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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第十章 戦嵐怒涛
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第245話 アイアンハート

 


 そして騎士団練兵場に集まる面々。


 NOUKINたちはこれから始まる戦いに非常に乗り気だ。

 俺の名を知っているような人らからはどんな戦い方をするのか見極めるような視線が向けられている。

 事前に手札を教えていた公爵様や師匠たちは非常に生暖かい同情にも似たものを相対するものたちへ向けていた。


 俺の正面にはあれよあれよと言う間に選抜された各貴族配下の猛者(哀れな生贄)たちが30人ばかり並んでいる。皆一廉の戦巧者や兵長なのだろう。それなりに良い武具を装備しているものな。


 その中の一人が訝しげに俺を見ながら一声かけてきた。


「貴様一人で我々を相手するのか?」


 まさか、そんな馬鹿なことはしませんよ? それじゃ意味がないもの。


「いや、俺がやれば魔法一発で終わってしまうでしょう。それだと手勢がいらないっていう証明にはちょっと物足りないかなと。なので皆様にはこれと戦ってもらいますよ」


 ドズン! ドズン! ドズン!


 次元収納から取り出しましたるは俺謹製のゴーレム三体!


 まずはマッチョゴーレムのサムソムさん。むっきゃあと黒光りする金属製の体をこれでもかとポージングして強調しております。黒一色だが煌びやかな笑顔を浮かべワンポイントとして紫のビキニパンツを履かせた彼のコンセプトは『まず視覚からの嫌がらせ』。こんなのに攻め込まれたら心底嫌がるでしょう。俺だったら一気に吹き飛ばすね。



 続いて阿修羅ゴーレムのアスラさん。六本の腕に剣を持ち三面の顔で戦場を見渡すナイスガイです。多面的な戦い方を目標に作り上げられました武闘派ですわい。剣以外にも六本の腕を駆使した格闘術も豊富でござる。放り投げた相手を空中で極めて叩き落したりとかな。うちのヤクシャ君が何度も挑んでは返り討ちにされていたっけ。


 最後に武者ゴーレムの戦場無双タダカツくん。戦場にて傷一つ負うことのなかったあの人をモデルにした巨漢の武者です。武者らしく鹿の角飾りや甲冑もしっかりと作りこまれています。その手には蜻蛉真っ二つと銘打った両手槍を持っており風切る穂先は目にも留まらぬ速度を出すこと請け合いです。


 全て二メートルを越す巨漢のゴーレムたちだ! それらを見た瞬間、代表たちの顔は一気に青ざめた。


「さ! どこからでも遠慮なく全員まとめてどうぞ!!」


((((((できるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!))))))


 代表たちの心が一つになった瞬間である。なまじっか選抜されてきただけあって目の前のゴーレムが何でできているのかしっかりと理解したようだ。そう、これらは俺が手ずから作った魔鉄鋼を注ぎ込んだ。全身を魔鉄鋼で形成されたとんでもない代物である。


 ゴーレムはその素材が強固になればなるほど危険度が上がっていく。魔鉄鋼のゴーレムっていうのは冒険者ギルドにも存在を確認されていないが少なく見積もってもアイアンゴーレムよりは確実に格上でありミスリルゴーレムよりと同等か少し劣る程度だろう。


 ちなみにミスリルゴーレム一体を相手取るのにBランクの冒険者パーティだと3つくらい組んでの大騒動になるらしい。そんなのが三体同時に相手をする。連携も取れない面々でどうにかしろっていうのはもう無理難題にも程があるだろうさ。ただ、うちの連中はこの三体を相手に模擬戦を繰り返していたけどもね。


 周りで見ているものたちもそれを理解しているからか無責任に煽るような事はしない。



「こら、ステイシー! 我が男爵家の代表としてさっさとあのでかぶつを叩きのめしてやれ! あんなものこけおどしに過ぎんわ!」


 いや、理解していないものもいたようだ。本当に空気が読めないな、カマセイン男爵。


 ステイシーと呼ばれたおっさんは『勘弁してくれよ』という顔を隠すことすら出来ずに絶望感で一杯な模様。他の面々も思わず同情の視線を向けていた。


「ええい、ままよ!」


 半ば投げやりに突っ込むステイシー。


 それに呼応するかのようにずいっと前へ出たのはサムソムさん。がばりと両手を挙げて突貫してくるステイシー(哀れな子羊)を迎え撃つ。


「っしゃあ!」


 流石に代表へ選ばれるだけあってそれなりの剣筋である。だけどもカイルとどっこいか少し見劣りするくらいの腕でしかない。


 ぱっきゃああああああん!


 それなりだけにサムソムさんの振り払われた左手により至極あっさりとその剣は根元からへし折られた。唖然とした顔になるもすぐ様気を取り直して構えを変える。お、こっちが本命なのか?


「例え剣が折られようとも俺には一子相伝のステイシー柔術がある! ちぇいやぁぁ!」


 つるん


 つるるるん


 気合も空しくその手は金属製の体を滑るばかりであった。それはそうだ。全身金属製のサムソムさんを投げるのならば頭か四肢を掴むしかないのだが……どう考えても掴んだところで重量オーバーだよな! 計ってはいないがとんでもない重量なのだ、彼らは。


 諦めずに向かってくるステイシーに『其の意気や良し!』と言わんばかりに色々と漲るサムソムさん。金属製の筋肉がパンプアップし一回り盛り上がったと思えば超低空からのタックルをぶちかましていた。ガッチリと組み付かれたステイシーは身動きひとつとれずに半ば放心状態。掴み上げられた体はそのままうつ伏せに押し倒され金属製の足で器用に相手の脚を挟み込んだ後、両手を持って後方へと倒れこんだ。


「あんぎゃあああああ」


 ステイシーの体は吊り上げられギッチギチに極められている。しかし、何でサムソムさんがロメロスペシャルなんて知ってるんだよ。俺はできるだけ怪我をしないように押さえ込めって命令しか出してないぞ?


 訝しげにサムソムさんを見ていたら自己主張するようにその身に宿る筋肉を盛り上げる。いやいや、自分で作っておいてなんだが金属製の筋肉ってなんだ? 寧ろ金肉か? 硬くて高そうではある。本当によく分からない代物になったものである。





 あ、物思いにふけっていたらいつのまにかステイシーが泡吹いて気絶している。ストップ、サムソムさん、ドクターストップですよ。ステイシー、君は頑張った! もしクビになったらうちに来てくれたまえ。寝覚めが悪いしね。


 結局、ステイシー以外は組み合うことすらできずに不戦勝と相成った。カマセイン男爵を含めた連中は僅かにその発言力を落とすこととなる。


 寧ろ中々動いてこないから余興で行ったタダカツくんの石柱なで斬りに身震いしていたけども。少々やりすぎたかもしれない。そういう訳だから俺の別働隊派遣はなし崩しに決定となった。公爵もその他の連中に配慮したのかお目付け役はつけるからと妥協した部分も大きい。













 で、当日目付けとなる人物と引き合わされたのだが、うん、シャニアが満面の笑みを浮かべつつフル装備でそこに待機していたわけである。ちなみにグラマダのお留守番はエト様だ。今頃は政務に勤しんでいるのではないだろうか。公爵様が下準備をしていたとはいえ領地経営は大変そうだしな。防衛のための最低限の騎士団、衛兵隊しか残っていないので治安などにも一抹の不安はある。そうそう、カイルやルイスさんもグラマダに残っている。


 グラマダの平和は君たちに託された!


 そのあとにビョォンってSEが入ってずっこけヒーロー誕生~♪とか流れそうだぜ。パンツ一丁で光線銃を持ったカイルが待ち行く人に凝視されて『ハァイ』って手を振る光景が……なんてことのないようにしっかりと守ってね。壊れた装備の代替に自重を結構外した武器防具を贈ったんだからさ。


 和泉屋に残ったのは三連娘、エルフ親子、レコ、サーラ、ウズメと愉快なウミネコたち、わかもとサンと不愉快なメロン隊、他従業員たちである。心に傷を負った美人な獣人の皆さんもあんな男に良い様にされていた怒りからか戦闘術を学び始めて今ではそれなりに使えるようになっておりそのまま我が家の食材調達班兼防衛に回ってもらった。元が獣人なだけに戦闘センスは高いようだ。あ、栗鼠人族の二人は戦闘に向いてない上、ちょっとした対人恐怖症になっていたから奥で調合担当みたいになっているけどもね。男が近づいただけでビクンと震え上がるものだから非常に接しづらかったけれど少し離れて会話するくらいには落ち着いてくれたから良くなったほうだろう。



 閑話休題。


 俺たちの部隊は途中まで一緒に行軍したらそこから北上し例の『ゼダン監獄』を目指す。本隊はそのまま北東の王都へ向かう。さくっと解放してさっさと合流したいところだが公爵様の話だとそうもいかないようだ。


 どうしても押さえておきたい理由は二つ。


 まず、あそこにはちゃんとした罪人以外に宰相派が煙たいからといった理由で投獄した有能な文官、武官が囚われているからである。出来ることなら解放後説得して味方へ引き入れたいとのこと。


 そしてもう一つ。これは極秘事項なのだが『ゼダン監獄』の地下施設には巨大な召喚魔方陣が設置されているらしいのだ。勇者の召喚魔方陣は王城にあったのだがこことリンクして地脈を通じて魔力を送り込まれたのだとか。その魔力の源は収容されている囚人たち。公爵様の知りうる限りでは多くの獣人たちが巨大魔方陣の中で息絶えたそうだ。


 そんなものを放置しておけばいつ何時何を呼び出されるか分かったものじゃないので速やかなる確保、もしくは破壊を命じられている。俺としては即破壊するつもりだけどな。俺にとってはこちらで得たものが大きいから後悔はしていないがあちらから拉致されてくる面々が皆そうだとは限らない。少なくとも俺の手が届く範囲の中でそういった芽は摘んでおくに限ると思う。



 ぷにっ



 んが。

 物思いに耽っていたらなにやら頬を突かれた。横を振り向けばそこにはシャニアが少し不満げに俺を突いている。


「折角父上に無理を言って目付けに志願したっていうのにそっちのけで考え事に耽るっていうのも酷いんじゃないかな? もうちょっと喜ぶとか驚くとかリアクションがあってもいいと思うんだ」


 あなた馬に乗ってましたよね? え? 御付の騎士に預けた? なにしてますのん。


 貴族や騎士は馬上に揺られているが流石に冒険者や雑兵は徒歩である。行軍速度は済し崩しに遅くなるがこればっかりは仕方が無い。俺たちも分かれるまでは徒歩での移動となる。無論、別途移動用の手段は考えてあるもののそれを使えば俺たちだけが先行してしまい作戦に支障が出るからと分かれるまでは一緒に行動することになっていた。が、俺個人に関しては色々と飛びまわるんだけどもさ。

本名ピストン・ステイシーに幸あれ!

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