第244話 進撃の人
だいぶ間が空きました。私的に色々ありましてSAN値が直葬気味です。
それにもめげずになんとか新章開始ですのよ。
グラマダ郊外。
簡易の陣がいくつも立ち並び騎士、傭兵、義勇兵、冒険者がひしめきあい今か今かとその時を待っていた。
石造りの壇上の上に煌びやかであり威厳ある服装の小柄な姿がすっと現れ出るのを。
手には王杓を持ち未だ声変わりのきていない少し甲高いが透き通った声で高らかに宣言した。
「皆、よく集まってくれた! 余は公王アルティシナである。今日この日、この時より王都へと進撃する! 誤った政策により困窮する同胞、獣人、亜人を解放し再び公国としての正しい姿を取り戻すのだ。皆、その力を遺憾なく発揮し余を助けてほしい。勝利の栄光を我らに!」
「「「「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」
総勢二万にも及ぶ将兵たちが手を突き出しながら声を張り上げた。その鬨の声はビリビリと空気を揺らし否が応にも熱気が溢れ皆滾っている。
「第一部隊を先頭に進軍開始! 隊列を乱さず整然と進め!」
ザッザッザッザッ!
一糸乱れぬ随分とご立派な大群が王都目指して出発する。ごめん、結構誇張した。先の表現を体現しているのは公爵配下の騎士団くらいで寄せ集めに近い現状ではそこまでの規律はないの。特に小貴族連中の場合、民衆の内から徴兵してきた者も多いのでおっかなびっくり槍など持っていたりする。正直、戦えるのかすら不安なレベルだ。
二万のうち公爵家が五千、例の四貴族が各二千から三千ほど、それ以下の貴族たちが千から数百といった内役である。それ以外は冒険者や義勇兵が組み込まれておりそれらを取りまとめているのはアミラルさんだったりする。
実績と信頼のアミラルさんなので下手な貴族よりも彼がまとめている冒険者連中のほうが規律が取れていると思う。
冒険者ギルドも先達て膿を吐き出すまでは随分と無茶な介入などがありその度に業務が滞るは下からは突き上げられるわで大分鬱憤が溜まっていたようだ。臨時で副ギルドマスターがグラマダのギルドを取り仕切り思う存分暴れまわってきてくださいとアミラルさんが送り出されたのである。荒くれ者の冒険者たちも上に立つのがアミラルさんということで素直に従っているようなので問題は起きていない。
勿論、俺達も類に漏れず行軍に同道している。
あれからもこの日に照準を合わせて準備を重ねてきた。
追加発注に崩れ落ちたおやっさんだったがすぐに復活し作業を開始していた。流石、おやっさん。ドッスンとでかい重石が崩れ落ち潰されてもびくともしないだけある。目が虚ろに見えたが気にしない気にしない。あれからすぐにキノコとスッポン鍋を差し入れたら色々と漲っていたし。亀肉とキノコはおやっさんの大好物なのだ。
話がそれたが俺が率いるのは現在40名ほど。嫁さんたちに獣人たちにラクシャ、それと姐御に萌え隊、なぜか付いてきているダークエルフのヒロティスさん。
ちなみにポポト君たちはお留守番である。俺からの依頼ということで食料の確保と我が家の防衛に加わってもらっている。流石に戦争へと引っ張り出すには年齢と実力がまだ足りないと思ったのだ。
そう、なぜかヒロティスさんまで付いてきた。リーフさんがケィンさんに甲斐甲斐しく世話を焼いており一緒に行動していたはずの彼女は取り残されていたのだが『あんまりにもお暑いものだから私はこっちでお世話になってもいいかしら?』とちゃっかり我が家に間借りしていたりする。
なんだかんだで薬草などの知識はかなり深く彼女のアドバイスでいくつかの商品が試作されていることからこっちとしても大助かりだったんだけどね。特にセフィさん、フツノさん、エレノアさん、ディリットさんとガッチリとスクラムを組んで化粧品や肌のケアをする代物への飽くなき探求が連鎖反応により大爆発していたのは余談である。俺には静観することしかできなかった。実に恐ろしきは女性の美への探究心よ。
で、ここ一ヶ月ほど彼女はうちに下宿していたんだが不意に『家賃分は働くからついていくわね♪』って半ば強引に参加してきた。フランクで話しやすいのだが如何せん何を考えているか読めない所があるな。悪い人ではないんだろうけど一体どんな意図があって参加したのやらである。
「ほらほらノブサダ君。私たちも遅れないように出発だよっ!」
そしてなぜかこちらも同行しているのだよ。いいのか公爵令嬢。いいんだろうなぁ、今回の彼女は俺たちのお目付け役だからである。彼女がいる時点で察してほしい。俺たちはなぜか公爵家騎士団の最後尾に位置取りされているのだ。後方からのやっかみの視線が割りと痛々しいの。Oh,Shit!
時を遡る事、三日前。
各師団の団長、トップの貴族を集めての会議が開かれていた。既に調略や駆け引きが始まっており俺も色々とやらかしているので報告も兼ねて呼び出されていたのだ。
それはいいのだがなぜかアルティシナの横に立たされている。背後にはフミたんも控えているのだが公爵様よ、何ですの? ほら他の連中の視線が痛いのですが? ニマニマした視線を送ってくる師匠や噴出しそうなテムロさんがそこはかとなくイラッとしますよ。
まあ、そんな俺の気を余所に会議は粛々と進んでいた。進軍ルートは今まで散々話しあわれただけあって今日は最終確認であり特に問題はないようである。
「それとだ。王都へと向かう以外に別働隊を派遣する。この部隊には……『ゼダン監獄』の解放を行ってもらう」
????
何ですかね、それは? 俺は聞いたことがないぞ。そんな俺の困惑もさることながらそれまでの静かさはどこへやら、皆が皆ざわついている。落ち着いているのは首脳部だけか。今までは完全に秘匿していたのだろう。
「知らないものもいるだろうから簡単に説明しよう。王都の北西に位置する収容施設のことで元は過去の戦で使われた砦であった。だがこの十年で改装に改装を重ね更に幾重にも壁が張り巡らされさながら人工の迷宮のようになっている。ここには政治犯や貴族たちのような簡単には釈放、処刑できないものたちが収容されているのだよ、表向きには」
表向きにはってことは他にも何かしらの用途かなんかがあるんですか。うーん、ちょっと嫌な予感がしてきた。
「表に出せない事情があってね。あちら側が追い詰められれば何かしら仕出かさないとも限らないので先んじて接収しておきたいのだよ。どこに間者が潜んでいるか分からない現状のため今まで伏せていた。それほど重要な案件だと思ってほしい。だが、これを担当するものには結構な困難が予想されるだろう。そこでだ。公王様の直属の冒険者であり戦拳の弟子でもあるこちらのノブサダ君の率いる部隊にその任に就いてもらう」
あー、やっぱりそんな気がしましたよ。ほら一斉に俺へ視線が釘付けですわ。ほとんどがこいつ誰よって目で見ています。あ、でもグラマダに所属している連中はそんなことないっぽい。現状の俺の知名度はご当地ヒーロー的なものなのだろう。
「勿論、それ相応の手勢は付ける。だが恐らく既存の戦い方であれを抜くことは困難を極めるだろう。君ならばと見込んでなのが。ノブサダ君、やってくれるかね?」
公爵様も人が悪い。これ断ることなんて出来ないでしょうよ。でもまぁ予めこちらの要望を伝えた際に『ならばそれに見合った戦場を用意しよう。他のものが文句のつけようもない戦場をね』って言ってたからもしかしたらーとは思っていたんだ。予想の斜め上だったけどね! まさかの攻城戦が担当になるとは……。
ま、色々と仕込みはあるんでやりますがね!
「承りました。ですが追加の戦力は不要です。私の手勢だけで事足りるかと」
ガタン!
「貴様! 公爵様の前だからと大言壮語を吐きおって! 出来ませんでしたでは済まんのだぞ!」
最初から難しい顔で唸っていた貴族の一人が勢いよく立ち上がり怒鳴りつけてきた。
「大言壮語でも何でもなく出来ると判断したからですが? えーっと……」
「カマセイン男爵です(ポソリ)」
横からそっとフミたんが助言をくれる。ありがとう、貴族の名前なんて全部覚えてられないからね。
「確かカマセイヌ男爵でしたか?」
が、敢えてそれをスルーしつつ煽ってみる。額に青筋を浮かべ少々目が血走り始めているな。そもそも男爵って下から数えた方が速いんだろう? 何でまたこんな場でいきり立っているんだ。
「カマセインだ! 貴様、私をなめとるのか!これだから平民風情は! 獣人なんぞを引き連れて物見遊山気分ではないのかね!」
その視線はフミたんへ。こやつめ鑑定でも持っているのかな? それはまあどうでもいいが平民風情やら獣人なんぞやらと随分と人様を見下してるね。少しでも良識あるものなら眉を顰めているよ?
あ、公爵様含め何人かニヤニヤしてやがる。これはあれか。最初から不穏分子を炙り出していい感じに釘を刺すつもりか? うん、ロクデナシな味方ほど厄介なものはないだろうし俺もしっかりとぶっとい釘刺しておこうかね。ッアーーーーってなるくらいのな!
「それではロクデナシ男爵様。あなたの手勢で屈強なものを選抜してください。面白いものをお見せしましょう。公爵様、よろしいですか?」
「うん、構わないよ。どうだい、この決定に不満のあるものは代表を出してもらっていい。不平不満があるようだとこの後に差し支えるだろう?」
にやりとしながらそう言い放つ公爵はやはりこの場を利用するつもりだったようだ。その言葉を受けて名乗りを上げるものがちらほら。あれだな、丁度いいアピールタイムだと受け取ったやつもいるんだろう。こちらとしてもうちの面子以外に対してアレがどの程度の性能を発揮しちゃうのか知りたいからね。




