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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
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第199話 決着、大氾濫!


 私、ノブサダ。今、触手に囲まれているの。


 敢えて射程内に入り込み触手の群れとご対面中でございます。18歳以上の成年男性にある意味人気の触手さんですが襲われるのは勘弁願いたい次第でござる。次々襲い掛かってくる触手共をタマちゃんと連携して爆破し切り伏せ『巨菌兵』の眼前まで飛んでいきます。まぁ眼なんて飾りなんだろうけどもね。


 巨体な分そんなに動作が機敏ではないだけにここまでは然程苦にはなっていない。寧ろ問題はここからである。


 吸収の力を持っているであろう片手を振り上げ俺目掛けてしなるように被せてきた。が、遅い! はっはっは、当たらなければどうということはないのだよ。おちょくるように態々やつの目の前を余裕で飛行してみたり錐揉み旋回したりしてみる。


 何かしらの意思があるのかムキになっているように見えた『巨菌兵』は堪りかねて至近距離からの破壊光線発砲に踏み切った。両手を地面へとつけ固定砲台のような構えをとる。


 ありがとう、それを待っていた!


「タマちゃんGO!」


 パチリパチリと球状に魔力が集まっている口。その下の顎に当たる部分で一際大きな爆発が起こる。こっそりとコタマを複数集めて待機しておいたのだ。俺が嫌がらせのように派手に動いていたからそっちへの注意を向けていなかったのだね。


 衝撃で口はバクンと閉じられ集まっていた魔力は逃げ場がなくなり暴走を始めた。そしてそのまま暴発し弾けて飛び散る『巨菌兵』の頭。


 首らしきもののあたりまで完全に消失しているがうじゅるうじゅるとそのまま再生に入ったようである。


 させないけれどもな!


 イメージするのは俺が今最強だと信じるもの。ただの斬撃ではない、全てを消し飛ばす理不尽の権化であり暴力の塊。込める魔力は月猫が悲鳴をあげだすほど濃厚で圧縮されたものだった。発する光は月明かりを色濃くしたものに思えてくる。耐えうるぎりぎりまで込められた魔力を気合一閃、一気に振りぬいた。


「改変武技『義父奮刃ちちふんじん』!」


 放たれた青白き斬撃は『巨菌兵』目掛けて飛んでいくがそれは徐々に、そして劇的に形を変えていった。盛り上がった筋肉を形取り野生的かつ不敵で素敵な笑みを浮かべながら……それは一直線に拳を振りぬく。


 ボッ!


 何かが抉り取られるような音と共に振り向かれた場所は1メートルはあろうかという拳サイズの穴がぽっかりと開いている。


 ボッボッボッボボボボボボボボボ!


『巨菌兵』の半分ほどのそれから止むことのない拳が次々と放ている。拳がやつを穿つ度にその面積の分だけ消し飛んだ。遠目からでも分かるそれはもう満面の笑みを浮かべて殴り続けていた。


 今の俺が持つ最強のイメージ。それは言わずもがな師匠である。そして『魔刃・絶刀』を含めたこの改変武技はそのイメージを忠実に再現していた。勿論、『震刀・滅却』の効果も上乗せされているのでまさに暴力の化身であろう。


 師匠の称号であり通り名は『戦拳』。だがこれには本来もう一つの意味があった。


 ――『戦拳』であり『千拳』――


 変幻自在に連続で繰り出される拳千連発でもって戦場を駆け巡ったことに由来する。とある貴族がグラマダにちょっかいかけてきた時のことだが師匠は一人で300の兵を相手に無双したらしい。最終的には相手方の貴族の顔を元の形が分からないほどに変形させ簀巻きにしたうえで公爵様のもとへと担いでいったという話だ。我が師匠ながらとんでもないな。



 あまりの速度に拳が分裂したかのように見えるほどの連続攻撃に身動きの取れない『巨菌兵』。反撃しようにも吸収するはずの両手は地に付けたまま。吸収し直して取り出そうにも絶え間なく襲ってくる拳の雨にそれすらできないだろう。


 やがて『巨菌兵』はその両手の先だけを残してあれだけあった巨体は無へと還った。



 地に足を降ろし近づいてみると未だうじゅるうじゅると動いている寄生粘菌。正直、気持ち悪い。これ、まだ生きているんだよね。


 そんな寄生粘菌に次元収納から取り出した瓶を投げつける。カシャンと割れた中から透明な液体が溢れでればじわじわと寄生粘菌が吸収し始めた。これは以前駄女神に贈りつけた蒸留しまくりアルコールそのものと化した酒の成れの果てである。ついでに食用油もぶちまけた後に火種を放り投げた。


 ボォォォウ


 どじゅうと嫌な音をたてつつ派手に火柱が上がる。うお、思ったより気化していたのか。


 吸収を警戒し念のため魔力を伴なわないものでトドメを刺そうと次元収納の中を探したら見つけたので使ってみた。予想以上の燃え上がりで俺の前髪がブスブスと焦げたのはご愛嬌である。ビックリしすぎると人間声がでないもんですたい。


 そしてそのまましばらく燃え上がるそれを眺めていた。最後まで目を光らせておかないとな。







 やがて炎が消える頃には消し炭すら残っていない。完全に焼失したことを識別先生をもって確認したところで体に異変を感じる。まずいな、意識が朦朧としてきた。体の力が抜け立っているのも辛くなりがくりと膝をつく。


 視界の隅に駆け寄ってくる人影が見えるけれども誰かの判別がつかないほど視界がぼやけている。


 体が前のめりに倒れていく。何かに支えられた気がしたが……そのまま俺は意識を失った。








 〔……マタヤラレタ……ヤラレタネ……オノレ……ユルサヌ……ツギコソハ…………〕







 ◇◇◇







 グラマダの東門付近からも巨大な魔物が倒れる様が見て取れた。突如出現した発光する拳を振るうものに腰を抜かすものが多数いたが次第に自らの拳を握り締めそれが巨大な魔物を倒す様を固唾を呑んで見守っていた。


「ギルドマスター! 敵影完全に消滅しました! 気配察知、直感共に反応なし!」


 司令部所属の索敵班が報告を纏めてアミラルへと報告する。司令部全体がわっと沸きあがりそれは周囲へと次々伝染していく。


 歓声が次々と上がる中、拡声の魔道具を使いアミラルが腹の底から声を出し皆々へと宣言した。


「皆よく頑張ってくれた! 今は生き残ったことを喜び、死者を弔い、そしてゆっくりと休むといい! ここに大氾濫の終息を宣言する!!!」


 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 グラマダ中に響く歓声は東門から波のように広がっていった。


『レベリットの奇跡』で完治した皆々が涙を流し手を掲げ声をあげながら生きている喜びを表す。


 救いきれなかったものたちが散っていった戦友たちのために涙を流す。


 力を使い果たしその場で大の字になって泥のように眠るものもいる。その寝顔は笑顔になっていた。





 かくて『グラマダの大氾濫』と歴史書に残る一戦は終わりを迎えた。


 死者 278名

 行方不明者 57名

 負傷者 なし(『駄女神の気まぐれ(ディバイン)癒しフルコース(ヒール)』による治癒のため)。


 大氾濫の魔物公式討伐数 5,894体(生者、死者のギルドカードから集計したもの)

 そのうちノブサダが殲滅した魔物の数 2,207体(ギルドカード記載分のみ)


 その討伐数が冒険者の間に広まると彼の名声は良くも悪くも高まった。誰が呼び始めたのか『殲滅の魔獣』、『奇跡の滅殺者』などと本人が聞けば酷く落ち込んだり身悶えしそうな二つ名だけが一人歩きしていたという。感謝と尊敬、そして畏怖を籠めながら。






















 ◆◇◆




「んあ?」


 気付けばベッドの上にいた。寝すぎたせいか体が物凄く気だるい。昼夜を問わずに全速力でぶっ飛ばしてきた後に全力の戦闘をこなした結果、体力が底を突いたらしい。アゲイン、アゲイン、24時間以上戦いました。リポビタマの飲みすぎにはご注意ください。


 さて、ここは……どうやら家の客室みたいだ。ここに運ばれた理由も窓の外を見たら一発で理解した。だって俺の部屋が丸見えなんだもの。空間転移で跳べなかった理由もはっきりしたわ。あれだけ散々な有様では仕方がない。ごろりと寝返りをうち少しだけ現実から逃避する。


 ぽにゅん


 んんん?




「あらぁ、ノブちゃん目が覚めたのぉ?」


 なぜか横で素肌に白衣のセフィさんが寝ていた。左手をわきわきと動かせば「あんっ」と艶っぽい声をあげる。なんで昼間から隣で寝ているのか疑問が浮かんだが俺も寝ていたのだからそんなツッコミを入れるのは無粋であろう。うん、いいおっぱいである。


「ああ、たった今起きたところだよ。おはよう、そしてただいま」


 もにゅもにゅ。左手は感触を楽しんでいる。でも顔は真顔でただいま。『駄目人間っ!』って罵倒されても仕方ないな。


「ん、んあっ。うふふ、お帰りなさい。ノブちゃんの活躍でみんな無事だったわよぉ」


 微笑みながらそう言われるとなんか気恥ずかしいな。せめて突っ込みか恥じらいをプリーズ。名残惜しいが左手を引っ込めた。


 それにしても徹夜続きのテンションって怖いな。あの戦いで色々と派手にやりすぎたようだ。まあ、自重を止めたのには他にも色々と理由はあるんだけどもね。下手に手を出すとこうなりますぜっていう示威行為とかな。


 それからセフィさんに現在の状況を確認してみる。


『巨菌兵』を倒してから既に二日が経過していた。その間、俺は死んだように眠っていたらしい。

 それと現場から俺をここまで運んでくれたのは師匠だったようだ。あの場でパッタリと倒れ込んだ俺を受け止めたのは柔らかなミタマの胸の中……ではなく師匠の逞しい胸板だったのだよ。その後は米俵のように肩に担ぎ上げられベッドにぺいっとされた模様。なんでだろう、意識はなかったのだが非常に残念な気分である。


 さて気を取り直してと。


 現在、グラマダではすでに復興作業が開始されている。皆、逞しい。悲しみにくれているより体を動かしていたほうがましだと思う人も多いのだろう。息がある者は例のアレで持ち直したのだが既に失われた命は帰らない。幸いにして俺の知り合いは皆無事だった。先の事があるので大っぴらには喜べないが昼夜問わずにぶっ飛んできた甲斐はあったと思う。


 知り合いの中だと物的被害は『ソロモン亭』や『炎の狛』などは建物も無事だったのだがキリシュナさんの『獣人演義』やドルヌコさんの『猫の目』は魔物の襲撃により半壊する事態になっている。キリシュナさんのところは奴隷たちも総動員して補修作業を行っているらしい。俺としてちょっと困るのはドルヌコさんの方だな。ポポト君たちが着いたらどうしようかね。あ、そういえばこっちに向かっていることも報告しないといけなかったな。


 ミタマとフツノさんはキリシュナさんのところの手伝いに行っているしカグラさんはタマちゃんやガーナたちとレコ、サーラの大所帯で食料調達のためにダンジョンへと潜っている。仲間が失われ解散になったパーティも少なくないためどうしても供給に不安が残るため動けるものたちが積極的に動いているようだ。


 和泉屋はというと今は休業状態。折角拡張していた薬草園も今回の戦いで荒らされてしまい素材の供給が途絶えたからである。お留守番組のディリット、ジャパネ、タタカ、マウアフ、わかもとサンたちは薬草園の復旧に勤しんでいた。


 セフィさんは俺の看病ということでずっと傍にいてくれたみたいである。一緒に昼寝してたけど。んー、折角だし俺ももう少しだけ寝かせてもらおう。セフィさんを抱き枕にしておやすみなせい……。

 ようやっと大氾濫編終わりました。旧バージョンもここで挫けたせいか今回も筆の進みが悪く苦戦しました。スランプと言ってもいいかもしれません。それでもなんとか書き上げれたのは感想など頂いて拙作でも読みたいと言ってくれる方がいたからだと思います。

 ストックがなくなったのでまた書き溜めにはいるので次の章まで多少時間が空きますがお待ちいただければ幸いです。本当は200話できり良くいきたかったのですがそれもまたことぶきらしいということで生暖かく見守ってくださいませ。それでは次章200話にてお会いしましょう。ことぶきでした!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝200話ちょい前 [一言] 楽しく拝読させていただいています。 山場を越えて新章ですね。 今は公王と愉快な子どもたちの活躍を楽しみにしています。 公開されている最新話まであと○○話です。…
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