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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第十章 戦嵐怒涛
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第247話 飲み込む器量

 


 はーるばるーきたのぜ、あんときの村ー♪


 以前オークたちに襲われていた名も知らぬ村まで警戒網に敵の姿を捉えることなく突き進んできた。敵との小競り合いもない。あったのは貴族同士の内側の小競り合い程度。ま、あっさりと鎮圧したけれども。被害らしい被害といえばサムソムさんをけしかけたら腰を抜かすもの多数、抱擁され骨にひびが入るもの数名くらいか。なぜか対抗意識を燃やしたマッスルブラザーズが乱入していたけどな。最後には凄くいい笑顔で握手していたっけ。最早、一個の生物と化しつつあるな、サムソムさん……。


 村に着いたからといってこの大群が泊まるって訳にもいかないので王都側の村外にてキャンプ中である。ちょいと顔を出した際にあの時の壮年の冒険者と怪我をしていた少年、少女は元気にしていた。あれから己の非力を実感し日々の訓練に力を入れているようだ。


 本日はここで一泊なのでそこかしこで煮炊きする煙が上がっている。


 今回の行軍だが輜重隊にあたる部隊はかなり少ない。公爵家には合計10個の俺とセフィさん合作である高性能マジックリュックをお買い上げいただいているからである。10個のうち4つは最初から協力している例の四貴族へと貸し出されておりその容量の多さに度肝を抜かれていたらしい。


 公爵家の編成は5つの大隊に分かれており騎士団が3隊、衛兵隊が2隊となっている。大隊長直轄の下に一つずつ配置されたようだ。残りの一つは公王と公爵の本陣に宛がわれた。


 そのおかげで大部隊なほど豊富な食材を確保し戦時下であるにも関わらずそれなりにバランスの取れた食事を摂ることが出来ていた。まぁ末端にもいくらか融通しているので全体的にそこまで酷いことはないだろう。……たぶん。


 冒険者連中は各自支給された食材を各々手を加えて食べている。アミラルさんにも公爵家に卸したほど高性能ではないが特製のマジックリュックを融通したのでそこからの支給だ。無論、出し口が一個では供給が追いつかないので道中でいくつかの別なリュックなどに仕分けするという手順が挟まれているのは余談である。




 そして現在の俺なのだが……。



「はいよ、ぶっかけ大盛り二つあがったよ。次は……え、釜あげ? フツノさん、麺の残りは?」


 汗をふき取りつつ湯掻いたうどんを冷水で冷やし風魔法でついている水滴を吹き飛ばす。試行錯誤して味の改良を続けているうどんつゆをずばっと上からかけてさくっと出来上がり。具材のねぎと天かすは各自盛ってくれい。


「うー、まだあるんやけどちょっと不安やねぇ。ちょ、そこ、二度目に並ぶのはあかんねんで。ちゃんと人数分数えてノブ君が麺を打ってんねんからね。大体、あんたが抑える側やろ、チョノフディ!」


『ばれた!』とばつの悪そうな顔をしてこそこそ隠れるチョノフディ。


 とまぁ、こんなひと悶着もあるがいつものおさんどんやってますわい。本日のメニューは俺の魔法打ちうどん各種。風魔法、水魔法、重力魔法などを組み合わせて打った本場の讃岐にも劣らないコシの強いうどんだ。それだけでは足りないと思われたのでおまけにおむすびを多数握ってある。


 ぶっちゃけよう。警戒などは全て人任せで俺は白米号の中で握っておりましたよ。戦時下に何やってんだろうと自己嫌悪はちょっとだけしました。


 そしてさらっと記憶のかなたへと吹き飛ばすほどせっせせっせと麺を湯掻く。俺の視界に公爵様とアルティシナが映っているのは気のせいだと思いたい。というか師匠とテムロさんも何でいるのよ!?

 あなたたち部隊の隊長でしょうに!


 良かった、多めに麺を打っておいて。うちには大食漢が二人いるから毎食もしもに備えているのだ。ついでにアルティシナが視界に入った時点で結界は張ってあるから物理的な備えもOK。


 うちの面子は箸が使えるようになってはいるが公爵様やアルティシナはフォークで悪戦苦闘している。だがその甲斐はあるようで噛み切り飲み込めばその味に満面の笑みを浮かべていた。


 全てを食べきった後にアルティシナの肩をぐわしっと掴んでお説教タイムである。


「いいか、確かにこちらのお方には学ぶべきところは多々あるだろう。だが決してこの軽すぎるフットワークだけは真似しないでくれ。テムロさんや師匠が……いや師匠は一緒になって遊んでたな。それはさておき御付の者たちは偉い人が姿を隠しただけでクビになる可能性だってあるんだ。下手をすればそれは物理的なクビかもしれないんだよ。自分の行動で周囲にどんな影響を与えるかをよく考えないといけない。少なくとも人の上に立つ者の責務だと思うぞ」


 アルティシナは俺の勢いと迫力に声を出すこともできずにコクコクと頷く。それを公爵様や師匠は生暖かく見守っている。というかあんた達が教えて然るべきでしょうが。ちょっとだけ恨みがましい目で二人を睨めば……うん、悪びれもせずにどこ吹く風だよ。不良中年たちめ!


「君! 公王様に対してその態度は問題があるぞ!」


 どこかで聞いたことのある声だと振り向けば以前偽者の騎士の時にいた四貴族のうちの一人じゃないか。青年の……確かヒッコーリ伯爵だったか。


 だがうどんを完食し空の器を持ったまま言うこっちゃないんだ。歯にネギが挟まってるんだぜ。よく見たら残りの三貴族もいるじゃないの。公爵様が連れてきたのか? しかもきっちり完食しているし。あなた方重鎮じゃないのん?


「俺は別にこの国に仕えている訳じゃないですから。今回の戦もアルティシナの友人として彼を助けるべく参加しているだけです。それにいいんですか? 政務の中いつの間にやら街中へとふらり遊びに出かける公王様が誕生しても!」


 手の平でずびしっと公爵様を指す。ヒッコーリ伯爵はそれを見て何ともいえぬ複雑な表情だ。


「むむむ……」


 何がむむむだ!


「何がむむむじゃ! まったくお前はいつもいつも一言多いのぅ。そんなだから煙たがられるんじゃろが。真面目なのはいいことじゃがお前くらいまでいくと堅物と言うんじゃよ」


 およ、師匠からの駄目出しだ。珍しいな。なんぞ彼とは面識があるのかね? 俺の視線に気付いて聞きたいことを察したのか師匠はそのまま言葉を続けた。


「こやつの父親と儂は戦場で轡を並べた仲なんじゃ。病であっさり逝ってしまいよったがのう。遺言でこやつのことをよろしく頼むと何度も念を押されてしまえば気にしない訳にもいくまいて」


 少しだけしんみりした感じになり押し黙ってしまった伯爵。非常に有能な人なのは識別先生によって判明している。未だ20代の身で内政系のスキルがいくつも4や5になっていた。その分、苦労もしているのだろう。ひょろっとした感じな上に随分と血色が悪い。


「その、すまなかった。私の仕えるべきお方に軽々と話しかけていることに僅かながら嫉妬がなかったとは言えない。私もまだまだ未熟者のようだ。そ、それとだな……」


 意を決したかのように謝ってきたがそんなに気にしちゃいないので問題はない。別に怒ったりもしていないのだが不機嫌そうにみえたのだろうか。それにしてもなにか言い辛そうだな。


「なんというかこの優しい味の麺が気に入ったのでおかわりを貰えないだろうか。その、な、恥を忍んで言えばこのところ準備や引継ぎの激務で胃の調子が思わしくなく食事もまともにできていなかったのだよ。これは喉をするすると通りあっさりと食べれたものでな」


 俺に聞こえるか聞こえないかの声量でそう言われてしまった。ぷっと思わず噴出すところだったがなんとか我慢する。なんとも素直になれない性格のようだ。有能なんだけれど融通が利かなくて損をする、か……なんというか石田三成みたいだな。師匠に促されなければ本音を吐露することもなかったろうし。うむ、こんなときは某歌舞伎者のように『だがそれがいい!』と思うだけでよし!


 少し柔らかめに湯掻きつけ合わせはサラダを適量のせ味を濁らせない程度の柑橘系ドレッシングをかけて渡す。ただし量は少なめだ。


「急に多く食べると逆に体に良くないので少しずつ食べるといいかと。消化にいいよう柔らかめにしておきました。まだ湯掻いていない麺がありますからいくつかお持ちください。茹で時間はこちらに走り書きしておきましたから調理担当に渡してくださいな」


 調理前の小分けにしてある麺を布袋に入れておく。早めにマジックリュックに保存しておくように念を押しておいた。


「ありがとう。助かるよ」


 先程までの険のある表情から少しだけ笑みを浮かべてそれを受け取る伯爵。だがこれは言っておかねばなるまい。そっと耳打ちする。


「それとアルティシナにも一言あったほうが……」


 その指摘にはっと振り返りアルティシナに向き直る。彼は出来た子なのでその場で待機していた。


「申し訳ございません。差し出がましいことを申し上げました」


 直角になるまでしっかりと頭を下げる伯爵。ジャパニーズビジネスマンにも通ずる見事なお辞儀である。


「構わぬよ。余のことを慮ってのことであろう? だから良いのだ。しかしだ。ノブサダは余にとって掛替えの無い友故な。それについては目溢ししてほしい。人目については余も注意するとしよう」


 なんとも大人なご意見である。何というか今のままでも十分立派な王様だと思うよ。それを後ろでにやにやしながら見ているその他諸々にイラッとしつつも戦争中とは思えぬ穏やかな飯時が過ぎていったのであった。


決してうどんを飲む速さではない。うどんは飲み物です。高知の人もそう言ってたもん。

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