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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第225話 衛兵組み手①



「えいへいたーい、ファイッ!」


『オー』


「ファイッ!」


『オー』


「男はぁっ!」


『強く優しくあれっ!』


「力はぁっ!」


『勇気で輝かせろっ!』


「光の速さでっ!」


『現場へダッシュさっ!!』


「グラマダ衛兵隊!」


『グラマダ衛兵隊っ、オーーー!』


 ……なんて掛け声だよ、衛兵隊。師匠から指定のあった場所、衛兵隊の練兵場へと来た俺は手持ち無沙汰でぼーっとしているとマラソンしながら声を張り上げる衛兵たちを見つけた。興味があるからと一緒についてきたフツノさんとカグラさんも唖然としている。


「なんちゅうか……あのお義父さんあってこの衛兵隊ありって感じやね」


「そうじゃのう。妾も若干気後れする程よの」


 ちなみにフツノさんとミタマは師匠のことを『お義父さん』と呼んでいた。俺はくすぐったいので未だに師匠呼びなんだけどね。誰が考えたか知らないが師匠あっての衛兵隊であるならこれくらい屁でもないのだろう。むしろ嬉々として叫んでいる気がする。


 あ、カイルがいた。あいつも例に漏れず疑問を抱くことなく叫びながら走っている。先だって奥様のルイスさん(先だって役所に婚姻届を出した)が精力剤を買いに来たのでそのうち子宝に恵まれるであろう。あえて売り物にしていない無味無臭タイプを預けて飲み物に混ぜてやれば気付かれないですよとアドバイスしておいたし。カイルのことだから某町の安アパート暮らしの聖人とは違い精力剤よくぼうのけしんのお誘いには勝てないだろう。カイル、君はいい友人だが君のムスコがいけないのだよ。嘘、ノリだけで渡してみた。乗り越えて悟りを開くかビッグダディになるか……ノブサダさんは楽しみにしていますよ?




 おっとそんなことを考えていたら師匠が来た……よう……だ?


 ザッザッザッ


 師匠を筆頭に十数人の猛者らしき人物が後を着いて来る。何人かは俺も見知った人物で北、東の衛兵隊の隊長だった。皆、今から何かしらの討伐に行くのかというほど物々しい装備に身を包んでいる。


「待たせたのぅ」


「いえ、それにしてもそんなに重装備で一体なにをするんですか?」


 そう俺が尋ねるとそれはもういい笑顔を浮かべてあっさり言い放った。


「それはのぅ。とある魔獣と一試合といったところか。どうにも伸び悩んでいるとエレノアがぽろっと洩らしたから余程のことだと思ってな。師匠らしく解決の糸口でも示せればと思ったんじゃわい」


 はいダウトー。絶対、愉快犯ですよね。きっと面白いからってだけですよね。確かに多少は思っているかもしれませんが凡そ9:1で楽しんでますよねーー。


「ええと。非常に嫌な予感はしますが具体的に言うとどういったことで?」


「何、事は簡単。非常にシンプルなもんじゃよ。ノブサダ対選抜された衛兵20名。どちらかが戦闘不能になればそこで終了じゃ」


 げぇ、想像していた中で二番目に酷いのが正解だった! ちなみに一番はそれに師匠が加わった無理ゲーだ。まぁいい。だったらあれらを使って……。


「そうそう、広範囲魔法は封印じゃからな。使った場合は……分かるな?」


 ぎっくーん!

 全てお見通しでござる。不意打ちスリープミスト計画は発動前に露と消え去った。


 そして伏されているお仕置きは『師の七日間』クラスだと思っておいたほうがいいだろう。『師の七日間』とは修行中に師匠の出した課題をこなしていたのだが故意ではないものの結果的にズルとなってしまったことがありそのお仕置きとして課せられた師匠とガチンコ戦が組み込まれるという代物だ。あの七日間はそれはもう地獄だった。訓練メニューにランダムでいきなり組み込まれへとへとになっても課題はこなさないといけない。神聖魔法で傷は回復するが色々とボロボロになり食欲も無くなるほどで麦粥を無理やり飲み込みつつ耐え忍んだよ。未熟な弟子にちらりとでも本気を出さんでくださいと涙目になったもんなぁ。


 とほほんと項垂れつつ練兵場中央へと歩いていくと対峙する面子がはっきりする。先程も言った見たことのある隊長を含めた隊長クラスのベテランと将来有望な若い連中も混じっていた。どいつも人より多めのスキルを持ちそのレベルもなかなかである。ん、カイルも入っているじゃないか。あっちもとほほという顔をしているな。まさか自分が選出されるとは思ってもいなかったんだろう。


 すでに師匠から言い含められていたのかカイル以外は全員抜刀済みで意気揚々と構えていやがる。しかも真剣じゃないか! ちくせう、お前ら絶対泣かす!


「ノブくーん、勝ったら今晩はうちら二人で大サービスやでー!」


「ふ、ふちゅの!? 何を大声で言い出すのじゃ!」


「ほらほら、カグラもその大きな胸を使って色々と……な?」


 ふぁっ!?


 フツノさんの不意打ちにヤル気はでれどもそれ以上に目の前の御仁たちの変化に冷や汗が止まらないのだが……。凡そ半数が血の涙を流さんばかりに憤っていらっしゃる。いや、俺もこっち来る前は同じような立場だったから気持ちは分かるけどさ。


「なんやったらティーナも加えるでー。ノブ君の勇姿、うちらにばっちし見せてぇな」


 ふおおおおおお!


 我が家の誇る三双丘の競演だとぉ! ちなみに一番大きいのはサーラさんだが彼女とはそういう関係ではないのでノーカンだ。


 相手方の目が一層厳しくなるも俺の漲ってきた迸るやる気を消すことなどできんよ。俺はノブサダ、欲望に忠実な漢である! にゃんにゃんの為ならば屍を踏み越え突き進もうぞ!


 10メートルほどを挟んで対峙しその中央に師匠が審判役で立つ。


「それでは! はじめぇい!」


 師匠の振り下ろされた右手を合図に一気に動き出す。

 まずは小手調べのぉ! いきなり『魔刃・絶刀』!!

 広範囲の魔法は封じられたが武技は駄目とは言われてないでごわす。


 月猫から放たれた不可視の斬撃が扇形に広がりつつ衛兵隊一同へと襲い掛かる。何かしら察知した伏せるか飛び上がって避けているものの半数近くは巻き込まれ押し倒されるかのように後頭部から転がっていた。あくまで模擬戦なので打撃っぽく加工済みなので当たってもただただ痛いだけになっている。


「ちぃ! 落ち着け! すぐに陣形を立て直すんだ。無事なやつは前に出ろ! 倒れたやつは横に転がって避けておけ! 相手は人間だと思うな! それこそ凶悪な魔獣だと思え!!」


 衛兵の中の一人が立て直すため瞬時に指示を出しているがさらっと酷いことを言われている。だがそう易々と立て直させはしないのだよ。陣形が崩れている今だからこそ一気呵成に貫く! ダミー用に幻術で作った俺の姿を自らにかぶせ『高機動兵装フライトシステム』を起動する。


 目指すは指示を出している北の隊長さん。悪いが司令塔を真っ先に潰すのは世の常なのだよ。


 ドンッ!


 八艘跳びもかくやとばかりに一気に宙を舞いつつ月猫を振りかぶった。衛兵隊の皆さんが二つに分かれた俺に戸惑っている間に数を減らさせてもらうよ。


「チェェストォォォォォ!!」


 薩摩チックな掛け声と共に加速をつけた一刀が彼の体を袈裟懸けに一閃する。声も無くもんどりうつように倒れこみやがて白目をむいた。始まる前から武技『優柔不断』を使用しているので殺す心配は無い。痛みは伴うので気絶してしまったほうが幸せだけどな。実はこの武技使い勝手はかなりいい。自分から解除しない限り長いこと持続するし放出系の武技以外ならば重複して使用可能だった。


「ジャックバ、死亡! お前、隊長格があっさりと……」


 月猫に思い切り両断された挙句、師匠からの白い目を向けられ散々な北の隊長ジャックバ・ウワァーオ(36歳独身)撃沈!


 そうやっている間に呆けていた連中も持ち直してこちらへと殺到してきた。大半が片手剣ではあるが中には両手剣や片手棍を持つものもいて間合いが図りづらい。


 ポンと大地をひと撫でしたら真正面から襲ってきたやつへと低空を滑走しつつ足払いする。地面すれすれを突き進んだために振り下ろされた武器は空を切り僅かながら体勢を崩す一同。足払いで前のめりになった彼の背後へと回り込みすかさずヤクザキックで蹴り飛ばす。辺りを巻き込み地面に打ち付けられたところで先程干渉し仕込んでおいた『垂直落下式孔明之罠ピットフォール』を発動し地面の中へとダイブしてもらう。大丈夫、ほんの3メートルほどの深さだから。模擬戦だしマグマは仕込んでいないので優しかろう?


「取り囲めっ! 同士討ちも覚悟して一気にウェポンスキルを放つんだ!」


 お? 急に出来た穴を避けつつ動揺を抑えてこっちに対応してくるやつがいる。次の目標だな……ってカイルじゃないか。まぁ、師匠やなんかに付き合っていれば立ち直りの早さも頷けるか。嫁さん貰って張り切っちゃってるのかに。


「「「タマ獲ったらぁぁぁ!」」」


 そんなカイルの声に応えるかのように怒号にもにた気合いの入った声があがる。


「やべえな、これ。先輩たち殺る気満々だよ。って出遅れた」


 何やってんのよ、カイル。って俺も突っ込み入れている場合じゃない。四方八方からウェポンスキルを発動する声が次々あがる。


「死ぃねぇ、リア充! ウェポンスキル『ジェラシックスパァァァクゥ!』」


 バチバチと火花を散らした両手剣が振り下ろされる。


「漲れっ! 俺の滾る魂よ! 武技『男魂一滴』!」


 突き出される槍は進むたびに鋭さを増し近づいてくる。


「穢れ無き光の刃よ! 下半身の権化たる彼奴を裁きたまえ! 『八つ裂き光刃(シャインスラッシュ)』」


 光を纏った片手剣が俺の背後から一閃される。


「嫁さん募集中! 『マリッジハンティング』!!」


 獲物へと自動追尾するような片手棍が嫌らしい軌道を描きつつわき腹目掛けて横薙ぎにされる。


「その申し出受けたぁ! 『天空剣ビアンカ・フローラル返し』!!」


 隊長の中の紅一点が大地を抉りつつVの字に斬り上げてくる。


「えっ!? 今なんて!?? おおっと『太陽剣ソル・ブレイド』」


 カイルの持つ剣がヒイイイインと高熱を発し太陽が昇るかのように突き上げられた。


 打ち込まれた攻撃は一撃一撃が彼らにとっての最高のものだったであろう。だが俺とてむざむざやられはせんのだよ。こんな事もあろうかとぉぉぉ!


 ガキィィン、ボスッ、バスッ、ガスッ、ガイン!


 本来ならば無事ですむはずのない状況ではあるが打ち込まれた武器は俺の体各所で止まっている。体中が、具体的に言うと鎧、篭手、衣服が漆黒の何かに纏わりつかれておりそれが衝撃を吸収していた。無論、これは俺自身が作り上げたもの。今までの集大成である。


「魔力纏改め魔装衣ってか。うん、ありきたり過ぎるが効果は抜群だ」


 あれ? さっきの中で何やら告白成立してたりした??

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