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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第231話 エルフの末路



 そんな訳で本日の昼食は……山菜と鶏の五目御飯、君に決めた! 汁物はあさりの味噌汁、副菜には山菜と海鮮の天ぷらと作り置きしていた筑前煮なり。ダシは最近作り始めた鰹節から取った本格的なものになっている。煮干も作っているんだけれどウミネコたちがつまみ食いするので数がどんどん減っていくから困っているんだよね。ドライで強制的に乾燥させてできないことはないのだがやはり天日干しには味が劣る。そこは日本人として拘りたいところだ。



 ……………



 山盛りに作られた天ぷらなど欠片一つ残さず完食されたことが本日の出来を証明してくれていることだろう。ヒロティスさんも食べ過ぎて動けないとお腹をさすっている。って妊娠したみたいにぽっこりお腹出ているよ。随分、お気に召していただけたようだ。色々と情報をいただけたので情報料くらいにはなったかね?


 なんだかんだで積もる話もあったのかディリットさんとヒロティスさんは随分と盛り上がっていたようだ。折角なのでと彼女は今日はお休みにしてある。ドルヌコさん達のおかげでシフトも随分楽になったからできるんだけどね。

 帰る頃にはもう夕方。残念すぎるリーフさんもちょいと可哀想に思えてきたので天ぷらの詰め合わせを彼女のお土産に持たせて見送った。


 色々とヒロティスさんから聞きだせたことで対策も考えられた。というか彼女も幼馴染を無理矢理追い詰めるのは気が咎めていたようで予想以上に協力的だったのが救いだったな。


 その後、帰宅した面々の協力を仰ぎ急遽対策本部が組まれたのは言うまでもない。できるなら即日で決めてみせる!





 二日後、諸々の準備を整えて打ち合わせをしていると申し合わせたかのようにリーフさんがやってきた。おいおい、こんなに早く何かしらこちらを言い負かすのを考えてきたのか? それともヒロティスさんに何か言われたのかね。何にせよ油断するまい。念を入れて仕込みは数日分頼んである。いざ! とリーフさんが待つ応接室の扉を開けた。





 そこには





 土下座で待ち構えるリーフさんの姿があった。



 おいいいいい!?






「昨日は失礼しました。私の個人的な目的のために詰め寄ったことお詫び申し上げます。ですのでどうか、どうか森へと手を出すのはお控え下さります様お願い申し上げる次第にございます」


 おおう。帰ったヒロティスさんになんぞ言い含められたのかそれとも俺の脅しがクリティカルにヒットしてしまったのか凄く神妙でございますよ。後ろに控えているディリットさんも昨日との違いに若干引き気味でござる。


「ヒロティスより色々と伺いました。それに持たされてきたあの料理に込められた魔力量から最早私如きが敵うものではないとも思い知りました。まさかエルフ族に伝わる『焼きオークの故事』に倣ってあのようなものを頂くとは。何卒お慈悲を……」


 頭を伏せたままそう語る彼女の表情は見えない。


『焼きオークの故事』っていうのは大分前にディリットさんから聞いたことあるな。

 昔とある集落でエルフとダークエルフが食糧難により争う時期があった。お互い協力すべき隣人の筈なのに相争う様を見て心を痛めたハイエルフの始祖がこんがりと焼けたオークを互いの集落へと置き去った。焼け上がったオークに込められた魔力は比類なく両部族ともにハイエルフへの尊敬と恐怖の念を抱きお互い歩み寄り仲違いを解消したとか。それからは手を携え協力し合うことになったという割と力技な故事である。意図したわけではないがやってることは同じだった!


 確かに気合を入れて作ったから結構な魔力が移っていてもおかしくない。毎回識別先生を発動するわけではないからチェックなんかしてないのだよ。むう、勘違いなのだがここまで下手に出てくるとは想定外だ。穿ってみれば彼女の術中に嵌っている? ならばこちらは押し切ってしまうか。


「リーフさん、顔を上げてくれ。ディリットさんたちに何もしないのならばこちらが手を出すつもりもないよ」


 本当ですかと言わんばかりにがばりと顔を上げこちらを見つめてくる。昨日寝ていないのか若干隈ができていた。取りあえず敬語は破棄した。強気で押していこう。そんな彼女を尻目に窓際へとゆったり歩いていき閉めていたカーテンをシャっと開け放つ。仕込みは上々後は仕上げをごろうじろ。


「ところで……こいつを見てくれ。彼らをどう思う?」


 促され少し幽鬼のようにも見える足取りで窓際へと歩み寄った彼女がそこで見たものは!









 アイッ! アイッ! アーーーイッ!


 小麦色の肉体美が外の運動場で獣人相手に無双していた。どこかの原人のような奇声を上げつつ繰り出す技はキレよく必ず最後にポージングを入れている。躍動する筋肉はまるで別な生き物のようにも見えるがそれがなぜか美しく思えてくるから不思議であった。いやいや、ノーマルだけど見ている分には楽しいってのはあったりするのよ。


 黄色いビキニパンツが狂喜乱舞する様を見てリーフさんはぽつりと呟いた。


「すごく……大きいです。とっても……キレてます。…………素敵」


 その瞳は熱を帯び頬も薄紅色に染まっていた。それからはもう視線が釘付けになり俺たちの事など忘れて見入っている。


 アーバラオボロマメスティヤハァ! ウッホゥイーゥィオトゥコッホゥ!


 今回、依頼して来てもらったのはケィンさん。本当はモリコさんを除いた全員を招きたかったのだが丁度オフの時期で暇だったのが彼だけだったのだ。ちなみにオットーさんはダンジョンの海フロアで魚と戯れに行ってるしスィゲさんは川で河下りをするらしい。二人とも無手でかつ裸でだ。スィゲさんに至っては船ではなく丸太に乗って。突っ込みどころは満載だが彼らだから仕方あるまい。


 それにしても彼は普段喋らないのにこういうときだけは無駄にハイテンションだな。何となくだが「まだまだ俺の体を見てくれ」って言ってると思う。何語になっちゃってるかは不明だけど。


 うん、ヒロティスさんからバッチリ聞いていた彼女の嗜好……筋肉フェチらしい。それも細マッチョではなくガチのボディビル的な肉体美がお好みだそうな。だからケィンさんを雇った訳である。お金は使ってこそ。ついでに獣人の皆には多角的な戦闘を経験してもらおうと相成った。使うからには最大限の効果を得たいってのは人間のサガでござる。限られた範囲の中で育成されたエルフたちの養殖物の筋肉と常に戦いの場で鍛え抜かれた天然物のケィンさんのそれの違いを思い知るが良い。そういえば俺ってあんまり筋肉ついてないな……。


 村に留まりながらだとダークエルフの男たちと逢引し後に共に暮らすためにはあの儀式へと参加するしかなかった。それは筋肉フェチな彼女にとって必死になるに値するものだったようだ。そこでそれに劣らぬ肉体美を目の前にぶら下げてやれば考えも変わるんじゃないかと愚考したのだよ。第二案は森へ直で話をつけにひとっ飛びするという力技だったのは内緒だ。


「はぁぁぁ。拳を繰り出すたびにピクピクと弾ける大胸筋がとってもキュートなの。きっちり割れた腹筋の一つ一つを撫でれたらもう私それだけで濡れちゃいそう……。あふぅ、あの大臀筋に組敷かれたい……。跳ね回るたびに膨らむ大腿筋に流れる汗……す・て・き」


 ほうっと甘い溜め息をつきつつ見入っていたリーフさんは訓練が終わるまで目を離す事はなかった。そして訓練が終わりケィンさん達がその場を離れていくと名残惜しそうに見つめ続けている。と言うか涎、涎。乙女としてどうかというじゅるりと生唾を飲み込む音が聞こえまくってますぞ。

 どうやら思惑通りにいったようだ。ここで駄目押しにもう一手。


「リーフさん。随分と彼らの訓練風景に見入っていたようですが……会って見ますか? 良ければ紹介し「是非に!」ま、はい」


 物凄く食い気味に迫ってきた。反応速度速いな、おい。その潔さに免じて今晩の夕食にケィンさん共々ご招待したよ。普段はほとんど声を発しないケィンさんに身振り手振りも含め積極的に話しかけるリーフさんはそれはもう楽しそうだった。


 後日、二人が付き合うという話を聞いたときは皆が皆驚いたものである。


 決め手は何だったのかとケィンさんに訊ねたら「無駄な脂肪のないフラットな体つきが非常に愛くるしい」って言ってた、俺の翻訳が間違っていなければ。それって本人には言えないな。つるぺただとディスってるよね?


 それとすっかり使命を忘れているリーフさん。俺的にエルフの里はどうするかって? ま、そのうちでいいんでない? HE・N・TA・Iの巣窟っぽいしヒロティスさん曰くそんなに気にしてないっていうし追々だ、追々。ディリットさんたちをこちらに居られる様にするのが目的だったからいいのだ。

やってもたー?

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