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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第九章 嵐の前の静けさ
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第210話 ノブサダの野望



 魔導家事士。

 それはある意味究極の万能職、同時に究極の器用貧乏と言って良いクラスである。

 様々なスキルに適性はあるもののその習得率や成長率は本職に遠く及ばない。廃れたクラスなのにはそう言った理由があった。

 だがその不利を魔法で補い成長力は駄女神の補正で乗り切れる俺には結構重用できる使い勝手が良いクラスだと思われる。こまめにクラスを切り替えて成長させていこう。よさげなクラススキルでも覚えれれば御の字だな。






 さてどこから手をつけようか。まずは瓦礫の撤去からやっていくか。


 そいそいそいそーい。


 ぽいぽいぽいぽいっと瓦礫を掴んでは次元収納へと放り投げていく。傍から見れば中空へと消えていく瓦礫は恐怖の的かもしれない。気にしてたら何もできないから敢えてスルーしているがな!


 取りあえずこれらは棄てずに再利用するつもりなので全部ぶち込んでいく。リサイクルは大事なのですよ。細々としたものを含めて結構な量があったものの運ぶ手間がないことから然程時間をおかずに終了。この時点で同じく片づけをしていた従業員(4名ほど)は目が点になっています。しかしそれも華麗にスルー。気にしたら負けなんです。


 そしてこの回収した瓦礫を一纏めにして地面へと入れてしまう為の穴をこれから開けますよ。なんとこちらに『大地掘削ディグ』を改良して任意の場所へ落とし穴を開ける魔法を御用意してあります。実のところ『真・龍神池(マグマポンド)』の派生魔法でもある。あの時は既にできていた穴を再利用したが本来は穴を開けるとことから始まるものなのだ。


「『垂直落下式孔明之罠ピットフォール


 ボコンという音と共に大人もすっぽりと余裕で収まる縦穴が一瞬で出来上がる。そこに先ほど回収した瓦礫をふんだんに放り込むのだ。穴の上から次元収納の口を開けてやればガラガラと穴を埋め立てていく。完全に埋まる前に上から土をかけて仕込みは完了。


 次は店の正面にまわると、うん、これは酷い。正面の壁は子供が余裕で通り抜けられるほどの穴が開いていた。右側が特に酷く土台であろう部分も吹き飛んでおり柱がぶらりんと浮いている。扉のほうも吹き飛ばされたのか布が張ってあるだけだ。


 まずは歪な形を整えよう。外から見えないように空間迷彩を発動してと……。そこで取り出したのは何を隠そう月猫である。


「震刀・滅却!」


 壁に当てられたそれはするりと貫通し切れ味の凄さを見せ付ける。柱部分に当たらぬよう水平にボロボロの部分を切り落としていく。むき出しになった柱にはめ込むように凹な石柱をストーンウォールにて作りだし土台はこれでOK。あとは壁なりに支える石壁を隙間のないように気をつけて作り出す。外観との兼ね合いはちょっと微妙ではあるが取りあえずの補修としては十分だろう。いやはや一、二を争う頻度で使っているだけにイメージ通りに作りやすくなったものだ。


 それを次々と繰り返していけばあら不思議焼け落ちた部分は綺麗さっぱり改修されていましたとさ。


 先ほど埋め込んだ瓦礫は分解抽出されこの石壁生成へと使われた。その証拠に埋め込まれていた箇所はべっこりへこんでいる。大地にあるものから作り出したものは魔力で顕現されたものは強度的には変わらないが魔法を解除しても消えずに残るのが特徴だ。

 ここまでやってふと気付く。家事関係ないじゃないの。だがまだノブサダさんの真骨頂はこれからだ!


 何かが爆裂したのか壁が広範囲に煤けているここ! そうここです。洗剤もないこちらではなかなか落とし難い頑固な汚れ! そんな時にはこれです!!


 ――俺のこの手が熱して唸る! 汚れを落とせと弾けて叫ぶ! 喰らえ! 熱と水と風、混合のぉぉ!


高圧蒸気洗浄掌ハイスチームフィンガー!」


 掌全体からボシュアと吹き出る圧縮蒸気が汚れを浮き上がらせて落としていく。掌が通過したところは汚れという偽りのドレスを脱ぎ去り壁は白い素肌を露わにしていた。まったくそそられないけどな。フィンガーと銘打っているものの掌使っているのはご愛嬌。落ちろ、しつこい汚れ共よ。はっはっは、汚物は洗浄だぁぁぁ。


 ふう、調子に乗ってピカピカにしちまったぜ。

 流石に店の扉などの補修に対応する魔法はまだないのでそこは本職の木工師であるネーネさんにお任せしよう。それにしてもいい仕事をした。ここまでくれば扉をつけ内装を軽く片付ければすぐにでも営業を再開できるだろう。卸す商品も準備しておかないとな。


 試作が出来上がった清酒なんかもいいかもしれないな。

 それなりに早い段階から使っている次元収納の時間促進タイプだがいまだに一つきりしか使えない。試作の度に中身を別な枠へと移し換えないといけないのが手間だ。だがそれだけしても余りある恩恵だろう。なんせ年単位で行う発酵待ちを数日単位に短縮できるのだ。材料さえあれば考えられない回数をこなせる。酒蔵の人とか垂涎の能力だよね。


 で、その甲斐あってか売り物として扱えそうな樽が三つほど完成している。今夜にでも我が家の誇る飲兵衛達に試飲してもらって評価を聞くとしよう。そうそう、全く呑めなかった俺だが毒耐性がついてからアルコールが平気になっていた。ただし全然酔えないんだけれどね。ま、味見して評価できるからそれだけでも十分なんだ。


 嬉々として鼻歌を歌いながら掃除する様を従業員の皆様にガン見されていたが……まぁ、大幅に修理が捗ったということで気にしないでくださいな。いいか、いいよね、いい事にしよう、うむ。


 さて思ったよりも時間をくってしまった。はやく帰って今後のことを話し合わないとだな。










 時刻はだいたい午後三時頃。ミタマの腹時計がそれを告げています。おやつを食べながら居間で第一回和泉家家族会議でござるよ。


 居間には俺、嫁さん4人、従業員代表でディリットさん、それとフミたんが参加している。エレノアさんだけは状況説明のために公爵家のほうへと行っているから不参加。他の子は『仁義守館じんぎすかん』に掛かりきりになっていた。すまんのう。


 ちなみにタマちゃん、ヤツフサは外でじゃれ合っていたと思ったらなにやら模擬戦の様相です。わかもとサンとウズメが控えているから無茶はしないと思うんだけどね。腕白でも良いから逞しく育ってください。


「はいはーい、ノブ君ちょっとええ? なんや仰山連れて来はったけどあん人たちはこれからどうするのん?」


 右手を元気良く挙げてフツノさんからのご質問です。まさに今から話そうと思ってたことだね。構想はあれども奥さん達の理解も得ないと駄目だしな。


「それも踏まえて今後の方針を皆で話し合いたい。構想はあるんだけどね」


「……ん。まずはノブの話を聞いてからにする。色々とあっちであったと思うし」


 ミタマのその言葉に皆が頷いている。


 色々と端折りながらここを発ってからの事を順に説明していく。

 エト様たちと傭兵団との出会い。王都でなし崩しに武闘祭に参加。その合間にドルヌコさんの息子ポポト君たちと縁を結ぶ。そして試合が進むごとに顕著になっていく王都側の妨害。


「そこで決勝前に送り込まれた刺客がフミたんたち蝙蝠人族だったんだ。エレノアさんと二人で捕縛して詳しいことを聞いてみれば人質を捕られて従わされていたんだよ。女神からの依頼もあって王城敷地内にある塔へと潜入し無事に救出成功。その時に公王アルティシナとも友誼を結んだんだ」


 コレに対して皆の反応は様々。目を白黒させたりポカーンと口を開けていたりアルティシナの話がでたところで口に含んでいたお茶を噴出したりだ。うん、気持ちは分かる。改めて並べると何やってんのよ俺って思うもの。


 そして決勝では宰相お抱えと言っても過言ではない勇者との戦い。だけど既にこの時点で獣人たちの解放を計画していた為、あっちの計画通りことが進んでいるように見せかける様、わざと敗退した。そのまま王都を脱出、追手が掛かるも半数をこちら側に引き込み、半数を撃退。だが宰相の追手はそれだけでなく傭兵団のほとんどが奴らに寝返っていたんだ。まぁ、ここに俺がいる時点でしっかりと撃退したことはいうまでもないけど。


「それでね。王城に潜入した際に他の情報も収集したんだ。その後に獣人の皆にも話を聞いている。いやもう知識として知っちゃいたけど酷いね。アズベル公爵などは数少ない良い貴族だっていうのが嫌というほど分かったよ。少なくともあそこにいた連中のほとんどは亜人や庶民を道具かそれ以下にしか思っちゃいない。だからさ、俺が示した目標のうち貴族になるっていうのはよそうと思った」


 顔で笑って何考えているか分からないような魑魅魍魎の連中と付き合っていける自信がまったくなくなったね。何よりあんな亜人を人と思わないようなやつらと奥さん達を接触させると考えただけでぞっとする。


「それならばS級冒険者を目指すというのが今後の方針ということかの? まぁ分かり易くていいのじゃがな」


「うん、そうなんだけれどそれだけじゃないんだ」


 貴族となる事を諦めてからそれじゃどうすると色々と考えたしフミたんやアルティシナにも確認もした。S級冒険者を目指すのは規定路線としてその他にサブで目標を定めたのである。


「これから恐らく宰相側と公爵側で戦争になると予測している。こうなった以上あっちも退けないだろうからね。そこでアルティシナに直接雇ってもらいそこで戦功を上げるつもりだ。公爵側の貴族たちにも有無を言わせぬくらいの戦功を打ち立てて土地を貰おうかと思っている。公王公認の他貴族に干渉されない土地を」


「……土地?」


「そう。そこに俺の、俺たちの確固たる拠点。行く行くは街を作ろうと思うんだ」


「ここでは駄目なのぉ?」


 うんむ、セフィさん。冒険者の一団としてなら充分すぎるほどなんだけれどもね。どうにもさ俺ってば厄介ごとに好かれているのか寄ってくるし突っ込んでいくし地雷のように配置されている気がするのさ。だから自分たちの意思で動かせるところじゃないと厳しいと思うのだ。


「ここはアズベル公爵家の領地内だからさ。いざというときは公爵家の考え方次第でどうとでもなりそうなんだよね。それにここは比較的緩いけれどどうしても人種による差別はあるでしょ。一から作った街ならばそれをゼロから始められると思ってさ」


 セフィさんから聞いたけれど周囲のじっちゃんばっちゃんはラミアな彼女にも理解を示してくれた。だけど例のおっさんのように魔族と罵るやつもいるわけで。


「せやけど土地なんてそんな簡単にもらえるものなん? ノブ君の言うとおりそういうのって貴族連中が五月蝿いんとちゃうの?」


「多分大丈夫な方法がある。場所柄的には普通の人には魅力がないだろうし。ま、そこら辺は公爵様にも確認してからなんだけれどもね。」


「……どこなの?」


 王都で買ってきた非常に大雑把な地図をばさりと広げる。こんな地図だけど結構な値がしたよ。軍事機密的な事もあるだろうし精密なのはあっても国で握っていそうだ。


「ここが王都でここがグラマダ。んで目標はここら辺かな?」


 俺の指差した場所を見て全員が絶句している。ここグラマダから北西にずっと進んだ先。隣接するのはオロシナ帝国、そして北と西の魔王領。まさに勢力の袋小路のような場所であった。


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