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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第223話 雑貨屋ドルヌコ 後編



「よし、積み込み完了。ライマン、とうさ、いや店主に報告してくるよ」


「ああ、こっちはまかせておけ。それより……ぬかるなよ?」


「勿論」


 ポポトは頷き馬車の荷台から降りていく。その荷台には50センチメートル四方ほどの木箱が積み上げられていた。ポポトたち4人がかりでせっせと運んだソレは荷台を完全に占拠しており重さもあるのか車輪への負担が如実に見えてとれる。この荷台は奴隷の檻が乗っていた代物だけに車軸など頑丈に作られていたからかなんとか持ちこたえているようだ。


 ライマンだけが残りクリフとムライは姿を消していた。どうやらどこかで休憩でもしているようである。


 一人荷台を降りたポポトは雇い主であるドルヌコの下へ積み込み作業が終了したことを報告するため真新しくはめ込まれた入り口の扉を開く。そこにはドルヌコ、ネーネが座ってなにやら話し込んでいた。辺りに従業員の姿はなく店内も品物一つなくがらんどうとなっている。ポポトが入ってきたことに気付くと二人とも柔和な笑みを浮かべた。


「積み込み作業完了しましたので報告にあがりました。これより和泉屋までの輸送へと移行しますのでお二人とも馬車のほうへ移動願います」


 親しき仲にも礼儀あり。ポポトは例え雇い主が父親でも、いや父親だからこそしっかりと冒険者としてやっている姿を見せたかったため気合が入っている。それを知っているからこその先ほどの微笑みなのだろう。


「分かりました。既にあの子達は到着した頃でしょうしね。それじゃネーネ。最後の仕上げといきましょうか」


「そうだね。といってもあたしは座っているだけだけども」


「何があるか分からないのだから身の危険を感じたら自分の体を第一に考えてくださいね。さ、ポポト君。先導をお願いしますよ」


「はい!」


 ちなみにポポトはドルヌコとネーネの関係をいの一番に報告されていた。胸中複雑な思いもあったが最終的には素直に祝福することにしていた。なんせ自分も父親もあの女(母親)から受けた酷い仕打ちが身に染みている。それを省みても傍にいたいと思う相手なのだからきっと幸せになってくれるだろうと思い至ったのであった。何よりちょっとぶっきらぼうだが慈愛に溢れたその眼差しはアリナに似たものを感じていたのもある。親子だけに女性の趣味まで似るのかなと頬を掻きながら苦笑いを浮かべもした。


 ドルヌコ、ネーネの二人が荷台に乗り込むとライマンが御者席に移動する。その横にポポトが位置取り二人で手綱を握っていた。まさかの二頭立てである。二人の合図によりヒヒヒンと嘶き重量感たっぷりの荷台を引き進みだす。






「いました。順にいきますよ。丸顔髭面30代が『ギャブアン』、細身のチョビ髭20代後半が『シャバリソ』、強面のゴツイ禿頭驚きの10代が『イダシャ』、……」


 馬車が動き出すのと同時に『猫の目』周辺に潜んでいた男が数人動き出す。そんな男たちをカーテンがかかった二階からこっそりと見つめていたクリフが鑑定を使って次々と特徴と名前をあげていく。それをムライが素早く書き記していった。書き連ねる速度を落とすことなく15人の情報を纏め、その羊皮紙を丸め上げる。


 ニャオオン


 はっしとそれを咥えて走るはウズメの配下であるウミネコの一匹。窓の桟を駆け屋根を飛び跳ね一目散に目標へと突き進みそのままポポトたちの馬車を追い越していった。





 ガラガラガラガラ


 二頭立てとはいえ荷台の重量のせいで進みは遅い。石畳の道路の端をゆっくりと走らせていた。和泉屋へと向かう道はメインの通りを外れ少し人気のない横道を抜けていかなければいけない。


 ガラガラ、ヒヒィィィン


「どう、どう、どーう」


 人目が切れたところ、手前からも通りの先からも見えづらい位置で十数人の男たちが道を塞ぐ様に屯していた。御者をしていた二人は元々速度を出していなかったため十分に距離をとって馬車を止める。


 手綱をライマンへと渡しいつでも動けるようポポトは身構えた。そうしているうちに男たちの中からどこかで見たことのある男が前に出てくる。


「ドルヌコさんよ。借金を返せなくてこんな昼間から高飛びですかい? そいつぁスジが通らねぇなぁ」


 へらへらと笑いながら真っ当に聞こえなくもないことを言い出す男。そこでポポトはこの男が誰だかやっと思い出した。服装も違うしあの時は一言も喋っていなかったがハクジョーイの命令で殴りかかろうとした黒服であると。


 ポポトが緊張感を増す中、ドルヌコは馬車から顔を出し男を見やった。荒事にはてんで向かないことから彼の心臓はバクバクと鼓動を荒げている。それでも平静を装いながら相対した。


「ハクジョーイさんの部下の方ですか。いえいえ、これは商談のために移動しているのですよ。ですのでそこを通していただけませんかね」


 若干声が上ずるもののそう答えて相手の出方を窺う。既に男たちはニヤニヤしながら馬車を囲むように移動していた。どれも身を持ち崩した冒険者のような風体で得物なんかもバラバラで纏まりのない集団ではあるがそれなりに手練れもいるようで足運びに隙がない。人数的なこともありいつでも馬車を放り出してドルヌコたちの身を守れるように注意していたからこそ気付けるほどの小さな違和感がそれを教えてくれた。


「そいつは出来ない相談ですなあ。最早待てぬということでハクジョーイ様から自主的・・・に店の権利書をいただいてくるように言い含められていますんでね」


 背につけたホルダーから特殊警棒のような片手棍を取り出し左手にぽんぽん打ち付けつつきっぱりと断言する。辺りにいた連中もナイフ、剣、メリケンサックなどを取り出しながら下卑た笑い声をあげていた。


 少しだけ額に青筋を浮かべながらもポポトは終止無言で周囲を警戒している。


「おお、あなた酷い人。私に死ねと言いますか!?」


 業とらしいほどに驚くドルヌコ。ちょっと大げさすぎないかと三人とも内心思っていたがどうやら男連中はそうでもないようだ。脅しが嵌っていると勘違いでもしたのだろう。


「この場で行方知れずになるよりは……権利書と後ろの積荷、置いていったほうがいいと思いますぜ? どうしやす? そこの護衛に望みをかけてみますかい?」


 権利書どころか積荷まで請求する辺り見た目同様かなり強かなようである。暫く考え込むふりをしてネーネやライマンへ目配せをするドルヌコ。


「分かりました。私たちは身一つでこの場を離れましょう。ですので危害を加えるのは勘弁してください。冒険者の方、このまま馬車を降ります。下がって私たち二人の護衛をお願いしますよ」


「……分かった」


 寄り添うように荷台から降りるドルヌコとネーネ。そして警戒しながら連れ立つライマンとポポト。常に男たちへと警戒を配りながら和泉屋の方へとゆっくり移動していく。


 黒服だった男が首を振れば残りの連中は馬車へと群がっていった。そして黒服だった男はドルヌコが差し出してきた店の権利書をふんだくるとにやりと笑みを浮かべる。


「確かに。それじゃあとはどこへなりと行って構いませんぜ」


 その言葉を受けてそそくさとその場を立ち去る四人。男連中はそのあとを追うでもなく早々に馬車を動かし始めハクジョーイの下へと戻る算段のようであった。ポポトとライマンは口封じのために襲い掛かってくるかと警戒していたのだが遠めにその様子を見て少々拍子抜けした感を醸し出している。王都のスラムを経験した彼らからすれば随分と温い連中だと感じたのはいたし方のないことであった。
















「ノブサダさん。ポポトの件も含め色々と便宜を図ってくださり感謝の念に絶えません。これからは一従業員として和泉屋で頑張らせていただきます」


「そう畏まらなくて結構ですよ。ドルヌコさんには先達としてうちの従業員の教育を含め色々と助けてもらっていましたしこれからもよろしくお願いしますね」


 無事和泉屋へとたどり着いたドルヌコさんは俺の手をとり頭を下げていた。俺としては今までどおりのほうがやりやすいので少々気後れ気味である。


「取り合えず暫くは安全面もありますからうちの客間で寝泊りをお願いします。先についた4人はうちの従業員と同じ寮に入って貰いますから心配ありません」


 この機会にとジャパネ達を奴隷から解放し雇用契約を正式に結んで和泉屋女子寮となっている。ただし三連娘とレコ、サーラは奴隷のままがいいと望んだためにそのままとなっていた。そのため彼女ら五人は本館へと移動して女子寮は従業員専用となったのだ。寮長はディリットさんが勤めることになっている。和泉屋では奴隷だからと差別する風潮を嫌っていたため分け隔てのない扱いだったが新しく入ってくるものたちがどう感じるかは分からないため一度切り離しディリットさんの指導の下、きっちりと新人教育する目論見もあった。『頑張れディリットさん』と心の中で応援する俺である。



 ふう、これでドルヌコさんのほうは一息入れられるか。錬金術店ばかりを狙って潰しにかかっているという情報を得てからウズメの協力の下、ウミネコたちと野良猫を使った情報網を構築していたりする。完璧な意思の疎通ができるのはウズメとだけなので情報速度に難はあれど大量の猫ちゃんたちは様々な場所へと入り込み玉石混合のHOTな情報を届けてくれるのだ。


 そのなかでハクジョーイを見張らせている。奴本人かそれともその部下か。この建て直しの時期に態々既存の錬金術店を潰していくのはどう考えても王都からの息がかかっているように思われる。ぎりぎりまで抵抗してドルヌコさんたちを危険に晒すならばとあっさり手放してもらうようお願いしていたのだ。少しばかり気の毒ではあるが彼らの安全には代えられない。いずれ……報いは受けてもらうけどな。

ちなみにハクジョーイの母親はハイタさん。

人情を漂白したら薄情になったというどうでもいい設定。


追伸、感想欄でご指摘のあった通貨のとこですが書き始めてしばらくしてから通貨設定を1マニー=100円から10円へと変えたことで修正し切れていないところがあります。指摘箇所は修正しましたが直しきれていない部分……きっとありそうです。すいません。稲麹のところもやんわり修正。

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