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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第224話 悩み



「ハクジョーイ様、目論見どおり店の権利書と荷物を押さえましたぜ」


「おお、よくやった」


 部下からお目当ての権利書を受け取ったハクジョーイは鼻息を荒げながら喜んでいる。そして壁に背もたれた男へ視線を向けた。黒いローブのフードを深くかぶったその男の表情は読めない。


「使者殿、指示のあった数を押さえることができましたぞ。これで戦後の私の地位と褒美を保障してくださいますな!」


「……ああ、間違いなく。宰相様から言付かっている。あとは戦が始まるまでに薬品を出し渋りやつらに渡さないようにな。毒薬を混ぜ込んでも良い。その成果が高ければ……そうさな、爵位なんかも貰えるかもしれねぇ」


 黒ローブの言葉に目を見開き更に鼻息を荒くしたハクジョーイ。彼の脳裏には最早爵位を受け取りこの地に君臨する自分の姿が思い浮かびあがっていた。くふふ、はははと小さく笑い声をもらす。それを何の感慨もなく視線を向けているであろう黒ローブがいる。



 その一部始終をじっと見つめる小さな影。


「目標、確認、あるじに、報告」


 物音一つ立てずにウズメは闇へと溶け込み消え去った。








 ◆◆◆




 ドルヌコさんたちを指揮下に加えてから一週間たった。


 ウズメから報告のあった黒ローブにあれから動きはない。見張りは常につけているので何か動きがあり次第こちらも対応しようと思う。無論、ムライ君たちから得た情報も含めて師匠に報告済みなのであちらからもそれとなく見張りがついている筈だ。黒ローブだけでなく他にも潜んでいる輩がいるかもしれない。少し泳がせておいて一網打尽にするのが基本の方針となる。


 錬金術店が減ったことで戦争のために確保する薬品量が減ると思われているかもしれないがうちの増産は着々と進んでいる。ヒラ草を筆頭とした薬草は濃魔力水と液肥、追肥でそれはもうもさもさと育ち採取量は外で採取する量の比じゃない。いざとなれば俺の魔法で促成栽培できるしな。


 店にはドルヌコさんとネーネさん、新たに雇い入れた4人の女性たちを加え人員の層を厚く出来た。その4人のうち1人が錬金術を使えたのは非常に有難かったね。皆で協力して作っては補完し纏めて騎士団のほうへと納品してもらおう。






 それと店舗、輸送の護衛には新たな人員が加わっていた。


「おう、大将。今日からよろしく頼まぁ」


「俺らもそれなりに年いっているから女房たちも安心しているよ。ガキどもにも寂しい思いさせてたからな」


「護衛の他に対人戦と集団戦の指導だったよな。任せてくれ酸いも甘いもきっちりと仕込んでやるぜ」


 そう、見知った『姐御に萌え隊』の連中である。

 実のところ俺から接触したわけではなく3日前に彼らが揃ってひょっこりと顔を出してきたのだ。ティーナさんのことが気がかりだったのだろう。しかも彼らだけに納まらず奥方の皆様も一緒についてきたという事態にティーナさん好かれすぎだろうと思わず一人突っ込みを入れてしまったくらいだ。


 そして目撃してしまったティーナさんの姿。エレノアさんたちと一緒に皆を鍛える姿こそ元のままであるがちょっとした合間を見ては俺の方へと駆け寄ってくる。虎なのに犬のように尻尾を振っている幻像が見えるかのようだ。思わず撫でてしまったのは致し方のない話なのである。隣に順番待ちでエレノアさんも並んでいたがな。


 それと首にあったはずの奴隷紋が消失しておりそれを隠すかのように俺が贈ったミスリルチョーカーをしているのを見てニヤニヤするもの、唖然とするもの、喜び涙を流すものまでいたりした。今までの荒んだ時間を取り戻すかのように甘酸っぱいティーナさん。実際はこの中の誰よりも年上なん……いや、なんでもない。一瞬、首筋に悪寒が走っただけだ。この話題は無かった事にしよう、うん。


 そんなこんなで彼女の現状が問題ないものであったことで彼らも一安心となった。ところがティーナさんたちが指導していた皆に対してのちょっとした駄目出しが始まったのが切欠になり6人総出で熱血指導が行われてしまう。その指導力は確かなもので駄目元でうちの教官やってみるかと問うて見れば快く承諾いただいた次第。


 有難いのだがトントン拍子に進むものだから少しだけ不安になって本当にいいのかと訊ねてみた。実際のところ『マハルマリーン』が解散となったことで傭兵家業は現状休職状態。新たに傭兵団をつくるのも今更億劫であり今後どうするか悶々としていたそうだ。それに長いこと家を空けていることで我が子に知らないおじちゃん扱いされてしまった奴もいてすぐに遠征が必要なこともしたくないという意見もあった。ただ、それでも飯を食わねば生きていけないので冒険者の真似事でもしようかと頭を悩めていたところへ俺が声をかけたって訳だ。


 街中でこなせる仕事であり給金もそう悪くない。更に奥様達も持ち回りで食事作りなどでパート採用したものだから大助かりだそうな。


 俺としても彼らが指導してくれるならば渡りに船だったから儲けものである。人となりはグラマダ、王都間で良く分かっているし彼らが守りについてくれるのならばそうそう遅れはとらないであろう。それだけ人員をダンジョン内や訓練所での育成に割けるというものだ。



 と言うわけで生産、経営共に順調……なのであるが俺には悩みがあった。






 それは俺自身。

 急激に上がったレベルと身体能力のために手加減が上手くできなくなっていた。日頃、生活する部分においては問題ない。だが、いざ戦闘となったときある程度のローギアから一気にトップギアに跳ね上がり中間の力加減が難しくなっている。更にそのトップギアも上限がいまいち掴めずに持て余し気味だった。


 エレノアさんたちと模擬戦をしたりして把握しようと努めていたのだが上がり幅が急激だったために未だやり切れていない。コアの補充も兼ねて空間転移で移動しては街のダンジョン10Fのボスであるゴーレム相手に戦いを挑んで実践するも至極あっさり倒してしまうために進捗はあまり宜しくなかった。ゴーレムのコアはほぼ100%ドロップだが扱えるものが少ないためほとんど値もつかないようでここに張り込むものはまったくと言っていいほどおらず独占状態だったのがせめてもの救いか。


 それでも色々と魔法実験もしつつ試行錯誤を重ねて何度も挑み続ける。幸い魔法を操るのには支障が出てないので騙し騙しやっているがこれから戦争ってときに困ったものである。


 まさかレベルが上がって困るとはなぁ。これまでそんなことが無かっただけに対処法も場当たり的なのだ。でも良く考えてみればあの一戦だけでカンストしたものが多数、クラスアップもしたのだから常人では有り得ないことだし仕方が無いのかもしれない。




 そんな訳で日課の素振りの回数を増やして少しでも馴染ませようとしていたところに見知った顔が転がり込んできた。衛兵隊の本部で何度か顔を合わせたことがある。しかし、何かあったのかね?


「ノブサダ殿、総隊長よりあなたへと言付けを預かってきました。『本日、正午より衛兵隊本部へと来られたし』です」


「師匠が? 一体なんでまた」


「申し訳ありませんが自分はそれだけを急ぎ伝えるようにと仰せつかっただけでして……それでは確かにお伝えしました。失礼します!」


 そう言い残し足早に彼は去っていった。師匠のことだからそこら辺にいた彼を捕まえて伝言を頼んだのだろうがきっと彼自身の都合って考えてなかったんだろうなぁ。相変わらずトップなのにフリーダムな御仁(義父)である。


 敢えてスルーする……って訳にもいかないので準備していきますかね。はてさて一体どんなご用事でっしゃろか。

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