第28話 ノブサダ、驚愕の新事実
すっかり日も暮れてきた頃、セフィさんから依頼完了の認印を貰って意気揚々とギルドへ向かう俺がいます。思ってたよりも良い値で懐が温まった。帰り道まだ開いている店があったのでついつい食材とか買い込んじゃったよ。あとは完了報告と従魔登録だな。あ、ゴブ耳も引き取ってもらわないと。同じ耳でもけも耳と違ってさっさと処分したいのです。
「おお、無事戻ったのであるな」
あ、まだランバーさんいたんだ。ギルドの中は静かなもんです。冒険者連中はすでに各所で飲んでやがるのでしょう。
「これ完了報告です。あとゴブリン3匹倒したので討伐部位の確認と魂石の買取お願いします」
「ふむ、承ったのである」
手馴れた動作で受付したランバーさんはものの5分でそれらを完遂する。
「ゴブリン3匹で150マニー、魂石もそれなりであるからして一つ70マニー、しめて360マニーであるな」
「それとこの子の従魔登録をお願いします。これ仮登録証です」
肩に乗っかってるタマちゃんを指差して登録を依頼する。
「ほほう、従魔であるか。貴殿は獣使いであったのであるな。マリモの従魔とは初めて見るのである。登録料が400マニーかかるのであるな」
ランバーさんからギルドカードより一回り小さいプレート状の従魔登録証を受け取る。
それと一緒に色々と説明をしてくれた。従魔の情報更新は1年に1度は必ず更新しないといけない。でないと登録抹消となり再度新規登録しないといけなくなる。また、従魔による大会などにはこの登録証を持っていくことで参加することができる。大会は様々な所で行われ街々の特色に溢れたものなど異色なものもあるようだ。ちなみにグラマダの大会はしばらくないようである。
タマちゃんを鍛え上げて最強のマリモを目指すのも面白いかもしれんね。
「そうそう、この薬草採取の依頼であるが別個で貴殿個人への指定依頼となっているのである。これは依頼主からの依頼形態で随時納入とのことであるのでこちらの依頼票を渡しておくのであるな。これに完了印を貰ってこればその都度依頼完遂と認めることになるのである」
お、セフィさんからの依頼がそう変化しましたか。時間あるときはコツコツと採取にいきましょう。なんだかんだで副産物もあり美味しいと思います。
ランバーさんにお礼を言って宿へと帰る。
食事を済ませた後、ミネルバちゃんを経由してドヌールさんにちょっとしたお願いをしてみた。快く了承を得たので明日の朝のお楽しみだ。
そういえばタマちゃんってば何食べるの?
魔力と水と光があれば大丈夫なんだ……光合成か!? カップの中に魔法で生み出した水を満たすとその中へダイブする。タマちゃんはすごく満足げに吸収していた。曰く『まったりとしてコクがある一級品の魔力水』らしい。お気に召していただけたようで何より。寝返りで潰しちゃうのが怖いのでタマちゃんはそのままカップの中でご就寝だ。明日も早朝より修行があるので早めに寝ましょう、おやすみ。
本日の収支 元金313,110+3,500+360-400-500(食材)=316,570マニー
おはようござんす、ノブサダでおま。
まだ夜も明けきらぬド早朝、俺は仕込み真っ最中のソロモン亭厨房の隅っこにおりますだ。
師匠たちにお礼の意味も込めてちょっとした手作りサプライズを決行しようと思うのです。昨日買い足しておいた小麦粉などを用いてハニートーストと揚げパンを作ろう。ちなみにここのダンジョンでドロップするため砂糖や蜂蜜はそこそこ高価ではあれど庶民でも買える値段設定となっていた。両方とも小瓶一つ10マニーでお買い上げである。
ハニートーストにはオプションで胡桃ジャムとカスタードクリームをつけてみる。揚げパンの中身だがハムでスクランブルエッグを包み込み仕込んだ。これで師匠が甘いもの駄目でも問題なっしんぐ。昨日採ってきた梨と林檎でミックスジュース風果実水も作成しておく。しかしガラス瓶なんてものはないんで陶器の器へ保存した。よくラノベでガラス作って一儲けとかあるが悲しいかな作り方なんて知らないんだな。
出来上がった品をドヌールさんやラコッグさんにも試食してもらうと思いのほか好評でレシピを教えてくれと頼み込まれるほどだった。快く了承したのでこの宿でこれらが食べられる日も近いだろう。食が充実するのは良いことです。
リュックへ出来上がったものを突っ込むと早速師匠の家へとひた走る。
人もまばらな通りを抜け師匠の家へつくとそこにはすでに汗を流している師匠とエレノアさんがいる。
「おはようございまーす」
「おお、ノブサダか昨日はすまなんだな。アズベル公からちと相談事を受けてて結局間に合わなかったわい」
師匠が反応しこちらを見た。だが二人の手や足は止まることなく動き続けている。
慌てて識別の魔眼を発動しその様子をしっかりと脳裏に刻みつけようとした。
師匠はこちらを振り向くほど余裕がありエレノアさんは必死に攻め立てている。昨日アレだけ恐ろしい目にあったエレノアさんをまさに子供をあやすかのように余裕をもって捌いている師匠。どんだけ技量の差があるんだと思い知らされるな。
流れるような動きで突き蹴り連撃を打ち込むエレノアさん。対してあんだけでかいガタイでとんでもなく素早く細かな動きをする師匠。ときに捌きときに受け止め、たまに反撃すればエレノアさんは一気に間合いを取る羽目になる。二人の動作は少しでも気を緩めれば一瞬で見失ってしまう。気を張ってみていても遠目で全体をぼんやりと捉えるのが精一杯だ。ストレッチで体を伸ばしつつも目は二人を追う。
なるほど、カウンターはあんな感じでやるのかあれなら武器でも応用が利くなと脳内でシミュレートしていく。
「よし、ここまで」
「はいっ」
おお、二人の稽古はここまでのようだ。タマちゃんをリュックの上へ降ろして二人へ駆け寄る。
「おはようございます、ノブサダさん。体のお加減は大丈夫ですか?」
「おはようございます、エレノアさん。体調は万全、体もほぐしましたしすぐにでも稽古いけるくらいです」
「ふむ、ならば早速やるか。さ、かかって来い」
うほ、いきなり師匠とですか。だが望むところ、玉砕覚悟でいきますぞ。
一礼した後、すぐさま攻の型で構える。
「ほう、思ったよりも様になっておるな。エレノアも良い指導をしたとみえる」
地を蹴り攻め立てる。先ほどまでのエレノアさんの動きを自分へ合わせていく。たまに来る加減された師匠の攻撃も慌てず守の型で受け止めた。すごいな、絶妙な加減具合で俺がなんとか止めれるレベルの攻撃が来る。昨日見てないのによくもここまでうまく加減できるね。何度か受けているけれどもやはり返しの型のタイミングがいまひとつ取れていない。いざカウンターしてみるとタイミングが合わずへろへろの攻撃になってしまったりひどいときはパンチを貰ってしまう。難しいったらないな。
奇をてらった攻撃は封印し基本に忠実に攻める。息が上がるころには服は汗でびっしょびしょになっていた。
「よし、ここらで一旦休憩じゃ」
「は、はひぃ」
息も絶え絶えでうずくまる。そこへそっと手ぬぐいが差し出された。
「これ使ってください。昨日よりも見違えて動きが良くなっていますね」
「ありがとうございます、ハァハァ」
息切れしているのであって興奮しているのではないのですよ。
「(ふふふ、思ったよりも仲良うなっておるようじゃ。わざわざ弟子の素性を隠してサプライズにしたのは正解じゃったな)」
なんか師匠が生暖かい目で見てるような気がするけれどスルーしておこう。なんとなくだが良からぬ事を考えてたりしないだろうか?
そういえばずっと気になってたんだけどタイミング悪くて誰にも聞けなかった事がある。折角だし二人に聞いてみようか。
「ちょっと二人にお尋ねしたいのですけども」
「改まってどうしました?」
「なんじゃ?」
「知り合いの冒険者やカイルがウェポンスキルって使ってたんですけれどもあれってどうやれば使えるんでしょう?」
「「えっ!?」」
二人とも驚愕の顔を浮かべた後になんとも可哀想なものをみるような表情をする。えっ、なんかまずいことだった?
「ノブサダは片手剣などのスキルは持っておるんじゃよな? それでその質問をすると言うことは一つも覚えていないということか」
「は、はい。なんかまずいことなんでしょうか?」
「ノブサダさん。ウェポンスキルというのは本人の資質があればスキルレベルが上がるごとに一つずつ、その場で何となくですが使えるようになるものなんです」
……驚愕の新事実!? つまりあれかそういうことなのか!!??
「つ、つまり、俺は今ある戦闘スキルに資質がないということなんですかね?」
「そうなるな!」
うほっ、はっきり言い切った! もはやそこまで言い切られると清々しますね! 落ち込む気も失せていきます。




