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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第239話 僅かな休息、僅かでも合宿 後編

 

 てれれてってって~♪ てれれてってって~♪ てれれてってってって~♪


「ノブサダと!」


「フツノ!」 「ふ、フミたんの……」


「「お昼のクッキング~♪」」


 テンションに着いていけずに頬を染めるフミたん。それをよそに大盛り上がりの二人と周囲の子供たち。それもそうだろうこんな大漁の食材などそうそうお目にかかれるもんじゃない。ましてやそれが今から自分たちの胃の中へご招待することになっているのだ。


「若干の照れがあるようだがそれがいい! 毎度、フツノやで。さぁ今日は海鮮づくしやねんけども何を作っていくんかな?」


「そうですな。マグロはちょいと脂を落とすためにしゃぶしゃぶ、赤身のほうはヅケにし他の部位と合わせて豪華マグロ丼と洒落込みましょう。貝類とカニのいくつかは網の上で浜焼きかな。ダイオウイカはサイズがあるので網焼き、イカフライ、イカソーメンと加工しちゃいましょか。ウツボ、ハリセンボン、イセエビ、カニはこちらの巨大鍋でお味噌汁へと変わります! あさりやなんかは今晩炊き込みご飯などに変わるので我慢してな」


 子供たちからは『ひゃっはーーーーー』と諸手を挙げての喜びを頂きました。悲しいかな訓練で疲れ果てている大人連中はへとへとなのと俺が作るものの完成図を思い浮かべれないのであまり良い反応は来ていない。まぁ調理を進めれば若干変わってくるだろうと言う事で君らはそこで休んでなさい。終わったら片付けしてもらうけどな!


「ほんじゃフツノさんはフミたんと一緒にマグロのヅケと味噌汁のほうをよろしく」


「はいな、まかしとき!」 「はい、御屋形様!」


 そんな俺が懐から取り出したるはミスリル製の出刃包丁! ミスリル製だと臭みが刃に移らずクリアを重ねがけしていくことでこれ一本で作業が進められるので重宝しているのだよ。


 しゅぱぱぱぱぱん!


 料理漫画のように空中で瞬時に刺身に切り分けるっていうのは出来ないがそれに近いほど瞬時に切り進められるようにはなっていた。出来上がっていく刺身は盛り合わせるまで次元収納へと皿ごと一旦仕舞う。これで鮮度をきっちり保つのも最早癖になっているね。


 刺身を切り終えた所ででかい網の上へ各種戦利品を乗っけていく。ここら辺から大人たちの喉が次々ゴクリと鳴った。だがすぐには食べさせてはやれんのだ。まだまだ焼きあがってないのよね。


 じゅわわわわわ


 貝の口が開きじゅわじゅわと汁が溢れ出す。そこへ醤油をちょろりとかけていけばそれはもう香ばしいいい匂いが周囲へと撒き散らされていた。我慢できねぇと頭を抱えて身悶えするやつもいる。大人しくしていなさい。見ろ、子供たちなんかは正座してきちっと待っているじゃないか。ディリットさんたちの教育の賜物ですな。


 焼いている間も暇している訳じゃない。きっちり温度の上がった油の中へパン粉をまぶされたイカが次々と投下されていく。ついでに野菜の搔き揚げなんかも作ってしまおう。


 そんなこんなで網の上、テーブルの上には多種多様な海の幸などがこれでもかと並んだ。

 どんぶり飯は一人一杯までな。ミタマもそこら辺は我慢するように言ってある。いい加減ダンジョン内だけで米を賄うのもきつくなってきたよなぁ。どこかで栽培できればいいんだが田んぼを作るとなると……おっといけない今日はそんなことは忘れてしまおう。


「それでは食材に感謝を込めて、いただきます!」


『いただきまーーーす!』


 獲物を前にした野獣たちが一斉に飛びかかる。

 あるものは揚げたてのイカフライにう~ん♪と唸り。

 あるものは豪華マグロ丼を勢い良く掻き込む。

 あるものは初めて食べるしゃぶしゃぶに驚きつつもしっかりと味わい頬張る。

 あるものは熱い汁ごと貝をすすりこみ盛大に火傷を負った。


「くはぁぁぁ美味ぇ。なんだこれ、こんなの初めて食ったぜ」


「だなぁ家のかかぁもこんなの作ってくれるんだったら毎日頑張れるんだけどなぁ」


「嫁がいるだけいいじゃねぇか。俺なんざ独り身なんだからよ。ああ、酒飲みてぇ」


「はい、ダーリン。あーーん」


「あ、ああ。んぐ。美味い!」


「そこぉ! いくらあん時結婚が決まったからっていちゃつくんじゃねぇよ。この合宿も職務の一環なんだからな。ここに来れていない総隊長とマンツーマン特訓をしているジャックバのことを考えてやれ」


「「ふぁーい」」


 駄目な大人たちは放置してこちらは出来る子供たち。


「むぅ、これはあれだけ大柄なダイオウイカの身が簡単に噛み切れる……だと!」


「衣を剥がしてみてください。隠し包丁が入っています。全てのイカに同じ処理がしてあるというのは食べる人のことを考えていますね」


「はぁぁこの味噌汁は大海原のジュエルボックスですねー。エビのミソがコクとまろやかさを一層引き立ててますよぅ」


「マーシュ!? 一体どうしたんだぃ。ってガーナもお椀を持ったままピクリとも動かないのはおかしいよ!?」


「……はふぅ、至福ですわぁ」


 こっちもあんまり変わらなかった。なんで料理評論家みたいになってるんだか知らないけど。まぁどっちにも概ね好評だしいいか。

 珍味っぽいマグロの心臓をしゃぶしゃぶしてみたがコリコリして美味かった。自家製ポン酢でさっぱり頂きましたよ。




 食事の後も大人たちの特訓は続く。

 そして子供たちはというと……。


「はいはい、それじゃみんな大きなお城を作りましょー」


「「「「「はーい」」」」」


 やっぱり物作りは情操教育にいいよねってことで子供たち総出で砂でお城作成体験をやってもらおう。ミタマも大人たちの特訓へと合流したので監督はフツノさんとフミたんである。セフィさん? いまだにどこかを漂っている。一応場所を把握しているし大物の姿が防水型マジックリュックへと仕舞われていることから無事なのはしっかりと確認していた。水を得た魚ならぬラミアは今までの引き篭もり気質はどこへやら大海原を満喫しているようだ。


 俺はといえば夕飯の仕込みだったりする。どこまでもおさんどんであるな。おまけに大量に引っ掛けてきた昆布を干しておいたけど。

 夜は深川丼、しじみ汁。朝食みたいだがあっさり食えるからいいよね。

 おかずとしてはカツオの刺身はキュウリなどと溶いた味噌ダレで和えてみた。以前、沖縄で食べたのが忘れられずに再現してやったぜ。八角は皮を剥いであぶり焼きに。卵は醤油漬けにしておいた。これは酒が進むだろうからうちの嫁さん達のおつまみにいいだろう。

 タイはそこそこ数があるので刺身、塩焼き、煮付けとバリエーション豊富だ。


 あとはどうしようかな……。


「ノブ兄ちゃん。ちょっといいか?」


 オルテアから何やら相談かね?


「ノブ兄ちゃんって魔法で地面とか補強できるんだろ? ちょーっとお願いできるかな」


「あいよ。しばらくは煮込むだけだから構わんよ」


「それじゃ待ってるから~」


 おう、と手を振り答えて適当なところまで準備を進めたら早速行って……み……ようか?

 なんだあれ? なんか基礎みたいのができてないか? 型枠みたいなのに砂ががっちり詰められ更にある程度の水分を含ませて更に更に圧縮していた。本格的にも程がある。

 ガーナが現場監督のように子供たちを指揮してぎゅっぎゅぎゅっぎゅと砂を運び敷き詰めていく。平らに均されたむき出しのフロアは踏んでも凹まない程度の強度を持っていた。


 こっちこっちーと促され着いた先はすでに型枠が外された土台部分。要望通りに『地壁補強ダグ』で補強してあげた。これでどうするんだ? そう思っていた矢先にマーシュがアースウォールを使い砂が盛り上がり壁となる。これにも補強かけるの? そうか。言われるがままに魔法を使っていくのだがこれどうするの?


「土の精霊さん、土の精霊さん。これの重さをちょーっと軽くしてくださいな」


 ティノちゃんが精霊へお願いすると砂壁はうっすらと光りだす。重量軽減されたそれをオルテアがそいやっと担ぎ上げ土台へとはめ込めばしっかりとはまった。同様の工程をこなしていく度に着々とそれは出来上がっていく。


 夕方になる頃には浜辺に砦と言っても過言でないものが仕上がっていた。子供たちよ、君たちは一体何と戦うつもりなのかな?






 そんな浜辺の要塞は『シーサイド・ソロモン』と名付けられ翌朝に攻城戦を模した模擬戦に使用された。

 ミネルバちゃんが旗印の防衛隊。


「ふははははー、ソロモンの栄光はやらせはしませんよー(棒読み)」


 フツノさん何言わせとるのよ。あれか……俺の小ネタ集から抜粋しよったか。


 クーネルちゃんが旗印の攻城隊。


「け、怪我には気をつけてくださいね」


 そもそもどうして彼女達が旗印かというとあまりに気負いすぎるとこの大事な時に大怪我など負ってしまいそうだったから。特に大人たちがね。なので多少気抜けするくらいでいいのだよ。フミたんはクーネルちゃんの勇姿に感動していたけど。


 各部隊には戦争に参加するものは攻城隊。グラマダに居残るものは防衛隊に参加している。旗印の持つタマちゃん棒を取られると負けである。


 俺と嫁さんたちは審判兼救護班だ。空中にはタマちゃんが分体と共に目を光らせていた。大規模演習の様相となったそれは3戦ほど行われ初戦、二戦目と防衛側の勝利となったがその時点で攻城側も勝手が分かってきた御蔭か主力のほとんどをおとりとし少数精鋭による壁面の突破からのタマちゃん棒奪取という劇的な勝利を決め溜飲を下げる。終了する頃には折角作った要塞はボロボロとなってしまったが攻城戦の演習という予期せぬいい訓練となってくれたため役目を全うしてくれたと思う。作った子供たちも最後に消滅させるまで誇らしげに見つめていたもの。

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