第206話 続・セイ長の証
ゆ~らりゆられてどっこらしょ~い。こんにちは、相変わらず後部座席が定位置のノブサダでごわす。
色魔ショックから既に二日が経過しておりグラマダまであと少しといったところです。あれってクラスに設定してなかったのにエレノアさんと夜を過ごしたらレベルが上がってやんの。どうにかして削除できないもんだろうか? 今後の課題であるな。
さて色魔を視界に入れないように上がったスキル、新たな称号のほうの詳細を確かめようか。特に魔法類は確かめておかないと使えないもんな。
【属性魔法適性】
Lv6
火:フレイムカノン 対象物に当たった瞬間、大爆発を起こす火炎球を放つ。熟練度が上がるほど火炎球の速度を自在に操ることができる。
水:アクアブレス 水中で呼吸せずとも行動が可能になる。水圧などの影響は受けるので無理は禁物。
風:エアコントロール 大気の成分を操る。相応の知識と効果範囲に応じて大きな魔力が求められる。
土:グロウアップ 大地に根付くものの成長を促進する。熟練度が深まるほど高い効果が出るが土壌の養分は相応に失われることに注意が必要。
【暗黒魔法】
LV5
ネクロマンシー アンデッド類を作り出し使役する。元になる死体や魂、素材でできるアンデッドが変化する。熟練度が低いと作り出したアンデッドに襲われる事があるので注意。
【付与魔法】
Lv5
結界付与 品物に結界を付与する。ただし素材は鉱石、宝石類に限られる。触媒は海塩苔
【忍術】
Lv3 空蝉の術 触媒を消費することで自身の幻影を纏わりつかせ単体攻撃を回避する。ただし範囲攻撃をくらうと術の効果は消滅する。触媒は式紙。
【召喚術】
基本的に使用できるのは召喚、送還の二種類のみ。スキルレベルが上がるたびに契約できる枠が増えていく仕様。レベル1の場合は1体のみ。契約なしで召喚を使用した場合、使用者に相性の良い魔物が現れることもあるが指定先もないため十中八九は失敗するので注意が必要。
【使役術】
従魔を首輪ではなく特殊な呪印で契約する魔獣使いの基本術。特に食事によって力を吸収できないタイプの従魔には必須の技能である。呪印を通して主人から魔力を供給することができる。あまり離れすぎると魔力供給は途絶えてしまうので注意が必要。
《 称号 》
『殲滅の魔獣』『奇跡の滅殺者』
驚愕するほどの魔物を殲滅したノブサダにグラマダの民が感謝と尊敬、そして畏怖を込め贈られた二つ名が称号へと進化したもの。僅かながらグラマダ在住の民への好感度アップ。
『モンスターキラー』
複数種の魔物を大量に殺害したことで与えられるキラー系のいくつかの称号が統合されたもの。魔物の強弱で差はあるものの相手のステータスを下降させる効果がある。
色々と増えたが属性魔法は火以外は補助っぽい感じだが使い勝手はすごく良さげである。アクアブレスは素潜り漁、グロウアップは農作業に最適だな。魚介類の調達や薬草の栽培に期待が高まるよね。ん? これってわかもとサンも成長したりしないよね? ぶんぶんと首を振って恐ろしい考えを捨て去るのであった。
暗黒魔法のネクロマンシーを覚えるのが死霊魔術師のクラス開放条件かね? これも使い勝手が分からない以上迂闊に使えないなぁ。今度こういった類を扱った魔法書がないか探してみないとな。禁書扱いされていそうで怖いが。
空蝉の術は便利そうだが内容を読んで現時点では完全に使用できないことを把握した。触媒の目途がまったくつかないのだよ。これもしかして東の皇国いかにゃ手に入らないとかいう落ちだろうか。流石に距離がありすぎるので迂闊に行こうなんて言えないわな。
召喚術……は悪いがいいイメージが無いから使うかどうか迷うところだ。とりあえずは保留でいいだろう。どうせ使うのならばしっかりとした前準備してからじゃないと危険だしな。どこぞの大作RPGのように呼び出したら一撃加えてすぐ離脱みたいな感じじゃないのは確かだろう。
使役術はたぶん魔獣使いになったから覚えたスキルだろう。とはいえ現状で異魂伝心がある以上あまり意味がないかもしれない。ネクロマンシーとかと組み合わせて実体のないような連中との契約が可能になったりするのだろうか? でもホラーなのはちょっとお断りしたいところであるな。
そういえば刀術のレベルも上がってたんだよな。覚えた武技がこれなんだが……。
刀術Lv6
『散弾突き』
突き入れる刃に合わせ周囲に纏う闘気が瞬間的に物質化し刀身を中心に無数に突き刺さる。かつて東の国にてネタロウ・オキタが編み出した武技。熟練度が増すごとに効果範囲が広がり威力も増すだろう。
うん、対人戦なんかで使ったら驚かせることうけ合いだな。問題は闘気を未だに習得できていない俺に使用可能なのかということだ。これも近々試してみないといけない。こうして考えてみると結局後回しにしているものばっかりだな、反省。
それにしても称号……グラマダの皆さん、なんて二つ名つけてくれますのん。馬車の荷台で両手で顔を押さえながらゴロゴロ転がり身もだえする。
こうやって一人遊びしているのには訳がある。同乗していたエレノアさんやティーナさんが今はシャニアの乗る馬車のほうへと行っているからだ。なんでも体調が悪くて臥せっているとか。
でもね。
索敵の為に空間把握をずっと使っているんだ。当然シャニア達の動向も範囲内に入っちゃってる訳なんだよ。床に臥せっているというか寝そべって更には時折転がっていたりする。思いっきり寛いでいるよね?
見舞いに行こうとしたらえらい勢いで二人ともここに押し留めるんだもの。魔法で治療しようかという案にもグラマダで色々と活躍されたからお疲れでしょうと言われつつやんわりとお断りされてしまったし。
まあ女性の集まりというか内緒事には男が口出しをしないほうがいいというのは身を持って知ったる経験則だ。下手に口を出すとそれはもう無残なことになりかねないよ。思い出しただけでも身震いしてしまうぜ。
アルティシナが来てからこっち様子がおかしかったと報告を受けているから十中八九何かしらの葛藤があるものだと推測する。会えるときに会っておいたほうがいいと思うのだよ。いつ二度と会えなくなるかなんて誰にも分かりはしないのだからさ……。
おっと暗くなってしまった。いかんね。御者を任せっぱなしのくせに一人落ち込んでもいられない。
ということで今馬車には御者をしているフミたんと俺だけなのです。俺が御者できないばっかりに苦労をかけるねぇ、フミたん。
そういえばフミたんも異魂伝心で契約したからにはクラスを変更できるはずだ。鑑定したことも無かったような気がするしちょこっとだけ覗き見してみようか。よ、邪な考えなどではないのだよ? ほらグラマダに着いたら蝙蝠人族の皆さんを鍛えるためにダンジョンでノブサダブートキャンプをするつもりだから事前に能力を把握しておかないといけないじゃない。いかんな、俺は誰に言い訳してるんだ……。さ、気を取り直してと。識別先生、よろしくお願いしますぞ。
名前:フミルヌ・アドモチャン 性別:女 年齢:20 種族:蝙蝠人族
クラス:スカウトLv20 設定なし 状態:健康
称号:【フミたん】
【スキル】
短剣Lv4 受け流しLv2 回避Lv2 指揮Lv3 鑑定Lv2 生活魔法
《変更可能クラス》
狩人 魔術師 策士 教師
……。称号までフミたん……。もう正式に名前にしちゃったらどうだろう。いかん、そんなことを言ってしまったらまた半泣きになりそうな気がする。ちなみにだがアドモチャンっていう家名は主家たるクーネルちゃんの血筋を護る一家のものらしい。だから別段貴族という訳ではなく例えるならば土着の豪族が勝手に名乗ってるようなものだろうか。クーネルちゃんのほうにもあるのかなと聞いてみたらそれは内緒だそうな。なんでも隠し名のようでみだりに話す事はできないんだとか。
それにしても彼女もセカンドクラスを設定なしか。勿体無いのだがこの世界のクラス変更制度なら仕方ないのか? そもそも未だに転職してくれる所を知らない。ま、俺には一切関係ないし放置放置。
「フミたんちょっと聞いてくれるか。この間言ってたようにクラス変更ができるようになったんだけれども変えてもいいかい?」
「ふぇあ!?」
背後からそんなことを言ったらフミたんはびくりと背筋を伸ばした。急に話しかけたからびっくりさせてしまったようだ。前を向いたままだがこちらを気にしつつ言葉をひねり出すフミたん。
「御屋形様の話を疑いたくはなかったのですが本当だったのですね。転職の儀をそんな服を変えるかのようにあっさりとやってしまうと言ってのけるとは……」
「そんなに大仰な儀式なの?」
「ええ、昔、上司の指示で貴族の子息がクラス変更する際の護衛を任された事がありました。その際には神殿の転職の間で二時間ほどかかったと記憶しています。その間、神官たちは懸命に祈りと魔力を捧げ続けるのですよ」
うわぁ、二時間もか。もしかしたら気軽に変更しているけれどその際に魔力を捧げていた? まったく気づいてなかったね! 検証しようにも魔力の表示がされないからできやしない。恐らく俺にとっては誤差の範囲でしかないんだろけどね。
「そうなのか。ちなみに俺の場合、一瞬で済むし元に戻すのもすぐだからちょっと着替えようか的な感覚だね」
「……御屋形様は本当に規格外なんですね。ところで転職と言っても私が就けるクラスはあるのでしょうか? 普通はそれを確認するのすら神殿にいかねばできませんので」
「えーっと、フミたんの場合は今のところ就いているスカウトを除くと狩人、魔術師、策士、教師の四つだね。セカンドクラスも解放されているようだから追加で設定できるよ」
「ふぇあ!?」
「ふ、フミたん。前! 前を見て!!」
衝撃だったのか思わず振り向いてこちらを凝視する彼女に慌てて視線を戻すように促す。いざとなれば馬車ごと浮かすけれども安全運転でお願いしますよ。
「申し訳ございません。セカンドクラスなんて才能のあるものの中でも一部の方だけのものだと聞いておりましたので取り乱してしまいました」
「そんな風にみんな言っていたね。で、クラスはどうする? 設定を変えてもすぐ戻せるからセカンドクラスだけでも今つけておくかい?」
「は、はい。その、できるならば魔術師でお願いします。昔から魔法を使うのが夢でしたので」
そう言うと顔を赤らめて俯く。ああ、その気持ちは分からないでもない。幼い時分にいつか『か○はめ波』が出せるようになったり、左手が『サイ○ガン』になったり、面接で『特技はイ○ナズンです』とか言ったりするようなことを夢みたものだ。いやいや、そんなことは無いか。でも今なら『これはフレイムカノンではないファイアアローだ!』ってやれなくもない。やらないけど。
おっと阿呆なことばかり考えてないでフミたんのセカンドクラスに魔術師を設定しよう。
「ほい、設定完了っと。俺の場合、いくつかレベルが上がったら属性魔法適性ってスキルを習得したけど他の人がどんな感じで成長していくのかは分からないんだ。ま、そこは追々ってことで」
「は、はい。夢に手が届いたことは嬉しいです。御屋形様ありがとうございます」
普段から努めてポーカーフェイスを作っているフミたんだがこのときばかりは自然に笑みがこぼれていた様である。うん、ギャップ萌えですな。魔法少女(?)フミたん爆誕なんて考えたのが申し訳ないくらいだ。取りあえず馬が怯えない程度に詠唱から発動まで属性魔法を見せてあげようか。見取り稽古になればいいなくらいに思っている。贅沢を言うなら彼女にも全属性、叶わなくとも複数属性の魔法を扱えるようになって欲しいからだ。
フミたんにはスカウトで身体能力を高め狩人、魔術師で間接攻撃を習得した後衛の参謀職、さし当たって策士に就いてほしいんだよね。うちに欠けているのは戦場を見渡し策を作り上げる頭脳だと思う。暴力装置は俺を含めていっぱいあるんだ。そういう人がいないと多分勝てても大きな被害を出してしまう。
フミたんはきっとそういった素養があるからああいったクラスが現出したんだろうと思っている。今は切羽詰るとあたふたしてしまうが成長して立派なうちの軍師になってほしいものだね。レベル上げのほかにもそういった軍略の指南書がないか探してみようか。まさかこの世界に孫子とかないだろうし公爵様にでも聞いてみようか。あの人なんだかんだで結構色々とやっていそうだし。
あと一話挟んだらグラマダへ到着予定!




