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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第227話 衛兵組み手③



 魔法を纏い回転した勢いを加えた右の掌底打ちを師匠の胴へと叩き込む。今までに無いほど無防備な状態の師匠であるから確実にヒットする。そう確信していた。


「ぬうん! 闘鎧装結とうがいしょうけつ!」


 溢れ出た闘気がその声と同時に師匠の体を覆い収束、硬化していく。そして俺の掌底が触れると『ふんぬっ!』という掛け声と共に魔法効果と俺の手が弾き飛ばされる。


 何がどうなった!?


 バンザイする格好になってしまった俺の体にズドンと2つ大きな衝撃が走り肺から空気が強制的に吐き出される。俺の両目は繰り出された師匠の両掌底がめり込んでいくのをスローモーションのようにしっかりと捉えてしまった。呼吸困難な悶絶状態で転げていく中、痛みと苦しみと一緒にそんなものがフラッシュバックする。


 ぜーはーと息をするのが辛い。だが肋骨にヒビが入っているくらいで他は酷い怪我は無いようだ。それくらいだと納得できるのもこれまで散々のされてきた経験が生きているからか。あんまり慣れたくないもんだ。10メートルほど吹き飛ばされた先でゆっくりと起き上がる。


 先程の掛け声とともに発動した何かは師匠の体を今も鎧のように纏っている。からくりはきっと俺の魔装衣と似たようなものなんだろう。ただしその元が闘気であるのと長年の研鑽からの完成度の差が大きいが。師匠の闘鎧とやらは衣服を覆うだけでなく鎧として物質のように顕在して見える。それがどれだけのことか……。


 以前、ミタマを救出する際に魔鉄鋼へとドリルを変化させた際にはただ壁をぶち抜く間だけの変換・維持に莫大な魔力を使用した。ぶっつけ本番の術式の無い強制変換だったから当然なのだがそれにかかる必要量はいかほどのものか分かるだろう。それをやってのける師匠はやはりとんでもない。


 だがそれは俺からすれば教本の塊みたいなものである。識別先生で隅から隅まで須らく観察、把握していく。そこから俺の魔装衣と異なる点、利用できそうな点、弱点などを予想解析する。勿論、事はそう簡単ではない。理解不能な箇所は山ほどあった。


 それでも理解できた部分もある。先程の『乙女傷心爆裂弾ヨシヲボンバー』を弾いた手段、それは作り上げた闘鎧の接触部分をわざと破裂させて魔法の効果を相殺したのだと推測された。タイミングと総裁に必要な闘気を瞬間的にすり合わせるのは秒単位での操作を要求されると思う。それもまた計算してではなく野生の勘でこなしたんだろうな。恐ろしいったらない。


 編みこんだ魔糸を組んだ上で更に圧縮する。それで内側からの暴発も防ぐことが出来たため筋繊維一本一本へと魔力を通していくことが可能になった。神経も同様でこの二つを組み合わせることで反応速度と衝撃吸収能力の向上が見込まれる。師匠が瞬間的にとんでもない速さで動き出す一端がここにあるのだと知った。やってみたことがない訳ではない。以前試したが何もなしだと運動量に体が付いていかず筋断裂などを起こし四肢全てが血まみれになったことは今でも思い出せる。


 それにあわせて魔装衣の装いもより具現性を増し目の前にある闘鎧に迫りうるものへと進化しつつある。あくまで俺が見た上でだがね。やはり百聞は一見にしかずとはよく言ったものだろう。成功例をひとつみただけで飛躍的な改正案が浮かんできた。


「はっはっは、一目見ただけでそこまで変化してくるか。やはり弟子のもの覚えが良いと教え甲斐があるというもんじゃな」


 そう態々手を止めその姿を惜しげもなく曝していたのは俺への教材としていたのだろう。奥の手のひとつだろうに……師匠の気前のよさったらないな。ならばこれを使って精々成長の証をお披露目しますか!


 ダンッ


 踏み込んだ地面には足の形に数センチ陥没した跡が残る。

 先程までより数段鋭い渾身の右ストレートが師匠の体へと吸い込まれるようにぶち当たった。


 ガキン


 革の上着しか着ていなかったはずの師匠からなぜか金属同士が打ち合ったような音が響き渡った。恐らくノーダメージ。俺の方を見ながらにやりと白い歯をむき出しにしお返しとばかりに右のフックをわき腹目掛けてお見舞いしてくる。


 ボスン


 師匠とは違うアプローチでより衝撃の吸収度合いを上げた俺の魔装衣はその一撃の威力を大いに減じてくれた。それでもそれなりのダメージは入ってきているがそこは常時流してあるヒールによって即座に回復する。


 俺もにんまりと笑いお返しのスマッシュを師匠の腹へと打ち込んだ。


 それから渾身の力を込めた一撃をお互い打っては受ける行為を繰り返した。吹き飛ばされそうになれば自らにグラビトンをかけて耐える。顔にも貰って歯が何本か抜けたがリジェネーションで再生しながらも食い縛った。歯も治るもんだなと場違いな感想を抱きつつも即座に反撃をお見舞いする。









 ◆◆◆






「おいおい、あの総隊長と互角に打ち合ってるよ……」


「俺は夢でも見ているのか? あの体格差で少しもひるんでないぞ」


「うお、いいとこに入ったぞ、あれ。ってあれくらって軽く血を吐いただけかよ」


「いや、あれ奥歯が折れてる。血と一緒に吐き出ていたよ。それでもそのまんま打ち合いにいってるのがおかしいって。どんだけだよ……」


「それにだ。何で二人とも笑ってるんだ? あれ一撃貰っただけで俺だったら死んでてもおかしくないってのにさ」


「分からんでもないがの。義父殿のほうは弟子の成長が喜ばしくて仕方ないんじゃろな。主殿のほうは手の届かなかった義父殿へと近づいているのが嬉しいのじゃないかの。男同士の絆と言うのかの。ちと羨ましく感じるのぅ」


 そんな風に分析している面々。

 だが数名はそんな皆を少し恨みがましく見つめつつ冷や汗を浮かべていた。フツノもその一人で歯を食いしばって結界を維持している。二人の手合わせが始まってからもしもに備えて練兵場を囲むように結界を張っていた。時間が経過するにつれ勢いと威力を増していく二人の一撃はビリビリと結界を刺激しその維持にも一苦労なのである。もしお互いの体をスルーして直接衝撃が結界へと当たればあっさりと砕けるかもしれない。それでも泣き言一つ言えずに維持へと力を注ぐフツノたちであった。





 ◇◇◇





 拳が振るわれる度に練兵場に地震が起きたかのような揺れが襲う。地面は抉れ周囲も随分とボコボコなっていた。辺りに被害が行かないように結界を張るフツノさんたちが顔を青ざめているようだ。ごめんね。


 でも俺と師匠は笑っていた。

 やばいな、バトルジャンキーとかではなかった筈なのに楽しくて仕方ない。師匠とガチで殴り合いが出来るほどに成長した喜びを感じる。己の体が持ち得る最大のポテンシャルを存分に発揮できているのも大きいのだろう。ただただ殴り耐えるといった単純な行為が考え方をシンプルにしているのかもしれないな。


 やがて双方息が上がってきたところで何も言わずとも一旦距離を置く。今出来る渾身の一撃をお見舞いするため師匠は闘気を俺は魔力を凝縮し拳へと集約していった。これをお互いにはなったらどうなるか。師匠がギラギラした目で笑っている。きっと俺も笑っているだろう。


「しぃしょぉぉぉぉぉぉ!」


「いくぞ、ノブサダァァァァァァァ!」











「いくぞじゃありません! 何してるんですか二人とも!!!」


 気合は最高潮。お互いいざ突撃せんというところで絶対零度の突込みが入る。

 よく知る透き通ったその声の主へと二人とも恐る恐る視線を向ければそこには般若を背負ったエレノアさんが腕組みしていた。師匠も先ほどまでの楽しげな笑みから引きつった笑いに変化している。




 ・・・・・10分後・・・・・




 現在、俺と師匠はお互いに正座させられてエレノアさんからお説教をいただいております。どっかんばっきんと気合よろしくぶつかり合っていた俺たちの様子から最悪の事態を想像したユキトーさんの手配によりエレノアさんが呼び出されたようです。ええ、あそこまでヒートアップしたら余程のことじゃ止まらないでしょう。俺と師匠の二人を止めるならば彼女かアミラルさん、テムロさんあたりが出張ってこないと無理だと判断し手配したユキトーさんが本日のMVPだと思われます。あ、足が痺れてきた。


「旦那様もお父さんも! 理解しているのですか!? こんな街中であれ程闘気や魔力を圧縮したものを放てばフツノが張った結界など容易く粉砕してどれほどの被害が出たことか。今でさえ練兵場はボロボロ。辺りの壁や機材にも随分と損害が出ています!」


「「いや本当にすいません」」


 二人とも土下座で謝罪の構えをとる。先程まで俺と師匠のぶつかり合いを見て目を丸くしていた周りのギャラリーも今また別な意味で目を丸くしていた。街を救ったはずの英雄(自分で言うのも恥ずかしい)とグラマダ最強の男が二人しょんぼりしながら土下座しているのだ。


 後日、グラマダの裏で最強なのは戦姫だとまことしやかに流れたのは仕方のないことであった。



 てってれ~♪ 格闘のレベルが上がりました。

 てってれ~♪ 魔力纏は魔装衣へと変換されました。

 てってれ~♪ 魔力操作のレベルがあがりました。

 てってれ~♪ 思考制御のレベルが上がりました。

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