第204話 主従契約
「それではお父様は無事だと……。それでも騎士団や民に被害が出ているのですね」
「はい、ですがレベリット様のお蔭で人的被害はかなり減っております。それもあり既に復興に向けて皆が動き出しました」
エト様の馬車の中には今、エト様、アルティシナ公王、ローヴェルさんと俺が乗っている。エレノアさんにあっちの現状を伝えた後、こっちに飛び移って報告していた。エト様とアルティシナは両名とも結構な被害に顔を伏せている。ローヴェルさんは色々と思う所があるのだろう。顔を背け小さく震えていた。騎士団にも結構な被害があったみたいだしな。
「それ以外で言うと王都からの早馬でポリーさんに扮した間者が入り込んだくらいでしょうか。幸い何かをさせる前に捕縛できたので問題はないと思われます。今頃は取り調べが進んでいることでしょう。取りあえず無理しない程度に行軍速度を上げ早期に到着することを目指すほうがいいと具申します」
「そうですわね。ローヴェル、今夜にでも各員に通達を。大丈夫ですわね?」
「はっ! 申し訳ございません。お見苦しいものをお見せしました」
二人とも気丈なことだ。アルティシナは一応、公爵家の問題だからか口を噤んでいる。空気が読めるって大事なことだよね。俺も空気を読んで言い出さなかったがシャニアの姿がないことが気にかかっていた。識別先生の情報が確かであるならばアルティシナはシャニアの弟であり唯一の家族のはずなのだ。彼女がどういった経緯で公爵家に匿われていたのかは定かではないがこうしてアルティシナと面と向かって相対することを避けるのはバツが悪いからだろうか?
それから夜に此度の一件が同行する全員に伝えられる。同時に俺は皆へと課題を示した。
「グラマダに着くまで数日。その間に今後の身の振り方を考えていて欲しい。取りあえず突貫工事ではあるが雨風の凌げる場所は用意してあるのだが各々どうするかは決めてもらわないといけない」
流石にざわざわと方々から声があがる。それにあわせ参考程度に現在のグラマダの状態を説明した。
今のグラマダでは復興作業もあるし人足の雇いの手は引く手数多だろう。冒険者も結構な被害を出したから今から始めたとしても依頼と組み合わせていけば十分暮らしていけるはずだ。東側にあった農地なども荒らされてしまったが今から作付けすれば冬前に一度収穫できるはずなので農業に従事するという手もある。和泉屋の業務だが今回の騒乱で店の在庫はほぼ空になってしまったため増産体制を敷くので人手はあるにこしたことはない。王都から脱出するということで連れて来てしまった以上ある程度は面倒を見るけれどその後は本人次第だ、と。
無論突き放すわけではなく未亡人となった者や両親を失ったりした子供などから優先的にやれる仕事を紹介するつもりではいる。
そんな風に説明を終えた後、その場に残っていた俺の前にクーネルちゃんとフミたんを筆頭に蝙蝠人族21名がずらっと並ぶとその場に跪いた。急なことに目を白黒させているとフミたんがお願いがありますと話を切り出す。
「ノブサダ様に主家たるクーネル様、そして誇りである翼を取り戻していただきました。そのご恩を返す為、我ら蝙蝠人族一同あなた様を御屋形様と仰ぎ仕える事を正式にお許し願えませんでしょうか?」
これから色々とやろうとすれば彼女たちが助けてくれることの意味は大きいだろう。でも……20人からの命を預かるっていうのはやっぱり重いなぁ。庶民だった俺にはそれだけでも十二分に重く感じる。だがどうしたって人手はいるし避けて通れない道だろう。なによりこうやって俺の前に傅く彼女たちの気持ちを無碍にはできんでしょう。
「……きっと苦労をかけると思うけれどそれでもいいかい?」
「覚悟の上です。それでもあなた様ならば我等が笑って暮らせるそんな理想郷を創ってくれる、そんな希望を見出したのです」
でかい、夢がでかいよ。俺からすれば街ひとつ程度の不可侵な領域が築ければいいなって思うくらいなんだよ。まあいい、それにフミたん達が加わるのには異議はないさ。
「フミたんたちの覚悟は分かった。よろしく頼むよ」
「「「「「はっ」」」」」
主従の契約を確認。異魂伝心を発動するのですよ~♪
そんな駄女神のとぼけた声と共に俺の左手にある家紋『月夜の桜』が薄っすらと輝いた。蝙蝠人族の面々の体に桜の花びらを模した小さな紋様が浮き上がる。ちょっとだけ熱いのか浮かんだところを各々押さえているのだが……おおう、フミたんなんで下腹部押さえていますのん。なんというお約束だろうか。因みにクーネルちゃんは右の手首だった。あまり目立たないところで良かったと思う。やっぱり女の子だしね。
「御屋形様、今のは一体?」
「すまない。驚かせてしまったね。俺のスキルなんだけれどどうにも主従関係が成立した途端に勝手に発動してしまったようだ。害はないし色々と特典があるから気にしないでくれるとありがたい」
「つまり御屋形様の家臣として正式に認められた証なのですね」
そう言うとフミたんは嬉しそうに下腹部をさすっている。それどう見ても妊娠とか喜ぶ図式ですから。なんでそんなところに出たのさ。おのれ駄女神めぇぇぇ! 八つ当たり? 仕様です。
「と、とりあえず今後の事だけれどもフミたんたちも知ってのとおりこれから宰相と公爵の争いが直接的な争いになってくると思っている。だからグラマダについたらまずは蝙蝠人族の皆にはダンジョンにてレベルを上げてもらおうと思う」
全員が疑問符を頭の上に載せて首を傾げる。まあそんな反応がくるだろうとは思っていたので気にしないのさ。
「すぐに動いたほうがいいんだろうけれどもその前に皆の地力を上げておきたい。異魂伝心の効果で皆のクラスを俺が変更することができるんだ。底上げと新たな力を開花させた後、皆には各方面の情報収集へと動いてもらいたい」
得心がいったのか皆頷き解散となった。が、その場に残ったフミたんから相談があると持ちかけられる。おそらくクーネルちゃんの事だろうと思っていたら案の定だった。この場にこの子を連れてきたってのがそういった理由だよね。
「クーネルちゃんは和泉屋で面倒を見るってことでいいかな? 年の近い子もいるしお手伝いしながらフミたんたちの戻る場所を守っていてほしい」
獣人幼女たちを筆頭にあの子達は纏めて面倒を見ちゃいましょうっていうことだ。直接面倒を見るのはアリナやうちの待機組なんだけれどもね。計算や接客、薬品の容器詰めなどを教え込んで未来の従業員確保は完璧! なんて取らぬ狸の皮算用をしたりしているのだ。結界もあるしたぶんグラマダでも有数のセキュリティなはずである。
クーネルちゃんも他の子と一緒に暮らせると知って顔を綻ばせたがフミたんのことを思い出してキッと真顔に取り繕う。恐らく主家だから常に気丈であれとでも教育されてきたんだろうな。年相応に甘えてもいいんだよと頭を撫でてやれば『いいの?』という感じで俺とフミたんの間を視線がいったりきたりしていたがフミたんがにこりと微笑めばそれに合わせるかのように再び顔を綻ばせた。うん、やっぱり子供は笑顔が一番だな。
それからは速度を上げての行軍が続く。俺は相変わらずおさんどんだが料理ができる人が増えたため非常に助かっていた。背いた傭兵団の連中にも一応食わさないといけないからやたらと量を作るはめになっているんだ。ま、必要最低限しか与えてないけれどもな。時々、当たり(各種刺激物)入りの食事が入っていたのは内緒である。俺はそんなに善人じゃないのだよ。エレノアさんたちに刃を向けたのは忘れないのだぜ。
日間にひょっこりお邪魔させてもらっていたので気合を入れて毎日更新するべく奮闘しておりました。
そろそろはみ出るっぽいのでまたーり更新になるかも。とりあえず日頃の疲れをとるべく日帰りで温泉いってくまー。
多分、湯船に浸かってても話のネタ探ししてそうですけども!




