第2話 故魔王との出会い
「知らない天井だ……」
お世辞にも綺麗といえない天井を眺めて呟く。
気づけば見知らぬベットの上にいた。だが、体がうまいこと動かせない。まるで金縛りにあったかのようである。
うん、状況がまったくわけわからん。というよりも理解の範疇をバシコーンと飛び越しすぎである。
とはいえ、俺に何ができるわけでもないのだが。体も動かせない以上思考するしかないんだけどな。
そんなことを考えていると正面にあのビー玉が……いやちょっと違うか? それがふよふよと浮いて近づいてきた。ポケットに入れておいたはずだがなんで浮かんでるんだろうな。
「やぁ、初めまして」
へ? ビー玉っぽいものから声??
「あれ? 言葉通じてないかな? おっかしいな、記憶から母国語を選択したはずだけど……」
「い、いや通じているよ。常識とびこえた代物に理解が追いついてないだけだ」
「おお、よかったよかった。それじゃ今の状況を説明しようか。きっと知りたいだろうしね」
――ビー玉っぽいものの説明によるとだ、ここは地球じゃない世界。その名を『エターニア』と言うそうだ。
つまり、俺は異世界に召喚されてしまったらしい。ただ、このビー玉が呼び込んだわけではなく他の誰かに召喚されるところを干渉してここへと引き込んだのだそうな。
「そんなに簡単に干渉できるようなもんなのか?」
「そりゃまぁ、僕が元魔王だからできることではあるよ。あと、その為に君のところへこの王魂を時空を超えて跳ばしたんだからね」
――そう、目の前のビー玉っぽいものは驚くことに元魔王。名前をグネ・イノ・セトラと言うんだそうだ。威厳? 知らん!
「いやぁ、とある国が勇者召喚の儀式に成功しちゃってね。紆余曲折の後につい先日、僕ってば勇者に暗殺されちゃったんだ。魔王を屠るほどの勇者を抱えた国がある……そうなってくると各国は軍事バランスが崩れることに戦々恐々となるわけだ。で、こぞって他の国も我先にと召喚の儀式をはじめちゃったわけ。相手側の都合も考えずにね」
――勇者がいて、そして暗殺ってなぁ……まぁ、魔王側からすれば勇者なんてヒットマン以外のなにもんでもないだろうけどさ。やっぱりどこのお偉方も似たようなもんなのかね。
「酷いところでは召喚直後に隷属の首輪なんかつけられたり召喚陣自体に隷属の術式を加えてたりしてるね。普人族ってば同族に対してだろうがろくでもないこと平気でやるよね。まぁ、彼らからすれば異世界人は同族じゃないって感覚なのかもしれないけどさ」
――普人族。この世界の一般的な人間をそう呼ぶらしい。彼らは普人族以外を亜人や魔族と呼んでいるらしい。もちろん、各々の種族ではちゃんと種族名がありそれを無視してひとくくりに亜人と呼ぶのは蔑称になる。普人族の王侯貴族にはよくあることらしいな。互いに触れ合う平民の間ではそんなに差別はないらしいけど……。俺的には肉球とかもふもふは大好きなのでどっちにつくと言われたらもふもふの一択であるが……。
「まぁ、安心していいよ。君が呼ばれるはずだった国には君ん家のお隣さんの愛犬ヤツフサちゃん(♀1歳)が送り届けられる手はずになっております」
「ちょっとまて! 何お隣さんの愛犬生贄にしている。俺にも懐いてくれていた愛いヤツだったのに……」
「次回! 勇者ヤツフサちゃんの活躍にご期待ください!!」
「〆るなよ。そもそもこの召喚に介入した理由がまだだって。俺ってば自分で言うのもなんだが争いごととか弱いぜ? あっさり逝ける無駄な自信はあるぞ?」
「ふっふっふっふ、そんな疑問は想定済みさ! 説明しよう!! その為にあの玉を君の元へ跳ばしたのさ!」
「ふむう」
「実はあの玉は僕の全てを凝縮した逸品なんだよね。ある条件に見合ったものにそれを継承するための触媒なのさ」
「ある条件? 俺がそれに該当していると??」
「いっつおーるらいと! 条件と言うのは君の故郷『地球』における僕の同一の存在! つまり僕はこの異世界における君ってことさ」
なんだと! それってタイムなパラドクスがどーたらこーたら、あ、あれは未来と過去か。んー、なんとなく他人には感じれない気がしないでもないがいきなり言われても戸惑うな。しかし、完全にモブだった俺と違ってコイツは出世してやがるな、ちょっとだけ羨ましい。いや、暗殺はごめんだが。
「そんで、現在君の身体は魔力などに対応できるように進化調整中です。おめでとう、仮面かぶった自動二輪車運転手さんもびっくりだね!」
「おい、本人の許可なく何してくれてんだよ……」
「まぁまぁ、初期肉体年齢を15歳へ設定しておくから。溢れる若さだよ? ふむ、ちょっとずつ馴染んできているみたいだね。精神のほうも肉体に馴染んでくるにつれてちょこっと若くなってきてるみたいだ」
そういえば心なし言葉遣いが少し若くなってきたというか荒くなったというか微妙な違和感があるな。
「それで、俺に何をさせたいんだ?」
これが一番大事な確認事項である。百歩譲って同一存在だったと認めたとしても無理難題押し付けられるのもお断りだしな。
「んー、自由に生きてくれて構わないよ? 冒険者として生きるもよし、商売人として生きるもよし、獣っ娘や魔物っ娘とウハウハなハーレムを築くもよし。ただ、ひとつだけ。君の強さが僕の求めるくらいになったらふたつだけお願いを聞いて欲しいんだ。勿論、体をよこせとか非道な事を言うつもりはないよ?」
「ふむぅ」
条件としては破格の待遇だな。よくあるテンプレものなら『鍛えてやるからいざ戦場!』とか『従わないならはい暗殺!』とか、物騒なものになってもおかしくない。せっかく肉体が若返るなら……。
「灰色だった青春時代をやり直すのもありだよね。ちょっと記憶を覗かせてもらったけど甘酸っぱい思い出もなくずいぶんと萎びた青春だったよね」
思い出してずーんと気持ちが重くなる。体が動かせるなら頭を抱えて丸まってしまうであろう。
男子校だった為、出会いもなんもない灰色に彩られたさみしーーーーい青春時代だったのである。当時は今よりもっと口下手でありナンパやらする度胸もなかった。
だが! せっかく若返るのだったらだ!! 俺は我慢をやめる! はっちゃけてみようではないか!
大好きなおにゃのこや獣っ娘や魔物っ娘達に囲まれた悠々自適ライフを送りたい! 土地もち財産もちになって将来的には仕事したくないでござるーとごろごろしながら自堕落な生活をおくりたい! ただ、貴族とか面倒なのはできるなら回避したいし、さし当たって目指すのは歌って戦える村長あたり? いつかは国家も手を出せないような町長を目指す? 国にすら勝つるもふもふを愛でる最強の長!? あると思います! もふもふ王に俺はなる!!!
おっといけないいけない。押さえ込まれていた欲望の蓋が開いてしまったよ。しっかり閉めて鍵かけて溶接しておかないと。今はまだ解放する時ではない!
引っ込み思案でもてた試しもなかったが今度は積極的にいこう。駄目なら他の国へ逃げ出せば後腐れないだろうしやるだけやってみるか。
「思案はまとまったかい? 何か他に聞きたいことはある?」
そういえばと大きな疑問をぶつけてみる。
「一応聞いておくんだけど、これって元の世界には戻れたりするのかな?」