第233話 ぬばっと解決?
「レベリットさんや。俺の方針で彼らは無事に帰ってこれるだろうか? 命そのものを預かるってことがこんなに怖いものだとは思わなかったよ……。俺の指示で身近な人が死ぬかもしれないと思うと悲しいかな手が震えてくる……」
今までも奥さんたちを前に出したりするのも怖かった。だから前に前にと自分で進んで出て行ったが今回様々な経緯から慕ってくれる獣人や亜人の部下ができソレを失うかもしれないのが怖い。女神に相談するようなことじゃないってのも理解している。それでも話してそして何でもいいから答えが欲しかった。
「う~ん、難しいですねー。女神と言っても未来を見通せる訳じゃないのですよー。それでもノブサダ君のように悩む人は数多いと思うのです。私が言えるのは自分と皆を信じて突き進むしかないと思うのですよ」
ドヤ顔ではなく真剣な顔でそう答えるレベリット。ありがちと言えばありがちではあるが真面目に考えての答えだけに真摯に受け止める。
「間違いそうな時や思い悩んだ時、それを受け止め悩み背中を押してくれる人が沢山できた筈です。そんな人に思い切って相談するのもありですよねー。ずっとノブサダ君を見てきた私は断言できますよー。それだけの人脈を今まで作ってきたと思うのです」
予想外の至極真っ当なご意見ありがとう。以前に師匠に相談したことはあるけれど『細けぇことはいいんじゃよ。ぐあっと行ってばーんとやっちまうのがいいんじゃ』で終わってしまったことがあるからちょっと悩むんだよね。そうだね。師匠、アミラルさん、テムロさんと軍事関係に明るい先達はいるのだ。思い切って話してみようか。
「それとノブサダ君はすごく夜のお勤め頑張っていますが今のままだとそれが実を結ぶことはなにのですよー」
ってどさくさに紛れて何大事な事さらっと言ってやがりますか!?
「まてまてまてまて。とんでもない事をさらっと混ぜ込まないで。というかそこら辺本当にどうなってるの!?」
今までの神妙な空気はどこへやら駄女神様の爆弾発現により吹っ飛んだ。俺の悩みが小さく思えるほどのとんでもないものを投下してくれやがった。一体どういうことだ。
「これは召喚された人全員に言えることなのです。召喚の過程で世界の壁を越える際にブロックがかかってしまうのですよ。これは異分子である異世界の種を拒む世界の意思ではないかと言われています。まぁ色々とあるんですがそこら辺は言えない事もあるので許してくださいな」
聞きながら腰が砕けたかのようにへたりこんでしまう。下手したら家庭の危機ですよ、女神様。思わず頭を抱えてしまうのは仕方がないことだよ。いや、待て。東方では勇者の子孫がいた筈だ。何か抜け道があるんじゃないのか?
「勇者の末裔がいる筈だ。何か手はないのか? ミタマやエレノアさんは子供のことを楽しみにしてるんだよ。教えてくれ、レベリット。頼む」
俺、土下座である。形振りなど構っていられないのだ。
「おふ。予想以上の反応。なんだか私が悪い気がしてきました。大丈夫、条件はありますがそれを覆す方法はあるのです。そしてそれは既にノブサダ君の中に存在しているのです。全部を教えるのも味気ないのでヒントはこれくらいなのですよー」
そこを何とか。そう思いつつ取り出したものをレベリットへとちらっと見せる。
「そ、それはっ!? 私の大好物『まるごとバナナン棒』じゃないですかー! 何でノブサダ君がそれを!!」
ふっふっふ、たまたま八百はっつぁんのところにバナナが入荷していたもんだから作ってみたのだ。シンプルだから本家の味と然程大差ない筈である。あいつ同様きっと好きなんじゃないかと思ったのだよ。あれ? あいつって誰だっけか。
「うー、食べたい。食べたいのですよ~。だけどこれ以上の情報は姉様たちから折檻くらっちゃいそうですし、むむむぅ」
悩んでる悩んでる。ぽんとレベリットの肩を叩きつつ別に用意しておいた小瓶などを複数取り出し彼女の目の前に並べた。
「こ、これはっ! ヒアルロン酸配合の新作化粧水! しかもハーブ、柑橘などの香りが付いていて今までよりもグレードアップしているじゃないですか。更にこっちは石鹸ですかにゃ。牛乳石鹸に香りつきの石鹸。きっと滑らかぁ~んな感じになるあれやこれを感じますよ」
俺は作り方を覚えていなかった石鹸だが身近にそれを覚えている存在がいたのである。そうヤツフサだ。飼い主であるご隠居さんはそういった生活番組も好きだったらしくヤツフサも傍で寝そべりながら見ていたのを覚えていたのだ。値千金の記憶です、グッジョブヤツフサ。オークの骨をやろう。
「分かりました。和泉屋、お主も悪よのぅ~。ということで他言無用なのです。悪用厳禁なのですよ~。ごにょりごにょごにょごにょり~た」
レベリット曰くそのスキルとは『異魂伝心』『性豪』。それらのレベルを上げていけば身につくようだ。『性豪』の方はきっと自然と上がるだろう。だって男の子だもん。
問題は『異魂伝心』のほうだ。強い心の結びつきを持つものと契約するほど経験値は貯まるので今後も精進すればいいとのこと。具体的な目安として東方の子孫を残したと言う勇者はどうだったか聞いたところ、それを身につけた時には確かお嫁さんが10人、配下が500人くらいがいた様だ。先は長いが今後の俺には絶対必要なものなので何とか習得せねばならないだろう。それにしてもその勇者ってどんだけなのさ。え? 最終的に皇国の初代になったって? さもありなんとしか言えんな。
「もきゅもきゅもきゅもきゅ。そうそうそのスキルですがあらゆる種族と交配可能になる代物ですので使い方には気をつけてくださいね。牛、馬、獣人、亜人、果てはドラゴン、女神まで可能なのです。どんなのになるか少しだけ楽しみにしていますから~。おっとのっぴきならねぇ用事が入っちまった。はいちゃらば~いなのです」
両手を使って印を結ぶとどろりんと駄女神は消え去っていた。食い散らかされた皿だけを残して……。俺はケモナーじゃないんで動物そのものはご勘弁なのだが……。
兎にも角にも最早当初の鬱屈した相談事はどうでもよくなっていた。くよくよ思い悩むのはらしくなかったな。こう思えるようになっただけでもあいつに感謝していいかな。




