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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第222話 雑貨屋ドルヌコ 前編

いやはや、更新が遅れに遅れて御免なさい。

執筆時間もなかなかとれなかったのです。それでも書き溜めたのをなんと前後編、二話掲載でござる。

では本日一話目どぞん!


 ここはドルヌコの店である『猫の目』。

 店内では従業員の女性4名がせわしなく荷物を移動している。だが店内に客の姿はなく彼女らがしているのはまさに荷造りであった。

 店にある在庫を全て箱詰めし馬車へと積み込む。そこにはポポト以下彼のパーティメンバーが行っていた。








 事の起こりはドルヌコとポポトが再開した日まで遡る。


「へいお待ち! 『炎の狛』人気メニューのスーパーノヴァ定食とムーンサルトり定食になりまさぁ」


 運ばれてきた食事を頬張りつつポポトとドルヌコは今までの期間できた溝を埋めるかのように話し合う。主にポポトが辿ってきたこの1年をドルヌコが聞いているのだが自分のいない間にこの子にはなんという難関ばかりが襲ってきていたのだろうと涙が出そうになっていた。必死に堪えるも思わずずびっと鼻をすすってしまう。


 ポポトにとっては最早過去のことと割り切っているようで淀みなく話を続けていた。父に報告している姿は今日の成果を報告し褒めてほしいとせがむ年相応の子供らしさが滲み出ている。内容はすこぶるヘビーであるが……。ドルヌコの胃壁は確実に削れていた。


「それでその冒険者のいざこざに巻き込まれて僕の体には消せないほどの大きな傷が複数個所できてしまったんだ」


 その話に僅かに首を傾げるドルヌコ。ポポトを見る限りそんな傷跡などどこにも見当たらないからだ。我が子がそんな嘘をつく意味もないしどうしたものかと思案しているとそれを見てポポトが言葉を続ける。


「傷跡はね。ノブサダさんに出会ってから魔法で治してもらったんだ。すごいよね、僕の恩人でもあり一緒に住んでいた仲間たちもあっという間に治してもらったしアリナに至っては失っていた耳や尻尾まで元に戻ったんだよ」


 それを聞いたドルヌコは唖然とした顔を隠すどころか取り繕うことすらできなかった。そして真剣な眼差しで諭すようにポポトへ告げる。


「いいかい、ポポト。その話はもう誰にもしてはいけないよ?」


「と、父さん、急にどうしたの??」


「ポポト。ノブサダさんが使ったその魔法だがね。私が話に聞いたことのある神聖魔法のリジェネーションというものならば小指一本を再生するために神殿に支払った金額は100万マニーになったそうだよ。貴族のお嬢様が事故で失った小指を治すため何人もの神官を集め数日に亘っての大仕事を行ったのだと聞いたんだ。それをノブサダさんが一人で、しかも短期間でできるということを誰かに聞かれれば……それは恩人とその周りの皆を危険に晒すことになるんだ、分かるね?」


 父親が言うことの重大さを理解しポポトの顔が青ざめる。下手をすれば父の言葉のように恩返しどころかとんでもない不幸を呼んでしまうところだったのだ。


「ありがとう父さん。危うくノブサダさんに迷惑をかけるところだったよ。もう誰にも話さないし皆にもしっかりと口止めしておく」


 そうやって素直に反省を感謝を告げられる息子でよかったとつくづく思うドルヌコだった。聞いた話の中であれほどの目にあっても性格が歪まずに済んだのはこれ以上ない奇跡だと思わざるをえない。実際はかなり荒んでおりノブサダの手によって救い上げられたのだが。


 その晩はゆったりと息子の話を聞きつつ二人同じ部屋で就寝する。大氾濫の後、これ以上ないほどの快適な眠りを享受したドルヌコであった。





 それからポポトと別れ店へと戻ったドルヌコは絶句する。僅か半日ほど離れていただけなのに焼け焦げ粉砕していた箇所が見事に復旧されていたのだ。

 これもまたノブサダの仕業だと聞きあの人はどこまで恩を積み上げていくのだろう。到底返しきれないなと軽くため息を吐いたのは仕方のないことであった。


 そのまま営業を再開しその日は常連のお客も様子見もかねて訪れてくれたことによりそこそこの売り上げをあげた。



 だが、次の日から状況は一変する。

 店の前に柄の悪い若い連中が数名たむろするようになったのだ。そして買い物に訪れた客に対して因縁をつけ始める。どう考えてもハクジョーイの手のものであることは明白であった。


「へへっ、ここの店にゃあんたの買うようなものはありやせんぜ。さ、あっちのお店へどうぞ」


「ようよう、姉ちゃん。こんなとこより俺と良いとこ行こうぜ、なぁおい」


 挙句の果てには店の前で剣やナイフをチラつかせる始末。思いあまって裏口から衛兵隊へと駆け込めば連れてきた頃には姿を消していた。それが何度か続いたため衛兵の中にやつらと通じている者がいるのだろうとドルヌコは推測する。


 今は大氾濫の傷跡を癒すため街の皆が一丸となって復興に勤しむべきだというところにこのやり方。結局この日は売り上げは殆どないまま日が暮れていったのだった。



 ドンッ!


 テーブルに拳を打ちつけふるふると体を震わせるドルヌコがいた。商人として常に冷静沈着を心がけているドルヌコだが珍しく怒りに飲まれている。店のほうだけならまだ我慢もできた。それができないのは今回は買い物に来たお客様にまで因縁をつけたからである。


 営業を続ければ店を贔屓にしてくれていた客に被害が出る。営業しなければ借金の方に店を取り上げられる。金策に走ったものの主だった金貸しには既にハクジョーイから手が回されていたのか貸せる金はないと素気無く断られた。八方塞りの状況に頭を抱えるしかない。


「アンタ……」


「ネーネ、起きていたのか」


「アンタの様子がおかしかったからね。やっぱり……難しいのかい?」


 若草色のパジャマに身を包んだネーネがリビングで焦燥の色を隠せないでいたドルヌコへ問いかけた。


「やれやれ、心配かけないように気を使っていたんだがやっぱり君には隠せないか。ああ、流石にもう打つ手がないよ。折角、息子が帰ってきてくれた早々に私のほうは御破算のようだ」


 はははと乾いた笑いを浮かべつつ精一杯強がる。泣き出したい心境ではあったがそれくらいの強がりはしたいようだ。だがネーネにはそれすら透けて見えている。二人の間にはそれだけの長い付き合いがあるからだ。


「無理はしなくていいんだよ。あたしにくらい強がらなくてもね。なんせガキの頃からアンタの情けない姿は見てきたじゃないか」


 そう二人は幼い頃から共に育った付き合いである。お互い長いこと近くにいたためにどちらからとも告白することもできずにずるずると過ごしていた。そしてドルヌコは取引先からの紹介を断りきれず見合いしたフディコと結婚することになってしまう。


 ドルヌコとしては自分の優柔不断さが招いたことに結果つき合わせてしまっているという後ろめたさがあった。こうして一杯一杯の状況でも心配をかけたくないと強がってしまうのはそこから来ている。


「本当、君には苦労をかけているし情けない姿ばかり見せているな、私は」


「そんなことないさ。それにね、あの子達も納得ずくで最後までアンタに付き合うつもりだよ」


『猫の目』に勤める従業員4名は皆孤児でありポポトたちと同様にスラムで暮らしていた。彼女らが生活のためにドルヌコから引ったくりをしようとしたところネーネに取り押さえられたのが出会いの切っ掛けである。ポポトを失った悲しみからか彼女らの境遇をおもんぱかり雇い入れて自ら教育を施したのだ。今では何処に出しても恥ずかしくない立派な店員となっている。


 全員、明日をも知れぬ生き方をしていた自分たちを引き上げてくれたドルヌコに強い恩義を抱いており度重なる嫌がらせや大金を詰まれての引抜にも一切惑うことはなかった。


「そうか。あの子たちもか……。はは、全てを失う訳じゃあないのかもしれないな」


「そうだよ。それにアンタが築いてきた人脈だって生きているさ。あのね……」


 ネーネはノブサダから聞かされた内容をそのままドルヌコへと伝えた。一言一句間違いなく伝えられた言葉を驚愕の表情で受け止め少しずつ噛み砕くように受け止めている。


「アンタがやれるところまでやる限り黙っているつもりではあったんだよ。裸一貫ここまでやってきたプライドがあると思ってね」


「ああ、ありがたい話だと思ってもその場で頼るのは躊躇したかもしれない。何よりポポトのことを含め返しきれない恩があるのだから。でも……それでもここは彼の温情に縋ろうと思う」


「そうかい」


「ああ、だが店はこのまま畳むことにする。流石に全資金を援助してもらうというのは甘えすぎだからね」


「……いいのかい?」


「そうだね。まだ心の整理はついていないけれど先ほどまでと違って随分落ち着いているよ。もう一度、初心に戻ってやり直そうと思うんだ。はは、二度に渡って店を潰してしまった男まで雇ってくれるかは分からないが恩返しの意味を含めて使ってもらえないか頼んでみるよ」


 そう答えたドルヌコの顔は先ほどまでと打って変わって凪いだ海のように穏やかだった。ソレを見てネーネも安心したのか不意に笑みがこぼれる。


「ふふっ、もしだめでもアタイが養ってやるよ。そろそろ一人身も飽きたからね。婿入りして家事でもやってもらおうかね」


「ネ、ネーネ!?」


 いい歳したおっさん、逆に告白されしどろもどろになったのはご愛嬌というところだろうか。雨降って地固まる。近いうちにポポトに新しい母親ができるかもしれない。







 こうしてドルヌコたちは和泉屋へと編入されることになった。ノブサダは快く快諾し二人に対して急ぎ在庫などを引き上げることを提案する。あの手の輩だけに獲れるものは全て差し押さえるだろうと予測したからだった。護衛としてポポトたちを派遣し馬車まで貸し出す。



 そうして冒頭となるわけだがその一連の作業をじっと見つめる目があることをドルヌコたちは知らない。


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