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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第217話 ばいばい、受付嬢

前話がわけわかめというご意見を賜ったので修正いれました。うまく書けずに申し訳ないデス。陳謝。



 ざわ……ざわ……ざわ……


 午後の鐘が鳴った冒険者ギルドはざわざわと喧騒に包まれていた。少なくない冒険者たちは既に依頼へと発っているのだが残った冒険者たちは彼が来たことに色々と思うところがあるのだろう。


「魔獣だ! 殲滅の魔獣がきたぞ!」


「いよう! 我らの英雄さん!」


「お陰で助かりました。仲間もそれで死ななくてすんだって!」


「はっはっは、ついでに持病のぢが直ったなんて口が裂けてもいえねぇやな! あ゛!」


 エレノアを連れ立ってギルドの中へと入った時点で大勢の冒険者たちに囲まれたのはそうノブサダである。特に気のいいおっさん連中や和泉屋から出していた依頼を受けていた若い連中によりもみくちゃであった。悲しいかなほぼ全てが男なのでごつごつと固い感触しか受けていない。


 女性陣もいるにはいたのだがそこはエレノアが目を光らせていたため自主的に遠慮していたのであった。


 集まってきたものの他にも遠巻きに見つめるものも多くいた。その視線には疎ましく見つめるもの、畏怖の目線を向けるもの、熱い視線を送るもの、様々な視線が交差している。これまた男ばかりであるが……。


「おお、来てくれたかノブサダ君」


 その声を放った人物が近づくとまるでモーゼが海を割ったように冒険者たちが両脇へと引いていく。まさかのギルドマスターのお迎えにさしものノブサダも苦笑いを隠せないでいた。


 その前にノブサダの脇から一歩前へと踏み出したものがいる。そう、エレノアであった。その表情には何かを決意したものが浮かんでいた。


「ギルドマスター。ノブサダとエレノア、冒険者ギルドへと只今戻りました」


「う、うむ」


 にこやかな物言いとは裏腹に込められた迫力からアミラルもたじたじになっている。これは何かやらかす気だなと長い付き合いの彼は理解することができた。


「公爵家令嬢の二人・・をグラマダ、王都の往復路において傷ひとつ無く無事送り届けることができました。武闘祭においては連絡の不備から私が出場できないというハプニングがありましたが代替の選手を用意し準優勝という結果を残しています。詳細については後ほど。それと私事ではございますが私の退職を受理していただきたくお願い申し上げます」


「「「「「ええええええええええええええ!!!!!!」」」」」


 聞き耳を立てていた冒険者たちも思わず大声をあげてしまう。エレノアは報告の中にさらっと自身の退職話まで紛れ込ませようとしていた。先程までのざわつきどころではなく騒然といった様相へと変化している。というか人妻であってもエレノアはこの受付で高嶺の花であったのだ。一部の人間がノブサダを目の敵としていたのにはその一環である。そんな彼女が至極あっさりと退職を申し出たのだからその驚きたるや如何程のものであろうか。


「と、とりあえずここでは何だから上の部屋で話し合おうじゃないか。ノブサダ君も一緒にきてくれたまえ。皆は場の収集を急いでくれ、ではいこう」


 職員たちは一様に思った。ギルドマスター、面倒な事を押し付けて逃げたなと。しばらく通常業務へと支障が出るほど場は収まることがなかった。後にアミラルは受付嬢たちから責任転嫁の咎によりお高いスイーツを要求されることになるのだがこれはまた別の話である。









「ぐぎぎぎ、あの野郎。貞操だけでなくギルドの華としてのエレノアさんまで俺らから奪うつもりか!」


 先ほどノブサダへと冷たい視線を送っていた男たちがテーブル席で面付き合わせている。密談というには漏れ出る声量は大きい。エレノアの退職騒ぎが余程衝撃的だったのか非常に興奮しているようだ。


「まったくだ。彼女がいなくなったら目の保養が……」


「本当だよな。受付嬢の中でも際立ってたのにさ。あの人のカウンターに並ぶのが日課だったやつも少なくないってのにな」


「だよなぁ。エレノアさんが一鉢3,000マニーする極上品なら他のは束にして一山おいくらって感じだもんよ」


「んだよ、あんな小さい男の何がいいんだか。あー、悔しいのう」


「他の受付嬢だとなぁ。然程、差がないっていうかなん……て……」


 男たちが屯していたテーブルに冷たい殺気が纏わり付く。背後から忍び寄る怖気に振り向くこともできないまま口を噤んでしまう。これ以上続きを話せば殺られる。長いこと冒険者を続けて数々の荒事を乗り越えてきた彼らだが人生最大の危機をまさか冒険者ギルド内で味わうとは思いもよらなかったことだろう。


 彼らが押し黙るほどの殺気を放ったのは話し声が耳に入った数名の受付嬢たちである。ここグラマダの受付嬢は常日頃からエレノアの指導により対人戦の技術を仕込まれていたりする。やはり荒くれども相手なので色々と厄介ごとに絡まれることから新人教育の一環としてここでは取り込まれているのだ。中にはBランクほどの冒険者とガチで渡り合えるほどの実力を持つものまでいた。


 そんな彼女らから冷たい視線と殺気を投げかけられた男たちはそそくさと席を立つ。扉をくぐった瞬間、一心不乱に駆け出していったという。受付嬢たちも『やりすぎたかしら』と反省をするくらい無様な逃げっぷりだった。










「さて。一体どういった心境の変化でこうなったか説明してくれるかね」


 椅子へと腰掛て向かい合いながらアミラルはそう切り出した。その声にはあまり力が入っていないようだ。とは言え説得を試みても……と長い付き合いからほぼ諦めの境地なのかもしれない。


「今回の護衛任務の最中、私はとある相手に深手を負わされました。旦那様がいなければそこで死んでいたことでしょう。慢心もあったのかもしれません。ですのでもう一度鍛えなおしこれから起こりうるであろう戦いへと備えるつもりです」


 アーサーとの一戦を思い出したのであろうエレノアの表情は優れない。たとえギルドに勤めていようとも毎日の鍛錬を欠かしたことはない。それでも実戦から遠ざかっていたのは確かなことだった。それが顕著に出たのがあの一戦である。ノブサダより受け取った装備の能力を十全に生かせていたのならばまた違った形で決着がついていたのかもしれない。何よりも遅れをとった己自身が腹立たしかったのだろう。エレノアは再度ノブサダと合流するまでの間、ずっと自身の進退について考えていた。幸いにしてノブサダの同意も得られこうして正式に退職を申し込んだのである。


「そうか。意思は固いのだな。分かった、退職を認めよう。丁度、今回の依頼の前に十分な引継ぎは行われているから問題はない。問題はないのだが……」


 もしかして依頼の前からこの一件を遂行すべく動いていたんじゃないのかとアミラルは言い出しそうになるも口を噤んだ。ありえることであるし今更言っても詮無き事だと思ったからである。彼女の本質はマトゥダのものを受け継いでいるからなぁと心の中でため息をつく。


「いや、いい。それとだな。ノブサダ君、ギルドカードを預かってもいいかね?」


「え? それは構わないですが何かありましたか?」


 懐から取り出したギルドカードをアミラルへと手渡しながら首を傾げるノブサダ。アミラルはそれを預かると小型のカードリーダーのようなものへと通す。そこにはノブサダの戦歴等が表示されている。


「やれやれ、やはりとんでもない数を倒していたのだね。 あの最中に2,207体もの魔物を屠っていたのか。これで上位討伐者が公表できる。おめでとうノブサダ君、君が大氾濫での討伐数トップだよ」


 カードを返しながらそう伝えるアミラルの表情は安心とも喜びともなんともとれない微妙なものだった。


「アヴェサンじゃないだけマシなんだろう。うむ、そう思おうか」


 呟くそれは二人には聞き取れないほど小さいものだった。ちなみに第二位はそのアヴェサン、三位がマッスルブラザーズのケィンだったりする。色々と厳しい面子が目白押しだった訳だ。
















 一頻り時間を置いた後、アミラルさんは気を取り直して二人を見据えると問題の件を切り出す。


「二人は知らないかもしれないが今回の大氾濫に当たって責任者が大々的に防衛したものたちへ告知した事があってね。討伐数が最も多かったものの願いをギルドで叶えるという話があったんだよ」


 その話を聞いたエレノアさんの頬が引きつる。何かしら思い当たることがあったようだ。無論、俺もピンとくるものがあった。そういう時、ノリで何かをやってしまう人物に二人とも心当たりがあったのである。


「もしかして……父がやらかしましたか?」


 その言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような複雑な笑みを浮かべたアミラルさんが小さく頷く。うわっちゃあと額をひと叩きした俺と諦めたような虚ろう眼差しで見つめるエレノアさん。二人揃ってそのまま深々と謝罪するのであった。


「あいつに振り回されるのは慣れているからいいのだけれどもね。それに士気を高める意味で間違ったことではなかっただろう。ただ、私から言えることは要望は手加減してくれると助かるかなということだけだよ」


 いきなり言われても悩んで答えは出ないので一旦自宅にて考え後日お願いすることに決めた。あんまり無茶なことは言い出さないと思う、たぶんね。


「それと冒険者ランクをBランクに昇格させることに決まっている。本当ならばAもしくはSが妥当だとは思うのだが討伐の依頼消化数が少ないためそこまで上げられんという頭の固い奴が何人かいてね。戦闘能力は間違いなくSに届くものだと思っているのだが中々うまくいかないものだよ。昇格試験を特例で飛ばさせただけで精一杯だったよ」


 Bランクに上げるのにも色々と横槍が入ったらしい。DからCの昇進で要人警護の経験を必要とするようにBに上がるには貴族の指名依頼を見据えたある程度の礼儀作法と上からの無茶振りに対する対応手腕が見られると聞かされた。最終的に公爵とある程度の繋がりがあることと圧倒的な魔力に物言わせたあの所業を省みてグラマダから逐電されるよりはと渋々折れたというのが正確な所だ。


 いえいえ、そげな急に上げられるとやっかみ多いからね。今更だけどさ。そもそも半年も経たずにBランクなら十分早いと思うのだ。目標まではあと2ランク。ゴールは見えてきた!


 そしてそれとは別にこちらからも個人的にアミラルさんに相談、いや商談があったりする。


「そうそうアミラルさん、ちょっと小耳に挟んだんですが……」


 武技を放ちつつバッキンバッキンと剣をぶち壊す様を噂で聞いた俺はちょっとした売込みをしようと思っていたのだ。ノブサダさんの割と自重をやめた付与で強化したら少しは長持ちするんじゃないかと愚考した訳。これって人事じゃないんだよね。『震刀・滅却』など月猫以外は再生能力があるわけでもないので不安が付きまとうのだ。言い方は悪いがアミラルさんので実験がうまくいけば俺の方でも助かるのでどうかと相談を持ちかけようとしている。


「ほほぅ、それはそれは……」


 キラリとアミラルさんの目元が鋭く光った。ドワーフの血なのか武器に関する意欲は並々ならぬものがあるらしい。その後、十分ほどで素早く契約内容を取り決める。剣はアミラルさんの好みもあるので彼の持ち物を提供、あとは触媒代だけ貰って格安でやらせてもらうことにした。報酬はいいのかと聞かれたが俺の実験をアミラルさんの実費でやるようなもんだから流石に悪いんでお断りしたよ。付与自体は1時間もあれば預かった10本の剣全てにできるからね。なんせ一番時間かかるのは術式に魔力を貯める事なのだ。俺の場合、それが一瞬でできるもんだから効率的なのだぜ。



 話が終わった後、討伐の報奨金を受け取りつつ魂石の換金を行う。その間にエレノアさんは同僚へ最終的な引継ぎとお別れをしていた。ま、冒険者に戻るのだから立場は変わるがすぐに会えるんだけどね。様式美というか気分的なものだろう。


 数が数だけに大分時間がかかったが査定結果はなんと白金貨3枚。300万マニーにもなったのだがゴールドインゴットなどを手に入れているもんだからいまいち感動が薄いのは仕方の無いことだろう。とりあえず当初の予定通り白金貨1枚分はグラマダ復興のために寄付しようか。

 この場合、どこに持っていけばいいのかね? ギルドマスターであるアミラルさん? それとも公爵に直で渡してみる?? 色々と考えた結果、公爵を通じて街にいくつかある孤児院への寄付としてもらおうか。もう半分はベルに渡してレベリット神殿での炊き出しに使ってもらおう。駄女神の人気取りにもいいだろうしな。

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