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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第226話 衛兵組み手②



ずっと試行錯誤していた魔力纏だがこれがその進化型である。


衣服に沿って形成する複合繊維型と防具の部分を強化する意味での硬質装甲型。今まで使用してきた魔力纏は体全体を守ろうとして結果的に多少刃が通りにくい程度の強化にしかならなかった。


マザーアント戦で刃のように形成する感覚を掴んでから何かしらの物質をイメージして発動すれば強度などが格段に上がることを理解する。ただし、理解したところで早々上手くいくはずも無くそのイメージをつかむまでが大変だったのだ。



そして辿り着いたのが魔力を糸のようにきめ細かく圧縮して伸ばすこと。更にそれを編みこみながら幾重にも重ねていく。所謂、ケブラー繊維などのように防弾防刃に適したものを衣服に這わせて形成した。俺の魔力そのものであるからこの状態でも魔法防御は折り紙つきである。


ただこれだけだと衝撃などある程度は通り抜けてしまうため対策が必要だった。なので部分部分に強固な硬質部分を作り出すことでそこを使いガードする方式にする。要は防具のある部分で受け止めようという至極当たり前の発想だ。


うろ覚えの知識ではボディアーマーなどはセラミックの板などを隙間に入れているんだっけなと記憶していたので実際に見たことのあるその手の金属をモチーフにする。そう考え実験を繰り返した結果、ミスリルの板を思い描くことで軽い硬いという代物を具現化できた。


どこまでの威力を防げるのかと言う検証はギリギリの限界点まではまだ見極めていない。それでも手を切り飛ばされるのを覚悟してティーナさんの振るう片手剣を受け止めれるかどうかという実験を行っていた。リジェネーションがあるとはいえ非常に心と体に良くない実験だったなあれは。


強いて問題があるとすればなぜか纏わせると真っ黒になってしまうことだろうか。俺の腹黒さが滲み出ているのかもしれない。自分でも有り得なくもないと思ってしまうも切なくなるな。


「確実に殺れるタイミングだったはずなのに……」


完璧なタイミングで仕掛けてきただけにほぼ効果が無いように見えるのがショックなのだろう。だが戦闘は続行中なのだよ。


正面にいた衛兵の股の下をするりと潜り抜けそのまま包囲を抜け出す。それにはっと我に返る一同だが……遅い! 『高機動兵装フライトシステム』を使い滑るように彼らを一周する。


何やってんだと言わんばかりに剣を向けようとするがもう間に合わないさ。ぎゅいんと引っ張るのは魔装衣に使用している魔糸。お前らはもう既に絡めとられているのだよ。力いっぱい引っ張りつければ先程股の下を潜り抜けた彼を始点に全員がぎゅむっと一箇所に纏め上げられた。


「ぬおおおお、汗ばむ腋の臭いがぁぁぁ!」


「いでぇ、鎧の角が脇腹に!」


高らかに上がる悲鳴。だがこれだけでは終わらないのだよ、明智君。この魔糸は俺の魔力100%で出来ている。つまりだ……。


「チェェェェェンジ! サンダァァァハァァァァンド!!」


バチバチバチバチバチバチ


『ッギャーーーーーーーー』


男たちの叫びが天高く舞い上がる。手加減はしてあるがプスプスと煙を上げながら彼らは倒れ伏していた。ビクンビクンと痙攣を起こし、その頭は激しいアフロと化している。その無残な有様を見て残っている面子も突っ込んでくることを躊躇い一歩目が出ない。


「それまで!」


師匠の合図で皆が静止する。

とはいえ主だった面子は気絶かアフロで戦闘不能。隊長格以下は最初に転げた後、起き上がるも群がるように攻め立てる上司の勢いにちょっと引き気味で二の足を踏んでいた。


このままではどちらの訓練にもならんと仕方なく止めたようだ。



「まったくあっさりやられおってからに。特に手出しできずに眺めておったもんは明日から特訓フルコースじゃな。ジャックバ、真っ先にやられたお主がその指揮をとれ。いいな」


ジャックバさん、踏んだり蹴ったりである。残っている連中も四つん這いとなりがっくり項垂れていた。


「さて……」


ぐるりんと体ごとこちらを向いて師匠がにやっとしていた。ああ、もう次に何を言い出すか分かった。分かってしまった。


「さ、やろうかの」


コキンコキンと手首を鳴らし首を回して解している。それはもういい笑顔でこちらを見ているが子供なんかは泣き出しそうだな。


「あー、やっぱりやるんですね……」


「無論じゃ。このままじゃとただただお前にトラウマ刻まれて終わりじゃろう? ま、細けぇことはいんじゃよ。うだうだ言わずに構えい。カグラの嬢ちゃん、合図を頼むぞ」


「む、妾か。ならば準備は良いかの?」


事ここに至ってはごね倒そうがやることは変わるまい。こうなったら魔装衣がどこまで通用するか存分に試そうじゃないか。何より師匠相手ならば全力を出して然るべき、というか出さねばヤられる。


月猫を正眼をベースにした攻の型で構え師匠を真正面から見据えた。師匠も当然のように攻の型だ。この感じ、ビリビリと肌を突き刺すような気迫、本気の度合いが違うな。ふう、よし、やっちゃうよ。


「いざ、始め!」


最初から魔装衣は全開で展開、『高機動兵装フライトシステム』も常に発動だ。地面を蹴りつけ一気に突っ込む。師匠も突っ込んできたために、ちぃ、間合いが近いぞ。


「そおぃ!」


上体を揺らしながら左フックでいきなり意識を刈り取りにきたか! 師匠の拳の軌道を流す形で体を回し回転しつつ斬り上げる。


切っ先が地面スレスレを掠めながら跳ね上がった。それを獣のような反射速度で踏み込みとは逆の左足を蹴上げバックステップして避ける。おいおい、力技にも程があるだろう。あっさり避けられたことで伸び上がる形で無防備な腹が師匠から丸見えだ。


「ほっほう」


今度は右フックが吸い込まれるように俺のわき腹を打ちその勢いのままに吹き飛んでいく。くるくるくると宙を舞ったが体勢を立て直しずさりと四つんばいになりつつ着地する。


「ほう、自ら飛んだか」


インパクトの瞬間、『空気推進エアスラスタ』を師匠の拳が当たる付近に展開。本当は噴出力で拳を吹き飛ばすつもりだった。しかし、それをあっさりとぶち抜き拳は俺の体へと直撃する。それでも空気の噴射は続いていたため威力を殺すことには成功していた。いたんだがずんと痺れる様な衝撃が残っている。隊長格のウェポンスキルを防ぎきった魔装衣の防御をあっさり抜いてくる辺りやはり規格外だな、おい。


それにしても速い上に上手い。間合いを潰すのが経験則の裏づけに加えて直感でやってくるから始末に終えない。こっちは未だそこまでの経験はないから識別先生をフル稼働してその場その場で見極めてそいつを学習していくしかないな。


そしてっ!


「はぁぁぁぁぁっ」


休んでいる暇があるなら攻め立てるっ!


月猫を上下左右緩急をつけながら振るい攻め続ける。当然、合間合間に師匠の反撃も来るので気を休める暇なんてなく空間把握と識別先生による視覚での警戒を怠ることが出来ない。


てってれ~♪ 高速思考を習得しました。

高速思考と並列思考が統合され思考制御のスキルに変化しました。


「ぬぉっ!?」


一瞬、師匠がよろける。

ここぞとばかりに振りかぶっていた月猫を振り下ろそうとした時、見えてしまった。師匠の顔がほんの僅かににやりとしたことを。


手に持つ月猫を次元収納へと瞬時に収め自分限定でグラビトンをかけ無理やり体勢を落とし込む。


ブオン


先程まで俺の体があった場所、そこを師匠の右手が空を切る。わずかにぶれ振動しているようにも見えた。屈んだ体勢から『空気推進エアスラスタ』でぐるんと体を回転させ寝そべったような状態からジェット気流に乗せる勢いで拳を跳ね上げた。


ゴスッ


俺の左拳は師匠のアゴを捉えその勢いのまま宙へと跳ね上げる。通算何戦したか分からない支障との模擬戦で唯一、初めてのクリーンヒットであった。

そして宙へ浮く師匠というこれ以上ない好機を逃す訳にはいかない。思考制御で高速で詠唱し一撃で仕留めるつもりで最高の攻撃を繰り出す!


――ときめくぞハート! 燃え尽きろイケメン! 爆ぜて吹き飛べリア充達よ!


「『乙女傷心爆裂弾ヨシヲボンバー』!」


魔法を纏い回転した勢いを加えた右の掌底打ちを師匠の胴へと叩き込む。今までに無いほど無防備な状態の師匠であるから確実にヒットする。そう確信していた。

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