第242話 不思議さん
更新遅れてます。ごめんなさい。
『オーデンサ軍』が出発してすぐに地下に囚われていた美女の皆さんの奴隷紋を消し去り解放した。獣人の多くは逃げ出さないように腱を切られておりあのサル貴族への怒りが増幅されたよ。常習的に傷が目立たない場所を殴られたり蹴られたりもしていたらしい。奴隷紋で感情を押さえ込んでいたようだが解放した途端に泣き出したりどうしてもっと早く来てくれなかったのかとヒステリックに力なく叩かれたりしたときには非常に心が痛かった。
特に不安定だった栗鼠人族二人を先に送り出し屋敷にいた癒し担当のタマちゃん、ヤツフサ、サーラさんにお願いしてくる。そして再び戻ると残った面々と今後どうするか手早く話し出した。
協議の結果、普人族の女性たちはそこまで酷い状態ではなかったので当座の路銀を手渡し思い思いの場所へと帰ってもらうことになった。勿論、売られてきたため故郷など戻りたくないという人にはグラマダなどへ空間転移で送ってやる。心機一転新しい土地でやり直すそうだ。
問題は八人の獣人女性。戻る故郷は遥か遠く場所すら分からない者もいる。先の二人ほどではないが若干の人間不信というか普人族不信があるせいか傷を治療しても警戒の色がありありと浮かぶ者もいた。
最終的には牛人族の女性が説得して一時俺のところへ身を預けることで同意。いくらかうちの仕事を手伝ってもらいつつ体と心を癒し今後どうするかゆっくりと考えてもらうことになった。
空間転移で我が家へと運んでお世話係のサーラさんたちを呼び出したんだがそこで新事実が発覚する。
「ね、姉さん!?」
ぷるん
「サーラ! サーラなのね!」
ぶるるん
たたたたたたた、ぎゅむっ!
感動的な姉妹の再会。二人はたぶん涙を流しながら抱き合っていることだろう。
なぜたぶんなのかといえば現在ワタクシ頭部を巨大なおぱーいに挟まれておりまして呼吸が困難な状況であります。ビッグバストなために間にいた俺が見えなかったのでせうか?
非常に柔らかいとても素晴らしき感触ではあるのだが如何せん息ができません。仕方ないので魔法で酸素を口内に作り出してます。なんといいますか入院して酸素供給の装置つけられてる感じ。俺じゃなかったら倒れているよ。
サーラさんの首に奴隷紋が残っているのを見咎めて『やっぱりあなたは!』と表情を変えるというひと悶着があったがサーラさんが解放するという誘いを断ってそのままでいたことを説明しその場は収まった。何やらレコが耳打ちしたあとに顔を真っ赤にしていたのが気になるが……。
社員寮の脇にプレハブ型の簡易宿泊施設をいつもの魔法で作り上げ取り合えず休んでもらおう。とにかくも彼女たちに必要なのは休息だと思う。望みもしないサルにいいだけ弄ばれた心の傷は治ったとしても時間がかかるだろうしな。あとは女性同士のほうがいいだろうと俺はそっとその場を離れた。
タマちゃんやヤツフサ、ウズメたちのアニマルセラピーも効果があるといいなぁと廊下をてくてく歩いていたら修練場のほうから矢を射る音がする。そういえば今日は弓の訓練しているんだっけか。ちょっと顔出してみようかな。
タターン、タターン
風を切り突き進んだ矢じりが的へと刺さる。何人もの獣人が出来上がって支給されたばかりの弓を手に一心不乱に射っていた。
……そこ、脇を閉めて。
……ガチガチに手を握らないで。適度に力を抜くのも必要。
……体は捻らない。変な癖をつけると後で苦労する。
そこではミタマが獣人たちへと稽古をつけていた。言葉少なめだがそれぞれに合わせた的確な助言をしていく。目に見えてとは言わないが徐々に的へと当たる確率が上がっている気がした。まぁ俺がやらせようとしているのは高台からの一斉掃射なのでそこまで精密な射撃は必要ないんだけどね。それでも後々にも生かせるから錬度を上げるのは悪いことじゃない。技術がなければ真っ直ぐ飛ばすことすら難しいのだから。
銃とは違って弓は扱う人の技術がまるっと影響する。銃ならば一般人でも闇雲に撃ったとしても人を殺めることは可能なのだ。だがラノベでありがちな火薬の作成や銃の普及はできることならしたくない。そんなものを普及させてしまったら硝煙と血の臭いで充満した凄惨な戦場ができあがってしまうだろう。そんな時代がくるのは御免被りたい。勇者連中がそいつをやりそうなんでいざとなったら作り出すのも厭わないのだが進んでやりたくはないのだよ。良きファンタジーの世界のままであってほしいものだ。
……狙撃用の魔法とミタマ専用になる弓は開発中なんだけどね! 自分の支離滅裂振りにちょっと自己嫌悪である。
おや? ミタマがリザード族のポチョムキンになにやら興味を示している? こっそりと少しだけ聞き耳をたててみた。
「……ポチョムキン、ちょっといい?」
「ん? 奥方様どうしたざんすか? ミーの撃ち方に何かまずいところでもあったんざんしょか?」
ふるふるふると首を振り違うことを示すミタマ。やがてちょっとだけ遠慮がちに口を開いた。
「……聞きたい事、あるの」
「ミーに? 何でも聞いてほしいざんす。知っていることならなんでも答えるざんすよ」
非常に言い難そうだがぽそりと言う。
「……リザード族の尻尾って……切れるの?」
「へあ?」
「……で、また生えてくる?」
こてんと首を傾けながら疑問を口にしたミタマ。その質問に一時固まったポチョムキンであるがやがて目の前で手を振り否定を表した。
「いやいやいやいや、確かにリザード族の見た目はトカゲに類似しているざんすが流石にそこまで似てはいないざんすよ。少なくとも我らの部族の場合は切ってしまったらリジェネーションでも使われない限り再生することはないざんすね」
「……むう」
「しかし何でまたそんなことを?」
「……切れた尻尾、食べるの、かなって?」
「OH!」
(も、もしや奥方様の気になっているのはドラゴンステーキ的なあれざんすか!? ひいいい、よくよく見てみればなぜか捕食者の目をしているざんすよ)
「た、食べないざんすよ? 魔物の肉と違って美味しくないからこの話はなかったことにするざんすよ、ね?」
「……残念」
ちょっとだけ口を尖らせながらミタマはまた指導に戻っていく。ポチョムキンはそれを見て安堵とともに言いようのない恐怖を味わったという。
……ミタマよ、何してるの。彼女の食い意地はどこまで広がるのだろうか。この世界についてからの俺的七不思議に含まれるのかもしれない。




