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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第240話 勝利の道筋



 タイクーン公国南東に位置する第三の大きさを誇る都市『オーデンサ』。公国最大の鉱山を有し戦力、発言力共に二つの公爵家に次ぐハヌマーン侯爵が治める地域である。


 市街地には鉱山労働者やそれを加工する職人たちが溢れかえり彼らを相手にした酒場や風俗街が立ち並ぶ。またこの都市には公国最大のアーレン神殿がそびえ立ち熱心なアーレン信者が入れ替わり立ち代り礼拝へと訪れることでも有名であった。


 そんな『オーデンサ』の安宿の二階であまり特徴の無い中肉中背の男が黒い珠を握り締めながら一心不乱に祈っていた。どれほどの時間続けていただろう。やがてその珠から光が放たれ始め男はそっとそれをベッドへと置いた。


 シュオン!


 小さな音と共に小柄な男がその場に降り立つ。


「あ、すまない。ベッドに土足で乗ってしまった」


 緊張感のないその声は言わずと知れたノブサダである。その姿を見るや否や男は恭しく跪き頭を垂れた。


「御屋形様、ご足労おかけしました。御指示の通りこちらの都市にて行商人として商業ギルドへ登録完了してございます」


「ご苦労様。それで……ここはどうだい?」


「はっ、こちらに着いて三日目ですが色々と耳に挟んだことがございます。やはりこちらの領主は宰相側へと付くようです。闇に紛れて偵察したところ数日中には王都へ向かって進軍する予定のようでした。食料品や生活必需品などが軒並み値上がりしていることからまず間違いないかと」


 それを聞いて眉間へと皺を寄せるノブサダ。公爵様の予想では8:2で敵対だったがやはりこうなったのかと思考にふける。


「それと別に仰せつかっていた件も調べました。この街にある孤児院は二つ。両方まわって見ましたが経営は厳しいようです。特に戦争の煽りで食料品が値上がりしたのが痛手で子供たちも随分と痩せこけておりました」


 これまでの自分たちの姿を重ね合わせたのか若干苦々しい顔になる男。


「なるほどね。助かったよ、ありがとう。それじゃ俺は他の皆の所を回ってくる。明日、もう一度こっちに来るんでその時に孤児院の方を案内してくれ。あ、それとこれは今日からの生活費と経費ね。商人らしくあっちで売れそうな特産品などを買い込んで欲しい。こっちの小袋が生活費になるよ」


「畏まりました」


 恭しくノブサダの差し出した布袋を受け取る。ずしりと重みのあるそれを受け取った男は酷く慌ててノブサダの顔を見直す。


「お、おおお、御屋形様。生活費をこんなには頂けません!?」


「いいからいいから。何があるか分からないし使わなかった分はそのまま持っててくれていいから取って置きなさい」


 手元へ小袋を引き寄せるとぐっと包み込む両手が震えているようだ。


「忝うございます。忝うございます」


「それじゃゆっくりと休んでくれ」


 シュパンと空間転移で消え去るノブサダ。男はしばらくの間、そのままの姿勢で袋を握り締めていたという。













「ふう、これは思ったよりも状況悪いのかもしれんなぁ」


 それから各町へと到着した蝙蝠人族の密偵たちのところを回っていった。王都へと全員空間転移してからの移動なので随分と早くついたようだ。


 それにしても本当に彼らは密偵向きだわ。羽根も尻尾も収納できるから普人族と全く見た目が変わらないし気配隠蔽のスキルなどを習得できた者も多い。その上、演技力があり商人としても動けるって言うんだからな。まぁ、そのせいで信用できないってやつらもいそうだが俺にとっては頼もしいことだ。戦争が終わったらちゃんと評価してあげないとだな。やっぱり情報あってこそだよ。


 彼らが仕入れた情報から東部、南東部、北部の貴族の多くは王都よりもしくは日和見に徹するようだ。ここら辺の情報と例の寄生粘菌問題を纏めて公爵様と一度協議したほうがいいな。色々と工作するつもりではあるがトップと情報共有しておかないととんでもない落とし穴に嵌りそうだし。






「という訳なんです」


「…………急に来て随分ととんでもない報告をしてくるんだね。ちょっとばかり背筋が冷え込んだよ」


 あっけらかんと報告してみたが公爵様はえらい引きつった笑顔で応えてくれました。てへ。一緒にフミたんに色々とご教授いただいているイーゲル氏とアルティシナも同席しているよ。折角だから嫌がらせの駄目出ししてもらって精度を上げたいものだ。


「先程まで現地で収集してきた情報なのでそう間違いはないと思いますがどうしましょうか? 取り合えずある程度進軍したら嫌がらせに兵糧を根こそぎ奪うくらいはしようかなと思っていましたが」


「時空間魔法とは恐ろしいものだな。いや、ノブサダ君の実力あってこそなのだろうがここまで情報が筒抜けになるとは……それにしても兵糧を奪うとなると厳しいのではないか? それに行軍中にある村々から徴収するのでは意味がないだろう」


「そこはほら色々と。例えば彼らが野盗のように徴収した後、嘆いている村々へ近づきアルティシナ様の名前で食料などを内緒で与えていきます。勿論、進軍を止めるべく追いつこうとしている風を装って。穿った見方をされて訝しむものも出るかもしれませんが奪ったほうと与えたほうのどちらを支持するかは簡単な話ですよね。渡す食料は拝借したものなのでこちらの懐は痛みませんし」


 ごくりと公爵様が唾を飲み込む音がする。僅かだが呼吸も荒い。はてそんなに緊張するような話か? アルティシナに至っては顔が蒼白になっていた。戦争って綺麗ごとじゃないんだよ。君には清濁併せ持った君主へ成長してほしいとばかりに俺が考えた作戦を伝えようか。


「敵軍のほうに話を戻しましょう。更にそこからまた兵糧が無くなったとなれば今度は誰かが盗んだなどと流言を流せば面白いように踊ってくれると思いますよ。そこら辺は上に立つもの次第だと思いますけれども。たとえそれで結束が崩れなくとも外敵からなんらかの嫌がらせを受けていると自覚するでしょう。そうなったら気を張り詰めていないといけません。それが続けば肉体的にも精神的にも疲弊していくはずです。それを続けてやればこちらの有利に働く……って公爵様どうしましたか?」


 俺とフミたんのすーぱーまっちぽんぷ大作戦の話を聞いているうちにこめかみを押さえ始めたよ、公爵様。イーゲル氏も両手で顔を覆っている。あれ? どこか破綻していた? まだ伝えてない部分もあるんだけどな。全部ではなく僅かに残すことで上層部への忠誠を揺らす事だってできるかもしれない。おまけに『上官だけはいいものを食べている』と流言も流しておけば尚効果的だろう。


「いや、すまない。なんとも聞いているだけで相手が哀れになっていく作戦だったので、つい。イーゲル。彼の話を聞いてどう思う?」


 その言葉を受けて覆った手を下ろしてこちらをじっと見つめてくる。彼の身長は180cmはあるかないかなので俺からすると常に見上げなければいけない。ぐにゅう、早く大きくなりたい。


「正直脱帽です。些か民への被害が出るかもしれませんが数千の兵士たちを弱体化させるには非常に効率の良い作戦だと思われました。問題があるとすれば実行できるのが彼だけだという点ですね」


 確かにそうだ。空間転移は魔力消費量がでかいし座標指定のマーキングも俺が改変して作り出した魔法だしな。その気になれば行軍している側から空間迷彩で近づいて接収する事もできる。次元収納の口は自在に変化できるのでぱっくりと一気に持っていけるのだ。


「ふむ、分かった。ノブサダ君、その作戦決行してくれたまえ。アルティシナ様、これが戦争です。確かに卑怯かもしれませんがその実民への被害は戦争が長引くほど大きくなるのは自明の理。ノブサダ君の作戦を促すことで短期決戦の芽が出てきたと言えるでしょう」


「う、うむ。余もいくつか指南書を読んだことがあるからそれは理解できる。余が驚いているのはノブサダがどこでそんな戦略を学んだかということであるな。余程、名のある方へ弟子入りしたのだろうか?」


 いいえ、信○の野望とか大○略とかファ○コンウォーズが教本です。いかに最小限の労力で相手の心をへし折るかっていうのを考えただけですたい。そもそも一番手っ取り早いのは集まりきる前に俺が認識されない空中から思い切り爆撃くらわせての各個撃破なんだけれどそれをやってしまうと国力の低下が著しいからな。なるたけ死者の数は減らしたいんだよ。

勝利の栄光を君に!


ははは、こやつめ。

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