないが美味しくなるなら問題はない……はずだ。
こうして出来上がったものがこれ。ただのリンゴジャムだがこの神殿で売るなら何かしらの商品名をつけたほうがいいか。りんご、りんご、んー、レベリンゴジャムってことにしよう。なんとなく語呂がいい気がする。
レベリンゴジャム
品質:高品質 封入魔力:10/10
賞味期限:製作日より2週間
魔力を注がれ出来上がった品質の良いリンゴのジャム。生ものなのでお早めにお召し上がりください。僅かながら魔力回復効果があり食物繊維も豊富なので便秘に悩む奥様にも効果抜群。
おおう、予想以上にいいものになった。味のほうも日本で食べたものと比べても遜色ない。
これならうまく宣伝できれば売れること間違いなし?
あ、識別先生とりあえず知りたいとき以外は賞味期限表示はいいです。
容器だがロックハンドスマッシュの応用で石の小さな器を作り出した。具現化するのと違い地面のなかにあるものを呼び出しての生成なので容器そのものはしっかりと残る。
湯のみ程度の大きさの石器を蓋とセットで量産していく。これならタダなのでコストが安く済む。子供受けがいいように花やリラックスできるクマや二足歩行型のネコなどの柄も刻み込んでみよう。全種類コンプリートするというコレクター魂が湧き上がるやもしれん。
さて半分ほどのリンゴを消費して出来上がった石器入りレベリンゴジャムの数なんと200。
あとはここで売れるようになれば問題ない。とはいえただ売るだけじゃインパクトが足りないよね。あるものを参考にやってみようか。




