第23話 救命御宿24時
ゴッホゴッホと咳き込んでいたらひまわりの幻が見える今日この頃皆様いかがお過ごし?
ことぶき、風邪が悪化しております。うちの衛生兵はベン○ブ○ックと冷え○タだけなんで安静にしております。皆様も体調にはお気をつけください。
あ、誤字等いろいろ修正しました。では、おやすみなさい。
チュンチュンチュン
スズメらしき鳥が窓の近くで鳴いている。
目を覚ましたのはいいんだが瞼がうまいこと開けられない。あれれ? 今俺ってどうなってるんだ?
鏡は高価だから冒険者の使う部屋になど設置できるわけもないので当然部屋にはない。仕方ないので痛む体をのそりと動かし身をおこ……せない!?
あれぇ? 意識ははっきりしてるが金縛りの如く動けないんですが……。
何とか顔を動かして覗き込むとロープでぐるっと巻かれているようだ。
どうしてこうなった? 昨日、ドヌールさん謹製のパエリアを食してからそのままベッドへと倒れこんだわけだがそれ以降はまったく記憶に無い。
トントントン
扉をノックする音がする。
そしてガチャリとそのまま扉が開いた。
「あれ? ノブさん起きてらしたんですか~」
そこにはミネルバちゃんがお盆を持って佇んでいた。
「ひゃっひおひはばはりひゃよ」
(さっき起きたばかりだよ)
喋ってみて愕然とする。本当にどうなってるの、俺。
「ああ、無理に喋らなくていいですよ~。マトゥダさんが言っていた通りすっかり腫れ上がっちゃってますね~」
そう言いながらお盆の上に乗せていたものをいじりだした。師匠が言っていた? つまり今俺の顔は腫れ上がっているからうまく喋ることすらできないということだろうか。ここまで支障がでるってことはよっぽど腫れているのか?
アン○ンマンくらい?
「ノブさんのことですから無理に動き出すとも言っておられたので勝手ながらベッドに括り付けさせてもらいました~」
いや、にこやかにそう言われましても……。さっきから動けなかったのはそのせいか。
そしてミネルバちゃんはなにやら木の皮にジェル状のものを塗りたくっている。そしてそれをおもむろに俺の顔へと貼り付けた。
…………
くっさぁぁぁぁぁぁぁい! シップを何倍か臭くした代物が顔全体へ何枚も貼り付けられる。
「これはアルゥエの木の葉に実から作り出した軟膏をつけて貼り付けてます~。これだけで今日の夜には腫れがひいてると思いますよ~」
これは魔法に頼らない民間療法で衛兵や冒険者も用いるほど効果のあるものだと言う。効果がなくなればこの臭いは消えるらしい。そしてなんでここまで俺が腫れあがっているかと言うとヒールを無理矢理重ね掛けした反動とのこと。人により千差万別だがあれだけ殴られ回復を重ね掛けした俺にはかなりの反動が出ると師匠が言い含めていったようだ。そして俺の性格を読み動けないようにしておけとまで……。くうぅ、お釈迦様の掌の上で玩ばれる孫悟空みたいな心境だよ。
仕方ない、今日はゆっくりと寝てすごしますか。
「ふぁりがひょう、みひぇるばひゃん」
(ありがとう、ミネルバちゃん)
「はい、それじゃ安静にしててくださいね~」
ミネルバちゃんはシップもどきを張り終えるとそそくさと部屋を出て行った。
しかし、こっちの世界に来て数日。本当に怒涛のような濃さだったな。
森の中に放り込まれ美人姉妹に会いイノシシに襲われカイルと模擬戦をして駄女神に会ってボロクソに殴り倒された。これだけ聞くと七転八倒どころじゃないな。
優しい人や頼りがいのある人にも会えた。
ミタマやフツノさん。エレノアさんに師匠にカイル。ミネルバちゃんにドヌールさんにベルさん。おやっさんにストームさんにセフィさん。
あとはビキニパンツの筋肉とか色々、そうそう、駄女神もか。
この街にこれて……よかった……かな……
……クスクス……
……駄目だよ、姉さん……
んあ?
なんだ?
「うふふ、やっぱりこう寝てると可愛い顔してんねんな。気を張ってたときもええけどこんなんもええわ」
「……寝てるからって悪戯しちゃだめ」
「もう、ミタマは真面目なんやから。こーんな無防備なノブ君見てたら色々と……」
その時、俺の顔を覗き込むフツノさんとばっちり目が合った。
「あ、あらぁ、起きてもたん? おはよ、ノブ君」
「な、ななな、なにしてるんですかフツノさん」
「なんや大立ち回りしたらしいやん。色々と噂で聞いて折角だからとお見舞いに来たんよ」
「……ストームさんから聞いた。こっちの宿まで来てくれたこと。相変わらず無茶してるんだね、ノブ」
ちょっとだけ咎めるようにミタマが言葉をつなぐ。
うん、心配掛けたようで申し訳ない。
「でも、随分と格好良かったらしいやないの。えーっとたしか『獣人族だからなんだ! ひたむきに働いて美味しい物を提供してくれてる! 普人族に生まれたからといってそれを貶めて罵る資格があるのかよ! だから俺は絶対に倒れない! お前が彼女らを否定するなら俺がお前を全否定してやるよ!!』だったかいな」
うわぁ、何でそんな詳細知ってるんでしょう。改めて他の人の口から聞くと気恥ずかしいやらむず痒いやら困るわ。
「ナンデソンナクワシイノディスカ?」
「いや、目撃者多数やしかなり盛り上がったやん? それは色々と話は拡散してはるよー。さっき下の食堂でも随分とこの話で盛り上がってたし」
ぬおおお、随分と大事になってる。これは想定外だ。
「……無茶しちゃだめ。イノシシのときもそうだったけどノブは体張りすぎ」
そういうミタマはすごく心配そうな顔をしている。出会ってそんなにたってないけどこんなに心配されるのはすごく嬉しい。
「大丈夫だよ。【戦拳】に弟子入りしたしもっと強くなってみせるから。次からはもっとうまくやるよ」
その言葉を聞いた二人は絶句している。
え? なんかまずいこと言った?
「せ、戦拳!? あのグラマダの最終兵器とまで言われたあの戦拳に? ノ、ノブ君……死に急いじゃあかんよ」
「……無茶しちゃ駄目っていったそばから無茶してる、もう」
「え? え? なんでそんなに?」
「もしかして何も知らんと弟子入りしたん?」
「うん」
「あちゃー、せやった。ノブ君こないだ来たばかりやもんね。知らんのも無理ないか」
フツノさんによるとだ。師匠に弟子入りした人数は数知れないがその後無事に巣立ったものは数少ないらしい。だがその数少ないものたちは皆、国を守る将軍などの要職についていたり高ランクの冒険者になったりしているという。
ただ、その訓練は生半可な事じゃ耐え切れるものではないらしく多くの若者が挫折していったらしい。
さすがフツノさん、情報通だな。
「っちゅーわけなんよ。ノブ君、うちが言うのもなんやけどとんだお人に弟子入りしたもんやね」
「……ノブ、死なないで」
いやいや、死なないよ。ミタマ、俺をあっさり殺さないでくれ。
「だ、大丈夫。そう簡単には死なないから……」
うっ、そんな話をしているうちになんかもよおしてきた。縛られているから身動きが取れない。
「ふ、フツノさん。すまないがこの縛ってあるロープ外してくれないかな。ちょっとトイレにいきたいんだけど」
そして俺はそれを言ったことを死ぬほど後悔することになった。
それを言った瞬間。フツノさんがにやりと微笑んだからだ。あれは絶対良からぬことを思いついたときの顔だ!
「うふふふふふふふふ。ここはフツノお姉さんがしっかり看病せなあかんよね。さささ、ノブ君、お姉さんがちゃあんとしたるよぉ」
その片手に持つのはなにやら陶器の器。どこからだしたの!? その形は……そう、まるで尿瓶のよ……う……な。
まさか!? 最悪の予感を胸に慌ててミタマへヘルプを要請する。
「み、ミタマ。お願いだからこれ外して!」
「……ん」
ミタマは要請に応えロープを外そうとするもどういう結び方をしたのやら一向に外せる気配がしない。その間にもフツノさんは俺の下半身へと近づいている。
嬉々とした表情で毛布をめくると俺の下半身へと手を伸ばす。
「じっとしてればすぐ終わるさかい暴れたらあかんよ。うふふ、ノブ君のあれとご対面するのも二度目やね」
いやいやいや、確かに一度ご開帳してるけどうら若き乙女に下の世話をされるのは流石に抵抗がある。
ミタマ! 可及的速やかに束縛の解除を! いやむしろフツノさんを止めてくれぇぇぇ。
フツノさんの手が俺のズボンにかかる。
やめっ……ちょっ……あっ……どこ触ってんの!?
ひんやりとした陶器が俺の股間へと押し当てられた。
「我慢せんでええんよ。お姉さんにまかせとき。さ、一気に出してぇ」
ッアーーーーーーーーー。
うう、お婿にいけない、ぐすん。
結局、ミタマは間に合わず尿意の壁は決壊してしまった。入院とかしたことなかったから女性に下の世話をされるのは初めてだったんだ。なにか色々なものを失った気がする。
ミタマは間に合わなくてごめんとしょんぼりしているしフツノさんは何かをやりきったいい顔をしていた。
対照的な二人は事が終わるとご帰宅なされたよ。
そんなドタバタが終わった頃にはすでに夕刻。日もだいぶ沈みかけている。
ロープは解いてもらったんで今は体が自由になっていた。
ベットに腰掛けながら服をめくって体を確認すると痣になっているところがちらほらある。
ヒールの反動がでるくらいかけてたっていうけどどれくらい殴られたんだろう、俺。
実際のところ投げ飛ばした後ってあんまり覚えてないんだよね。いや、本当によく生きてるわ。
コンコン
控え目に扉をノックする音が聞こえる。
「どうぞー、開いてますよ」
「し、失礼します」
カチャリと扉を開けて入ってきたのは件のうさ耳ちゃん。そういえば名前も知らなかったよ。
名前:フォウ 性別:女 年齢:10 種族:獣人・兎月族
クラス:給仕Lv7 状態:緊張
称号:なし
【スキル】
短剣Lv1 家事Lv2 接客Lv2 強運Lv2 生活魔法
スリーサイズ B:61 W:47 H:62
ああ、うん。もうスリーサイズはカットで。オン・オフ機能ついてないもんか識別の魔眼よ。
フォウちゃんか。予想よりも歳が下だった。それにしても強運ってのがあるのか。すごく羨ましいな。
ピンクの髪と耳が印象的な小さな女の子って感じだ。気が弱く見えるけどそれでいてあの荒くれども相手に給仕やってるんだからたいしたものである。
ものすごく緊張した様子でガッチガチだけども。
ととととっと俺の傍へと寄ってくる。
「あ、あのあの、昨日は助けていただいてありがとうございました。その、すごく殴られてましたけど大丈夫でしたか?」
「ああ、俺が好きでやったことだしあまり気にしなくていいよ。ほらもうこの通り平気だからさ。ボコボコにやられちゃって格好悪かったけどね」
右手をぐるぐると回しておどけてみせる。まだ少々痛むもこれくらいはリップサービスせねば。
「あの、私はフォウって言います。あの時、言った言葉すごく格好良かったです。これは、その、お礼です」
そうして背伸びをした彼女は俺の頬にチュっと触れるか触れないかというキスをする。
「ミネルバちゃんがこうすれば男の人は喜ぶって言ってたから……。後で食事、運んできますから休んでてくださいね」
顔を真っ赤にしながら一目散に部屋を出て行く少女。脱兎の如くとはこの事か。
しかし、何を教えてるんだ、ミネルバちゃん……かなりのおませさんだな。
なんとも照れくささを感じつつもこんな日常を守れただけで少しだけだが誇らしくなった。
ナースなミタマとフツノさんが欲しい……。げっほごっほ。




