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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第230話 ダークエルフの本音




 今までの鬱積全てを吐き出すかのごとく語ったディリットさんはもう何もないと言わんばかりにソファへへたり込んでいる。それを聞いたリーフさんは憮然としていた。氏族の為ならば女性自身の苦悩など二の次というのだろうか。


「あなたの事情は分かったわ。でもね、それでも氏族の掟を破って逃げ出したことについては許されることではないの。生まれた子供共々里へ戻ってもらわなければいけないわ」


 リーフさん自身、何年もかけてここまで辿り着いたらしいから引くに引けないのもあるだろう。ロードヌの森はこの国にある訳ではなく詳しい位置は教えてくれなかったがかなり離れているらしい。ディリットさんが抜けた道は転移の仕掛けが施されていたようだ。それはそれとしてディリットさんを有無を言わさず連れて行かれるのはこちらとしても納得できないので抵抗させていただこう。


「それは私のほうからお断りさせていただきます。事情は分かりますが先に言ったとおり彼女たちはうちにとって家族のようなものですから勝手に連れて行かれる訳にはいきません。どうしてもというならば……氏族を含め森を吹き飛ばすのも辞さない覚悟があります」


 ノブサダさん断固拒否の構えです!


 色々とここの情報も仕入れていたのかリーフさんは若干顔を青ざめている。うん、やろうと思えば森の一つや二つ焼け野原にすることは余裕を持って可能だと思う。実際にはやらんけどな。ソレ相応の覚悟があるということだ。


 青ざめたあとに冷や汗がとめどなく溢れているリーフさんは言葉を失っている。時期的に大氾濫のときもグラマダに居たのかも知れない。つまり俺が大規模な魔法を使ったのもご存知だろう。今、普段はしないようなキリっとした真面目な顔をしてだらしなさを消している。こちらの表情を窺うように視線を向けてくるが何も読み取れないのかやがて目を逸らした。


「いやっ、でも、これは氏族の……」


「こちらは家族の問題です。また店としても二人とも大きな役割を背負ってもらっていますから無理矢理連れていこうものならエルフの氏族には損害賠償を請求することもあり得るでしょうね。生産ラインに大きな不具合が出ますから依頼に対する違約金、信用問題、その他従業員に与える迷惑も計算すると……少なくとも一人1,000万マニーは請求させていただきます。二人で2,000万マニーは確実ですね」


「んなっ!?」


 リーフさん絶句。二の句も告げずにパクパクと口を開け閉めしている。引き篭もりのエルフさんにそこまでの支払い能力があるとは思えないからな。


 脅しの意味合いは勿論ある。だが彼女らにそれだけの価値を見出しているのもまた事実だ。なんせ彼女らの寿命は長い。いずれ俺が楽隠居したときに和泉屋を任せておこぼれで養っていただく目論見があるのだから連れて行かれては非常に困るのである。


「……そんな、いや、でも……しかし……」


 迷ってる迷ってる。ディリットさんも俺が言い出した額のせいか驚きを隠せていない。ここらで助け舟でも出しておこう。リーフさんをとことんやり込める必要はない。どうにかして連れて行く気を無くせばいいだけだからな。


「すぐに答えを出していただかなくて結構ですよ。一度宿へ戻って落ち着いて考えてみたらいかがですか?」


「……そ、そうね。そうさせてもらうわ。また来るから! 逃げないでよね!」


 じっとりと冷や汗で湿り跡の残るローブのフードを被りそそくさと店を後にするリーフさん。出て行った先を見ながらディリットさんが小さく溜め息をついた。


「ありがとう、ノブサダ君。それに御免なさいね。こんな厄介事を引き込んでしまって」


「気にしないでください。さっきも言いましたけどディリットさんたちはうちの掛け替えのない家族みたいなもんですからね。ティノちゃんは三連娘と一緒で娘みたいなもんですし」


「あらあら。あの娘達が聞いたらどんな顔するかしら。ふふふ」


 俺の軽口にようやく笑顔を見せてくれた。うん、落ち込んでても良くないのです。しかし、時間を作れたものの実際のところ彼女としてはこの問題をどうしていきたいのか気になる所だ。


「さて。ディリットさんとしてはこの問題の落とし所はどうしたらいいと思います? 彼女とは昔からの知り合いで?」


「ノブサダ君さえ良ければずっとここにいたいわ。住みやすいし何より雰囲気が大好きだもの。リーフには悪いけれど森に戻っても良い事なんて一つもないでしょうしね。彼女とは幼い頃からずっと共に育ったのよ。どうしても寿命が長い分出生率が低いエルフの中で彼女ともう一人、三人でよく一緒にいたものだわ」


 幼馴染でございましたか。もしかしてもう一人ってあのダークエルフさんかね? 目を閉じれば思い出せる艶のある褐色の肌と張りのありそうな素敵なおぱーい。リーフさんがいるのだからきっと彼女もグラマダにいるのだろう。だってリーフさんって放っておけない雰囲気がある。放置したら色々とやらかしそうな、そんな残念な雰囲気があるのだ。


「分かりました。リーフさんを説得する方法、なんとか考えてみましょう」


 今晩あたり彼女について詳しく聞いて対策を練ろうかね。


 そんな事を考えていたら「ただいまー」とティノちゃんの元気な声が聞こえてきた。ティノちゃんにはベルのところに配達を頼んでいたんだよね。新しいレベリット神殿ではうちの薬品を販売することになったのだ。ちなみにレベリット信者には割引が効く特典付きである。護衛のためにタマちゃんの分体を一緒につれていってもらっているし何より彼女も強くなっている。精霊魔法のレベルも既に5へと達していた。正直、ロリコンエルフの彼とタイマンしても余裕で勝てると思うの、うん。


「お母さ~ん。お客さん連れてきたよー」


 応接間に飛び込んできた彼女の後ろについてきたのは……って噂をすればダークエルフさんじゃないですか。


「あら、あらあらあら、子供の頃のあなたにそっくりな子がいるからちょっと案内頼んだら本当にあなたの子だったのね。それにあの時助けていただいたお方まで。うふふ、縁があるのね」


 何というかあの時と違って随分軽いなダークエルフさん。


「お久しぶりですね。あの時と違って随分とフランクなので一瞬別人かと思ってしまいました」


「久しぶりね、ヒロティス。相変わらず外行きとのギャップが激しいわね」


 くすくすと笑うディリットさん。先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやらである。もしかしたら何かしら察してわざと砕けた口調で入ったのかもしれんね。


 リーフさんの時とは違いすごく和やかに話は進む。話し上手でエルフの里での昔話から最近の事、ティノちゃんの事、自然な流れで聞き出している。俺も間に紛れてリーフさんやエルフの里のことを聞きだしてみたら割と抵抗なく話してくれた。そんなに情報封鎖してる訳でもない?


「ああ、やっぱりやっちゃったのね。随分と意気込んで出かけたからもしやとは思ったのだけれど。あまり気を悪くしないでちょうだい。一番あなたのことを心配していたのはあの子でもあるのだから。そうじゃなきゃ何年も探せないわ。何度か里へ一旦戻ろうと言ったけれど『きっとディリットは生きている』って頑なに譲らなかったの」


 額を押さえながらほんのり溜め息をつきつつヒロティスさんは事情を語る。ディリットさんの儀式が終了していないせいか儀式開始の合図を本像が出さなくなったのだとか。この10年の間、雛鳥の儀式は行われていないらしい。


 そもそもこの儀式が行われる切っ掛けは長い寿命のせいかエルフ、ダークエルフの男共の性欲が低く出生率の低下を懸念したときのハイエルフが作り出したのがあの本像でありこの儀式だとか。現にこの儀式以外で出来た子供は本当に両手の指で足りるほどの人数しかいない。エルフの男は細マッチョや美肌を目指し性格や嗜好の方も色々と尖っているらしいしダークエルフの男は筋肉の育成に勤しんでいるようだ。グラマダで出会ったエルフはロリコンの変態だしハーフのベルの方が健全に成長しているよね。彼らは一体どこを目指して向かっているんだろうか。


 リーフさんは氏族の族長の娘としてなんとしても子を成さねばならぬ。そう意気込んで本像の導きを復活させるべく何かしら関係があるであろうディリットさんを探していたらしい。だが本音は別にあるのではとヒロティスさんは言う。


「あの子のことあんまり責めないであげてね。エルフは長寿故にのんびりした性格だけれどそれは森の中にいてこそなのよ。世知辛い人の波に揉まれた数年間であの子も随分と自分を見失っちゃっているのよね。族長の娘として儀式を復活させる使命、幼馴染であるディリットの安否、最後に次の雛鳥の儀式であの子好みだった男に告白するつもりだったみたいなの。それらがあの子を苛み焦りを拗らせてあんな状態になっちゃったのよ」


 うーん、そう考えるとリーフさんもある意味被害者なのかね。別段、恨みつらみがある訳じゃないからいいんだけれどね。何というか頑ななところがありそうだから身構えていたのだけれど案外本当は簡単な問題なのかもしれない。どうなるか分からないが説得を成功させるためにヒロティスさんから色々と聞き出してみようか。


 そこから話は弾み思いがけない裏話や道中立ち寄った東方の話など沢山話を聞けたのは行幸だろう。透き通った声が耳に心地よくお互い笑みを浮かべながらの談笑。もし初めから二人で来ていたなら話が拗れる事もなかったのかもしれない。残念美人の称号をあげましょう、リーフさんや。


 そういえばエルフ、ダークエルフ共に男たちは色々と特殊な人が多いようだがヒロティスさん的に彼らはどうなのって聞いてみたら筋骨隆々な人よりも知的な人が良いって言ってました。色っぽい目線だが、うん、俺は知的というより恥的だから気にしてもしょうがないね。


 なんだかんだで気安いせいかお昼までごちそうする流れになったよ。ふむ、エルフって菜食的なイメージあるけれどうちの二人は好き嫌いなく何でも食べるのでいいのかな。そういえば狩りもしてるって言ってたね。

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