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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第一章 ノブサダ大地に立つ
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第24話 ノブサダ修行の道①

ようやく布団から這い出ることが出来ました。ことぶきです。

39度まで上がってもうふらふらでした。

みなさまも風邪にはご注意ください。

 早朝、『ソロモン亭』の裏庭。


 ふん、ふん、はっ、はっ


 ストレッチで体をほぐして状態を確かめる。あれだけあった痣もすっかりひいて軽く痛みが残る程度になっていた。すごいな、あのアルゥエだかいう軟膏。

 そしてこの体の回復力にも驚く。元のおっさんの体だったら動きたくないでござるー状態だっただろう。


 今は寧ろ体を動かしたい。宿の裏手で鉄の剣を素振りする。


 そういえばさっき食堂で出会った連中に『大穴大将』とか『ミスターアンデッド』とかひどい渾名で呼ばれてたんだがこれって定着しないよな? しないでください、切実に。あと、『大穴大将』ってのがでるということは誰か大穴当てたやついたのか……。


 雑念を振り払い無心で素振りすること1時間。いい汗かいた。

 そして汗を拭ったあとに剣の手入れをする。ダンジョンから戻って手入れする間なくあの乱闘騒ぎだったからな。そいえば鉄蟻の小手にも少しへこみが出来ていた。あのギアンのせいである。

 おやっさんは初級ダンジョンならそう傷つくことは無いと言ってたけどこいつをへこませるあいつは結構な実力があるんだろうな。スキル云々よりも経験の差がまず大きかったと思う。あいつの戦い方ってどっちかというと対人戦を想定したものだったような気もするしな。


 次は負けん……。やっぱり悔しかったようだ。今頃になってそう思うとはね。


 とりあえずファーストクラスを拳士にしておこう。そのほうが格闘系を習得しやすそうだと今更気付いた。


 よし、そろそろ朝食食べて詰め所へ向かおう。何時か言ってなかったけれど早めのほうがいいよね。




 そしてこちら西門詰め所。

 衛兵さん達が忙しそうに働いております。外を見回してもカイルや師匠の姿は見えない。詰め所の中かな?


「おはようございます。ノブサダと申しますがカイルさんかマトゥダ総隊長はいらっしゃいますか?」


 詰め所の中へ声をかけると虚ろな目をしたカイルがいた。


「……おお、ノブサダか。うー、気持ち悪ぃ。すまんな、一昨日総隊長につき合わされた後、そのまま仕事してたから全然体調が良くなってねぇんだ」


 あの時か。死んだような目をしたカイルが思い浮かべられる。なんというかこいつってそんな定めを背負っているような気がする。南無。


「そいつはご愁傷様です。あっさりしたこいつでも食べてくださいな」


 リュックからリンゴを取り出しカイルへと放り投げる。

 曲線を描いて飛んでいったそれをキャッチして一齧りするカイル。


「ありがとよ。うん、程よい酸味だ。頭が少しすっきりするな。そうそう、総隊長だけども今はちょいと領主様の屋敷に行ってるからいないぜ。とりあえず総隊長の自宅に向かってくれって伝言を預かってる。こいつが地図な」


 カイルの手書きであろう地図が手渡される。随分と細かく書き込んであるな。こいつってばこういう器用なところがあるから侮れないぜ、さんくす。


「ありがとう、早速いってみます」


「おう、一応俺が兄弟子(?)ってやつだから敬うようにな!」


「次の勝負で勝ったら敬いましょう。だから今は対等ですよ」


「かーっ口ばっかりうまくなりやがって。まぁいい。俺も総隊長の特訓うけてるんだ。次はマジで負けんからな」


「楽しみにしてます。それじゃ」


「おう」


 さてと地図を頼りに屋敷に向かうとしますかね。でも師匠いないって分かってるのに屋敷に行ってどうするんだろうね?



 地図の通りに向かうとそこには広い庭の屋敷があった。ソロモン亭よりも大きいな。特筆すべきはやはり庭。そしてそこに並べられた木人の数20。かなり使い込まれているように遠目からだがそう見える。


 インターホンなぞあるわけもないのでそのまま庭を横断していく。

 そのまま誰とも遭遇することなく玄関へ。誰もいないのかな?

 扉をノックしながら声をかけてみる。


「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」


 しばらくしてタタタと中で誰かが駆けて来る音が聞こえたような気がした。


「はーい、どちらさまでしょうか?」


「あれ? エレノアさん」


「あら、ノブサダさん。いかがしました? 我が家へ御用ですか?」


「あの、カイルさんから師匠の言付けを受けてここへ来るようにと……」


「師匠? もしかして父が新しくとった弟子ってノブサダさんの事ですか?」


「ええ、そうだと思います。ってエレノアさんは何も聞いてなかったんですか?」


「父からは『今日から新しい弟子がくる。お前今日は休みだろうから儂が戻るまで型の稽古をつけてやっててくれ』と言われておりました。もう、ノブサダさんだったらそう言ってくれればいいのに」


 なんと!? エレノアさんのご指導とな! これカイルが聞いたら悶絶しそうなほど責められそうな気がするぞ。


「師匠もこんなに縁があるとは思わなかったんでしょう。エレノアさん、若輩者ですがよろしくお願いします」


「はい、それでは私も着替えてきますので少々お待ちくださいね」



 それから十数分後、稽古着に着替えたエレノアさんが俺の目の前に立っている。


 いつもどおりのポニーテールだが受付でつけていたような眼鏡はしていない。黒一色で統一された稽古着はいつもの凛々しい感じを抑えてちょっとだけ荒々しさを感じさせる。


「それでは型の説明をします。と言っても型は攻の型、守の型、返しの型 。この3つだけ。あとは実戦を想定した組み手あるのみという流派であってそうでないものが父の指導になります」


 攻撃と守備とカウンターか。たしかに基本といえば基本だな。知ったかぶりだけど!


「つまり実戦にて己で適応していけってことですか?」


「そうですね。ノブサダさんの武器は片手剣ですがそれにもこの3つの型は順応できると思います。現に父の弟子の皆さんは各々様々な武器を使っていますから」


「なるほど」


「それでは型を用いて演舞しますのでよく見ておいてください」


 じっとエレノアさんを見つめる。識別の魔眼を発動して一手一足全てを記憶するつもりでガン見する。カグラさんのときも感じたのだがこの魔眼、発動していると動きを解析、記憶しているような感じがする。自分の動きにトレースする時ぴったり体の動きがはまるのだ。鑑定だけじゃなく色んな用途がありそうで使いこなすまでにどれだけかかるか分からん代物だな。


 エレノアさんの演舞は流れるように舞うようにつつがなく進んでいく。【戦姫】の称号は伊達じゃない。型の切り替えなど淀みなく全てが繋がっているかのような動作である。思わず見惚れてしまうほどだ。


「ふふっ、どうしました? 口が開いてますよ」


 はっ、見惚れすぎて阿呆面を晒していたらしい。いかんいかん、しっかりしろ俺。ここには修行に来てるんだぞ。


「さっ、では今見たように体を動かしてみましょうか」


「はいっ」


 エレノアさんの如く流れるような動き……とはならずぶつ切りにしたようなぎこちない動きの俺。

 これをある程度淀みなくできるようになって組み手の準備が整うらしい。そこからは組み手組み手組み手。ただひたすら組み手あるのみ。そこから自分に合った戦い方へと昇華できたとき晴れて免許皆伝となるとの事。そもそも流派名すらなくただ戦場で練り上げられたのが師匠の拳術。弟子全て皆一様にその戦い方は異なる。俺もこの型を練り上げて俺だけの戦い方を編み出さないといけないわけだ。


 エレノアさんの動きを思い出しながら型の動きを繰り返す。体格の違いを加味しつつトレースし体へ合うように修正していく。ちなみにエレノアさんは今の俺より15cmほど背が高い。グネよ、俺の第三次成長期はいつくるのだ。おっと集中集中。


 1時間ほどしてくるとぎこちなさはそこそこ減り多少はましになってきたように思う。その間もエレノアさんは付きっ切りで指導してくれていた。


「大分良くなりましたね。これほど早く覚えるとは思ってなかったですよ。キリがいいですし少し休憩にしましょうか」


「はいー、はふぅ。疲れた」


「ふふっ、慣れてくるとこれくらいじゃ疲れないようになりますから。ノブサダさんはまだ成長途中ですしすぐに上達しますよ」


「ありがとうございます」


 ふう、汗だくな俺に対してエレノアさんは本当に涼しい顔してらっしゃいます。どれくらいかければこんだけ上達するんだろうね?

 リュックから残り少ないマンゴーを取り出し皮をむきつつ訊ねてみる。


「エレノアさんは何歳くらいから修行してたんですか? あ、これどうぞ」


 剥いたマンゴーを受け取りながら微笑むエレノアさん。


「そうですね。物心ついたときから父と母に鍛えられていましたよ。あ、これ甘いですね、おいしい。ギルドに就職する前はわずかながら私も冒険者として活動していましたし父と共に戦場に立ったこともあります」


 そこから戦姫って称号ついたのかな。それにしても物心ついたときからか……強いわけだ。


「それから父の弟子の皆さんに随分としごかれたりしましたね。入門した人の数は多いですが弟子と名乗れる人はそういないんですよ。途中で挫折する人が多くて。今だとたまにカイルさんが特訓を受ける程度ですか。ノブサダさんは本当に久々の入門ですね」


 エレノアさんは色々と教えてくれた。

 師匠の弟子とはっきり名乗れるのは現在9人しかいないのだそうな。これは師匠自身が免許皆伝を与えた者のみをさす。そのうち3人は各国で将軍やら部隊長やらをしているらしい。4人は冒険者として身を立てており全員がAランクだそうだ、すごいね。1人はどこぞの貴族のお抱えになっている。そして最後の一人は行方不明だそうな。というのも風来坊でふらふらと色んなところを行脚しているんで連絡の取り様がないそうだ。


 なんというか個性強い人ばっかりな気がするな。

 面白いことに9人のお弟子さんの中で拳術を使っているのは一人しかいないってことだ。それだけこの型に柔軟性があるってことか……お弟子さんが天邪鬼なわけじゃないよね?


「ちなみにエレノアさんは免許皆伝貰ってないんですか?」


「ええ、私は母が亡くなったのを期に冒険者を引退して事務職に就きましたから。たまにこうやって体を動かしてはいますが全盛期と比べると全然ですね。さ、そろそろ再開しましょうか」


「はい!」


 いよっし、気合入れて続きをしましょうか!


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